【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE2 強襲するG

「一夏っ、肩を揉め」

 

「一夏、アイスを買って来い」

 

「一夏、少女マンガとやらを読みたい。買って来い」

 

 

ほとほと一夏は疲れ果てていた。

威厳のある姿は表のみ、その裏、私生活では完全な我侭お姫様であるからだ。

 

アイリス王女の転入から数日、最後の我侭について達成するため執事服姿の一夏は、簪の部屋に訪れていた。

彼女が持っていることを知っていたため、借りにきたのだ。

彼女の部屋には遊びに来ていた真もいて、一夏は座り込みながら愚痴を零した。

 

 

「助けて、真」

 

「助けてっていってもなぁ……断るしかないだろ」

 

「うん、断るのが一番だと思う」

 

 

真の言葉に簪が同意する。

 

 

「いやぁ、まぁ、断るのが一番だってのは俺でも分かるけどさ。何か偶に放っておけないと言うか、甘えてきてるのかなぁって思うときがあるんだよ。妹と言うか昔の箒みたいだなぁって思うこともあってさぁ。もっとこう穏便に済ます方法ってないかなぁって」

 

 

そう一夏が告げると、真の肩を簪は掴んで少し離れて耳打ちする。

その行動に一夏は首を傾げていた。

 

 

「真、これってまずいと思う」

 

「あぁ、アイリス王女の態度、明らかに一夏に気があるヤツだろ。しかも一夏は小さい子を相手にする感じで対応している……はぁ」

 

 

すぅっと真の目が何処かの小動物の様に細くなる。

 

 

「とりあえず千冬さんや山田先生に相談すれば何とかなると思うけどな」

 

「うん、あくまで生徒で対等な関係だからそれが一番……だと思う」

 

 

2人の意見が一致したところで、バイブ音が響く。

振り返ると、一夏の携帯が発信源のようだ。

 

 

「げっ」

 

「どした?」

 

「王女様からのお呼び出し……あー、簪さん。漫画借りていってもいいか?」

 

 

紙袋片手に立ち上がった一夏がそう告げる。

紙袋には簪から借りた少女マンガを入れている。

 

 

「うん、それはいいけど」

 

「山田先生辺りに相談しておくよ、断る気がないならもう少し頑張れ」

 

「あぁ、ごめん。頼む」

 

 

少し疲れたような背中の一夏が部屋を後にする。

その様子を見て真と簪は苦笑していた。

 

一夏がアイリス王女の私服を買いに出かけると言う話が耳に入ったのはその日の夕方であった。

 

 

同日 深夜

学生寮 寮監部屋

 

 

「で、何で俺はここに呼び出されたんだ」

 

 

いつもの戦闘服を着たカナードが座布団の上で胡坐をかいている。

その向かいに座っているのは千冬だ。

テーブルの上や下には空の酒瓶が転がっている。

 

 

「すまない。こんな深夜に呼び出してしまってな」

 

「なら手短に済ませろ、どうせ厄介事だろう。違うか?」

 

 

不機嫌さをまるで隠していないカナード。

それも当然だろう。

業務を終えブレイク号に戻って残りのラクス製コアの追跡や、非常勤とはいえ教師になったため触れ合う時間が少なくなったクロエの機嫌取りなど等、やることは沢山ある彼を緊急で呼び出したのだ。

その態度に苦笑しながら、千冬が続ける。

 

 

「1組に転入したルクーゼンブルク公国のアイリス王女の事は知っているだろう?」

 

「あぁ、相当な問題児らしいがな」

 

「その彼女と、一夏が買い物に行く事になった」

 

 

その言葉を聞いて即効でカナードは立ち上がった。

そしてそのまま部屋を出て行こうとする。

 

だが、彼の脚を千冬が握って止める。

無理矢理振りほどいて一気に扉に向かって跳躍しようとするが、今度は腰のベルトをつかまれた。

 

 

「ふざけるなっ、これ以上ガキのお守りなんてできるかっ!」

 

「逃がさんっ、こんな面倒事1人でどうにかできるかっ!」

 

「知った事じゃないっ、これは教師の仕事じゃないだろっ、離せっ!」

 

 

ベルトを握る彼女の手をひねり上げる。

だが、捻り上げようとした行動を読んでいたのか、手を離し今度はその腕を彼女は握る。

握られた瞬間、容赦なく顔面狙いで蹴りを放ち、蹴りを千冬は辛うじて掴んでいた腕を離してガードした。

 

無駄に高レベルなやり取りを終えて、カナードは再度扉へと向かう。

 

 

「頼むっ、何なら依頼と言う形でお前に頼みたいんだ、カナードっ!」

 

「……依頼だとぉ?」

 

 

心底嫌そうな声色と表情でカナードは足を止める。

 

 

「あぁ。教師としての活動とは別口の依頼だ。お前は傭兵だろう?なら断る前に話だけでも聞いてくれないか」

 

 

千冬の話を要約すると、カナードには秘密裏の護衛として動いて欲しいとの事であった。

 

アイリスは社会勉強の一環として下々の民の服が欲しいと一夏に言ったらしい。

善意で受けた一夏はショッピングについて了承したのだった。

 

その話を真を経由して耳に入れた千冬は、絶対に何か起こると予感めいたものを感じてカナードを呼び出したのだ。

休日を使ってのショッピング、本来ならば護衛などつけることはないが2人の立場が特殊すぎるのがまずい。

 

何せ一国の王女と3人しかいない男性搭乗者の1人だ。

何かあった時に国際問題にも発展しかねない。その為秘密裏に護衛をする人間が必要になる。

 

そこで適任なのがカナードだ。

戦闘能力は自分と同レベル。経験だけならば上を行く彼ならVIPと弟の護衛を任せる事ができる。

 

 

「お前の戦闘能力は信頼している。だから頼む、受けてくれないか?」

 

 

頭を下げた千冬にため息をつきながらカナードが訊く。

 

 

「……報酬は?」

 

「報酬はそうだな。言い値は出す。王女の件を穏便に解決したいと思っているのは学園の総意だ。まぁ、限度はあるが」

 

「……はぁ」

 

 

ため息をついて、ふと部屋に転がっている酒瓶が目に入った。

 

 

「……織斑千冬、この酒瓶は?」

 

「ん、あぁ、それか?それは私個人のものだ。偶に晩酌としてここで飲むんだ。すまないな散らかっていて」

 

 

千冬は偶にこの部屋を使っており、実質千冬専用の部屋と言う扱いになっている。

その為、ある程度の私物を部屋に持ち込んでいるのだ。

部屋に転がっていた酒瓶などがまさにそれだ。

 

それを見たカナードが意地悪くニヤッと笑った。

 

 

「……なら、ここにある酒を報酬に追加しろ。承諾するなら依頼を受けてやるし、報酬からある程度減額してやる」

 

「はっ、はぁっ!?」

 

 

いつものクールな雰囲気が霧散した千冬はあからさまにうろたえている。

 

当然だが学園の売店に酒は売っていない。

その為、ここにある酒はオフの時間が限られた千冬が空いた時間を見つけて揃えたモノだ。

中には高価なものもあり、入手が難しい種類のものもある。

 

それを報酬としてカナードに渡す。

つまりはオフの時間を楽しむための娯楽を全て渡すことに等しい。

 

 

「何だ、ただの酒だぞ?」

 

 

意地悪い笑みを消さずにカナードがたずねる。

 

 

「いっ、いや、その……ほら、お前まだ19歳じゃなかったか?駄目だろ、飲酒は20歳になってからだ」

 

「それは日本の法律だろ、俺の国の年齢なら飲酒は可能だ。それに前の年齢を加味すれば90歳だ、何の問題もない。で、どうする?断ってもいいんだが?」

 

「ぐっ、ぐぅ……分かった、分かった。飲もう、その提案を」

 

「交渉成立だ」

 

 

ニヤッと笑ったカナードと肩を大きく落とした千冬。

交渉は成立したのだ。大きな犠牲と引き換えに――。

 

 

――――――――――――

そして週末

 

IS学園に近い駅と併設している大型ショッピングモールに一夏とアイリスの姿があった。

移動に使った自転車を駐輪場に置いて、IS学園の制服に身を包んだ2人はショッピングモールの前に立つ。

 

 

「服を売るだけで日本はこんな城もどきを建てるのじゃな……」

 

「そんな大げさな。それにアリス、服だけじゃなくて色々あるんだよ、このモールにはさ」

 

 

すでに打ち解けているのか、アイリスを愛称で呼ぶ一夏。

その彼の言葉にアイリスはたずねる。

 

 

「ならそばはあるのか?わらわはあれをどうしても食べてみたいっ!」

 

「ん、ちょっと待ってくれよ……お、ある。しかも有名なやつだ」

 

 

一夏がモールの地図を見てアイリスに言う。

 

 

「おお、そうかそうか!」

 

 

嬉しそうなアイリスの笑顔、年相応の姿に一夏は笑みを浮かべる。

 

 

「よし、なら服を買ってからそこに行こう」

 

「うむ、案内せよっ!」

 

「はいはい」

 

 

そう言ってエスコートしていく一夏。

それを遠くから眺める人影が4つ。

 

 

「くやしぃっ!悔しいわよねぇっ!」

 

「うーん、だからさ遊びに来たって体で割り込んで引き離すのはどう?」

 

「そうだな、とりあえずあの王女を引き離すのが先決だな」

 

 

地団太を踏む鈴、そしてその後ろには作戦会議を行っている、シャルロットとラウラ。

2人の作戦会議をぼうっと見ているのは箒であった。

 

 

(……一夏が離れてしまう。前にもあった、大切な人が離れてしまう。ナンダッタカ、コノカンカクハ……オモイダセナイ……オモイダシタクナイ)

 

 

霞がかかる意識。その霞の中で誰かが自分に語りかける、そんな映像が見えた。

 

 

「……ってば、箒ってば!」

 

 

鈴が箒の顔を覗き込んでいた。

それにはっと気づいた箒の瞳に合った【色】は消えた。

 

 

「どしたのよ、ぼーっとして」

 

「いや、私はいつも通りだぞ?」

 

「……そう?ならいいんだけど。体調悪いならいいなさいよ?」

 

「あ、二人がお店から出てきたよっ!」

 

 

鈴がそう言った瞬間、シャルロットの声が響く。

 

 

「こうしちゃいられないわっ!いくわよっ!」

 

 

箒の手をとりながら、鈴達は一夏とアイリスを追って行く。

 

 

その様子をさらに遠くから眺める者が2人。

 

黒のジャケットにグレーのインナー、黒のカーゴパンツの黒を基調とした私服のカナード。

そしていつかのデートの時と同じくゴシック風の私服に、目を隠すための伊達目がねを見につけたクロエ。

 

カナードは今回の依頼について、クロエに協力を頼んだのだ。

クロエとしては依頼の中でも2人きりになれるし、何より彼の力になれるのならば答えはYESであった。

 

 

「……何故、あいつ等がいる」

 

『カナード様、どうやら箒様達は2人を追っているようです』

 

 

ハイパーセンサーだけを起動したXアストレイから齎される情報をカナードに伝える。

思わずモール天井の窓から見える空を眺めてしまった。

 

 

『カナード様?』

 

「すまない、少し現実逃避をしたくなっただけだ。作戦内容は変わらない。ハイパーセンサーを起動して感知できる距離から奴等全員を監視するぞ」

 

『はい、承知しました』

 

 

絶対に気づかれない距離を保ちつつ、6人を2人は追う。

 

 

そして一夏達は2人でそば屋に入り、メニューにアイリスは一夏に質問していた。

 

 

「これが噂に聞くざるそばと言うんじゃなっ!」

 

 

彼女は天ぷらつきの蕎麦を注文しており、一夏は鴨蕎麦だ。

今はそばが来るのを待っている状況だ。

 

 

「のっ、のう、一夏」

 

「うん?」

 

「その、おぬし、世界には興味はないか?」

 

「世界?海外って事なら去年の12月、イギリスには行ったなぁ」

 

 

エクスカリバー事件をふと思い出した一夏がアイリスに答える。

 

 

「そっ、そうなのか」

 

「いけるなら今度はヨーロッパ全部に行ってみたいよなぁ。皆の故郷ってどんな所か興味あるんだよ」

 

「そうか!また行きたいのじゃな!?」

 

 

うんうん、と頷くアイリスが続ける。

 

 

「ならば一夏よ、そなた、わらわの国へ来い。わらわの国からならば他の国にも容易にいけるぞ?」

 

「……はぁ?」

 

 

アイリスの言葉を飲み込むのに数秒の時間が必要だった。

 

 

「専用の召使いとして、今後もわらわの世話係にしてやろうぞ」

 

「えっ、ちょっ、いや、それは……」

 

 

あまりにぶっ飛んだ内容に答えを濁す一夏であったが、その時注文してきたそばが運ばれてきた。

 

 

「話の続きはそばを食べた後じゃな!」

 

(やっべー、どうしよう……っ!)

 

 

嬉しそうにそばに舌鼓を打つアイリスと対照的に一夏は内心滅茶苦茶焦っていた。

流石の彼も彼女の提案にある問題点は分かっている。

IS学園は国家に縛られない。だからこそ、自分や他の男性搭乗者も国家に縛られずに日常生活が行えている。

ルクーゼンブルク公国の王女の召使いになる、など出来るわけがないのだ。

 

一夏はそばに口をつけずに、どうアイリスの言葉を断ろうかと考えている。

するとアイリスがこちらを見ていた。

 

 

「ん、どうした?」

 

「すするとはどうすればいいのじゃ?」

 

「ああ、なるほどな。無理にやることじゃないよ。食べたいように食べればいいんだよ。今は王女じゃなくて、アリスだからな」

 

「そっ、そうかっ!」

 

 

そういうことならとそばをまるでパスタの様にクルクルと巻いて食べ始めるアイリス。

嬉しそうに食べるその姿に思わず笑みがこぼれた。

 

 

「美味じゃな、そばっ!」

 

「そりゃよかった。なぁ、アリス。さっきの話何だけど……」

 

 

そこまで隣のアイリスに言ったところで、ぽすんとアイリスが頭を一夏に預けてきた。

 

 

「アッ、アイリス?」

 

 

突然のその行為に驚きながら、アイリスの肩を揺するが彼女は反応を示さない。

 

 

「お客様、どうされましたか?」

 

 

先程そばを運んできた店員が困惑している一夏に尋ねてくる。

どこかで見たような顔だが、他人の空似だと思い店員に返す。

 

 

「あっ、すいません、急にこの子が……」

 

「おや、お疲れでしたら、さぁ、こちらにどうぞ」

 

「どうもすいません」

 

 

一夏はアイリスを抱えて、女性の店員に店の奥へと案内される。

店員は何故か一夏とアイリスを見て笑みを浮かべていた。

 

その時であった。

 

 

『織斑一夏、アイリス王女を抱えて横に避けろっ』

 

 

ISのコアネットワークを介した通信が届く。

相手は男性搭乗者の1人であり、一夏も知った顔である男。

 

困惑には飲まれかけるが、指示に従う。

彼が意味のない事は指示してこないのはこの1年で学んでいたからだ。

 

 

「っ!」

 

 

アイリスを抱えたまま、一夏は右に身体を避ける。

 

瞬間、背後から迫る投擲物。

ガラス製の灰皿が一夏の頭が数瞬まで合った場所を通り過ぎて、案内していた店員の背中に直撃する。

 

 

「かっ!?」

 

 

突然の衝撃に肺の中から空気を搾り出すかのような声が漏れ、店員の動きが止まる。

そして間髪いれずに自分の横を走る影。

 

その影は動きの止まった女性をそのまま蹴りつけ押し倒し、腕を拘束する。

女性は意識を失っていた。

 

 

「かっ、カナードっ!」

 

「……無事のようだな」

 

「あっ、あぁ……な、何でここにいるんだ?」

 

 

女性を無力化したのはカナードであった。

 

突然の自体にそば屋の中が騒然となる。

客の中には箒達もおり、何でここにいるのよっ!と声を上げていた。

それはクロエが抑えているが。

 

 

「仕事だ……睡眠薬に拳銃か」

 

 

女性店員の懐をあさると、そこから白い粉が入った袋が出てくる。

それだけではなく、一般的な日本人が持っているはずがない拳銃も出てくる始末。

ご丁寧に消音器まで装着されている。

 

 

「食事を始めた途端意識を失う、そしていきなり2人を人目につかない場所に案内する。クロだ」

 

「えっ、それって……まさか、誘拐?」

 

『おそらくな。ドレッドノートのセンサーはこの場から退却する人間の動きは拾っていない。どうやら単独犯だな』

 

 

拳銃を回収したカナードは懐にしまう。

 

 

「……思い出した、この人、メイドの人だっ」

 

 

カナードが無力化した女性について一夏が思い出す。

転入初日にアイリスの侍女の一人としてそばにいた女性。

それが今無力化された女だ。

 

 

「そうか、どうやら向こう側のいざこざらしいな。王女はどうだ?」

 

「うっ、うん……?」

 

 

アイリスが意識を取り戻す。

呆けた目で目の前に倒れている女性を見た後、自分の置かれた状況を把握する。

 

今の彼女は、一夏の腕の中に抱きしめられる状況にいる。

一気に顔が赤くなる。

 

 

「いっ、一夏っ!?おぬしっ!?それにこの状況はっ!?」

 

「アリス、まだつらいだろ?大丈夫、俺がいる」

 

 

安心させるために、アリスを抱きしめる。

それを困惑しながらも受け入れて、彼の腕の中に身を任せる。

 

その感覚はとても心地よいものであった。

 

 

「……全くとんだトラブルメーカーだ」

 

 

カナードはその様子を白い目で見ていた。

 

 

――――――――――――

同日 夕方 IS学園学生寮

 

 

「何たる失態だっ!分かっているのかっ!」

 

 

近衛騎士団長であるジブリル・エミュレールに、一夏は激しい叱責を受けていた。

完全防音仕様の学生寮でなければ確実に近所迷惑となる声量だ。

 

 

「貴様は本国に連れて帰り、相応の処罰を与えるっ!」

 

 

それを見かねた真耶が口を挟んできた。

 

 

「まあまあ、王女殿下もご無事だったことですから、もうその辺で……」

 

「甘いぞ真耶っ!貴様は学生時代から何も変わってない!処断されるべきものを庇うなどと!」

 

 

真耶とジブリルは学生時代の同期であり、互いにしのぎを削っていた過去があるのだ。

そのためかジブリルは真耶に対しては余計に怒りを込めているのだ。

 

 

「やめぬか」

 

 

ゲストルームの扉が開いて、アイリスが出てきた。

IS学園に帰還した後、検査を受けて問題ない事を確認した彼女は休んでいたのだ。

おそらくあまりの五月蝿さに出てきたのだろう。

 

 

「一夏、おぬしは無事じゃな?」

 

「えっ、はい、王女殿下」

 

「それはよかった」

 

 

一夏の返事を聞いて微笑むアイリス。

一呼吸置いて続ける。

 

 

「織斑一夏を我がルクーゼンブルク公国に招く。わらわの世話係として一生を共にするのじゃ!」

 

 

そして爆弾が投下された。

彼女はつまり、一夏と結婚するといっているのだ。

 

 

「は?」

 

「はぁ?」

 

「……マジかよ」

 

「アッ、アクティブ……」

 

「攻めますね」

 

「「「「はぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」

 

 

その場にいた、一夏、ジブリル、真、簪、セシリア、箒達ヒロインズがそれぞれ声を上げる。

 

それを一切合財無視して、王女は威厳ある態度で続ける。

 

 

「異議あるものは名乗り出よっ!さもなくば永久に口を閉じるがよいっ」

 

「あるに決まってんでしょうがっ!」

 

 

鈴が突っかかった。

 

 

「ほう、貴様、名は何と言う?」

 

「鳳鈴音よ。覚えておきなさいっ」

 

「ふむ、ならば鳳鈴音よ、このわらわと対決するか?無論、女同士の真剣勝負……ISでの対決じゃ」

 

「おーおー、上等じゃないっ!やってやるわよっ!」

 

 

火花を散らす2人。

そこに割り込むのはジブリルであった。

 

 

「いけません、王女っ。このようなものなど争うなどと、王族のすることではありません!」

 

「格の違いを思い知らせる、いい機会じゃ」

 

「そのようなことをっ!ならば私が代わりに戦いますっ!」

 

「何を言うっ!王たる者、先陣を切って敵を蹴散らさねばそれこそ、戦場の恥ぞっ!」

 

 

もめる2人をたっぷりと挑発視線で見ながら鈴が言う。

 

 

「なんなら2人がかりでもいいのよ?あたしとしては」

 

 

その言葉にかちんと反応した王女と騎士。

そこまで挑発されて無視できるほどこの2人は優しい性格をしていない。

 

 

「ふっ、わらわの言葉を先に言われるとのぉ。わらわのISは【第4世代機】、貴様達の方が2人でかかってきてもよいのだぞ?」

 

 

その言葉に驚愕が奔る。

なぜなら今の世界には第4世代機は1つしか存在していない。

箒の【紅椿】のみのはずなのだ。

 

その言葉を聞いた真は内心でルクーゼンブルク公国に対する警戒度を引き上げた。

それは鈴も同じで先程の挑発するような態度は消え、クレバーな態度で言葉を発した。

 

 

「……なら箒、付き合いなさい」

 

「えっ?」

 

「私と組みなさい、幼馴染同盟ってやつよ。呉越同舟ってやつよ」

 

「……分かった。組もう」

 

 

鈴の言葉の意図を理解した箒が頷く。

相手が第4世代機ならば同じ第4世代機と組めば勝率は上がる。

 

一夏を取られる訳には行かない。

そのためならば2対1でもなんでもすると、2人は手を組んだのだ。

 

 

「ほう、わらわは構わぬが……そうなるとジブリル、お主の相手がおらんな」

 

「……ならば、飛鳥真、私と戦え」

 

「はぁ?」

 

 

いきなり矛先がこちらに飛んできたため、真は思わず困惑の声を出してしまった。

 

 

「昨日の王女殿下への無礼忘れたとは言わさんぞ。私が貴様を処断してくれる」

 

「……こっちの都合また全部無視ですか」

 

「罪は処断するのが常だ。それとも逃げるのか?」

 

「……別に逃げるなんていってないですよ。やるってんなら相手になる。それに罪ならそっちも数えてろ」

 

 

静かな怒気が真から発せられる。

 

 

(この怒気……以前は気圧されたが今ならば耐えれる。私よりも年下の男のはずなのに何なのだ!?王女に危険が及ぶかもしれん、ここでコイツを見極める)

 

「話は纏まったようじゃの、それでは決戦は1週間後の日曜、第二、第三アリーナで開始する!」

 

 

王女の一声でこの場は解散となった。

 

 

 

「……真、怒ってる?」

 

 

解散となった後、学生寮の真の部屋で簪はベッドの上で寝転がっている真にたずねた。

 

 

「あー、まぁ、怒ってるってのはあるかもな、こっちの都合考えてないところはアスハ……あー、優菜さんと同じお偉いさんだった奴と同じだしな」

 

 

起き上がって真が答える。

優菜と利香曰く、自分が死んだ後にアスハは変わってオーブも纏まったとの事だが正直信じられないのが真の感想だ。

利香が言うのだから真実なのだろうが、どうしてもあのミネルバでのやり取りを思い出してしまうからだ。

 

 

「ちょっと雰囲気悪いのは分かるけどね」

 

「まぁ、この1週間でインパルスマークⅡを仕上げないとな」

 

「うん、協力するよ」

 

「ありがとう、簪」

 

 

簪の言葉に笑顔で真は返した。

 

――――――――――――

3日後 放課後 学生寮 中庭

 

 

「ん、箒?」

 

 

中庭からアリーナへ向かおうとした真が、学生寮に向かってくる箒に声をかける。

どこか呆けていたようにも見える箒が顔を上げるて真に返す。

 

 

「あぁ、真か。調整か?」

 

「あぁ。マークⅡもようやく纏まってきたからさ」

 

「……そうか」

 

 

どこか弱々しく、彼女が返す。

様子がおかしいことに気づいた真が彼女に尋ねた。

 

 

「どうかしたのか?」

 

「えっ、いや、なんでも……ない。今日の夕食を何にしようかなと考えていただけだ」

 

「昔から嘘つくの下手だよな、箒。すぐ目線逸らすしどもるし」

 

「……すまない、真。少し相談に乗ってくれるか?」

 

「あぁ。ここじゃ何だし、向こうのベンチでどうだ?人もいないし」

 

 

真が生徒がいないベンチを指さす。

それに頷いて答えた箒と共に移動して、腰を下ろした。

 

 

「んで、相談って?」

 

「私は弱いなと、改めて認識してしまってな……すまない、これは相談というよりは愚痴だな」

 

「別にいいさ。それで弱いって?」

 

「……私は姉さんの妹だが、ISについての知識は鈴やシャルロットには敵わない。操作技術も機体性能を抜きにしたら遠く及ばない。紅椿だから戦えているんだ、訓練機で性能を平等にしたら勝てないとな」

 

 

紅椿を受け取った当初よりも彼女の操作技術は別人レベルに上がっている。

だが、成長を続けているのは何も彼女だけではなかった。

鈴やシャルロット、ラウラも同じように成長しているのだ。

 

アイリス王女との決闘に向けて、鈴とコンビを組んで訓練を行っている際にそれに気づいたのだ。

 

 

「エクスカリバー事件やクルーゼ事件でのセシリアや鈴達、そして真、カナード、一夏の活躍を見てからずっと思っていたんだ。私は本当に一夏の傍にいてもいいのか、その資格があるのかと」

 

「……」

 

 

真は黙って彼女の言葉の続きを催促している。

一息入れて箒は続ける。

 

 

「一夏の足手まといになっているんじゃないかと思ったらどんどん不安になって……こんな私では決闘にも勝てないんじゃないかと不安になるんだ」

 

「てい」

 

 

彼女がそこまでつづけた瞬間、真は軽く箒の頭に手刀を落とす。

 

 

「あたっ!?」

 

 

額に落とされた真の手刀を受けて箒が声を上げる。

大して力も入れてないのに大げさである。

 

 

「何をするんだ、真っ!」

 

「難しく考えすぎなんだよ、箒は」

 

「だが、事実だろうっ!?私は弱いんだ……っ!」

 

「かもしれないな。けどさ、そんなことが一夏の隣にいるのに必要なことなのか?」

 

「え?」

 

 

真からの言葉に箒は目を丸くする。

 

 

「強くなることは確かに大事かもしれない。アイツも笑顔を守るために戦うって決めてから、訓練頑張ってるしさ。でも強さとか関係なく、箒は一夏の事が好きだから一緒にいたいんだろ?」

 

「うっ、それは……そうだ」

 

 

好きだからという事を改めて認識したのか、箒は少し恥ずかしそうに答えた。

それに真はほほ笑む。

 

 

「だろ?アイリス王女の無茶苦茶な言い分で一夏がルクーゼンブルクに取られてもいいのか?」

 

「……それは絶対に嫌だ」

 

「それでいいんだよ。それに誰かの傍にいる為の資格なんてのは必要ないと思うんだ」

 

「えっ?」

 

 

遠い目になった真を箒は見上げる。

 

 

「誰かを好きになる。誰かの傍にいたい。当たり前の事なんだって俺はこの世界で学んだ。それに資格なんているわけないんだよ」

 

「……真」

 

 

箒にそう告げた真は、はっと気づいたように苦笑いを浮かべた。

 

 

「……あー、説教臭くなっちまったな、ごめん。でも俺の言いたいことは、感情に従うことは間違いじゃないって事さ。ま、もちろんいきなり戦闘に飛び込んで応援なんてするのは自制しなきゃだけどさ」

 

 

ふと、去年の事を思い出した真がニヤッと笑いながら箒に尋ねる。

かつての向こう見ずな行動を突かれて箒は少し狼狽えながら答えた。

 

 

「うぐっ、分かっている。今思いかえすと本当に周りが見えてなかったんだなと思う」

 

「なら大丈夫。本当は全員平等に応援するのが筋なんだろうけど、俺はさ、箒の事一番応援してるんだよ。アイツが一番楽しそうに笑ってるのは箒の隣にいるときなんじゃないかなって思ってるから」

 

「……ありがとう、真。少し元気が出た」

 

 

はにかみながらそう箒は真に言った。

 

 

「ならよかった。んじゃ、俺はそろそろアリーナに向かうから」

 

「あぁ。今度何か奢ろう」

 

「いいって。そんな金があるなら一夏をデートに誘うんだよ、今度の決闘でアイリス王女に勝ってからな。アタックアタック、見てるだけじゃ始まらないって」

 

 

シュッシュッとシャドーしながら箒をたきつける真。

 

 

「でっ、デート……そうだな、そうするよ、真」

 

 

少し照れながら、箒はそう返した。

 

 

 

そして週末

 

第二アリーナ Aピット

 

本日の決闘について、第二アリーナで真対ジブリル。

第三アリーナで箒・鈴対アイリス王女の組み合わせとなっている。

 

そのAピットでは真と簪、そして本音の姿があった。

彼が乗るインパルスマークⅡはこの1週間で調整が完了し、真の反応速度にも充分追従できるようになっていた。

 

 

『よし』

 

 

最終チェックを済ませて、インパルスを纏う真。

その背部に接続されるシルエットは完全新規製作の【アサルトシルエット】だ。

外見的にはMSのフォースインパルスと同じく大推力のスラスター及び複数のバーニアを装備しており、以前よりも高出力化されている。

放熱板をかねた翼の数はさらに減り、4枚から2枚に減っているが、シルエット自体の性能が上がっているため問題はない。

そして腰部に増加装甲も展開されていた。

 

アサルトシルエットはフォースシルエットとソードシルエットを統合した装備である。

標準的なビームライフル、ビームサーベル、実体シールドを装備している。

シルエット装備時は腰部にワイヤー射出装置が追加され、小型化されたエクスカリバー【ガラティーン】二振りも腰部増加装甲に装備している。

 

新たな固有武装として両マニピュレータ部分に追加された対IS装甲用ヒートナックル【ベオウルフ】のせいかマニピュレータ部分が以前のインパルスよりも大きくなっている。

 

このシルエットを装備したインパルスの名は【アサルトインパルスガンダムマークⅡ】だ。

 

 

「頑張れ、あすあす!」

 

「真っ、頑張って!」

 

 

本音と簪がカタパルトによって射出される寸前の真へ激励を飛ばす。

大切な友人と愛しい女性からの声だ、力が湧かないはずがない。

 

2人の言葉にマニピュレータでサムズアップしたあと敬礼で返して笑みを浮かべた。

 

 

『飛鳥真、アサルトインパルスガンダムマークⅡ、行きますっ!』

 

 

強襲の名を背負った機体がカタパルトから射出され、その力を誇示するようにスラスターを吹き上げた。

 

 




次回予告

「PHASE3 輪廻する花冠」

「大丈夫、いいことになるはずです」


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