【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE12 正義の行方

フレイの意識が回復した頃――

 

移動用ダクト内を抜け、真達の戦闘の場は偽装の研究区画に移っていた。

設備のあちこちがすでに破壊され、隔壁が薄い場所はビームによって貫かれ、浸水も発生していた。

 

その殆どがオータムたちのビームによる損傷である。

偽装区画に戦場が移ってからは、その中央部である吹き抜け部分で6機は高機動戦闘を続けていた。

吹き抜け部分はISが高機動で動き回っても十分戦える広さがあった。

 

 

(さっきから本音さんばかりを狙ってくる……オータム、こっちの戦力を正確に見極めてるのかっ)

 

 

デスティニーの真、飛燕の簪に比べてインパルスマークⅡを駆る本音は、どうしても2人にISでの戦闘/機動経験で劣ってしまう。

真にはシン・アスカとしての経験値に加え、歌姫の騎士団との戦闘経験があり、簪は代表候補生だ。

元々が整備を主にしている彼女にとっては仕方のないことであった。

 

 

『はははっ、まだまだぁいくぜぇっ!』

 

 

前回の接触戦でそのことにオータムも気づいていた。

戦力や技量の劣るものを集中的に攻撃することはとても有効な戦術だ。

しかも真や簪は必ず本音を守ることを予測に入れている、実際前回もそれで離脱することができたのだ。

 

リジェネレイトの背部ユニットから高出力ビームが発射され、インパルスマークⅡを狙う。

 

 

『やらせるかっ!』

 

 

インパルスマークⅡに迫るビームを耐ビームコーティングを施された実体シールドで、デスティニーが受け止める。

そしてお返しとばかりに両マニピュレータのクラレントをビームライフルモードで起動して放つ。

放たれた数条のビームはリジェネレイト、テスタメント、ネブラブリッツに向かうがそれぞれ急機動で回避されてしまう。

 

 

『うー、私ばっかり―』

 

『本音さん、気にしないでくれ、俺と簪で守るから』

 

 

プライベートチャネルが真のデスティニーから繋がり、彼は苦笑しながら本音にそう告げた。

チャンネルには守るべき主である簪の飛燕も含まれている。

 

 

『でも、真。どうするの?このままだと膠着状態のままだよ』

 

『わかってる。1つ試してみたいことがあるんだ』

 

『試してみたいこと?』

 

 

思案顔の真に簪が尋ね、彼は頷く。

 

同じタイミングでレインの駆るテスタメントからのビームライフル、フォルテのネブラブリッツから放たれたランサーダートをAMBACだけで躱す。

 

本音からしてみればシールドで防ぐべき攻撃であったというのに、彼はビームライフルの射線とランサーダートの射線を完璧に読み切り、攻撃の間を縫うように回避していた。

舌を巻くほどの技量だ。

 

 

『VLユニット同士はエネルギーを転送することもできる。ならデスティニーの【単一仕様能力】で……』

 

 

作戦を簪に伝えて、彼女は理解を示して頷く。

 

 

『分かった。合わせるよ、真』

 

『ああ。本音さん、ドラグーンでオータムとあの2人を分断できるか?』

 

『今使えるドラグーンは2つまでだから、そんなに長い時間は無理かなぁ。たぶん数十秒くらいが限界だよー?』

 

 

インパルスマークⅡの背部に装備されている【ドラグーンシルエット】に装備されているドラグーンは、形状が砲塔にも見える【フェイルノート】の2つしかない。

本来はフェイルノートの他にも、Xアストレイのプリスティスに似た小型のドラグーンを搭載する予定であったが、そもそもが突貫工事で作成したシルエットであることと、本音の適性がいくら高くとも最初から多くのドラグーンを使用するよりは堅実にデータを集めたかったという事情があった。

 

本音の返答を聞いた真の顔に笑みが浮かぶ。

 

 

『数十秒か……問題ない、頼むよっ!』

 

 

デスティニーの背部VLユニットが起動して、紅い光の翼を展開する。

展開と同時に一瞬だけ目を瞑る。

 

大切な女性である簪、大切な友人である本音の姿が脳裏に浮かぶ。

同時に、真の意識の中で紅い種――【S.E.E.D.】が弾け飛んだ。

 

 

『行くぞ、デスティニーっ!』

 

 

真の声に合わせて飛燕もVLユニットを展開。

対照的な蒼い光の翼が広がる。

 

 

『行くよ、飛燕っ!』

 

 

2機が向かうのは、テスタメントとネブラブリッツ――レインとフォルテの2人だ。

残像を残しながらデスティニーと飛燕は2人に向かう。

 

 

『何する気か知らねぇがやらせねぇ……うおっ!?』

 

『いっけー、ドラグーンっ!』

 

 

真と簪の行動を止めるために背部ユニットを切り離してリジェネレイトビットを展開しようとしたオータムの下方からドラグーン【フェイルノートビームクロー】が迫ってきた。

咄嗟にスラスターを吹かしてオータムは大きく舌打ちしつつ、回避を選択した。

 

 

『先輩っ!』

 

『分かってるよっ!』

 

 

テスタメントとネブラブリッツがそれぞれの射撃武装でデスティニーと飛燕を狙う。

そして放たれたビームとレーザーは正確に2機へと直進し、貫いた。

 

だが貫いたはずの2機の姿がぶれた(・・・)

同時に凄まじい速度で数機のデスティニーと飛燕が彼女達に向かってくる。

 

 

『なっ!?』

 

『っ、先輩、下ッスっ!』

 

『クソっ、残像になんで質量があるんだよっ!』

 

 

レインが毒づいたものの正体、デスティニーのミラージュコロイドで展開した残像――分身だ。

エクスカリバー事件でのAIラクスとの戦闘中に行った【単一仕様能力】を用いた分身操作の応用だ。

 

ハイパーセンサーすら惑わすその効果は肉眼相手でもやはり高く、見事にレインとフォルテは嵌ってしまったのだ。

 

 

『遅いっ!』

 

『やぁっ!』

 

 

デスティニーがヴァジュラビームサーベルでテスタメントの背部ユニットを、飛燕がバルムンクでネブラブリッツの胸部装甲を切り裂いた。

 

 

『ぐぅっ!』

 

『うわぁっ!』

 

 

大きなダメージを食らって吹き飛ばされた2機、だがまだ終わらない。

サーベルで切り裂いたのと同時に高速切替でフラッシュエッジを展開。

 

飛燕も同じように展開したフラッシュエッジを投げつけ、計4つのビームブーメランがレインとフォルテを狙う。

 

 

『くっそぉ、なんて機動力だっ!』

 

『センサーが、身体が追いつかないッス!?』

 

 

飛来するフラッシュエッジをAMBACで回避する2機であったが、すでに真は次の行動に移っていた。

残像と分身を残しながらフォルテのネブラブリッツに急速接近。

 

 

『っ、このっ!』

 

『はぁっ!』

 

 

攻盾システム【トリケロス】からビームサーベルを発振させて振り上げるが、デスティニーはそのマニピュレータを蹴り上げる事で逆にフォルテの体勢を崩す。

PS装甲を搭載しているネブラブリッツに格闘攻撃は決定打にはならないが、AMBACで体勢を整えるには数秒の時間が必要になる。

 

 

『これでぇっ!』

 

 

瞬時加速で体勢を崩したフォルテの背後に回りこんで、クラレント・ビームサーベルを展開して背部のストライカー部分、主翼のハードポイントに接続されているミサイルに押し当て破壊する。

 

 

『うわぁっ!?』

 

 

背部ストライカーが破壊された衝撃でフォルテは弾き飛ばされ、さらに体勢を崩した。

 

本来のネブラブリッツの背部ストライカーの正式名称は【マガノイクタチストライカー】である。

アストレイゴールドフレーム天ミナや、IS【アマツ】と同じくマガノイクタチと同等の能力を持っているものだ。

 

しかしIS【ネブラブリッツ】に装備されているストライカーは【ジェットストライカー】

大気圏内用の高機動空戦型ストライカーパックだ。

大気圏内での高い飛行能力を与えるストライカーパックであり、真もザフト時代に実物を、傭兵時代に搭乗していた【ウィンダム】のデータベース内で詳細なスペックを確認していた。

 

レインの駆る【テスタメントガンダム】と協力することで発生させる【ジャミング能力】はこの機体の【単一仕様能力】であり、全くの別物であった。

 

 

『てめぇっ、シン・アスカっ!!』

 

 

フォルテに多大なダメージを与えた真にレインが吼えると共にビームライフルで真を狙う。

だが、そのビームライフルは真横から高速で接近してきた機体の大型実体剣で切り裂かれてしまった。

 

 

『くぅっ!?』

 

『させないからっ!』

 

 

切り裂いたのは飛燕の【バルムンク】

そして真と同じように蹴りを繰り出してレインのテスタメントを弾き飛ばす。

 

 

『がっ!?』

 

『機体が良くても、パイロットが性能を引き出せないならっ!』

 

 

デスティニーの【単一仕様能力】が発動され、VLユニットの装甲が部分的に展開されて、光の翼がより一層美しく、大きく広がる。

 

 

『VLユニット展開、出力最大っ!!』

 

 

同様に飛燕の翼も大きく広がる。

唯一通常時と異なっているのは、飛燕の光の翼の色が【蒼】から【紅】に変わっている事だ。

 

 

(凄い、デスティニーのVLから飛燕にエネルギーが流れ込んできてるっ!ぶっつけ本番なのに……!)

 

 

現在のデスティニーと飛燕、2機はVLユニット同士で同期されている状態だ。

いや、同期だけではない。絶えずエネルギーが流動し、循環している。

簡単に言えばデスティニーの【運命ノ翼】が飛燕にも発動している状態だ。

これは2機が姉妹機であること、そしてVLユニットの特性があって初めて可能になっている。

 

類似の事象としては、とある事情で大破した火星人(マーシアン)のMSであるΔアストレイのVLユニットから、新たに作成されたターンΔのVLユニットへエネルギーを転送した事例が挙げられる。

 

 

『飛燕のVLとの相互リンク完了っ、行くぞ、簪っ!』

 

『うんっ!』

 

 

2機が体勢を整え、レインとフォルテに凄まじい加速で向かう。

それこそ、先の高機動が遅く見えるレベルの急機動。

 

真はすでにこの加速に体が慣れている。

しかし、飛燕を駆る簪にはこのレベルの加速を味わったことはなかった。

 

 

(くぅっ、凄い加速……でもっ!)

 

 

だが耐えられない速度ではない。

2対の紅い光の翼がその出力を最大にして、テスタメントとネブラブリッツを狙う。

近接武装ではなくその光の翼自体が強力なビームサーベルとなっているのだ。

 

 

『はぁぁぁぁっ!!』

 

『やぁぁぁぁっ!!』

 

 

刹那、二つの光の翼がテスタメントとネブラブリッツをX字に切り裂いた。

装甲が破壊され飛び散り、【絶対防御】が発動、2機が区画の床に落着してISが解除された。

 

どうやら今の一撃で気を失っているようであった。

 

 

『レインっ、フォルテっ!このぉ、餓鬼がっ!』

 

『っ!?』

 

 

ドラグーンに翻弄されていたオータムであったが、瞬時加速によってドラグーンを振り切り本体である本音に狙いを変更した。

ビームライフルで本音のインパルスマークⅡを狙い、トリガーを引く。

 

その狙いは精密であり、セシリアの様に同時制御をまだ体得できていない本音は回避できなかった。

 

 

『させるかぁっ!』

 

 

しかし、リジェネレイトから発射されたビームに、飛来したビームが干渉して弾き飛ばした。

飛来したビームを放ったのはデスティニーガンダム・ヴェスティージ。

 

 

(オレの撃つビームの射線を完全に予測してるってのかっ!?バケモンがっ!)

 

 

思わずオータムは舌打ちと共に毒づく。

マニピュレータに装備されているクラレントのビームライフルモードでオータムが放つビームを予測して放ったのだ。

タイミングや射線を完璧に予測していなければ出来ない神業。

自身が高い技量を持つオータムは、それを当たり前の様に成功させた真の能力に戦慄した。

 

それは狙われていた本音も同じであり、寄り添うように近づいてきたデスティニーと飛燕を見て嘆息した。

 

 

『……飛鳥君、ありがとー』

 

『ああ』

 

 

本音から届いた通信に頷いて微笑む。

ふと、いつものニックネームじゃないなとも思ったがすぐに思考を切り替える。

 

 

『これで三対一だ。オータム』

 

『クソがぁっ、まだだ、オレは、オレ達はラクス様の仇を討つまでは止まれねぇんだよぉっ!』

 

 

血走った目で真達3人を睨むオータム。

その時であった。

 

オータムの目の前にディスプレイが投影された。

そんな操作など彼女はしていないのにだ。

 

そしてそのディスプレイに現れた表示は、

 

 

――Mobile Suit Trace System Starting

 

 

と表示されていた。

 

 

『なっ、何だとっ!?』

 

 

リジェネレイトの装甲が溶け出して、泥の様に変化していく。

ほぼ一瞬でリジェネレイトが泥に変化して、オータムを飲み込む。

 

 

『うっ、うぉおっ!?』

 

 

突然の搭機の変化にオータムはなす術がなかった。

それはかつて、ラウラのIS【シュヴァルツェア・レーゲン】に搭載され、真も相対したシステムと同じものであった。

 

 

『【VTシステム】だとっ!?』

 

『でも、真、あれって……っ!』

 

 

リジェネレイトが変化した黒い泥。

泥はオータムを飲み込んで、形を変えていく。

 

以前ラウラの時の様に人型に変わるが、簪にはその形状に見覚えがあった。

簪は、エクスカリバー事件の際、AIラクスの電脳楽園に囚われたときにその姿をシン・アスカの記憶の中で見た。

 

彼と共に戦場を駆け抜け、一度は敗れて傷跡を刻んだ機体。

真にとっては見覚えどころではない。

 

 

血の涙を流しているかのようなアイカメラに刻まれたライン。

機体背部に接続されている巨大な翼状のユニット。

巨大な実体剣とエネルギー砲がマウントされている。

 

 

『オレはコノチカラでスべてヲ・・・・・・ナギはらウ』

 

 

オープンチャンネルで聞こえるのはオータムの声ではなかった。

真の簪もよく知った声。

 

真にとっては自分自身(・・・・)の声だ。

 

 

相対するその機体の名は――

 

 

『……デスティニーガンダム』

 

 

かつての愛機。

傷跡の名を背負う前の愛機、そしてかつての自分(シン・アスカ)が目の前に現れたのだ。

 

――――――――――――――

時間は少し前後して――

 

海洋プラント付近 海上

 

 

『はぁっ!』

 

 

一閃、白の機体が無人機イージスを真っ向から両断し、イージスは抵抗も出来ずに爆散する。

そしてその白の機体は得物である【雪片】を機体を反転させると共に【零落白夜】を発動したまま、背後に迫っていた無人機デュエルに投擲する。

 

見事に機体中央に突き刺さった雪片を瞬時加速で接敵すると共に引き抜いて、デュエルを蹴り飛ばす。

デュエルは機能を停止したのか、海面に落下していく。

 

 

『……これで無人機は大体片付いたな』

 

 

一息つくように、白い機体【暮桜】に搭乗している千冬が呟く。

同時に空間投影ディスプレイが展開される。

ディスプレイに映るのはブレイク号で管制している束だ。

 

 

『無人機は大体片付いたねー、さっすがちーちゃん』

 

『私だけじゃない、真耶と利香さんもいるからな』

 

『おっと、そうだった』

 

 

視線を無人機バスターと戦闘を継続しているラファール・リヴァイヴを駆る真耶に向ける。

相対しているバスターはエネルギーがつきかけているのかPS装甲が切れて灰色となっており、左のマニピュレータを捥がれていた。

 

そして真耶が展開したグレネードランチャーの爆発に飲まれ、バスターは爆散していく。

 

少し離れた場所でガイアガンダムを駆る利香も相対していたデュエルを丁度ビームブレイドで両断したところであった。

 

 

『……侵入した飛鳥達の様子はどうだ?』

 

『ん、それぞれ戦闘中。あっくん達3人はオータムと裏切った2人、ラキちゃんと楯無ちゃんはクルーゼを、そしてカナ君とセシリアちゃんはスコールを……おおっ!』

 

『どうした?』

 

『カナ君がスコール倒したって……よかった、よかったよ……』

 

 

胸を撫で下ろした束の様子に笑みを浮かべる。

 

 

『流石だな、機体相性は最悪だと聞いていたが?』

 

『うん。でも今回ばかりは負けられなかったみたいだから。ああ、でもHユニット全損かぁ。離脱の指示出しておくね』

 

 

束の言葉に頷いて答えた千冬であったが、視線をいまだセイバーガンダムのミシェルとの戦闘が続いている一夏達に向ける。

援護にいくつもりかと思ったが、千冬はその戦闘を静観していた。

 

 

『……援護しなくていいの?』

 

『……奴の言っている事も一理ある。私は一夏がそれにどんな答えを出すかを見たいんだ』

 

『状況に流されてるだけって?』

 

『ああ。IS学園に入学した当初の一夏ならば私も同じ意見だった。だがこの1年で一夏も成長した。この戦場にいるのはあいつの意思、今の一夏がどんな答えを出すのか、知りたいんだ』

 

 

もちろん一夏が危険になれば割って入るさと千冬が続ける。

 

 

『……いっくん、頑張って』

 

 

束もそれ以上聞かずにそう呟いた。

 

 

――――――――――――――

 

 

『そぉらっ!』

 

『ぐぅっ!』

 

 

高速で接近してきたセイバーのビームサーベルを鈴の甲龍は双天牙月で弾く。

パワーでは甲龍のほうが若干上ではあるがほぼ互角、攻めあぐねているのはセイバーの機動力とその戦法だ。

 

弾いた牙月で反撃を叩き込もうと思った瞬間には、凄まじい速度でAMBACを終え、レンジから離れ今度はシャルロットのラファールと射撃戦に移っているのだ。

一撃加えた後に機動力を生かしたヒット&アウェイ。

なおMSであるセイバーガンダムも同じように変形してからの高速機動によるヒット&アウェイを得意にしていた事を鈴は知らなかった。

 

衝撃砲を叩き込もうも、こちらの狙いを見透かしているかのように射線を常にシャルロットが塞ぐようにセイバーは動いている。

 

 

(ふっざけんじゃないわよっ、真のデスティニーや簪の飛燕、ラキーナのストライクフリーダム並じゃないっ!しかもあの戦い方っ、こっちの狙い完全に読まれてるっ!)

 

 

心中で毒づいてふと、思い出した。

 

 

(お姉ちゃんはもっと周りを見ればいいのよ。猪突猛進すぎるとそのうちあたしに足元掬われるわよー?)

 

 

脳裏に従妹であり、台湾代表候補生の鳳乱音の顔が浮かんだのだ。

むかつく事にドヤ顔ではっきりと脳裏に浮かんだ彼女の顔を、頭を振って振り払う。

 

 

(ったく、こんな時に……っ!まぁでも少し落ち着いたわ)

 

 

だがそのおかげか、冷静さは幾分か取り戻す事ができた。

 

 

『皆、聞こえてるか?』

 

 

インフィニットジャスティスからプライベートチャネルが届く。

今この海域にいる千冬、真耶、利香を除く全てのメンバーにチャンネルが繋がっている。

 

 

『ミシェルの、セイバーガンダムの能力、おそらくだがあれは……』

 

『【加速】だよね、アスラン?』

 

 

アスランの答えを先にシャルロットが告げる。

彼女のラファールはすでに左のマニピュレータが破壊されていた。

 

現在ミシェルはラウラが抑えている。

ワイヤーブレードを紙一重で回避しながら、ビームライフルでラウラを狙っていた。

もちろん、戦いながらラウラもプライベートチャネルに意識を裂いていた。

 

 

『……恐らくはそうだろう。ただの戦闘機動だけではなく、機体動作も能力によるブーストが可能とみて間違いはない』

 

『さっきアタシから離れたあれね』

 

 

アスランが鈴に頷く。

 

 

『ああ。正直かなり厳しいが、勝機はある』

 

『……接近戦だよな、アスラン』

 

 

一夏がアスランに言う。

それにアスランが静かに頷く。

 

 

『そうだ。ヒット&アウェイを封じての近接戦闘。遠距離戦ではセイバーには追いつけないだろう。それに俺と一夏の近接武装には零落白夜がある。俺と一夏で同時攻撃、もしくはセイバーの逃げ道を塞ぐことができれば、勝機はある』

 

 

アスランの言葉に鈴や箒達の顔に笑みが浮かぶ。

 

 

『なら、私達が隙を作ろう』

 

『隙くらい、作って見せるわよ』

 

『うん、頑張るよっ!』

 

『3人共……分かった、頼む』

 

『なら、俺も一夏、君の援護に徹するよ』

 

 

アスランの言葉にえっと一夏が驚く。

近接格闘の技量ならば間違いなく自分よりも上のアスランが、自分を援護してくれる事に驚いたのだ。

 

 

『君だってアレだけ言われたんだ。今の自分が流されてるだけだって事を、否定したいだろう?』

 

『……それは、そうだけど』

 

『なら、任せろ。これでも君達よりは長生きしてるんだ。少しは良いところを見せても良いだろう?』

 

 

アスランはそう言ってビームライフルを展開する。

 

 

『分かった、頼むよ、皆っ!』

 

 

一夏も雪片弐型を構える。

それを高機動を続けながら、ラウラへ射撃を続けていたミシェルは捉えていた。

 

 

『はっ、どうやら作戦タイムは終わったみたいだなぁ?』

 

『あまり私達を舐めないほうがいいぞ』

 

『別に舐めちゃいねぇよ、見せてみろや、てめぇらの力をさぁっ!』

 

 

そう叫んだミシェルにビームが飛来する。

しかしその程度のビームはミシェルに届く事はなかった。

 

ひらりと踊るように回避する。

だがそれは一夏達の狙い通り。

 

高速で上方から飛来する2機のIS。

 

 

『うぉぉぉぉっ!』

 

『はぁぁぁぁっ!』

 

 

白式とインフィニットジャスティス。

それぞれが零落白夜を発動させた得物を振りかぶるが、この程度ではミシェルには届かない。

 

 

『同時攻撃っ、しかも両方零落白夜かぁっ!』

 

 

【アムフォルタスプラズマ収束ビーム砲】を2門展開したミシェルは後方に下がりながら、トリガーを引く。

それを左右に分かれて回避するアスランと一夏。

 

だが明らかに一夏のほうが機動が遅かった。

それは明確な隙であった。

 

 

『うぉらぁっ!』

 

 

瞬時加速で一気に距離をつめたセイバーがビームサーベルを振り下ろす。

咄嗟に雪片で受け止めるが、体勢が悪い。

 

そのままスラスターの出力でのタックルを食らわせて、得物である雪片を弾き飛ばす。

 

 

『これで頼みの綱の零落白夜は使えねぇぞぉ!』

 

 

白式の象徴である雪片は海面に落ち、沈んでいく。

だが、一夏の目は死んではいなかった。

 

 

『零落白夜だけじゃねぇっ!俺は皆と戦ってるんだぁ!』

 

『なら見せてみろやっ、テメェ等の力って奴をよっ!』

 

 

【多機能武装腕 雪羅】のエネルギー爪を起動してそのまま、セイバーに向ける。

だがそれよりも速く、ビームサーベルで腕ごと切り裂かれた。

 

エネルギー爪に使用していたエネルギーが逆流して、雪羅は爆散してしまう。

生身の一夏の腕も爆発の影響を受け、深い裂傷が奔っていた。

 

 

『はっ、玉砕覚悟かっ!?』

 

『違うっ!鈴っ!』

 

『分かってるわよっ!』

 

 

一夏がミシェルの相手をしている最中にすでに砲塔の構築は完了していた。

そして出力は最大値だ。

 

 

『【衝撃砲】ってやつだなっ、だがなぁっ!』

 

『ぐっ!?』

 

『撃てねぇだろっ!』

 

 

素早い起動で一夏に組み付いたセイバーはそのまま、白式を盾にするように鈴に向ける。

だが、それに鈴はニッと笑みを浮かべる。

 

 

『一夏っ、歯ぁ食いしばりなさいっ!』

 

『遠慮せずに撃て、鈴っ!』

 

『なにぃっ!?』

 

 

一夏が叫び、ミシェルを自分毎拘束する。

 

刹那、衝撃砲が発射され、白式ごと撃ち抜いた。

PS装甲であるセイバーにはダメージは少ないが、エネルギーは減少。

加えてビームサーベル1本がマニピュレータから弾き飛ばされた。

 

だがそれ以上に、PS装甲ではない白式のダメージは大きかった。

最大出力の衝撃砲をまともに受けたためか、腰部や肩部の装甲は弾け飛んでおり、シールドエネルギーもセイバーと同等以上に消耗している。

 

しかし、一夏も男だ。

意地でもセイバーに食いつき離さない覚悟であったため、そろって2機は大きく吹き飛ばされる。

 

 

『このぉっ!』

 

 

組み付いた白式をマニピュレータで殴り飛ばしたセイバーは強引に離れる。

体勢を崩したセイバーに向かうのは箒の紅椿。

 

 

『てぇぇいっ!』

 

『ちっ!』

 

 

代表候補生どころか国家代表すら舌を巻く速度で、AMBACを行う。

この速度のカラクリは、アスランが予測した通りセイバーの単一仕様能力だ。

 

その能力の名は【補填加速(アクセル・コンペンセーション)

シールドエネルギーを一旦放出して機体各部に叩き込んで加速する。

メカニズムは瞬時加速そのものであり、簡単に言えば、部位ごとの瞬時加速だ。

この能力を応用する事で【A.I.C.】や【沈む床】から強引に脱出する事が可能なのだ。

 

 

『この距離ならば、私の距離だっ!』

 

『やるな、だがっ!』

 

 

空裂が振り下ろされるが、セイバーは振り下ろされる紅椿のマニピュレータを掴み上げ、斬撃を無効化する。

だがそれは箒も予測していた。

 

 

『ラウラっ!』

 

『【A.I.C.】出力最大っ!』

 

 

ガクンっと紅椿毎セイバーがA.I.C.に捉われて、動きが止まる。

こちらもすでに出力は最大で展開し、【ヴォーダン・オージェ】によってブーストされている。

 

 

(こいつらっ、我武者羅だが迷いがねぇっ!?)

 

『シャルロットっ!』

 

『任せてっ!』

 

 

瞬時加速で高速接近しつつ、パイルバンカーを構えるシャルロット。

 

 

『こんのぉっ!』

 

 

一瞬セイバーの周囲の空間が歪み、刹那A.I.C.を振り払った。

A.I.C.によって拘束されていたセイバーだが全身からエネルギーを一瞬放出、それを加速に使うことで迫るシャルロットにアムフォルタスを向ける。

 

だが、下方から届くクローにアムフォルタスプラズマ収束ビーム砲が破砕され、ワイヤーに機体を引っ張られる。

 

 

『させないぞ、ミゲルっ!』

 

『アスランっ、かぁっ!?』

 

 

クローの正体はアスランの駆るインフィニットジャスティスの【EEQ08 グラップルスティンガー】だ。

当然体勢を崩したセイバー。そしてシャルロットはその間も加速して接近していた。

 

 

『やぁっ!』

 

『ぐおぉっ!?』

 

 

炸裂音と共にもう片方のアムフォルタスも破砕され、セイバーの固有武装のほぼすべてが破壊された。

そしてセンサーが上方に機体を検知。

 

高速で接近してくるのは一夏の白式・雪羅。

 

 

『一夏ぁっ!』

 

 

箒が自身の武装である【空裂】を一夏へ投擲する。

すでに使用制限(ロック)が解除され、使用許諾(アンロック)状態であり、それをノールックで一夏は受け取る。

 

 

『うぉぉぉぉっ!』

 

 

白の流星のごとく加速した白式は【空裂】をセイバーに向けて振り下ろす。

 

 

『……あー、くそ。認めてやるよ。てめぇらの勝ちだ』

 

 

空裂が直撃する瞬間、ミシェルは確かにそう呟いた。

 

セイバーの胸部装甲が切り裂かれて【絶対防御】が発動。

すでに単一仕様能力を過度に使用していたセイバーのエネルギーは一気に枯渇し、装甲は灰色に染まる。

そのまま、海面に落下していく。

 

その様子を息を切らしながら、一夏達は見ていた。

 

 

『……勝ったんだよな』

 

『ああ、私達の、勝ちだ』

 

 

白式に寄り添うように接近した紅椿の箒はそう一夏に告げる。

 

 

『一夏っ、腕の傷は大丈夫なのか?』

 

『ん、ああ。ISの保護機能なのかな、そこまで痛くないよ』

 

 

爆発によって負った左腕の裂傷はISの保護機能のおかげか、すでに止血されている。

念のため左腕を押さえつけながら、一夏が自分の周りの少女達に言った。

 

 

『皆。本当にありがとう。俺一人じゃ絶対に勝てなかった』

 

『ほんとよね、あーつっかれたわ』

 

『うん、シャワー浴びたいね』

 

『本来なら気を抜くなというべきなんだろうが……私も同じだ。一夏、後で医療用ナノマシンを注入してやる』

 

『うげぇ、あれ痛いんだよぉ』

 

 

鈴、シャルロット、ラウラがそんな一夏を見て笑みを浮かべていた。

 

 

『一夏』

 

『アスランも……ありがとう』

 

『ああ。一夏、これからも彼女達と共に進むんだ。それが一人で歩んで道に迷ってばかりだった俺から言えることだよ』

 

『……はい』

 

 

アスランからの言葉に一夏は頷く。

すると機体のセンサーが声を拾った。

 

 

「おーい、降伏するからさー、だれか引き上げてくれよー」

 

 

海面に浮かび、セイバーが解除されたミシェルがアスランに向かって叫ぶ。

ISスーツが海水を吸ったためか彼女の身体のラインをよりくっきりと浮かび上がらせており、咄嗟に一夏は目線を逸らした。

 

 

「あっぷ。割と俺もきついんだってー。このままじゃおぼれちまうって!」

 

 

それを苦笑してみていたアスランは一夏に告げる。

 

 

『ミシェルは俺が、君たちは船に戻って待機していてくれ』

 

 

アスランの言葉に一夏たちはうなずく。

 

 

――――――――――――――

一夏達がミシェル相手に勝利した所を、少し離れた場所で千冬は眺めていた。

側で展開されているディスプレイに映る束が胸を撫で下ろしてから告げる。

 

 

『やったね』

 

『ああ。皆で掴んだ勝利と言った所だな。そしてあいつ等の覚悟、しっかりと見せてもらった。あんなに無理をしたのは減点だがな』

 

『もー、素直に喜べば良いのに、ちーちゃんは不器用だねぇ』

 

『……少し羨ましくもあるんだよ、束』

 

 

千冬の言葉にえっと束が声を出した。

 

 

『私の強さは所詮1人だけで積み上げた強さだ。だがあいつ等はそれぞれが支えあう強さだ。私にはそれがないからな』

 

『……それってひどくなーい?親友の束さんがいるのにー』

 

 

真顔で千冬の言葉を聞いていた束がぶーたれながら千冬に言う。

それにジト目で千冬は返す。

 

 

『友人ならまずは私に借りた5000円を返せ』

 

『なっ、ナンノコトカナー?』

 

 

あからさまにうろたえた束に続けて千冬が言う。

 

 

『現役時代に貸した5000円だ。確か食費だったか?忘れたとは言わさんぞ』

 

『……実はね、便利な言葉があるんだよちーちゃん。本当に申し訳ないって言葉がね。あっ、あっくん達のサポートがあるから、外れます、外れますっ!』

 

 

そう早口で告げてブツッとチャンネルが切れた。

 

 

『……全く、本当に頼りになる友人だよ、お前は』

 

 

そう千冬は呆れたよう笑った後、つぶやいた。

 





次回予告
「PHASE13 怨念の往く先」

『・・・・・・アナタは寂しい人だ。私は、アナタとは、違う』

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