【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE11 繋がる想い

……私はいったいどうなったんだっけ?

 

 

意識が戻った時、まず最初にそう思った。

頭がぼんやりしていて、何があったのか思い出そうとしても出てこない。

 

暗い闇の中に漂っているとまるで宇宙にいるようだ。

行ったことはもちろんない。

 

なのに、何故か見知ったような感覚があるのは何故なんだろう。

いつも見る夢もそうだが、何か忘れているような気がする。

 

そこまで考えた時だった。

いつもの夢の光景が広がっていく。

 

10枚の羽根を背負った人型の機動兵器の目の前でカーゴが爆発する。

機動兵器のコックピットの中で、少年が慟哭していた。

 

 

「フレイっ、僕はっ……僕はぁっ!」

 

 

少年が流した涙が大粒の雫となって浮かんでいる。

 

 

ああ、なんでだろうなぁ。

コイツの事、知らないはずなのにとても胸が痛い。

 

いつもと変わらない夢。

そのはずだった。

 

一瞬だけ周囲にノイズが奔った後、私の意識は黒く塗りつぶされた。

 

 

――思い出すんだ。自分自身の事を。

 

――アあ、アイツは、ワタしを守っテクレなカッた。

 

――なら、どうすればいいか、わかるはずだよ。フレイ?

 

――許さナい。

 

――――――――――――――

カナードがスコールとの戦闘を開始する直前。

 

第一研究区画

 

 

真とカナードたちと別れたラキーナと楯無はクルーゼがいると思われる研究区画に到着していた。

 

移動ダクトの扉を開いて侵入する。

まだ機体のセンサーは反応を捉えてはいない。

 

 

『……ここね』

 

『そうですね』

 

 

ストライクガンダムI.W.S.P.と霧纏の淑女の2機がそれぞれビームライフルとランスを構えている。

 

 

『静かだな』

 

『……うん。ところで楯無さん、1つ聞いてもいいですか?』

 

『ん、何かしら、ラキーナちゃん』

 

 

マドカは視界センサー越しに、ラキーナと楯無は互いに背後を守りながら少しずつ区画を飛行し、進んでいく。

そんな中ふと疑問に思ったことをラキーナは楯無に尋ねる。

 

 

『どうしてクルーゼの相手を希望したんですか?』

 

 

そう、突入する前のブリーフィングで、彼女はラキーナと共にクルーゼを相手することを希望していたのだ。

技量は問題なく、機体の相性もビームをアクアヴェールで軽減できる霧纏の淑女ならば良好だ。

楯無本人もこれ以上の危害が出るのならばクルーゼを殺めてでも止める覚悟をしている。

 

 

『そうね、頼まれちゃったからよ』

 

『頼まれた……蔵人さんにですか?』

 

『それもあるけど、レイ兄さんに』

 

 

楯無の口からでた名前に、ラキーナは目を丸くして驚いた。

 

 

『え、レイって、まさか……っ!?』

 

『レイ・ザ・バレル、確かラキーナちゃんは戦ったことがあるのよね?』

 

『はい。でもなんで兄呼びなんですか?』

 

『まぁ、そこは家庭の事情って奴ね……っ、ラキーナちゃん』

 

 

2機のハイパーセンサーが下方に2つの反応を捉えた。

1つは先の襲撃でラキーナが敗北した【ロキプロヴィデンス】

 

そしてもう1つ。

 

 

『この反応は、フレイの……っ!?』

 

 

そう、捉えた反応の1つはフレイ・シュヴァリーの【ラファール・リヴァイヴ・ノワール】の反応であった。

ジトリと嫌な汗がラキーナの背中に流れる。

とても嫌な予感がするのだ。

 

それを察したのか楯無が告げる。

 

 

『ラキーナちゃん、もしフレイ・シュヴァリーがこちらに向かって攻撃してきたら、貴女が相手をしなさいな。お姉さんはクルーゼを相手にするから』

 

 

具体例として【生体支配】という【単一使用能力】を持っていたラクスという前例がある。

誘拐されたフレイが洗脳されている可能性もゼロではない。

 

 

『楯無さん……分かりました、ありがとうございます』

 

 

楯無の気遣いに素直に甘えることにする。

フレイを助けるためならばなんだってすると、今のラキーナは心に決めているのだ。

 

 

『まぁ、私一人でクルーゼを抑えられる自信はあんまりないから、なるべく早めに解決してくれるとお姉さん嬉しいなぁ』

 

 

少しだけ本音を漏らした楯無に苦笑しながら、ラキーナは表情を引き締めた。

 

そして2機は区画中央の吹き抜け部分に突入した。

 

突入した瞬間、下方から飛来する高速熱源を感知。

2機が散開すると同時に、数瞬前まで2機がいた空間を下方からリニアカノンの弾丸が飛来した。

 

リニアカノンを放ったのは下方から上昇しつつ近接用のブレードを展開している【ラファール・リヴァイヴ・ノワール】

 

搭乗者は当然【フレイ】だ。

機体に搭乗しているフレイの目は虚ろで、頭部には脳波測定装置の様な機器が付けられている。

 

 

『フレイっ!私だよ、ラキーナだよっ!』

 

『……何が、ラキーナよ。アンタ、キラでしょ?』

 

 

底冷えした彼女の声が響く。

ラキーナは自分がキラ・ヤマトであったことを彼女には話してはいない。

 

彼女の口からその名前が出るということは――

 

 

『フレイ、まさかC.E.の記憶が……?』

 

『ええ。ライリーのおかげでね』

 

『感動の再会というやつだね、キラ・ヤマト君』

 

 

オープンチャンネルで会話に割り込む女性の声、ライリー・ナウ、否、ラウ・ル・クルーゼ。

天を、太陽を背負っているかのような特徴的な背部ドラグーンユニットを持つ【ロキプロヴィデンス】が上昇しつつ現れた。

 

 

『クルーゼ……っ!』

 

『ラキーナちゃん、落ち着いて』

 

『そうだ、落ち着け。奴はいつドラグーンを展開するか分からない、まずは冷静になるんだ』

 

 

ストライクに寄り寄り添いに武装であるランスを展開した霧纏いの淑女を纏う楯無と、同期センサーでストライクと一体化しているマドカの声に頷く。

 

 

『フレイ、そいつは君を攫ったクルーゼなんだよっ、早くこっちにっ!』

 

 

ラキーナがマニピュレータをフレイに差し出すが、フレイはそれに唾棄するように答えた。

 

 

『は?何言ってるのよ。ライリーがそんなことするわけないでしょ。それにね、私はアンタに見捨てられたのをはっきりと覚えてるのよ、キラ』

 

『見捨て……え?』

 

 

突然のフレイの言葉に思考が一瞬停止してしまった。

助けられなかったのは事実である。

 

だが見捨てるつもりなど毛頭ないし、そんなつもりもなかった。

 

 

『なっ、何を言って……っ!?』

 

『うるさいわよ、私の事なんてどうにも思ってなかったくせにぃっ!あんたは私が、私の仇をとるために殺すっ!』

 

 

瞬時加速でストライクガンダムに詰め寄ったノワールは、サーベルを袈裟切り気味に振り下ろす。

それを半ば反射でフラガラッハ3ビームブレイドで、ラキーナは受け止める。

 

 

『フレイっ、どうしてっ!?』

 

『煩いっ、黙って私に斬られて死になさいよっ!』

 

 

半ば錯乱気味にそう叫ぶフレイの様子は尋常ではない。

鍔迫り合い――そんな中、ラキーナはフレイの頭部にある装置に視線が移る。

 

 

(フレイの様子が明らかにおかしい。考えられるのはあの頭部の装置っ、あれがっ、あれがフレイをっ!)

 

 

歯ぎしりしつつも、I.W.S.P.パックから得られる莫大な推力、出力の差でラファールを押し返す。

単純な出力、パワー勝負ではストライクガンダムI.W.S.P.のほうが上であった。

 

 

一方の楯無は【蒼流旋】でライリーの【ロキプロヴィデンス】を刺突するが、それを左腕部の大型シールドユニットから発振されているビームサーベルでいなす。

 

 

『彼女に何をしたのっ、ライリー・ナウっ、いえ、ラウ・ル・クルーゼっ!』

 

『簡単さ、ISを通じて少しだけ記憶を弄らせてもらっただけだよ』

 

『なんですってっ?』

 

『フレイ・アルスターとしての記憶を呼び覚まして、その記憶を少しだけ書き換えさせてもらった。歌姫の遺した資料も中々役立つものだよ』

 

 

ライリーの顔に浮かぶのは嘲笑。

 

後方に機体を加速させ、蒼流旋のレンジから離れる。

その瞬間、霧纏の淑女のセンサーがロックオン警告を奔らせた。

 

1秒にも満たない僅かな時間で、楯無の周囲360°にドラグーンが展開されていたのだ。

 

 

『君にはこれでご退場願おう』

 

 

ライリーの操作の元、幾重ものビームが楯無に向かう。

シールドバリアで防ぐことは可能だろう、しかしあまりにも数が多い。

受けてしまえばエネルギー切れに陥ることは明白だ。

 

だが楯無もそれは予測していた。

 

 

『それはどうかしらね』

 

 

結果だけ述べるのなら、放たれたビームは楯無には届かなかった。

 

その理由は彼女の機体の周りに漂う水の膜。

【アクア・ヴェール】が放たれたビーム全てを減退させたのだ。

 

 

『どうやら機体の相性がいいようね』

 

『成程。だがそれで私を攻略したつもりかね?』

 

 

ドラグーンを一瞬で背部ユニットに戻したライリーは、再度ビームサーベルを展開。

個別連続瞬時加速を用いて一気に楯無に迫る。

 

だが見切れない速度ではない。

デスティニーガンダム・ヴェスティージや飛燕などのVLユニットを持っている機体に比べれば、ロキプロヴィデンスの機動力は劣る。

カウンターは可能だ。

 

カウンターのために蒼流旋を振るう。

瞬間、彼女の真横にドラグーンが3基、瞬時に展開された。

 

同時に振り下ろされるビームサーベル。

 

 

『っ!!』

 

 

まるで心臓を鷲掴みされたような悪寒を感じ、カウンターから即座に回避に行動を切り替え、間一髪、下方への瞬時加速が間に合った。

だが逃れた方向にも今度は5基のドラグーンが展開されている。

 

しかも、そのうちの2つはビームスパイクとして楯無に向かってきている。

 

 

『ぐぅっ!』

 

 

ビームスパイクを蒼流旋で弾く。

だが残り3基からのビームは避けきれずに、アクア・ヴェールの展開も間に合わずにまともに受けてしまった。

左腕部の装甲が一部破壊されエネルギーが減少。

 

そしてさらに、上方から展開したビームライフルと周囲に瞬時に展開した8基のドラグーンでライリーは楯無を狙っていた。

放たれたビームはAMBACで回避しつつ、楯無は冷静に状況を分析していた。

 

 

(息つく暇もないビット兵器の瞬間展開っ、そして本体との連携攻撃、まずいわ、このままじゃあまり持たない……っ!)

 

 

単純な機動力などで言えばデスティニーガンダム・ヴェスティージなどのほうが遥かに上である。

だが、ロキプロヴィデンスの強みはそこではない。

 

【瞬間展開】の本当の恐ろしさは、相手の選択肢を強制的に狭める事と、自分の手数を一瞬で増やすことができることだ。

突如として現れるドラグーンと高機動で迫る本体との連携、必然取られる手段は限られる。

 

つまりはドラグーンを完全に見切らない限り、瞬時に増える相手の手数に必ず押されてしまうのだ。

 

この点で言えば、相手を機動力で確実に上回り、光学兵器を無効化できるデスティニーや、相手の攻撃を確実に防げるALを持つドレッドノートの方が相性が良かった。

すでに霧纏の淑女のエネルギーは7割を下回っている。

僅かなやり取りでこれなのだ。

 

認識が甘かったと、内心楯無は顔を顰める。

状況は不利としか言いようがなかった。

 

せめてラキーナが援護に入ってくれればこの状況を打破できる可能性はあるのだが、依然としてラキーナはフレイとの戦闘を続けていた。

 

 

『フレイっ!』

 

 

コンバインシールドに備え付けられたガトリングガンでフレイのノワールを狙う。

トリガーを引く瞬間、その射線を僅かにずらして。

 

 

発射された弾丸はノワール本体ではなく、ノワールの持つアサルトライフルに着弾して破壊する。

その様子を同期センサーを通して眺めているマドカが叫ぶ。

 

 

『ラキーナっ、何故フレイ・シュヴァリーを狙わないっ!?武装だけを狙っても今のヤツは素手でもお前を殺しにくるぞっ!』

 

『……分かってるっ、今は私を信じて、マドカっ!』

 

 

ラキーナの表情には迷いの感情は見えない。

 

 

『……分かった、ドラグーンとライリーは楯無が抑えているようだ、急げっ!』

 

 

その言葉に頷いてビームライフルを構え、トリガーを引く。

そのビームは容易くAMBACで回避されてしまう。

 

 

『キラっ、アンタ、私の事舐めてんのっ!?』

 

『舐めてなんかいない、私は君を助けるために来たんだっ!』

 

『アンタなんかに助けてもらいたくなんかないのよっ!!』

 

 

ラファールの実体剣【ダン・オブ・サーズデイ】を展開し、スラスターを噴かせる。

近接戦闘に持ち込むつもりだ。

 

 

(狙い通りっ……待っていて、フレイ、すぐに助けるっ!)

 

 

もっともそれはラキーナの狙い通りの行動。

ライフルなどの射撃武装を潰してしまえば、ノワールストライカーに残される武装は必然的に少なくなる。

後付武装を展開しない事から、拡張領域などに武装を積み込んではいないようだ。

 

 

『死になさいよ、コーディネーター!!』

 

 

実体剣をスラスターの加速によって得られる速度に乗せて振り下ろす。

ラキーナはフラガラッハを展開しなかった。

 

 

『今だっ!』

 

 

振り下ろされる刹那、ラキーナはコンバインドシールドをパージした。

そして瞬時加速によって、下がりつつの高速切替。

 

展開するのはI.W.S.P.パックの【IS用大型単装砲】

だが狙いはフレイではない。

 

トリガーが引かれ、ラキーナの精密射撃によってコンバンドシールドは正確に打ち抜かれた。

そして残弾と単装砲の爆煙がフレイを包み込んだ。

 

 

『っ!?』

 

 

煙幕。

これがラキーナの狙いであった。

この程度の煙幕ならばISのハイパーセンサーを乱すことは出来ない。

だが、あくまでISを操るのは搭乗している人間だ。

 

その人間が動揺してしまえば、隙は現れる。

 

 

『はあぁぁぁぁっ!!』

 

 

個別連続瞬時加速(リボルバーイグニッション・ブースト)

フリーダムストライカーにも劣らない加速によって爆煙を突き破り、ストライクガンダムが現れた。

 

 

『っ!?』

 

『フレイぃぃっ!!』

 

 

マニピュレータがフレイの頭部の装置に伸びて、引きちぎる。

 

 

『あっ、ああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

 

フレイの絶叫が響く。

実体剣を取りこぼしたその身体をラキーナはしっかりと支える。

先ほどまでの血走ったような目ではなく、今の彼女の瞳はラキーナと友人として触れ合った彼女のものだ。

 

 

『……あれ、私……何を?』

 

『フレイ、無事なんだねっ!?』

 

『……キラ、いえ、ラキーナ。助けに来てくれたの?』

 

 

その彼女の言葉に、思わず感極まったラキーナの瞳に涙が浮かぶ。

 

 

『うんっ、うんっ、そうだよ、助けに来たよっ』

 

『……ホント、泣き虫ねアンタ』

 

 

そう言って微笑むフレイであったが、機体のセンサーがラキーナの背後に展開された3基のドラグーンを捉える。

当然、ドラグーンを展開しているのはライリーのロキプロヴィデンスだ。

 

 

『二人とも避けてぇっ!』

 

 

ドラグーンに翻弄されつつ、本体を何とか抑えていた楯無の声が響く。

 

 

『遅いっ!』

 

『ラキっ!!』

 

 

咄嗟にラキーナを突き飛ばそうとしたフレイだったが、その手をしっかりとラキーナは握って止める。

刹那、フラガラッハを展開して振るうと共に、彼女の意識の中で【紫の種】が弾け飛んだ。

 

 

『はぁぁっ!』

 

 

迫るビームとフラガラッハが干渉しあう事で、弾け飛び無力化。

ラキーナはビームを【切り払った】のだ。

しかも連続で発射された3発のビームだ。完璧なタイミングを掴まなければ、ビームを確実に受けてしまう。

それはまさに神業といってもいい。

 

 

『……すっご』

 

『安心して。隠れて休んでいてほしい。私がクルーゼを止めるから……そして』

 

 

ラキーナは微笑む。

 

 

『フレイ、私の本当の想いが……君を守るから』

 

 

ストライクはプロヴィデンスに向かって行く。

自分よりも小さい泣き虫の彼女なのに、その背中は頼もしく大きかった。

 

 

『……カッコよくなっちゃって。信じてるわ』

 

 

フレイもそう、ラキーナに返した。

 





次回予告
「PHASE12 正義の行方」

『零落白夜だけじゃねぇっ!俺は皆と戦ってるんだぁ!』


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