【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE4 赤月が昇る

日出工業とデュノア社のリィン=カーネイションの発表から2日後

 

IS学園 学生寮 真の部屋

 

 

「さて朝飯っと」

 

 

日課であるトレーニングを終え、シャワーを浴び終えた真は制服に着替えまだ少し湿っている髪の毛のまま自室から出る。

 

 

「あ、真。おはよう」

 

「おはよう、簪」

 

 

制服姿の簪が彼の部屋に向かっていたのか扉のすぐ横にいた。

 

 

「朝ごはん、食べに行こう?」

 

「あぁ。最近トレーニングの量増やしたから腹へってさ」

 

 

カナードとの格闘実演を経て、全盛期である傭兵時代の自分並の身体能力を得るために真はトレーニングの量を増やしていた。

具体的には走り込みのと格闘訓練の量を増やしている。

身長などはまだ追いついていないが順調に伸びており、そう遠くないうちに傭兵時代の自分(シン・アスカ)に追いつけるはずだ。

 

 

「最近沢山食べるのはその影響なんだ」

 

「あぁ。それでも大体いつもの一夏よりちょっと多いって所かな。それにしてもアイツどんだけ健啖家なんだよ。もしアイツが赤鳥傭兵団にいたらアビーブチ切れてただろうなぁ……」

 

「アビーさんって虚に似てる人だっけ」

 

「うん。雰囲気とかが凄く似てるって思ってる。傭兵団の懐事情が悪かったのはまぁ、俺のせいなんだけどな」

 

 

かつての自分が報酬を勝手に減らしたりして、団員であるアビーやヴィーノ達が怒り狂っていたのを思い出して苦笑する。

話を切り替えるために朝食のメニューを簪にたずねる。

 

 

「さて、今日は何を食べようかな。簪はどうする?」

 

「私は朝あまり入らないから少しでいいかな、パンとサラダで」

 

「パンか……俺はやっぱりご飯かな。定食色々あるしどうしようかな」

 

 

そんなこんなで食堂に到着した2人。

するとまず何やら騒がしくしている箇所に視線が移った。

そこでは一夏がどこから用意したのかギロチンにかけられ、今から刃が落されるという絶体絶命な状況であった。

 

それをまるでどこかの小動物のようにすっと目を細めて一瞥した後、真は簪の手を取って朝食を取りに行った。

簪もその行動に苦笑しながらも特に異議はなかった。

 

さて朝食を選んだ真と簪であったが、見慣れたメンバーがいるテーブルへと向かう。

 

 

「カナード、ラキーナ、セシリア、おはよう」

 

「おはよう、ラキーナ、カナード、セシリア」

 

「あぁ」

 

「おはよう、真に簪さん」

 

「おはようございます、真さん、簪さん」

 

 

真と簪がカナード、ラキーナ、セシリアの向かいの席に座る。

お盆の上には、真は焼き魚、味噌汁に漬物、そして大盛りのご飯の焼き魚定食。

セシリアは小さめのサンドイッチ、簪はフレンチトーストにサラダを選んでいた。

 

 

「珍しいな、カナードが食堂にいるって」

 

「昨日は織斑千冬から書類の処理を押し付けられてな、遅くなってしまったから寮監の部屋で寝たんだ……調べる事があると伝えておいたが無視されてな」

 

 

そう言って味噌汁を口に運ぶカナード。

彼が選んでいるのは目玉焼き、味噌汁、漬物、そしてご飯の目玉焼き定食だ。

日系人であるためか箸の使い方は日本人の真と遜色なかった。

 

 

「おぉーい!無視かぁ!?無視なのかぁっ!?しぃぃぃんっ!?カナァァドォォっ!?」

 

 

ギロチンにかけられている一夏の叫びが木霊する。

それにため息をつきながら真とカナードは視線を移す。

簪とセシリアもそれに釣られて苦笑しながら視線を移した。

 

箒、鈴、シャルロット、ラウラのいつもの4人に加えてその周りには赤髪の女子生徒や緑髪の女子生徒もいた。

全員が全員、表情は笑みを浮かべているが怒気が漏れていた。

 

 

「悪いな一夏、この前のバレンタインで今月のフォロー権は全部消費されたんだ。来月チャージされるまで生き残ってくれ。戦わなければ生き残れないんだ」

 

「フォロー権って何っ!?初めて聞いたよっ!?」

 

「今日も味噌汁がうまい」

 

 

ずずずっと味噌汁を飲んだ真はその叫びを無視する。

何とか動かせる首を動かして、一夏は視線をカナードに移す。

 

 

「カナードぉぉぉっ!見てないで助けてくれぇー!先生ー!」

 

「今は依頼の受付はしていない。それに俺は厳密には正式な教師ではないから、お前を助ける義理も義務もない」

 

 

漬物を口に運びながらカナードが一夏の言葉を一蹴した。

 

 

「ぐあぁぁぁ、理不尽だぁぁぁぁ!!」

 

「さて、覚悟はいいかしら、一夏ぁ?」

 

 

笑いながらも青筋が浮かんでいる鈴が、ギロチンの刃に触れて告げる。

 

 

「よろしくないぃぃっ!!」

 

 

ジタバタともがくが、どうにもならない。

 

 

「んで、結局のところ何があったんです?」

 

 

その様子を少し離れた場所で見ていたアイリスとジブリルに真は尋ねる。

模擬戦を終えた後、真達とアイリス及びジブリルの関係は改善されている。

 

 

「織斑一夏とアイリス王女……いや、アリスは一夜を共にしたとの事だ」

 

 

ジブリルがそう真に告げる。

余談だが、模擬戦のあと正式に編入されたアイリス王女は自分の事をアリスと呼べとジブリルに告げていた。

当初は戸惑ったジブリルだが、王女の意志は固くまだ慣れていないがアリスとして生きると告げた彼女の意思を尊重してアリス呼びを通していた。

 

 

「はぁ、一夜を共にしたって?」

 

「私が今朝部屋に出向いた時に、織斑一夏はアリスをその……同衾の形で抱きしめていたのだっ!」

 

 

異性交際がないジブリルは少し頬を赤くして説明を続ける。

 

 

「そしてアリスが言ったのだ、織斑千冬も認めている公認のその……カップルだとっ!」

 

 

それに真は大体の事を察した。

おそらく一夏は何もしていない。

 

何故アリスが一夏の部屋にいたのかは知らないが、優しい一夏の事だ。

アリスの悩みでも聞いてあげたのだろう。

それに彼女は明らかに一夏に好意を持っている。

その流れで同衾の形になったのだろう。

 

そして朝ジブリルに見つかって騒ぎが大きくなり、箒達の耳に入って今に至るのだろう。

長年朴念仁と友人として付き合っている真からしてみれば大体の流れは想像できた。

 

 

「真、どうするの?」

 

 

隣にいる簪が真にたずねる。

流石にそろそろ止めてあげないと気の毒だ。

 

 

「はぁ……ったくアイツはさぁ……」

 

 

ずずっと一気に味噌汁を飲み干した真は席から立ち上がって、箒達の下に向かう。

 

 

「おはよう、箒」

 

「おはよう、真。すまないが今はこの不届き者の首をどうやって落とすか考えているんだが?」

 

「落ち着けって。本当に一夏が何かしたと思ってる?」

 

 

真のその言葉にジッと彼を睨むように視線を移す箒。

それに苦笑しながら彼女に尋ねる。

 

 

「箒が同室だった時に、一夏が何かしたか?」

 

「……いや、そんな不埒な行いはしなかった」

 

「だろ?そりゃ、不慮の事故は仕方ないけど、それ以外はなかっただろ?」

 

 

コクンと箒が頷く。

 

 

「シャルロットも同室だったからわかるだろ。同衾したって言っても本当にただ寝ただけだろ、なぁ、一夏?」

 

「さっきからそう言ってるだろぉぉぉ!」

 

 

ポンポンとギロチンにかけられている一夏の背中を叩く。

ギィギィと軋む様な音を立てているが大丈夫だろうかと一瞬不安になった真だが、続ける。

 

 

「うっ、うん……そう言えば僕の時もそうだったよね。優しく話聞いてくれたし」

 

「ほらな」

 

「……そうだ、一夏がそんな不埒な真似をするはずがないっ!すまない、すぐに外すっ」

 

「うんっ、ごめん、僕達が間違ってたよっ!」

 

 

箒とシャルロットは一夏をギロチンの拘束から解き放つため、拘束具を外していく。

 

 

「……箒達あっさりと裏切ったわね。てか、真、アンタ手馴れすぎてない?」

 

 

そりゃなと肩をすくめて表現する。

幼い頃から何度も経験しているのだ、真もいい加減手馴れてしまっている。

 

 

「鈴も、本気で一夏がそんなことするわけないって思ってるだろ」

 

「そりゃ……そうだけど」

 

 

鈴はまだ納得はしていないようだ。

ならば切札だ。

 

 

「……今度、一夏にそれとなく遊びに行くよう言っておく。その日付は鈴だけに教えるからさ」

 

 

最後は鈴だけに聞こえる声量でそう告げるとツインテールをピコピコと動かしながら鈴が目を見開いた。

 

 

「っ!それ、絶対ねっ!」

 

「あぁ」

 

「くっ、鈴もか……多勢に無勢だな」

 

「ラウラも納得してくれって、頼むよ」

 

 

そう言って手を合わせる。

ラウラも仕方ないかと呟いて了承の意を示した。

その様子を見て他の生徒達も納得したかのように離れて行く。

 

 

「なんか凄く手馴れてるね」

 

 

その様子を少し離れたテーブルで見ていたラキーナが呟く。

テーブルには真が箒達を宥めている間に、楯無、本音、フレイが合流していた。

 

 

「真、助かったよ」

 

「ったく……朝から疲れるんだよ」

 

 

ギロチンから解放された一夏が真に言う。

苦笑しながら頭をかく真。

 

いつもの日常だと真が思った瞬間、食堂の窓から攻撃態勢の【IS】が見えた。

それに気づいたのは真とカナードの2人だけであった。

 

 

「「伏せろっ!」」

 

 

カナードがテーブルを蹴り上げ、簡易的なバリケードにする。

同時に真は一夏を突き飛ばして、バリケードに隠す。

突き飛ばされた一夏たちのそばにいた箒たちも共に倒れこんだりしつつも机の陰に隠れていた。

一夏を突き飛ばしつつ、簪を抱え込んで真もバリケードに隠れている。

 

瞬間、食堂にレーザーが降り注いだ。

レーザーが食堂の施設を焼き、女生徒達が逃げ惑い辺りは一気に混乱に包まれた。

幸い、そのレーザーによって死傷者は出ていないように見える。

 

 

「白昼堂々と襲撃かよ、簪、大丈夫か?」

 

「うっ、うん」

 

 

腕の中で抱きしめている彼女に確認を取り、内心ほっと胸を撫で下ろす。

するとISを緊急展開しながらカナードの叫ぶ声が聞こえる。

 

 

『ちっ、レーザー搭載か。真っ、他の連中もISを展開しろっ!』

 

 

真達がそれぞれISを展開する。

 

 

『外に見えた機体に覚えはあるか、カナード?』

 

『いや、見たことはない』

 

 

シルエット無しのインパルスとドレッドノートHを纏った真とカナードが状況を確認する。

すると、真っ赤な機体が群れをなして食堂に流れ込んできた。

その数は優に10機を超えている。

 

 

(無人機かっ!?)

 

 

見たことの無い赤い機体、本来搭乗者がいるべきところにはまるでマネキンの様な機械人形が鎮座している。

即座に【フォールディングレイザー対装甲ナイフ】を2本展開し、構える。

室内でそこまで広くない食堂ではビームライフルなどの射撃武装は施設や避難している生徒達に被害が出る可能性がある。

 

1機がインパルスに向かって突撃してくる。

 

 

『インストレーションウェポンコール、【ワイヤーユニット】っ!』

 

 

ウェポンコールシステムが起動して、素体のインパルス腰部にアサルトシルエットに装備されているワイヤー射出装置が展開された。

即座にワイヤーウィンチが射出され、迫る無人機のマニピュレータに絡まり、動きが鈍る。

 

 

『はぁぁぁぁっ!』

 

 

動きが鈍った無人機へインパルスのフォールディングレイザーが迫り、マニピュレータを切り裂く。

機体はどうやらPS装甲ではない様であり、実体武装であるフォールディングレイザーも有効であるようだ。

それぞれが自機に迫る無人機と相対している。

 

 

『目標確認、捕獲開始』

 

 

機械音声が冷やかに告げ、数機がかりで向かうのは箒であった。

 

 

「くっ、何故だ、紅椿が展開できないっ!?」

 

 

ISを展開しようとしても、【紅椿】はまるで自分を拒否しているかのように反応しない。

そして無人機が箒へマニピュレータを向けると、放たれる謎のエネルギーによって彼女は拘束されてしまう。

 

 

「くっ、離せっ!?このっ!?」

 

『箒っ!』

 

 

白式・雪羅がマニピュレータを拘束され連れ去られていく箒に伸ばす。

だが――届かない。

 

箒を拘束した無人機達は目的を達成したかのように、真達との戦闘を止めて、食堂から出て行く。

 

 

『逃がすかっ!!』

 

『追うぞ、一夏っ!!』

 

『ああっ!!』

 

 

インパルスがアサルトシルエットを展開し、白式・雪羅と共に即座に後を追う。

そして食堂の窓から出た瞬間、2機に向かって数機の無人機が突撃して来た。

 

インパルスは小型エクスカリバー【ガラティーン】を、白式は【雪片】を構えて相対する。

 

 

『駄目っ!真っ、織斑君っ!逃げてっ!』

 

 

敵機を分析していた飛燕の簪からの叫びが聞こえる。

咄嗟にシールドを構えて一夏を庇う。

 

 

瞬間、突撃してきた数機の無人機、その全てが【自爆】した。

 

 

『真っ!』

 

 

爆炎が晴れる。

すると中から【翡翠色の光の膜】が現れた。

 

インパルスと白式を包み込んでいるISがいたのだ。

 

 

『自爆か……真、織斑一夏、無事か?』

 

『あぁ、助かったよ、カナード』

 

 

先の一瞬、真と一夏に数瞬遅れながらもドレッドノートHも飛び出していたのだ。

そして自爆の瞬間に割り込み、【AL】を最大展開して2機を守ったのだ。

 

 

だが、すでに敵機の反応はロストしていた。

つまりは箒は攫われてしまったということだ。

 

 

『箒ぃぃぃぃぃっ!!』

 

『……一夏』

 

 

一夏の叫びが虚しく響き、それにどのように声をかけていいか、真には分からなかった。

 

 

――――――――――

 

「……ここはどこだ?」

 

 

頬を撫でる優しい風と身を打つ波の感覚に箒の意識は覚醒した。

起き上がって辺りを見回す。

 

どこまでも続く果てしない水平線と真っ白な砂浜。

そして明け方にも見える空。

 

無人島か、と滑稽な考えが浮かんだがそれをすぐに否定できるだけの知識はあった。

 

 

「これはまさか……真が言っていたISの空間か?」

 

 

真のデスティニーガンダムの場合はどこまでも続く綺麗な【花畑】だと聞いている。

歩きながらそう考えていると気配を感じて立ち止まる。

いつのまにか、背後に人の気配があった。

 

 

「誰だっ!」

 

 

振り返るとそこには驚愕の人物がいた。

 

 

「お前は……私……っ!?」

 

 

幼い姿をしているが、紛れもなく自分(篠ノ之箒)

心の闇の中にいた力の象徴たる自分。

 

赤い双眸を携えた少女が箒に口を開く。

 

 

「私が代わってあげる」

 

 

狂喜に満ちた笑みを浮かべた自分が近づいてくる。

 

 

「私が代わってあげる、力のないアナタに」

 

 

咄嗟に後退りするが、足が動かない。

足元を見ると泥の様な何かに、ずぶずぶと沈んでいっている。

 

その泥は逃げようとする行動のみならず、箒の心を縛り付ける。

 

 

「もう眠りなさい。後は私が代わってあげるから。あなたの欲しいものすべて、手に入れてあげる」

 

 

それは誘惑、堕落への誘いの言葉。

とても心地のよい言葉であり、箒の心には安らぎが満ちていた。

 

 

「堕落とは心地のいいものよ」

 

(……私は、私は……)

 

 

意識が落ちかける。

その時、ふと思い浮かんだ記憶。

 

 

『箒は一夏の事が好きだから一緒にいたいんだろ?』

 

 

友人からの言葉。

その言葉が堕落して行く心を繋ぎとめた。

 

 

「私はっ!私はお前などに代わられるつもりはないっ!私の欲しいものは私が、自分の手で掴んでみせるっ!」

 

 

無理矢理泥の中から這い上がろうとする箒。

すでにその豊満な胸まで沈み込んでいたが腰辺りまで這い上がる。

 

 

「っ、まさか抵抗するなんて……っ!」

 

 

放棄の抵抗に、もう1人の箒は明らかに狼狽していた。

だがすぐに表情を笑みに戻した。

 

 

「……驚いたけど、無駄」

 

 

クイッと彼女が手を動かすと、泥が盛り上がって箒を包み込んだ。

 

 

「うっ、うぐ……っ!?」

 

 

そして箒を包み込んだ泥はそのまま、元の地面へと戻っていく。

 

 

「……あなたはもう眠っていればいいの」

 

 

箒を取り込んだもう1人の箒はそう呟く。

すると彼女の周りに、真紅のISが展開され装着されていく。

 

 

『後はこの私【赤月(あかつき)】が、イレギュラー(・・・・・・)も何もかも全てを片付けてあげるから』

 

 

明け方の夜空であった空間には、いつの間にか真紅の月が浮かんでいた。

それはまるで今の箒の双眸の様であった。

 

 





次回予告

「PHASE5 別 さようなら 離」

『マスター、アナタとお話が出来て……幸せでした』


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