【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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INTERMISSION②
PHASE1 チョコ濡れのバレンタイン①


2月10日 学生寮 自室

 

 

『2月10日、夕方のニュースの時間です。フランスのライアード社は同社において特許を取得していた先進的な再生医療技術を各国医療機関へ提供することを正式に決定しました。ライアード社CEOのグリーゼ氏はインタビューに対し、医療の未来は明るく、人類はさらなるステップに進むだろうと回答しました。提供された技術については、人体の新陳代謝を利用した再生医療であり……』

 

「……ああ、もうバレンタインの季節かぁ」

 

 

授業とトレーニングが終わって自室でニュースを眺めていた真が呟く。

非常にローテンションであり、目はどこか達観しているようにも見えた。

 

 

「……バレンタインなんて消えればいいのに」

 

 

C.E.のプラントでそんな発言をしたら間違いなく私刑になるであろう発言をして真はベッドに倒れこむ。

C.E.ではバレンタインデーは悲劇の象徴だからだ。

地球連合の一部過激派が農業プラント【ユニウス7】に核攻撃を行い、住民24万3721人が死亡した凄惨な事件が起こったからだ。

これについては連合過激派【ブルーコスモス】が戦犯と言われているが、当時の地球連合はプラントの独立を認めておらずプラントは地球連合の工場として扱われていたという話もある。

そのため、地球連合からすればプラントを不法占拠されていたに等しい状況にあった。

 

閑話休題。

 

 

しかしこの世界に生まれ、すでに16年。

何度も経験したいわゆる普通のバレンタイン。

真の認識はすでに普通のバレンタインに変わっていた。

 

 

「……」

 

 

無言で携帯を操作して、ある人物に連絡をつける。

数度のコール音の後、返事が返ってくる。

 

 

『もしもし、五反田ですが』

 

「弾、助けてくれぇぇぇっ!」

 

 

真が半ばヤケクソ気味に、相手である友人、五反田弾に叫ぶ。

 

 

『耳がー!いきなり、どうしたっ!?』

 

「……バレンタイン」

 

 

真が発した一言で、弾はあぁっと理解したようなため息をついた。

 

 

『あー、うん。がんばれ!』

 

「お前ぇぇ!!」

 

 

相手から帰ってきた投げやりな回答に真は声を荒げた。

 

 

何故この2人がバレンタインの話題でこんな話をしているのか。

それは2人の友人である一夏の中学時代の行動に起因している。

 

一夏は所謂イケメンと言われるタイプであり、その性格もまっすぐで優しい。

そのため中学では女子から絶大な人気を集めていた。

当然、バレンタインにはそんな彼を射止めようと女子たちは躍起になって、彼にチョコを送った。

 

ただその朴念神ぶりのせいで、そのすべてを【義理チョコ】として一夏は考えていた。

加えて感謝の言葉でそれを返すのだから始末が悪い。

 

 

「頼む、真っ、五反田っ!一夏のフォローを頼むっ!私はアイツがそのうち背中から刺されないか心配で心配で……っ!」

 

 

中学1年のバレンタイン前日、彼の姉である千冬に土下座でお願いされた事を詳細に覚えており、以来真と弾が彼のフォローをしていたのだ。

真や弾もそこそこな人気があったのだが、一夏のフォローに徹底していた為に親しい友人や家族からのチョコを除いて殆ど貰うことはなかったという悲しい出来事もあった。

 

 

『だって俺IS学園の生徒じゃねーしなぁ』

 

「……バレンタイン1日だけ、留学生みたいなことできないのかな」

 

『そんな無茶苦茶な』

 

 

電話越しに弾が真の突拍子のない無茶苦茶な意見に突っ込みを入れる。

 

 

「ぐぅぅぅ、俺だけでアイツのフォローするのかぁ……」

 

『助けたいのは山々だけどなぁ……まぁ愚痴ぐらいは聞くよ』

 

「いいよなぁ……お前は虚さんと2人で遊びに行ったりすんだろぉ?」

 

『っ、なっ、何の事かなぁ?』

 

「……悪い、適当に言っただけなんだけどそこまでバレバレだとなんかこっちが恥ずかしくなる」

 

『うるせー!』

 

 

弾がゴホンと咳払いで話を切り替える。

 

 

『んで、愚痴はもういいのか?』

 

「……ああ、少しすっきりしたよ、ありがとな弾」

 

『水臭ぇよ、お前と俺の仲だろ、真』

 

「そうだな」

 

 

苦笑しながら真は弾に感謝を伝える。

 

 

『おう、んじゃ、切るぜ?』

 

「ああ、ありがと。できるだけ頑張る」

 

『おう』

 

 

弾の返事の後、通話が切れる。

脱力したように横になる。

 

 

「やるしかないよなぁ」

 

 

天井を見上げながら、真は一旦瞳を閉じる。

不貞寝に近いが今は意識を手放したかったのだ。

 

しかし――その瞬間、真の意識の中で紅き種、【S.E.E.D.】が弾け飛んだ。

 

 

「っ!?」

 

 

不意に鋭敏になった感覚に飛び起きる。

 

 

「……くそ、またかよ」

 

 

 

そう呟いて、目を閉じ深呼吸を数度行う。

少しして鋭敏になった感覚が通常状態に戻っていくのを感じる。

 

 

「……よし、戻った」

 

 

立ち上がった真は自分の机の上に置かれているノートを開いて、日付を書き込む。

クルーゼ事件の後、突如生身で発動するようになった【S.E.E.D.】について、カナードや束達にはもちろん相談済みだ。

 

だが検査を受けても真はいたって健康体であり、身体には異常も見られなかった。

そもそも【S.E.E.D.】自体が詳細な事が分かっていない能力であり、流石の束もお手上げの状態である。

 

その為、現在は経過観察として発動した日時を記録し、不調が起こった際はすぐに知らせる事を暫定の対策としていた。

 

 

「……くそ、本当何だよ。バレンタインだけで気が重いってのに」

 

 

メモしたノートを放り、再度ベッドに倒れこむ。

そして今度こそ不貞寝を決め込むのだった。

 

――――――――――――――――――

同時刻 学生寮 簪と本音の部屋

 

 

「……」

 

 

自分のベッドに腰かけながら、この部屋の主の1人、本音は真剣に手に持った本を読んでいた。

タイトルは【謎の食通直伝、バレンタインお菓子特集~駆けろ、愛のトロンべ~】だ。

金髪でゴーグルを掛けた男性シェフがエプロン姿でボウルを抱えた何とも奇妙な表紙である。

 

彼女の机の上には今読んでいる本と同様のお菓子の指南書が3冊置かれている。

これは彼女の姉である虚がバレンタイン用に用意していた指南書から数点拝借したものだ。

 

 

 

「……私何してるんだろう」

 

 

そう呟いて読んでいた指南書を一旦閉じてベッドに放り、自分も倒れこむ。

目を閉じると、その悩みの原因が浮かんでくる。

 

飛鳥真君。

彼の顔が頭から離れない。

 

最初は、何て目をしているんだろうと純粋にそう思った。

更識に連なる、布仏の人間としてそれなりの人間は見てきた。

 

だが彼の眼は今まであってきた人間とは違った。

一見キツく見えるその目は友人たちを優しく見つめていた。

まるで決して零れ落とさないよう包み込むように。

 

そして彼は自身では救う事の出来なかった主、更識簪の心を救ってくれた。

それから急激に接近して、両想いになった2人を本音は心から祝福していた。

 

彼がC.E.という世界で戦い続けてきた戦士であり、実年齢は自分たちよりも1周り以上も年上であることには驚いた。

だがそれ以降も対等の友人として付き合ってきていた。

そのはずだった。

 

先のクルーゼ事件、海洋プラントでの戦いで彼と共に戦い何度も窮地を救ってもらった。

その際に彼が自分の名を呼んでくれた時は本当にうれしかった。

所謂吊り橋効果なのかもしれないし、これが【恋】と呼べるかは分からない。

だが、彼の事を考えると胸の奥が締め付けられるように切なくなるのだ。

 

 

「彼は簪様の恋人なのに……私はどうしたいんだろう」

 

 

そう本音は瞳を閉じたまま呟いた。

 

 

――――――――――――――――――

そして時間は流れて――

 

バレンタイン当日 早朝 IS学園職員室

 

 

「……なんだこれは」

 

 

出勤したカナードがとある場所を見て呟いた。

 

視線の先は職員室のカナードの机の上に築かれた包みの山。

一つ一つは小さいが、色とりどりのその包みは一種の芸術のようだ。

手に取って確認してみると、どうやら中身は菓子のようだ。

 

 

(……なるほど、今日はバレンタインか)

 

 

包みを再び、机の上に戻して状況を理解したカナードは一人うなずく。

 

 

「大変ですね、カナード先生」

 

「……山田教諭」

 

「おはようございます、すごい量ですね、これ」

 

「おはようございます。正直俺にこれを渡すのは物好きもいいところだと思いますが……織斑一夏や真ならば分かりますが」

 

 

苦笑しながら机の上の包みの整理を開始する。

 

 

「そんなもの好きがここにも一人いたらどうします?」

 

 

そういって真耶は手に持ったカバンから包みを取り出してカナードに手渡した。

可愛らしい緑の水玉模様の包装紙と水色のリボン。恐らくは手作りのものであることは想像できた。

 

 

「いつもお世話になってるお返しです」

 

「……どうも」

 

 

むず痒そうな表情をカナードは浮かべた。

 

 

「もしかして迷惑でしたか……?」

 

 

少々不安げな真耶が尋ねるが、それに首を横に振ってこたえる。

 

 

「いや、こういったものを受け取ったことがあまりなくて……開けてもいいですか?」

 

「はい」

 

 

包みを丁寧に開くと、その中には可愛らしい動物を象ったクッキーが入っていた。

バターの香ばしくも甘い香りが広がる。

それだけでこのクッキーが相当手を込んで作られたものだと想像させるのは容易かった。

 

 

「1つ頂きます」

 

「どうぞ、うまくできてるとは思うんですけど……」

 

 

少し不安そうな顔で真耶が呟く。

ウサギ型のクッキーを手に取り、一口かじる。

 

程よい甘さと香ばしいバターの香り。

あまりこのような菓子を食べたことのないカナードでも、十分わかるほどに美味であった。

 

残りもそのまま口に含んで咀嚼し、不安そうな表情でこちらを見ていた真耶に言う。

 

 

「ありがとうございます。とても美味しいクッキーでした」

 

「いえ、お口に合って良かったです」

 

 

そう笑顔で真耶は返した。

なお、そのやり取りを一部の女性教員は羨ましそうに眺めていたという。

 

―――――――――――――――――

 

ブレイク号 格納庫

 

 

ディスプレイを高速でタイピングしながら、ブレイク号の格納庫でラキーナは目の前のメンテナンスベッドに置かれているフリーダムストライカーに視線を移した。

 

以前フレイとの模擬戦によって破壊されたフリーダムストライカーの製作は順調に進んでいた。

製作段階からラキーナに合わせたセッティングを行っている為、完成すれば以前のものよりも扱いやすくなるはずである。

 

座りながら作業をしている彼女の右隣に置かれている可愛らしい包み。

すでにあけられており、その中身を1つ取り出して口に放る。

 

それはチョコレートであった。

 

 

「んー、疲れた頭に甘いものはいいなぁ。フレイには感謝しないと」

 

「ふふ、もうわだかまりも無いって感じだねー。まだ好きなんでしょ?彼女のこと」

 

「えっ、えぇっ!?」

 

「ほーらー。で、どうなの?好きなのー?」

 

「そっ、それは……あっ、はっ、話はがらっとかわるんですけど、朝、職員室目指して行く生徒たちを見ましたよ。多分兄さん目当てかなと」

 

 

ニヤニヤと笑う束の言葉に少しどもりながらも話題を変えるために言う。

 

 

「まー、不愛想だけど顔は十分整ってるからねぇ、カナ君。おまけに高身長で唯一の男性教員、女子高生なら惚れてもおかしくないんじゃない?」

 

「ですかねぇ……」

 

「でもカナ君はくーちゃん一筋だしね。他の女にうつつを抜かす事なんてないから母親としては心配はしとらんよ、ほっほっほ」

 

 

同じようにフリーダムストライカーへの設定反映を行っている束がなぜか途中から年寄り口調になって言う。

それに笑みで答えるラキーナであったが、ふと2人の視界にとある人物が入った。

 

まるで銀をそのまま紡ぎだしたかのような美しい髪。

黒に金の瞳を隠すための伊達メガネに、ゴシック風のドレスを身にまとったクロエだ。

クルーゼ事件で負った傷もすでに完治しており、Xアストレイも修復が完了している。

 

 

いつもならばまだ食事をしている時間のはずだが、なぜか気迫に満ちているクロエは待機形態のXアストレイであるピアスを触った後、ISを起動させる。

 

その様子を見ていた束とラキーナの背筋にいやな汗と確信めいた予感が奔った。

 

 

「……くーちゃん、一応聞いておくけど……なんでXアストレイを起動させてるのかな?」

 

『少し用がありまして、大丈夫です、束様。すぐに終わらせて戻ってきますので』

 

 

ふふふと黒い笑みを浮かべているクロエがXアストレイを浮遊させる――瞬間であった。

 

 

「あかんやつやーっ!確保―っ!」

 

『クロエちゃん、ごめんね!!』

 

 

調整途中であったストライクを即装着して、ラキーナがクロエに組み付く。

兄であるカナードによってたまに関節技による制裁を受けている彼女は自然と、彼と同じように関節技の要領でXアストレイを押さえつけていた。

 

 

『放してください、束様っ!ラキーナ様っ!』

 

 

ジタバタともがくが、組み付いたストライクのロックは外れない。

 

 

「ラキちゃん、絶対に離しちゃだめだよっ!今のくーちゃんは何するかわかったもんじゃないよっ!」

 

『分かってますっ!クロエちゃん落ち着いて!せめてISは置こう、ねっ?』

 

『お断りしますっ!カナード様にすり寄ってくる奴らを排除して、私のチョコを渡すまではっ!』

 

 

ラキーナの説得に耳を貸さずにジタバタともがくクロエ。

恋する乙女は強いのだ。

 

 

「だー!カナ君、なんでこんな時にいないんだよー!」

 

『兄さん、早く戻ってきてー!』

 

 

2人の叫びが格納庫にこだまし、何事かと顔を出したのはマドカとアスランであった。

 

 

「……クロエ姉さんが壊れた?」

 

 

朝食の最中であったため、箸と茶碗を持ったマドカが姉と慕っているクロエの暴走を見て呟く。

 

 

「……カナードも罪作りだな」

 

 

クロエの暴走っぷりを見てアスランは苦笑して言う。

 

 

(……それをお前が言うのか、アスラン・ザラ)

 

 

マドカはジト目になって、アスランを見つめている。

ラキーナから聞いたことがあるのだ。

 

アスランはC.E.では相当な女泣かせであったとの事だ。

しかも当人にその自覚がないのだからなお性質が悪い。

 

 

「?どうかしたのか?」

 

「……お前は相当な朴念仁のようだしな、アスラン・ザラ」

 

「なっ、俺はそんなイメージで見られているのか……!?」

 

「少なくとも有害なイメージだな。お前に知らず知らず振り回された女は多いんじゃないのか?」

 

「ゆっ、有害、そっ、そんな事は……ないと思う……いや、ないはずだ……そうだよな……?」

 

 

マドカからの正直な感想を心に受けてアスランはがっくりと肩を落とす。

 

―――――――――――――――――

バレンタイン当日 昼休み

 

この日の真は朝から目が死んでいた。

激動の午前を終え、自席で力なく頭を垂れていた。

 

 

「はは……彗星かな。いや、違うな、彗星はもっとこう、ばぁって動くモンな……」

 

 

ぶつぶつとそんな言葉も聞こえる始末である。

クラスメイトである清香やナギが苦笑しつつその様子を眺めており、セシリアも察したように真に話しかける。

 

 

「真さん、お疲れ様です」

 

「……うん」

 

 

非常に弱々しい返事。

セシリアがちらっと一夏の席を見ると、その上には大量の包みが置かれていた。

一夏はその包みを見て真とは別の意味で絶望しているのだ。

ぶつぶつと呟く彼の言葉は、お返し3倍どうしよう、と聞こえる。

 

 

「……お察ししますわ」

 

「……うん。ありがとう、セシリア。やばい、事情を知ってくれてる友達がいるっていいな。泣きそう」

 

 

若干涙声になり始めている真の様子に苦笑しか浮かんでこない。

 

 

「そっ、そこまでなんですか……っ!?」

 

「そこまでのことだよぉっ!」

 

 

ガバッと起き上がった真がセシリアに詰め寄る。

午前中の様子を振り返ってみよう。

 

 

 

1時限目開始前――

 

 

「織斑君っ!どうぞっ!」

 

「先輩方、わざわざありがとうございます」

 

 

移動教室の為移動していた一夏に、リボンの色から先輩である2人組が話しかけていた。

可愛らしいピンクと水玉模様の包装の包みを受けとった一夏が軽く会釈してから続けた。

 

 

「俺なんかのためにわざわざ義理チョコを。美味しくいただきますね」

 

 

そう返された黒髪の女子はぐふっと胸を押さえてがくっと崩れ落ちる。

それを随伴している青髪に褐色肌の生徒は苦笑いしながら見ていた。

 

少し離れた場所でその様子を眺めていた真ははぁとため息をつきながら駆け寄る。

 

 

「あ、あれ。先輩?」

 

「いーから、ほら。教室行ってろよ。多分疲れてんだよ、お菓子って作るの大変なのは知ってんだろ?」

 

「あ、ああ。ちゃんとお返ししますからー」

 

 

真に背中を押されながら一夏は教室を目指して歩いていく。

それを見送った後、真は何とか立ち上がった先輩達の下に歩いていき――

 

 

「すいませんでしたぁっ!あの唐変木にはちゃんと言っておきますからっ!」

 

 

土下座した。

あまりに綺麗な土下座フォームに先輩達はぷっと吹き出しながら言う。

 

 

「飛鳥君、もしかしてずっとなの、彼のって」

 

「……はい」

 

「あれは凄いねー。わりと頑張って作ったんだけど、見事に外されちゃったわよ」

 

 

黒髪の先輩がそう言って苦笑していた。

 

 

「……本当に申し訳ないです。アイツはいつもそうなので」

 

 

立ち上がって先輩2人に再度頭を下げる。

 

 

「いいのいいの、まー、ワンチャンあればなぁレベルだったしね」

 

「飛鳥君が大変なのはよぉ~くわかったよ」

 

 

黒髪の先輩に随伴していた褐色肌の先輩が真の肩にポンと手を置く。

身長は真のほうが背が高いが、頭を下げていたため問題はない。

 

 

「えぇ。流石に度が過ぎてるのでそろそろブチ切れそうですがね」

 

「大変だねぇ。おっと、そうだった」

 

 

褐色肌の女子生徒が鞄から包みを取り出す。

半透明の包みに入っているのは小さいマカロンだ。

それを真に手渡しながら彼女が言う。

 

 

「さっき織斑君にも渡したけど、飛鳥君にも。よかったら食べてよ」

 

「えっ……いっ、いいんですかっ?」

 

 

包みを受け取った真は明らかに慣れていないような返事を返した。

 

 

「おや、意外な反応。飛鳥君は貰ったことなかったの?」

 

 

黒髪の方の先輩がそう真に尋ねる。

公にされていないアスランを除いた3人しかいない男性搭乗者。

そのうち2人はすでに彼女持ちの為、人気が一夏に集中してしまうのは仕方のないことであったが、彼女からしてみれば、未だ人気が高そうだなぁとは思っていた。

 

すでに彼女がいるため、積極的に渡す人間もいないだろうが、過去にはたくさんもらっていてもおかしくはないだろうと想像していたのだ。

 

すると、真の目がどこか遠くを眺める様な目に変わる。

まるで仙人の様な、悟ったような目だ。

 

 

「家族と親しい友達からもらったくらいしか……なかったですね、ハハハ」

 

「くっ、苦労してるんだねぇ」

 

 

包みを受け取って乾いた笑いを浮かべている真に彼女はそう答えた。

 

 

2限目休憩時間――

 

 

「一夏ぁっ!」

 

 

教室の扉を破壊する勢いで2組の鈴が飛び込んできた。

その手には綺麗に包装された四角い包み。

 

 

「おぉ、鈴。おはよう」

 

「うん、おはよう……じゃなかったっ、ちょっと付き合いなさいよっ」

 

 

彼女はそう言って一夏の手を引っ張ろうと手を伸ばす。

 

 

「ん、ああ。別にいいけ……」

 

 

鈴の手が一夏の腕に触れる瞬間、鈴の手を掴む手が現れた。

 

 

「……」

 

 

無言で笑顔を浮かべる箒、そしていつのまにか鈴の背後にはラウラとシャルロットが回り込んでいた。

 

 

(させないぞ、鈴っ!)

 

(ちぃっ、3人で同盟を組んでいるのねっ!?私だけ別クラスなのをいいことにっ!)

 

(抜け駆けは駄目だよ)

 

(状況を有利にするためなら鬼にもなる。全ては公平にな)

 

(いいわよ、なら公平に……)

 

((((昼休みにジャンケンで勝負っ!))))

 

 

アイコンタクトで状況を把握した4人は頷き合う。

 

 

「どうしたんだ、鈴?」

 

「ん、あぁー……ごめん、一夏っ、授業の準備があったから戻らなくちゃ、んじゃ後でっ!」

 

「おっ、おう」

 

 

風のように去っていく鈴を一夏は不思議そうに眺めていた。

少し離れた自席で真はお腹を押さえながらつぶやく。

 

 

「……胃が痛かった」

 

 

一色触発で危うい均衡であったが、彼女たちが平和的な方法で解決しようとしているのを見て真は呟く。

 

このほかにも移動教室の際に1年、2年、3年全ての年代の生徒達に一夏はチョコを渡されていた。

そして一夏は先輩たちと同じように対応して、真はそのフォローに回る。

それを昼休みまで繰り返していたのだ。

 

チョコを渡される度に繰り返されるやり取りに、真は心の中で――

 

 

「一夏ぁぁぁぁぁっ!オマエってヤツはぁぁぁぁっ!!」

 

 

と何度も叫んでいたのだ。

――時間は戻って現在。

 

 

「……本当にお疲れ様です、真さん」

 

「そう言ってくれる友達がいるだけでだいぶ変わるよ……はぁ」

 

 

詳細を聞いて苦笑するセシリアにそう返した真。

その時であった。

 

ピロンと、自分の携帯がメールを着信したのだ。

 

 

「ん、ごめん、メールだ」

 

 

お構いなくとセシリアが返したのを確認して、彼はメールを確認する。

差出人には【更識簪】と表示されていた。

 

 

(簪から……っ!)

 

 

差出人を見てドクンと鼓動が早まる。

内容をすぐさま確かめる。

 

 

「今日、放課後に渡したいものがあるから真の部屋に行くね」

 

 

簡潔であるが、何のためのメールかすぐに分かった。

期待していなかったわけではない。

いやむしろ意識しないほうが無理であった。

 

 

「……簪さんからです?」

 

 

真の反応を見たセシリアがニヤニヤしながら尋ねる。

 

 

「あっ、ああ……まぁ、期待してなかったわけじゃないさ」

 

 

ニヤけそうになる口元を隠して、真は視線をそらした。

それにセシリアは優しい笑みを浮かべていた。

 

 





次回予告

「PHASE2 チョコ濡れのバレンタイン②」


「答えを教えて。真君」


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