【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE4 乙女達の戦い

メンデル周囲の宙域で戦闘が始まってから数分――

コロニーの障壁内部に侵入した真と簪は、コロニーの内部、障壁区画にいた。

 

 

『次は……右だな』

 

『うん』

 

 

真のデスティニーが先導し、簪の飛燕がPICの稼働で浮遊して追従している。

現在彼らがいる障壁通路内はISでも飛行するだけならば十分可能であった。

元々が無重力下のコロニーで作業員が使用する場所であるため、ある程度の広さも必要になるし、この通路には空気も存在していた。

 

 

『つき当たりを左で、その先のハッチを抜ければ居住区内に入れる』

 

 

真の指示の通り、通路を左に曲がると10m程の巨大なハッチが姿を現した。

恐らく機材などの運搬用ハッチであろう。

ハッチ操作用コンソールがすぐそばにあることを確認したデスティニーが、腕部だけISを解除してコンソールの操作を開始する。

 

10秒程度してハッチが轟音と共に開かれ、通路内にコロニー内の空気が流れ込んできた。

同時に居住区画の光景も目に入る。

 

外部から取り込んだ太陽光に照らされて、僅かばかりに立てられた居住スペースである施設が照らされている。

そしてそこから延びた舗装された道路は中央に聳え立つ研究区画に続いており、そんな居住スペースが頭上にも存在していた。

コロニー自体が回転して重力を発生させているからだ。

 

しかし、コロニー計画で建造を予定されているヘリオポリスの完成予想図を見たことのある簪には、その光景は酷く無機質の様に見えた。

ヘリオポリスの完成予想図では地上と変わらず、緑も溢れ温かな光で満たされていたが、ここは人が住んでいる気配すらないのだ。

そう、例えるのならば無機質な工場、彼女はそう感じていた。

 

実際にコロニーで生活したことのある真もそれは同じだった。

居住スペースから延びた道路はまるで研究区画へ素材を送るベルトコンベヤー。

そんな風にも見えてしまったのだ。

 

 

『反応はあの中央から?』

 

『あぁ。あそこは研究区画らしい、何をしていたのかはあんまり想像したくはないけどな』

 

 

簪の問いに頷いた真の脳裏には、シーゲルと最初の邂逅を果たしたギガフロートの内部の惨状が浮かんだ。

それを振り切るかのように頭を振り、自分と同じ事を思っていたのか簪と小さく頷きあう。

 

その瞬間だった。

デスティニーと飛燕のハイパーセンサーが人工の空に現れた反応を検知した。

 

 

『っ、ラクスかっ!』

 

 

2人の上空に現れたのは、白いドレスを身に纏った様に優美な姿のラクス・クライン。

当然、彼女が身に着けている白いドレスの様に見えるモノは、ISだ。

 

オリジナルではなく、カーボンヒューマンではあるが真や簪にはその違いを認識できない程に酷似している。

コロニー外で戦闘を行っているバイザーを付けたタイプのラクスとは異なり、彼女はバイザーを付けていない。

そして機体も、他のラクス達とは違う。

 

優雅な白のドレスの様にも見えるIS【ホワイトネス・エンプレス】

真と簪の記憶の中にあるISそのままだ。

 

【紫の光の翼】、VLユニットが展開され、宙に舞うコロイド粒子がまるで抜け落ち、宙に舞う羽根のように見えた。

完全な臨戦態勢。

 

デスティニーと飛燕のVLユニットからも光の翼が溢れる。

今までラクスとの戦闘経験からすでに2人の中ではこうする事が対策の1つとなっていた。

 

 

『先に……この先のシーゲルの下に、行かせない気か』

 

『違いますわ、シン。アナタをここで確保するために、私が来たのです。招待状は受け取っていただけたでしょう?』

 

 

真の言葉を笑みを浮かべて訂正するラクス。

そして、招待状と言う彼女の言葉。

先に、デスティニーに送られてきた詳細なデータの事を指していることに気づく。

 

 

『……とんだパーティへの招待状だな』

 

 

呆れたようにビームライフルを展開し、ラクスに向ける。

 

 

『やはり素直には来てくれませんか。お父様の言ったとおりですわね』

 

 

小さくため息をついたラクスはそういうと何かに気づいたように、真の隣に目線を動かした。

 

 

『おや、あなたは?』

 

 

まるで初めから視界に入っていなかったかの様な口調。

それに答えるように、簪の飛燕は、真と同じくビームライフルを展開する。

 

 

『……こうして生身でアナタと話すのは初めて。私は更識簪』

 

 

自分の名を、ラクス相手に気圧せずに告げる。

簪の言葉を聞いた彼女は理解できないように首をかしげる。

 

 

『取るに足らない存在のアナタの名など私が覚える必要がありますか?』

 

『別に、必要ない。アナタにはここで止まってもらうから……これは私の意思表明なだけ』

 

 

そう言って彼女が続ける。

 

 

『真をただの実験材料なんかに考えてるあなた達に覚えてもらう必要なんか、ないから』

 

 

眼鏡型のデバイス越しにラクスを見据える簪の視線は強い。

その目には迷いなど、欠片も感じない。

 

 

『……言ってくれますね』

 

 

彼女の目を真っ直ぐと見据え、不快感に眉を歪ませるラクス。

 

 

(……ありがとう、簪)

 

 

簪の言葉に内心、感謝の言葉を告げた真は気持ちを切り替える。

すでに一触即発の状況。

 

ならば数が多いこちらから攻める。

ラクスに向けていたビームライフルのトリガーを迷わず引く。

真のビームライフルの一射から3機は弾かれた様に戦闘機動に移る。

 

 

『行くぞ、簪っ、まずはコイツを落とすっ!』

 

『うんっ!』

 

 

デスティニーと飛燕がそれぞれの翼を広げ、紫の翼を広げて後退するラクスに向かう。

 

 

『……いいでしょう。ここで真を捕らえ、目障りな小娘を排除する。このアウレフには、それができるのですっ!』

 

 

アウレフと、自分の誇りを叫ぶラクスの口角はつりあがっていた。

 

 

同じ頃、メンデルから少し離れた宙域では、宇宙を翔る流星が煌いていた。

 

 

『ラキッ、無人機よっ、数は8っ、10っ、あぁ、もうどんどん増えるっ、とにかく沢山よっ!!』

 

 

戦場を翔けるミーティア装備のIS、ストライクフリーダムへ少しだけイラついた少女の通信が届く。

 

 

『分かってるっ!』

 

 

矢継ぎ早にそう返したラキーナは、ミーティアの大型スラスターを操作して、その進行方向を変える。

彼女からの通信の通り、ハイパーセンサーがとらえた無数の機体。

どれもここまでの戦闘で倒してきた初期GATモデルの無人機だ。

 

球状のコンソール画面が展開され、そこに迫る無人機を捕らえる。

彼女の視線に連動し、凄まじい速度でロックオンが完了した。

 

 

『いっけぇぇぇっ!!』

 

 

ミーティア側面の高エネルギー収束火線砲、背部コンテナの【エリナケウス ミサイル発射管】、ウェポンアームの【高エネルギー収束火線砲】から発射された超高出力ビーム、そしてフリーダムストライカーのバラエーナ、圧倒的な量の弾幕が無人機に殺到した。

 

当然、回避行動に移行していたがそれを予期していないラキーナではない。

1発をあえて回避させたうえで、次弾を本命とするように射撃していたのだ。

もしそれを避けたとしてもさらに逃げ場のない様に、まるで詰め将棋の様な射撃だ。

 

これが有人機ならば2射目、続く3射目も回避、ないしは防御を可能とする人間はいるだろう。

だが無人機は結果が異なり、面白いように撃墜されていく。

もちろんこの結果はラキーナの射撃能力があるからこそなのだが。

 

 

『っ!』

 

 

瞬間、ストライクフリーダムのハイパーセンサーが下方から迫る反応を捉えた。

高速巡航形態に変形した無人機イージスだ。

まるで華にも見えるその触腕部分が開き、既にスキュラの発射体勢を整えていた。

 

ほんの少しの油断を感じてしまった為か、回避が遅れた。

直撃コースではないのは理解していた。

少しばかりのシールドエネルギーを持っていかれるだろうが実戦仕様状態かつミーティア装備の今ならば微々たるものだ。

 

だがそんな心配も杞憂に終わった。

 

高速巡航形態のイージスのさらに後方にそれはいた。

そこに機体全長はあるだろうか、背部コネクタに接続され、肩部を通した大型の2門の砲塔を構えたISがいた。

前面のイージスをその2門の砲塔ですでに捉えていた。

 

 

『もらいーっ!』

 

 

そんな咆哮と共に、肩部のドッペルホルン連装無反動砲から放たれた大型の質量弾はイージスの側面に命中。

直撃した質量弾があまりの高威力だった為か、PS装甲とはいえその衝撃全てを受け止めるのは不可能だったのか。

装甲がない関節部分は無残に砕け、PS装甲部分も砕けて舞っている。

 

そして彼女の、フレイの駆る【ラファール・リヴァイヴ・ドッペルホルン】は背部のドッペルホルン連装無反動砲をパージして格納。

すぐさまノワールストライカーに装備を変えて、実体剣である【ダン・オブ・サーズデイ】で体勢を崩し、PS装甲を破損したイージスに切りかかる。

 

 

『チェストォー!』

 

 

薩摩示現流特有のかけ声と共に上段から振り下ろされた一撃は、装甲が不十分であったイージスを真っ二つに叩き割った。

そして撃破したことを確認したフレイはすぐさま離脱し、ラキーナのストライクフリーダムの元へと翔け上がってきた。

 

 

『ありがとう、フレイ』

 

 

開口一番、自分の撃ち漏らしを撃墜してくれたフレイへと礼をする。

 

 

『気にしない、気にしない。それに、感謝するならドッペルホルンをくれたジェーンにいいなさいな』

 

 

フレイの言葉通り、彼女のIS【ラファール・リヴァイヴ・ノワール】に新装備である【ドッペルホルン連装無反動砲】を贈ったのはジェーンであった。

もっともこの装備は、所属している日出工業には内密に、ポケットマネーでインパルスマークⅡ用に作成していたものだ。

だが装備した場合機動力をブラストシルエット以上に低下させ、重量バランスも大きく変わってしまうといった諸問題があるため泣く泣くお蔵入りにしていたものを引っ張り出してきた、という裏の事情もあるのだがそれをフレイが知る事はなかった。

 

 

『無人機、大分減ったんじゃない?』

 

『うん。少し離れた場所でアスランも戦ってるし、兄さんや皆さんもいるから……心配はいらないよ』

 

 

戦闘宙域が離れており、まだ状況は動き続けている。

だがプライベートチャンネルを繋げる必要はない。

仲間を信頼してその場所を任せているからだ。

 

 

(いい顔するようになったじゃない。キラのときにこんな顔、してなかったわね)

 

 

うっすらと笑みを浮かべてストライクフリーダムのコンソールを操るラキーナの横顔を見たフレイはまずそう思った。

かつてキラ・ヤマトだったときは基本的に彼の顔は曇っていた。

だが今はここまで清涼な表情ができるのかと、不思議と見惚れていた。

 

はっと意識を切り替えて頭を振るう。

それと同時であった。

 

ストライクフリーダムとラファールのハイパーセンサーが高エネルギー反応を検知した。

 

 

『っ!』

 

 

ラファールは瞬時加速で離れ、ストライクフリーダムはミーティアの爆発的推進力で散開する。

数瞬前まで2機がいた場所を、ビームの奔流が薙いだ。

 

1発だけの高出力ビームではなく、連続で放たれた激流。

そう表現していいほどの密度であった。

 

 

『ちぃっ!』

 

 

一発だけ、ミーティアの基部に掠ってしまった。

すぐさまミーティアをパージして離脱するストライクフリーダム。

切り離したミーティアは続いて降り注いだビームに飲まれて破壊されていく。

 

 

『きたのねっ!』

 

 

フレイがAMBACで体勢を立て直して、攻撃の源に視線を移す。

そこには純白の機体がいた。

 

 

『ラクス……っ!』

 

 

バイザーを着けていないタイプのカーボンヒューマン:ラクス・クライン。

装着したホワイトネス・エンプレスにはVLユニットとは異なる、機械の翼が展開されていた。

 

既視感を覚えたラキーナとフレイ。

いや、既視感どころではない。あの装備は2人がよく知っているものであった。

現に、今のストライクが装備している武装に酷似している。

 

 

『フリーダム……!?』

 

『その通り。このホワイトネス・エンプレスにはフリーダムの力を宿しています。この力でラキーナ、貴女を、S.E.E.D.を宿す貴女を手に入れるために、参りましたわ』

 

 

ラクスがそう告げると同時に、肩部のバラエーナビーム砲塔が起動して砲口をこちら側に向ける。

ビームが発射されるが、射線を読んでいたラキーナとフレイはその射撃を躱す。

 

 

『くっ、フリーダムが相手なんて……大丈夫?』

 

 

スラスターでの姿勢制御を行いながら、繋がったプライベートチャンネルでフレイがラキーナに問う。

だが、彼女の顔を見てその心配は杞憂に終わった。

 

 

『今の私にそんな機体でかかってきても無駄だよ、ラクス』

 

 

真っ直ぐと、ラクスを見つめる瞳に迷いはない。

自信が無く自分と話すときさえどもっていたキラ・ヤマトとはまるで違う。

 

 

『大丈夫だから心配しないで、フレイ』

 

 

展開したビームライフルを構えたラキーナの意識の中で、紫の種子が弾け飛ぶ。

同時に広がり鋭敏になる感覚。

 

 

『私は、シーゲル・クラインの馬鹿げた計画を止める為にここにいる』

 

 

ハイパーセンサーで見える後方にいる赤毛の少女。

彼女もアサルトライフルを構えてくれていた。

 

 

(それに今の私には守るべき人もいる。もう迷わないっ)

 

 

ラクスが何か告げようとして口を開いたが、それに答えるようにビームライフルのトリガーを引いた。

 

―――――――――――

 

 

『でぇえぇぇいっ!』

 

 

迫る無人機デュエルを咆哮と共に、一夏の白式・王理は雪片で真っ二つに切り裂いた。

推進剤と余剰エネルギーによって爆発が発生する前に白式はスラスターで離脱する。

デュエルがこちら側に向かってきたとはいえ、一夏の技量もかつてとは比べ物にならないほど上昇している証拠であった。

 

先ほどまで戦っていたバイザーを着けたラクスは一旦後方に下がり無人機達を指揮していた。

 

 

『成程、お兄様も中々やるのですね』

 

 

そう言ってラクスは口元に笑みを浮かべた。

 

 

『でしたら、これならばどうです?』

 

 

優雅に振るった手の軌跡で、空間投影ディスプレイが投影されて操作する。

すると状況が動いた。

 

 

『きゃぁっ!?』

 

『箒っ!?』

 

 

専用に調整された収束ビーム砲【桜花】で一夏の援護をしていた箒の駆る紅藤に、何かが組み付いたのだ。

機体周囲の空間が歪みその正体が現れる。

黒のPS装甲を身に纏った初期GAT無人機の1機種――

 

 

『くっ、こいつらはブリッツとかいう……っ!!』

 

 

そう、ミラージュコロイドで姿を消していた無人機ブリッツが2機、紅藤に取り付いたのだ。

そして右マニピュレータに装備されている攻盾システム【トリケロス】のビームサーベルが起動し、貫手の形で紅藤に攻撃を仕掛けてくる。

 

 

『くっ、くそっ!』

 

『箒、今助け……ぐぅっ!?』

 

 

もがき抜け出そうとする箒を助けるために動こうとした一夏に実弾の雨が降り注ぐ。

発射したのは上方に展開した無人機バスターのガンランチャーから発射された電磁レールガン、しかも散弾である。

 

数発直撃を受けて、白式はシールドエネルギーを減少させ、体勢を崩した。

つまりその分、箒の救出が遅れる。

 

 

『こっ、このやろぉっ!!』

 

 

一夏の怒声が漏れるが、状況は動いている。

ビームサーベルが紅藤に迫る。

 

その光景を、拘束された箒は絶体絶命の状況からか加速した意識の中でスローモーションの様に見ていた。

 

 

(やっ、やられるっ!?)

 

 

思わず目を瞑ってしまった箒。

その瞬間、彼女の身体の中で【何か】が脈動した。

 

 

『どいて、私がやるっ』

 

(な……っ!?)

 

 

頭の中で、自分の声が意識とは別に響く。

両目をカッと見開いた箒、彼女の双眸はまるで血の様に【紅い】。

 

 

『この程度でぇっ!』

 

 

その咆哮と共に、武装が展開される。

それは紅藤の脚部装甲に亀裂が入り、切り離されそれぞれがまるで【剣】の様に分裂していく。

 

 

『【天羽々斬(あめのはばきり)】っ、邪魔だぁっ!』

 

 

展開された【天羽々斬(あめのはばきり)】、ソードドラグーンが下方からブリッツ2機に向かう。

PS装甲であるため、損傷を与えるまでの破壊力はこの天羽々斬には存在しない。

 

だが、それで充分。

ブリッツ側に出来た隙を見逃さずに瞬時加速で離れ、すぐさままた別のスラスターでの瞬時加速でブリッツ2機に向かい直す。

 

二重加速(ダブルイグニッション)】で得た加速そのままに、ビームサーベル【残光】でブリッツ2機を両断して離れる。

 

 

『一夏っ、大丈夫?』

 

 

紅い双眸の箒(・・・・・・)は、降り注ぐバスターのガンランチャーを回避しながら一夏に通信を送る。

 

 

『あっ、あぁ』

 

『良かった。全く、オリジナルは……私が出てこなければ、落ちてたかも知れないのに』

 

 

箒はそう言ってため息をついた。

今の箒の相貌はかつての赤月に操られていた時の様に紅い。

それに気づいた一夏は疑問の声を上げる。

 

 

『箒……なのか?』

 

『そうだよ一夏っ、私が篠ノ之箒だ……よぉっ!?』

 

 

一夏に名前を呼ばれ、笑顔を浮かべた紅い双眸の箒が一夏に飛びつくように機体を加速させると共に、彼女の右半身が麻痺したように痙攣して加速した機体の軌道が乱れて一夏の白式から離れていく。

 

 

『ふざけるなっ、お前は赤月だろうっ!』

 

 

痙攣した右半身の瞳の色が、紅から元の彼女の瞳の虹彩に戻っていた。

それと同時に、彼女の口から出る怒声が2つ。

まるで自分の中にいるもう1人の自分に対し怒っているかのような奇妙な絵面。

 

 

『えっ、赤月なのかっ!?』

 

 

一夏がかつて戦った相手の名前が出たことに驚愕する。

 

 

『何故お前がここにいるっ、それに篠ノ之箒は私だっ!』

 

『うるさいっ、私だって元々はアナタ!つまり私も箒でしょっ!?』

 

 

いつもの箒よりも若干幼く聞こえる後の方の怒声。

それに一夏はここが戦場であることを忘れて呆けていたが、飛来するガンランチャーの弾丸に意識を戻す事になる。

 

 

『ほっ、箒っ!』

 

『『何(だ)っ!』』

 

 

どうやって発声しているのか不明だが箒が返す。

余計混乱しそうになるがAMBACを行いつつ尋ねる。

 

 

『ごめん、赤月の方だっ!とにかく今は力を貸してくれるってことでいいんだよなっ!?』

 

『うんっ!』

 

 

笑みを浮かべた箒、否、赤月が頷くと右の紅い瞳が元の虹彩に戻る。

同時に箒の身体がいつもの様に自分の意志で動かせるようになった。

 

 

(っ、これは……っ!)

 

『一夏にあぁ言われたら仕方ないでしょ。それにこの身体をちゃんと使えるのはメインでオリジナルのアナタ。だから今回はサブに回ってあげる』

 

 

横に浮かぶ紅い双眸の自分の口から音は出ずに、頭の中に直接響く声。

どうやら一夏には聞こえてはいないようだ。

 

 

(ふざけるなっ、納得できるわけが……っ!)

 

 

抗議の声を上げる箒。

それは当然だろう、いきなり自分の中にかつて意識を乗っ取った赤月が現れて、一時的とはいえ勝手に身体を操られたのだから。

抗議を赤月に送るが、少しため息をついた赤月が返答する。

 

 

『なら、さっきみたいな状況がまた起こると思うんだけど?』

 

(う……っ!)

 

 

ぐうの音も出ない正論だ。

先ほど油断はしていなかったはずなのに、自分はブリッツに取りつかれてしまっていた。

技量はおそらくこの戦場にいる者の中でも下から数えたほうが早いと彼女も理解はしている。

 

 

『だけど今は私がいるし、サポートしてあげる。今は一夏を助けてこの戦いを終わらせる、つまり――』

 

 

そう言って微笑む赤月。

 

 

『私とアナタで一夏を守る。それでいいでしょ?』

 

(……分かった。ならば力を貸してくれ)

 

 

赤月の言葉に箒は頷く。

一夏を守るためならば、そう決意した箒の決断は早かった。

 

 

(そうだ。今は一夏を守ってこの戦いを終わらせるんだ、それが最善だ)

 

 

箒の意識が現実に戻ったのはそのすぐあとだった。

気持ちを切り替えて、ビームサーベル【残光】を握るマニピュレータに力を込める。

 

 

『箒?』

 

 

先の確認から一瞬だけ無反応になった箒に、一夏は声をかけていた。

意識が現実世界に戻るまでほんの一瞬だったのだろう。

 

 

『一夏、私達(・・)でお前の背中を守るから、だから奴はお前が倒せっ』

 

『……箒。あぁ、分かってる』

 

 

箒の言葉を聞いた一夏も己の得物を握る手に力を込める。

目指すは戦いの終わり、そのためには無人機を操る相対しているラクスを倒す。

 

そのために白き王は翼を広げ、飛び上がっていく。

 

―――――――――――

 

同じ頃――

 

戦闘宙域を蒼の影が飛び回る。

そして、その影から発射された光は次々に人型兵器を撃ちぬき爆発と閃光を生んでいた。

 

 

『ティアーズ!』

 

 

蒼の影――その正体はブルー・ティアーズのBT兵器であった。

セシリアの叫びと共に、彼女の意思を受けたティアーズ4基がまるで生きているかのように宇宙を翔ける。

4つの閃光が迸り、まず4体の無人機が機体中心を貫かれ、余剰エネルギーが推進剤に引火して爆散。

 

無人機を貫いた閃光はその破壊力を維持したまま、縦横無尽に周囲にいる別の無人機たちに襲い掛かる。

セシリアとブルー・ティアーズが掴んだBT兵器の到達系、【偏向射撃】

無人機達を貫くたびに減退し、威力は下がるが、ティアーズは砲口から光を補充する。

ティアーズから光が放たれる度に、無人機たちは哀れなスクラップへと姿を変えていった。

 

 

(なんでしょう、この感覚……地上とはまるで違う)

 

 

光の嵐のようにもなっているティアーズが放ったレーザーを操るセシリアは、ふと自身が感じている感覚に疑問が浮かんだ。

地上でティアーズを操るのと宇宙で操るのとはまるで違う。

後者の方が遥かに扱いやすくその分偏向射撃の操作に意識を割くことができていた。

 

 

(違いとしては重力の有無……何にせよ都合がいいですね)

 

 

ISにはPICが存在しているとは言え、地上ではどうしても重力の影響を受ける。

ドラグーンなどが含まれる遠隔無線砲塔はその制限を特に受けやすい。

 

だが今のセシリアとブルー・ティアーズは【重力】と言う地球に住むのならば必然の鎖から解き放れている。

 

歌姫の騎士団との決戦やエクスカリバー迎撃作戦では、彼女は宇宙ではなく地上にいた。

宇宙に出たのは今回の戦いが初めてであり、それ故に性能をいつも以上に感じているのだ。

 

 

『――っ!』

 

 

最初のティアーズの攻撃を辛うじて逃れていた無人機達がセシリアに攻撃の手を向けた。

 

それを文字通り感じ取った彼女の行動は迅速かつ円滑なものであった。

一旦エネルギー補給のために本体に戻していたティアーズを、ミサイルビット以外全て切り離す。

そして並列に展開し、出力を最大にした最大の攻撃を放つ。

 

 

偏向射撃(フレキシブル)出力全開、ティアーズフルバーストっ!!』

 

 

前面攻撃、否、もはや全面攻撃ともいえる光の瀑布。

その能力から【大量広域先制攻撃兵器(Mass Amplitude Preemptive-strike Weapon)】に分類される、ブルー・ティアーズ最強の技。

 

残っていた無人機達も、放たれたレーザーに抵抗するまもなく貫かれて、爆散していく。

自機のハイパーセンサーで捉えられる反応が消えた事を確認したセシリアは一旦、ティアーズを本体側に戻す。

 

 

『この周囲は確保したようで……っ!』

 

 

スターライトMk-Ⅲを虚空に向ける。

すると、銃口の先の空間が、まるでノイズが奔るかのように歪み、ぶれていく。

ミラージュコロイドによる隠蔽であった。

 

そして現れたのは、バイザーがないタイプのカーボンヒューマン:ラクス・クライン。

装備しているISは、幾度となく戦友達が戦ったホワイトネス・エンプレス。

だが、特徴的なVLユニットが存在していなかった。

 

 

『こちら側の無人機達をあれだけ撃墜したのは貴女でしたのね、ミスオルコット。そしてミラージュコロイドで姿を消している私に気づく。素晴らしいですわ』

 

『一部始終を見ていた……と?』

 

『えぇ。貴女は優秀な素体になり得る。そう判断しました。あぁ、初めまして、私、ダレットと申します。以後、お見知りおきを』

 

 

そう言って、ダレットと名乗ったラクスは頭を下げる。

だがそんな事はどうでもよかった。

 

セシリアが気にしたのは、素体と言う言葉。

 

 

『私を素体に……?』

 

『えぇ。貴女の空間認識能力は常人の比ではありません。優れた素体になりえます。どうでしょうか、私達と共に人類の調停に力をお貸ししてはくれませんか?』

 

 

笑顔でマニピュレータを握手の様に伸ばすラクス・ダレット。

その表情は笑みを浮かべており、それにセシリアは言い表せぬほどの悪寒を感じた。

 

人類を調停し、多様性を完全に失わせる計画。

友人である真やカナードから聞いた、シーゲル・クラインの計画を、セシリアはそう感じた。

 

人間には様々な面がある。

善性の他に目を反らしたくなる悪性を持っている者もいるのだ。

幼い頃からオルコット家を立て直すために奔走した彼女はそれをよく知っていた。

 

しかし多種多様な人間がいるからこそ、多様性が生まれ、そこから議論が発生する。

それが人類の可能性と言うものだ。

 

だがそれを、S.E.E.D.と言う因子を用いて1つに統合して調停する。

それはあまりにも閉塞が過ぎる。

 

ラクス・ダレットはまるでユートピアを創造する為の計画であるように語っているが、どう考えても行き着く先は――ディストピアだ。

 

 

『……お断りしますっ』

 

 

感じた悪寒を振り切るように、スターライトMK-Ⅲのトリガーを引く。

レーザーが銃口から発射される瞬間、機体のスラスターを噴かして後方に下がって射線から逃れたダレット。

 

一瞬驚いたように目を見開いていたが、すぐに納得したような冷笑を浮かべた。

 

 

『交渉は決裂。ならば力ずくで、貴女を手に入れましょう、ミスオルコットっ!』

 

『人の可能性は誰かが与えるものではありませんっ、止めて見せます、その行いをっ!』

 

 

セシリアの叫びと共にティアーズが射出される。

だが、今まで姿を現さなかったダレットのISのVLユニットが空間に沈んでいたかのように現れたのは、ティアーズの射出と同じタイミングであった。

 

 





次回予告


「PHASE5 全能なる調停者」


『戦争のない世界以上に幸せな世界なんて……あるはずがない……けど、俺はアンタを、アンタ達を否定するっ!』


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