【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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過去編⑥ 最後の力

――時は過ぎて

 

May.30. C.E.80

 

プラントの工業生産コロニー、中でも軍需工業の中核であった【アーモリー・シティ】が謎の武装組織の決起によって占領されたというニュースが、プラント本国の首都コロニー【アプリリウス】に飛び込んできた。

プラント軍及び政府にとっては完全に寝耳に水の事態であり、事実確認が後手後手になってしまった頃、あらゆる商業帯のTV映像メディアがハッキングされ、とある映像が全世界に放送された。

 

 

『突然のご無礼、お許しいただきたい』

 

 

映るのは顔に大きな傷を持つ戦士、アンドリュー・バルトフェルド。

現ザフトの黒服を改造し、長い丈のマントを身につけた制服の彼が両手を掲げながら叫ぶ。

 

 

『私達は反歌姫の騎士団連合、ネオ・ザフト。つい先ほど、L4のコロニー【アーモリー・シティ】を占拠しました』

 

 

背後のモニターには無残にも破壊されたMSの残骸、コロニー警備隊に所属しているMSであるザク・ウォーリアがガンダムタイプのMSに破壊される映像に移り変わる。

 

ザクのコックピットにビームサーベルを突き刺したその黒と紅のMSは、プラント側の母艦でもあるナスカ級戦艦に背部の光の翼を煌めかせ、急接近。

 

そのままブリッジにサーベルを突き立てて敵旗艦を無力化する。

 

 

『我々は歌姫の騎士団の偽りと欺瞞に満ちた世界を変える刃であるっ』

 

 

モニターの映像が切り替わる。

映るのは母なる大地である地球。そして現在地球で行われているプラント主導の鎮圧作戦によって壊滅した街の映像に切り替わった。

 

 

『この映像はほんの一部、地球で暮らしている方々の中には実際に体験された方も多く、これは氷山の一角にすぎません』

 

 

次々に映像は変わっていく。

砂漠地帯の集落を護衛するMS、地上のプラント軍MSによって家屋を破壊される場面、落下してきたMSのコックピットハッチをこじ開けて銃火器を乱射する男性の映像――。

 

 

『彼等は力を振りかざすことしかできないっ、そしてその力で薙ぎ払ってからこういうのだ、自由の為、平和の為だとっ、この映像はその結果だっ!』

 

 

バルトフェルドが言うとおり理性的な人間ならば、先ほどの映像を見て今の世界が平和で自由などとは口が裂けても言えないだろう。

 

 

『我等は歌姫の騎士団を決して認めない、いや人類は彼らを認めてはならないのだっ』

 

 

芝居がかったような演説であるが、バルトフェルドが込める熱気を演説を見ている市民たちは十分感じている。

 

 

『疲弊していく地球の国家やプラント、次第に困窮していく人々の生活……この混沌とした地球圏のどこが自由だ、どこが平和だというのかっ! 故に我等は立つのだっ! 普遍の正義と自由を奴等から取り戻す時が来たのだっ!』

 

 

背後のモニターが漆黒の宇宙空間に変わる。

そしてその漆黒を切り裂く紅い光がモニターから溢れ、次の瞬間には大きな光の翼を広げるMSが現れた。

 

その名は――【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】

 

血の色の様に紅い光の翼を広げたその姿は、まるで神話の中の悪魔や魔王のように見えた。

 

 

『我等の元には偽りと欺瞞を切り裂く剣があるっ、決して折れない戦士は我等と共に立ち上がった!』

 

 

バルトフェルドが右手を握りしめて掲げる。

 

 

『私はこれを人類にとっての最後の戦いにしたいっ! 全ては、人類の……命という花を守る為にっ!』

 

『『『全ては人類の真なる平和の為にっ!!!』』』

 

 

シュプレヒコールはネオ・ザフトが占領し、管理下においたアーモリー・シティ全体から止め処なく溢れ続けていた。

 

 

ここに後の歴史書に【ネオ・ザフト戦役】または【シン・アスカの逆襲】と記載される叛乱の火蓋は切って落とされたのだった。

 

――――――――――

L5 プラント首都コロニー アプリリウス 大統領官邸 執務室

 

 

「バルトフェルドさん……どうして、こんな……」

 

 

録画された映像を見た現プラント国防軍大統領親衛隊隊長であるキラ・ヤマト中将は弱々しく呟いた。

それも致し方がないだろう、何故ならば彼にとってバルトフェルドは身近にいる数少ない理解者の1人であったからだ。

勤務態度にも特に気になる点は見られなかった。

 

つい1ヶ月前にもプライベートで会食をしたばかりであったのだ。

その際にキラの仕事に対する愚痴まで聞いてくれたのだ。

 

余談であるが、現在のザフト軍は国防軍としての立場にあり、明確な階級体勢がしかれている。

また大統領の立場にあるラクスは、国防軍としても最高指揮官の立場にあった。

 

 

「何故だ、何故彼等は争いを起こすんだ! それにあのMS……あれはシンだろうっ!」

 

 

キラとは異なり、理解できないと感情を露わにしながら現オーブ軍MS部隊総隊長のアスラン・ザラ少将が告げる。

オーブとプラントは癒着ともとれるほど密接な関係になっている。

だがそのため将官でもあるアスランが守るべきオーブを離れてプラントにいても何ら問題はないという、軍組織としてはお粗末な事になってしまっているが。

 

 

「シン・アスカ……確かメサイア戦役後はザフトを退役し、行方不明になっていたと聞きましたが」

 

「噂では傭兵として戦っていたとも聞いていたが……こんな形で再会するとは思わなかったよ」

 

「……どうして戦うんだろう、彼等は」

 

「彼等は憎しみの連鎖に縛られているのでしょう、キラ」

 

 

ラクスが悩むキラに告げる。

 

 

「きっと彼等はまだデュランダルの言葉を信じているのでしょう」

 

「アイツはいつもそうだっ! 過去に囚われて未来を蔑ろにする……っ!」

 

「ラクス、僕は戦うよ」

 

「……分かりましたわ」

 

 

キラの言葉を聴いて、ラクスは手元のコンソールを操作する。

壁に埋め込まれたモニターに移るのは白服に眼帯姿のザフト士官【ヒルダ・ハーケン少将】

 

 

『ヒルダさん、最高評議会議長そしてザフト国防軍最高指揮官として命じます、ザフト全軍を持って叛乱軍の鎮圧を。それとエターナルとアークエンジェルの準備を』

 

 

ラクスがエターナルとアークエンジェル、かつての3隻同盟に所属した2隻の戦艦を準備せよという指示を出すことは特別な意味を持つ。

それは現在のザフトの最高指揮官である自身、自らの出撃を意味している。

 

 

『これ以上の被害が出る前に反乱軍を討ちます』

 

『了解いたしました、全軍を持って叛乱軍を撃滅いたしますっ!』

 

 

敬礼したヒルダとの通信が切れる。

キラとアスランが執務室を飛び出していく。

 

それを確認したラクスが、ふうと息をついて呟く。

 

 

「……ふふ、まさかバルトフェルドさん、貴方が私に反旗を翻すとは思いませんでしたわ」

 

 

浮かぶのは笑み。

ラクスの心中には喜びが満ちていた。

それが笑みと言う形で彼女の顔に現れているのだ。

 

 

「ああ、戦争が始まるのですね……素敵ですわ」

 

 

駒たちはすでに動き始めている――2日以内には戦闘準備が整うだろう。

 

 

「世界は私のモノ、私は世界のモノ……愚かな貴方達の命を使って、私の正しさを証明させてもらいますわ」

 

 

静かに笑みを浮かべて歌姫は戦乱の時を待っていた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

時間は少々戻り――

 

 

May.29. C.E.80 L1 コロニー シリウス1 第1軍港内

 

 

C.E.79にシン達、赤鳥傭兵団を含め多数の傭兵、連合の残党達を取り込んでいたネオ・ザフトだが、約1年にわたって行動を起こさず潜伏していたのは理由があった。

もちろん傭兵達の連携や補給、その他もろもろの準備に時間がかかったのもある。

だがその一番の理由、それは現在シン達が搭乗する戦艦の完成を待っていたのだ。

 

かつてシン達が搭乗したミネルバの後継戦艦であり、ネオ・ザフトの旗艦。

その名前は【改ミネルバ型 ミネルバⅡ】

 

ミネルバにあった利点と問題点を再度分析、改良することで新たに生まれ変わった強襲戦艦だ。

 

かつてのミネルバとシルエットや武装はほぼ同じだがいくらかの変更点がある。

インパルスの運用を前提にしたミネルバの特殊カタパルトは撤廃されている。

また艦首部分に存在しているエッジ状の金色のパーツが装備されていた。

 

そのミネルバⅡの艦長室で、シンはミネルバⅡの艦長である人間と相対していた。

ザフトではなく連合の士官服を改造した白服を身に着けた男性士官は笑みを浮かべてソファに座り込む。

相対するシンにチューブ型飲料パックを手渡す。

 

 

「あいにく紅茶派でさ、いいかい?」

 

「ありがとうございます……美味しいですね、紅茶も」

 

「紅茶は深いぞ? こんなパックでも充分な味が出せるんだから……まあ、ちゃんと淹れたものとは月とスッポンだけどな」

 

「俺、コーヒーばっかりでしたから……それに、バルトフェルドさんに付き合わされてましたし」

 

「はは……彼のコーヒーは当たり外れが大きいのによくもまぁ……」

 

 

苦笑を浮かべた男性士官――元連合、不沈艦と呼ばれた【アークエンジェル】の操舵主であった【アーノルド・ノイマン】だ。

 

 

「それでノイマンさん、俺を呼んだ理由って?」

 

「……明日にはアーモリー・シティの占拠作戦にバルトフェルドさんから宣戦布告……決戦が始まる、その前に君に謝っておきたいことがあったからな」

 

「謝ること……?」

 

 

デスティニーへの習熟訓練やコロニーへの工作活動等を行っていたため、ノイマンとは面識がなかったシンは突然のことに戸惑う。

 

 

「かつて、ヤキンの時のオーブ戦、俺もあの戦いには参加した」

 

「……アークエンジェルですよね」

 

「ああ」

 

 

ノイマンが当時を思い出して顔を顰めながら進める。

 

 

「あの時、アークエンジェルやフリーダムはオーブ軍に協力した、だがそのせいで連合に余計な刺激をしてしまったのは確かなんだ……開戦まで民間人の避難を完了させておかなかった当時のオーブ政府に言いたいこともあるがな」

 

「……」

 

「その混乱のせいで戦線は混乱し後退、君たちの様な民間人に被害が出てしまった……謝って済む問題ではないが、すまなかった」

 

 

ノイマンが立ち上がってシンに頭を下げる。

それを見たシンもあわてて立ち上がる。

 

 

「やっ、止めてくださいよ、俺はノイマンさんをどうにかするとか思ってもないんですよっ!?」

 

「いつの間にかラクスの私兵扱い、メサイア戦役でもそうだったんだぞ?」

 

「……それでもですよ」

 

「君達からすれば立派な加害者のはずだがな……だがケジメってのは付けておきたかったんだ、ここにはいないマリュー・ラミアスやムウ・ラ・フラガに代わってね」

 

 

かつての上官である人物の名を唾棄するかのようにノイマンは言う。

 

 

「あの2人は大人としての責任を放棄してのうのうとプラントで暮らしている……本来俺達はキラやラクスに軍人としての教育をするべきだったのにな……そしてもう取り返しがつかない段階まできている。だから俺はケジメとしてアークエンジェルを落とす。 君にそれを聞いて欲しかったんだ、自己満足だと笑ってくれ」

 

「……笑いませんよ、ノイマンさん」

 

 

ノイマンの言葉を聴いてシンが困ったような表情を浮かべる。

 

 

「……そうか、ありがとう、シン」

 

 

ノイマンがそっと右手をシンに差し出す。

それを握り返してシンは笑みを浮かべる。

 

ふとシンが何かを思いついてノイマンに告げる。

 

 

「そうだ、この戦いが終わったら紅茶飲ませてくださいよ、美味しいんでしょう、ちゃんと淹れた紅茶って」

 

「……ああ、そうだな、とびっきりのヤツを淹れてやるよ」

 

「アビー達にも伝えておきますね」

 

「ちょ、何人分淹れるんだよ、紅茶って結構高いんだぞ?」

 

 

ノイマンが本気で慌てたようにシンに告げ、それにははっとシンは笑みを浮かべた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

そして――

 

 

June.1. C.E.80 L5宙域 ミネルバⅡ 格納庫内

 

 

現在この宙域では、【反歌姫の騎士団連合】と【歌姫の騎士団】との最終決戦の火蓋が切って落とされようとしていた。

 

大戦後に解体された旧地球連合の戦闘艦、そして【ミネルバⅡ】を旗艦として構成されたネオ・ザフト艦隊。

 

過去の大戦で不沈艦の名を知らしめた【アークエンジェル】と歌姫の搭乗艦【エターナル】を旗艦として構成された、歌姫の騎士団改め現ザフト艦隊。

 

両陣営の艦隊から次々にMSが発進していく。

いつ、戦闘が始まってもおかしくない状況だ。

 

そんな中2機のガンダムタイプのMSが出撃準備を行っていた。

そのうちの1機はデスティニーの改良機である【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】

 

そしてもう1機――

 

かつてザフトが連合から強奪した1機、決闘の名を持つ【デュエルガンダム】に酷似したMS。

灰色の全身からPS装甲機である事がわかる。

 

 

『シン、先に出撃しているぞ』

 

 

イザークがそうデスティニーに通信を送る。

その間も機体はカタパルトへ運ばれていく。

 

 

『判った、イザーク、よろしく頼むよ』

 

『当然だ』

 

 

ふっと笑みを浮かべたイザークが搭乗するMSがカタパルトに接続される。

するとMSの背部にインパルスのシルエットに酷似したバックパックユニットが接続された。

ユニットには大型機動翼が4つ、それに加えて大型のスラスターが装備されている。

 

 

『出撃どうぞ』

 

 

オペレータであるアビーの声と同時に各種コンディションOKが表示され、出撃可能状態に移行した。

 

 

『イザーク・ジュール、【トリーズンデュエルガンダム】、出るっ!』

 

 

イザークのコールと共にカタパルトからデュエルが射出される。

同時に全身のVPS装甲に通電され、灰色の身体は色彩を持つ。

 

形式番号 【ZGAT-X102-NEX TREASON DUEL GUNDAM】

 

機体名称【トリーズンデュエルガンダム】

それがイザークが駆る新型MSだ。

 

全てのGATシリーズの基礎とも言え、イザークも搭乗経験の長かったデュエルガンダムのデータを用いられて開発されたMSである。

拡張性・運動性の高さが長所であるデュエルガンダムの対MS戦、対高機動戦闘能力を高めたのがこの機体である。

 

また背部の機動翼はドラグーン機動翼であり、遠距離攻撃・オールレンジ攻撃にも対応できる万能機体だ。

だがその分操縦難度は高く、ネオ・ザフトでもこの機体を完璧に操れるのはイザークなどの一握りのエースだけだ。

 

オリジナルのデュエルと同じく白と青に機体は染まり、背部のバックパックから得られる爆発的な推力で宇宙を駆けていく。

 

 

『シン、聞こえていますか』

 

『聞こえてるよ、アビー』

 

 

デスティニーのコンソールを弄り、最終調整を完了させたシンが通信先のアビーに返す。

同時にOSが起動される。

 

 

Gunnery

United

Nuclear-

Deuterion

Advanced

Maneuver

System

Ver.2.52 Rev.45

 

ZGMF-X42NEX DESTINY GUNDAM VESTIGE

 

 

 

『すでに両陣営はMSを含めて展開済みです、順次出撃をお願いします』

 

『分かった、作戦通りでいいんだよな?』

 

 

シンの言う作戦とは単純な囮作戦だ。

自分自身を囮にして最高戦力の1人をおびき寄せ、相手にする作戦だ。

 

 

『はい、シンはまずアスラン・ザラを相手にしてください』

 

『……判ってる、あいつ等の分断はカナードとイザークの役割だったな』

 

『はい、彼等の部隊がキラ・ヤマトとアスラン・ザラを分断、足止め部隊がアークエンジェルを押さえ、高速機動と対MS戦闘に秀でたデスティニーで各個撃破します』

 

 

彼女の言葉に頷くと、デスティニーがカタパルトへ運ばれていく。

 

 

『シン、最後の戦いにしましょう』

 

 

彼を激励する彼女の言葉、モニター越しの彼女は薄く笑みを浮かべている。

それにサムズアップで返す、同時に各種コンディションOKが表示され、出撃可能状態に移行した。

 

 

『シン・アスカ、デスティニーガンダム・ヴェスティージっ! 行きますっ!』

 

 

シンのコールと共にカタパルトからデスティニーが射出される。

同時に全身のVPS装甲に通電され、デスティニーは灰色から姿を変える。

 

全身の装甲は黒色に、その翼は血の色の様な紅色に。

スラスターを全開にしてデスティニーは戦場を翔けていく。

 

 




時系列は追いついて逆襲のシンへ。

ここからは決戦時のカナードやイザーク達、アークエンジェルがどうなったかを書いて行きます。

過去編もあと少しですが、よろしくお願い致します。

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