【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE6 掴み取る自由

特徴的なGタイプの頭部を持つ戦闘機械。

その機体の名はストライク。

GAT-X105【ストライク】を模した無人ISだ。

 

その無人機ストライクが下方に存在する生体反応を捉え、AMBACによって軌道を変えた。

 

 

『上方200、無人機が来るぞっ!』

 

『了解っ!』

 

 

漆黒の宇宙空間に少女の声が響く。

無人機ストライクと同じく、敵に気づいたのはこちらも同じだった。

無論、宇宙空間に声が響くわけがない、これは少女達3人が纏うISのプライベートチャンネルだ。

 

1人目、IS【シュヴァルツェア・レーゲン】のラウラ・ボーデヴィッヒが目標を両の視界に納める。

左目に宿る【ヴォーダン・オージェ】はすでに何度か使用していた為、眼帯を外していた。

その左目から得られる演算能力を駆使して、自機の能力を行使する。

 

 

上方から向かってきていた無人機ストライクの機動が突如として停止したのだ。

まるで押さえつけられている(・・・・・・・・・)かのように。

 

 

『A.I.Cの最大出力だっ!今だ、シャルロットっ!』

 

 

シュヴァルツェア・レーゲン最大の特徴である【A.I.C】による捕縛だ。

無人機ストライクも抵抗しているが、A.I.Cから抜け出るのは困難だ。

力任せに脱出するほどの力は、この機体には存在していない。

 

 

『任せてっ!』

 

 

2人目、シャルロット・デュノアのIS【リィン=カーネイション】

世界初のデュアルコア搭載機体。

かつてのリヴァイヴカスタムⅡの二乗という、破格の出力が齎す機動力で一気に無人機ストライクとの距離をつめ、マニピュレータに展開したパイルバンカー【灰色の鱗殻】で無人機ストライクを背部から穿った。

単純な威力でも現存しているIS搭載可能武装の中でも間違いなく上位に入る武装に加えて、機動力が加わった一撃。

その凄まじい衝撃で機体は下方に弾き飛ばされる。

PS装甲搭載機体であるため装甲自体にダメージは通っていないが、内部の精密機器に衝撃による不具合が起こっているためか、アイカメラが不気味に点灯を繰り返していた。

 

 

『鈴っ、行ったよっ!!』

 

『わ~かってるってぇ……のぉっ!!』

 

 

最後の1人、鳳鈴音の【甲龍】はマニピュレータに展開している2本の青竜刀【双天牙月】を構えながら、舌なめずりしつつニヤッと笑う。

 

PS装甲搭載機体相手に実体剣は相性が悪い。

それはこの1年間に何度もPS装甲搭載型無人機と戦闘を続けてきた全員が認識している。

だが、それでも狙い目はある。

 

PS装甲は確かに実体武装に対する破格の防御性能を持つ。

だが装甲部分以外、具体的に言えば間接部分等は装甲の影響を受けない。

理論上は間接部分を狙えば、ビーム兵器を持たないISでも有効打を与える事は可能なのだ。

理論上と言うのは、基本的に高速機動が前提であるIS戦において、関節部をピンポイントで攻撃すると言う非常に難易度が高い攻略法だからである。

 

だが、この状況ではその難易度が激減していた。

シャルロットの攻撃により真っ直ぐに自分に向かってくる敵機。

ただタイミングを見計らうだけ。

元々が天才肌の彼女にとっては容易いことだった。

 

 

『そこぉっ!!』

 

 

鈴の叫びと共に、2本の青竜刀が煌いた。

自機に向かってきていた無人機ストライクは両肘と両膝の間接部分を正確に捉えた彼女の攻撃により、四肢を失った。

同時に機能を停止してアイカメラの光も消えた。

 

 

『……よし、撃破したな』

 

『みたいだね』

 

 

ふぅっと、一息入れるシャルロット。

 

 

『これで何機目よ、全く』

 

『これで18機目だ。やはり無人機には複数によるコンビネーションが安定するな』

 

 

すでに20に近い無人機を撃破していると聞いた鈴はげんなりした表情を浮かべ、それにシャルロットが苦笑している。

ラウラも苦笑した後、続ける。

 

 

『私達はマシなほうだぞ。基本的にヤツが撃ち漏らした機体を相手にしているのだからな』

 

 

ラウラが上方に視線を移す。

そこには漆黒の宇宙を流れる流星が1つ。

 

いや、それは流星ではなかった。

埋め込み式の戦術強襲機【M.E.T.E.O.R(ミーティア)】を装備したIS【インフィニットジャスティス】

当然その搭乗者は、アスラン・ザラだ。

 

単純な移動速度ではVL搭載機体を凌駕するその圧倒的なスピードで、流星の様に戦場を駆けていた。

もちろんただ移動しているだけではない。

この戦場で最も戦果をたたき出しているのは他でもない、アスランであるからだ。

 

ミーティアの姿勢制御スラスターを吹かせることで、強引に軌道を変えて迫る数十機の無人機達に向かい合う。

 

 

『マルチロックオン完了、行くぞっ!』

 

 

マルチロックオン用コンソールが表示されており、既にロックオンは完了していた。

側面の高エネルギー収束火線砲、【エリナケウス ミサイル発射管】、そしてウェポンアームの【高エネルギー収束火線砲】から発射された超高出力ビームとミサイルが無人機に降り注いだ。

攻撃効率で言えばミーティアを装備したストライクフリーダムガンダムには劣るが、それでも無人機相手には充分であった。

 

無人機たちも回避行動に移るが、次々とビームとミサイルに飲み込まれその機能を停止、または爆散していく。

 

 

『……うわぁ』

 

 

ハイパーセンサーで検知していた鈴はその光景を若干引きながら眺めていた。

 

 

『埋め込み式の戦術強襲機って聞いてるけど、あの攻撃効率は戦略レベルっていってもいいかもね』

 

 

かつての愛機ラファール・リヴァイヴカスタムⅡも拡張領域に大量の武装を搭載していたシャルロットも、あまりの光景に苦笑した。

ラウラも同じ感想であったが、ミーティアの上方の空間が歪んだのを視界に捉えた。

 

 

『アスラン・ザラっ!上だっ!』

 

 

空間が歪んだ現象の正体は、ミラージュコロイドで姿を消していた無人機ブリッツであった。

プライベートチャンネルでアスランに叫ぶラウラであったが、それは杞憂であった。

 

 

『あぁ、判っている』

 

 

無人機ブリッツがビームサーベルを展開して切りかかると同時に、インフィニットジャスティスはミーティアを切り離す。

瞬間、無人機ブリッツが上下真っ二つに切り裂かれた。

 

インフィニットジャスティスの腰部からは別のマニピュレータが展開され、その手にはビームサーベルが握られていた。

 

 

『隠し腕のビームサーベル。成程、ミーティア装備状態ではあの隠し腕は使えないな』

 

『あぁ。ミーティアはどうしても懐に入られるとな。んっ、どうやらまだ来るみたいだ』

 

 

ハイパーセンサーに動体反応を捉えたアスランは、切り離したミーティアを機体に再接続させる。

 

 

『俺が先行するから、撃ちもらしを引き続き頼む』

 

『了解した』

 

 

ラウラの返答を聞いたアスランはミーティアのスラスターに火を入れて、飛び去っていく。

 

 

『……さて、私達は私達の仕事をするぞ』

 

 

ラウラの言葉に鈴とシャルロットは迷わず頷いた。

自分達が無人機の大半を相手にする事で、この戦場で戦う皆の援護が出来るから。

それはすなわち想いを寄せる相手の負担も軽くなるのだから。

 

少女達の瞳には戦意の炎が宿っていた。

 

 


 

 

メンデルから離れた宙域に光の花が咲くが、正体はビームの光。

 

急機動で光の軌跡を残すのは8枚翼を背負ったラキーナのストライクフリーダムガンダム。

少し遅れてフレイの駆るラファール・リヴァイヴ・ノワールが続く。

 

 

『逃がしませんよ?』

 

 

背部の機械翼が可変し、【バラエーナⅡプラズマ収束ビーム砲】が2門展開され高出力ビームを発射する。

カーボンヒューマン:ラクス――ヴェートの名を背負った彼女の顔に笑みが浮かんでいた。

自由の力を宿したIS【ホワイトネス・エンプレス】からの攻撃を互いにAMBACとスラスター制御で躱すが、2人の表情は芳しくない。

 

 

『しつこいっ!』

 

 

両マニピュレータに握られた専用アサルトライフル【サウダーデ・オブ・サンデイ】のトリガーを引き、バレルから銃弾が発射される。

だが放たれた銃弾全てがホワイトネス・エンプレスに命中する前に、その全てがどういう訳か静止するのだ。

まるで何かに抑えられているかのように。

 

 

『無駄ですわ』

 

 

嘲笑と共に、手を振るう。

すると静止した弾丸全てが、同じ速度と威力をもって跳ね返ってきたのだ。

 

 

『避けてっ、フレイっ!』

 

 

ラキーナは迫る弾丸をビームサーベルで切り払う。

S.E.E.Dが発動している今の彼女ならばこの程度を切り払うのは造作もない。

 

 

『くっ、このぉ……っ!』

 

 

だが射撃を繰り出したフレイにはそこまでの反応速度はない。

そのため数発被弾してしまうが、ラファールの装甲に着弾したおかげかダメージは最小限であった。

 

 

『反射能力とかっ、反則でしょっ!!』

 

 

ダメージによる衝撃をAMBACで補い、後退しつつ毒づく。

 

 

(攻撃の反射能力……ビームだけじゃなく実弾にも対応してるのかっ)

 

 

ラキーナとフレイの表情が芳しくないのはラクスヴェートの【ホワイトネス・エンプレス】の単一仕様能力であった。

先ほどから数度ビームライフルやバラエーナで攻撃を行っていたのだが、先のフレイの様にその全てをこちらに跳ね返してくるのだ。

似たような武装をラキーナは知っていた。

 

かつてのキラ・ヤマトの姉、カガリ・ユラ・アスハが養父から受け取ったMS【アカツキ】に実装されていた特殊装甲【ヤタノカガミ】だ。

ヤタノカガミは所謂鏡面装甲であり、直撃したビームを即座に屈折・反射させる特殊機能を持っていた。

MSが携行可能な重火器、果ては戦艦に搭載された主砲や陽電子砲まで無力化できる優れものだ。

ヤタノカガミに比べて機体に直撃する前に反射する分だけ、こちらのほうが厄介だが。

 

 

(……射撃は完全に悪手っ!でも近接格闘なら……っ!)

 

 

ヴェートとの戦闘を開始して彼女のISの能力を目にしてからは、下がりつつ射撃を繰り返し観察をメインにしていた。

ここまで集まった情報から、実弾・光学問わずに射撃攻撃は悪手であることがはっきりした。

ならばと、ラキーナは判断する。

 

格闘攻撃、実体剣やビームサーベルならばダメージを与える事も可能なのではないか。

そのためには距離をつめることと、隙を見出せなければならない。

 

 

『フレイ、作戦があるんだ』

 

 

プライベートチャンネルでフレイに通信をつなげる。

 

 

『作戦?いいわ、このままじゃ埒が明かないからね』

 

『ありがとう。あのラクス相手に射撃戦は悪手過ぎる。あの反射能力相手にまともに戦うとなると……』

 

『近接格闘ってことよね?』

 

 

フレイがラキーナの言葉をさえぎって、彼女と同じ意見を告げた。

それに少しだけ驚いたように目を見開くと、フレイはため息を混ぜながら苦笑していた。

 

 

『あのね、私もシャルロットと同じフランスの代表候補生なんだけど?』

 

『……うん。近接格闘ならあの反射能力も上手く機能しないんじゃないかなって思うんだ』

 

『そうね、やってみる価値は十分にあるわね』

 

 

納得したようにフレイが頷く。

 

 

『ありがとう。まず私が……』

 

 

ラキーナが迫るビームを回避しながら、フレイに作戦を伝える。

 

 

『分かったわ。やってみる』

 

『お願い』

 

 

伝え終えた後、ストライクフリーダムとラファール・リヴァイヴ・ノワールが動きを見せた。

 

 

(……ふふ、何かあるようですわね。どのような策か、見せてもらいますよ?)

 

 

相対するラクスヴェートは、ラキーナたちの行動が何らかの策に基づいていることを理解していた。

理解した上で、その策にあえて乗る。

 

これが意味するのは、心を砕くということ。

状況を打破するために考えた策が通じず、強大な存在に屈する。

心が折れた相手ほど御しやすい存在はいない。

 

ラキーナはS.E.E.Dを持つ者ではあり、その存在はなるべく無傷で手に入れたい。

 

故にラクスヴェートは相手が何かしらの策に出たことを理解しつつ、正面から向かうのだ。

 

 

スラスターを吹かせ散開していた2機の動きが止まる。

 

 

ストライクフリーダムの前にラファール・リヴァイヴ・ノワールがその手に実体剣【ダン・オブ・サーズデイ】を展開した。

 

そしてもう片方、ストライクフリーダムガンダムのバラエーナ二門、クスィフィアスレール砲二門が射撃位置に移動する。

高機動形態のハイマットモードから、砲戦形態のフルバーストモードに形態を切り替えたのだ。

 

 

それと同時に、ラファールが瞬時加速を発動。

フレイの戦闘スタイルに合わせた高機動戦重視の機体であるため、並みのISよりもその速度は速い。

 

しかしラクスヴェートにとっては大したことがない。

 

その程度ならば目を瞑っていてもカウンターを取れる。

すでにショートレンジまで距離をつめたラファールに、迎撃のビームサーベルを展開し振りかぶるラクス。

 

瞬間、四条の光が煌いた。

眩く宇宙を照らすプラズマの光と電磁加速によって発射された弾頭が持つ鈍い輝き。

 

ラファールで攻撃を仕掛けたフレイの背後から、彼女を巻き込まないように発射されたストライクフリーダムのフルバースト攻撃。

フレイを巻き込まないように、彼女の挙動一挙一動を全て見切った上、攻撃動作を乱さないようにしてラクスヴェートのみを射撃する。

まさに神業と呼べる精密射撃だ。

 

 

(成程、同時攻撃……ですが、射撃は私には通じないと、理解しているはずでしょう?)

 

 

笑みを浮かべるラクスヴェートが自身の能力を発動させる。

ラキーナの神業とも呼べる精密射撃は、ただのそれだけでピタリと無効化されてしまった。

 

 

(これが策ですか……少々肩透かしですわね)

 

 

一瞬の後、反射能力によってビームと弾頭は跳ね返る。

そして目の前のフレイを切り落として終わり。

 

内心ため息をこぼしたラクスヴェートであったが、その判断が過ちだったと気づいた。

反射によって跳ね返るフルバースト攻撃へ続けて、まったく同じコースにビームとレール砲の弾頭が飛来したからだ。

 

同時に、目の前のラファールが突如として上方へ加速。

二重加速によって進路を無理やり変更したのだ。

 

 

(っ!?)

 

 

驚愕を浮かべたのは一瞬だった。

ラクスヴェートの周囲で、跳ね返すはずだった攻撃と飛来した攻撃。

それぞれが炸裂したのだから。

 

反射能力で跳ね返してくるまでのラグ。

そこに全く同威力の攻撃を命中させることで爆発を生じさせる。

それがラキーナが先ほどフレイに伝えた作戦の内容であった。

 

ラキーナの精密射撃の技術と、フレイの彼女への信頼。

そのどちらもなければなしえなかったコンビネーション。

 

 

『フレイっ、いまだっ!』

 

 

フルバーストモードからハイマットモードに切り替えたラキーナも、マニピュレータにラケルタビームサーベルを展開させつつ叫んだ。

 

 

『もらったぁっ!』

 

 

二重加速を解除し、下方で爆発に包まれているラクスヴェートのホワイトネス・エンプレスへと一直線に加速する。

爆煙で肉眼でははっきりと視認できないが、ハイパーセンサーで位置はつかんでいる。

 

実体剣が振り下ろされ、確かな感触をフレイは感じ取った。

 

 

――その直後、自身の胸部への激しい衝撃が彼女を襲った。

 

 

『か……っ!?』

 

 

フレイのラファールの胸部装甲にはっきりと刻まれているのは、自身が放った実体剣の一撃。

それを見て嘲笑に口角を吊り上げるラクスヴェート。

 

 

『当然、考えるでしょうね。射撃攻撃の効果がなければ近接でと……ですが、それさえも私には届きません』

 

 

展開されたビームサーベルでフレイのラファールのマニピュレータを切り裂く。

流れるままに、破損した胸部装甲も切りつけた。

 

 

『あぐぅっ!?』

 

 

【絶対防御】が発動し、ラファールのエネルギーが凄まじい勢いで減少。

ビームサーベルによって切断された装甲の破片が周囲に舞っている。

 

 

『フレイぃっ!?』

 

『そこまでですわ、ラキーナ』

 

 

すぐさま駆けつけようとしたラキーナであったが、ラクスヴェートの言葉に機体を静止せざるを終えなかった。

何故ならば、絶対防御が発動してしまったフレイのラファールを、ホワイトネス・エンプレスが掴んで拘束していたからだ。

空いているマニピュレータに握られた、ビームサーベルの柄。

発振はされていないが、すぐにでも発振できるようにフレイに突きつけて。

 

 

『くっ……!』

 

 

ぎりぃっと歯軋りの音が口から聞こえる。

視線だけで相手を射殺せるのならば、間違いなくそうしているほどの殺意を込めて。

 

 

『この娘の命、貴女の行動次第……この言葉の意味はお分かりですよね?』

 

 

どうにかできないかと、S.E.E.D.で加速している思考で考えるが策は思いつかなかった。

そうしていると、ストライクフリーダムのハイパーセンサーが高エネルギー反応を目の前のホワイトネス・エンプレスから検知した。

 

瞬間、背部フリーダムストライカーの特徴的な両翼が飛来したビームによって弾けとんだ。

 

 

『ぐあぁっ!?』

 

 

バラエーナが破壊されたことで、シールドエネルギーが減少し、同時に衝撃によってラキーナも弾き飛ばされる。

追撃のビームライフルで、クスィフィアスレール砲も破壊された。

 

 

『S.E.E.Dにフリーダム……所詮貴女ではその力を上手く扱えません。オリジナルの私の駒でしかなかった貴女ではね』

 

 

AMBACで姿勢制御を行う。

そして機体の被害状況を確認するが、バラエーナ、クスィフィアス両門とも完全に破壊されており、シールドエネルギーも4割を割っていた。

I.W.S.Pパックに換装するべき状況だが、フレイを人質にとられている状況で換装を行うわけにはいかない。

 

 

『さぁ、状況は決しました。投降なさい。貴女でもどうしようもないことは理解しているはず』

 

 

ラクスヴェートの言葉通り、状況は絶望的だ。

 

 

(くそっ、このままじゃ……っ!)

 

 

だが、ラキーナの瞳に宿る戦意は消えていなかった。

何とかしてこの状況を打破して、フレイを救出する。

 

キラ・ヤマトとして大いに道を誤った彼女は、もう二度とその意思だけは曲げるつもりがない。

人質として捉われているフレイに視線を移した瞬間、彼女の意識はブラックアウトした。

 

 

次の瞬間、彼女の目に映ったのは星々の瞬きであった。

 

 

「……え?」

 

 

思わずそんな声が口から漏れてしまった。

漆黒の宇宙空間を照らす星の光は幻想的で、状況が状況ならばいつまでも眺めていたいだろう。

だが今の彼女はISスーツ姿であり、ISをまとってはいなかった。

 

つまりは生身で宇宙空間にいるのだ。

 

 

「うっ、宇宙っ!?ISがないっ!?」

 

 

当然、パニックになるだろう。

この世界の人間よりも宇宙空間に対する認識が深いラキーナならばなおさらだ。

 

だが、すぐに気づいた。

地球やISをまとっている時のように、呼吸が可能なことに。

 

 

「こっ、呼吸ができる……どういうこと……?」

 

 

パニックになった思考を落ち着かせると、加えてとあることに気づく。

 

 

「それに……地球が見えない……月もない?」

 

『それはそうだよ。ここは本当の宇宙じゃないから』

 

 

星の煌きしかない、静かな宇宙空間に声が響いた。

ラキーナが振り返るとそこには、幼い少女が微笑みを浮かべて佇んでいた。

その少女は栗色の髪をサイドアップにして、純白のワンピースを身に纏っている。

 

 

「君は……っ!?」

 

 

ラキーナは驚愕の表情を浮かべた。

その少女が、あまりにも似すぎていたのだ。

 

ストライクガンダムを降りて避難民として戦場から離れる道があった。

しかし、彼は軍人となって戦う友人達を見捨てられなくて、戦う道に戻った。

 

その時、5分にも満たない僅かな時間しかラキーナは、いや、キラ・ヤマトは確かにその少女と言葉を交わした。

 

 

「今まで守ってくれてありがとう!」

 

 

衛星軌道上での戦闘で民間人を乗せたシャトルが射出され、ザフトに奪われたデュエルガンダムのビームに焼かれた。

その時、失われた少女と――目の前の少女はあまりにも似すぎていた。

 

 

「エル……ちゃん……っ!?」

 

 

記憶に残る名を口にしたラキーナだが、目の前の少女は残念そうに首を横に振る。

 

 

『……この姿は記憶から作られてるから、そのエルちゃんって子に近いと思うけど……私は違うの』

 

「っ、なら君は……【ストライク】、なの?」

 

 

戦友である真や簪、一夏がISの精神世界に何度か訪れたことがあると報告では聞いていた。

この地球が存在しない星々の煌めきだけの宇宙空間は、愛機であるストライクのコア人格の精神世界なのではとラキーナは気づいたのだ。

 

ラキーナの言葉に、ストライクは笑みを浮かべる。

 

 

『そうだよ。ストライクガンダムのコア人格、それが私だよ』

 

 

このタイミングで、彼女が出てきた理由をラキーナは1つしか思いつかなかった。

 

 

「もしかして……第二形態移行(セカンドシフト)?」

 

 

少女はそれにこくりと頷く。

ストライクが第二形態移行(セカンドシフト)できたのならば、現実世界の絶望的な状況を打破できるかもしれない。

 

 

「ならすぐにでも、お願いだっ、ストライクっ!」

 

 

心に生じた希望にラキーナの声が強まった。

それに頷くストライクだが、口を開いて告げる。

 

 

『分かってる。すぐにでも第二形態移行(セカンドシフト)するつもり……だけどね、名前を付けてほしいの』

 

「名前……だって?」

 

 

ストライクの言葉に何を言っているか、とラキーナが困惑の表情を浮かべる。

 

 

『力は力でしかない。もう二度と迷わないための名前を、お姉ちゃんに決めてほしい』

 

 

少しだけ言いにくそうにだがはっきりと、ラキーナに告げる。

その言葉に少しだけ面食らった後、ラキーナは苦笑した。

 

 

(情けないなぁ、私。愛機にも心配されてたのかぁ)

 

 

内心そう思ったラキーナを、ストライクは無言で見つめている。

ラキーナの返答を待っているかのように。

 

ならば彼女の望み通りに、今の自分を表す名前をつけよう。

少しだけ、時間にすれば1分にも満たない程の時間の後、ラキーナが口を開いた。

 

 

「……リバティ」

 

『リバティ……自由って意味の?』

 

 

ストライクが首を傾げる。

それに微笑んでラキーナが続ける。

 

 

「うん。けどフリーダムじゃない。元々フリーダムってラクスから与えられた機体だからね。与えられるだけの自由じゃなく、今度は私の手でつかみ取る。だからリバティ」

 

 

フリーダムでもストライクフリーダムでもない、新しい自分だけの自由をつかみ取る。

その為の名前、その為の力。

 

――故のリバティ。

 

 

「リバティストライクガンダム。それが私が決めた名前だよ。ストライク」

 

 

ラキーナのまっすぐな視線と言葉に、ストライクは笑みを浮かべる。

その言葉が聞きたかったと、表情が語っている。

 

 

『うん。よかった、すごくいい名前。っ、すぐに現実世界に戻すよ』

 

 

「お願い。フレイを助けないと……っ!」

 

 

コクリとストライクが頷くと同時に、ラキーナは自分の意識が遠のいていくを感じた。

現実世界に意識が戻っていくのを感じると同時に、ストライクの声が耳に届いた。

 

 

『大丈夫、お兄ちゃん……ううん、お姉ちゃんなら絶対出来るよ』

 

 

その声はストライクのものであったが、別の誰かのようにも聞こえたのだった。

 

 

ラキーナの意識が現実世界に帰還する。

同時に、ダメージを負った機体が眩い光に包まれていく。

 

 

『なっ!?』

 

 

ラクスが驚愕の表情を浮かべ、ストライクから溢れていた光が収まっていく。

 

トリコロールカラーの機体色はそのまま、より洗練された流線型装甲を持つISがそこにいた。

背部のコネクター部分にはフリーダムストライカーとも、I.W.S.Pを含んだ既存のストライカーパックとも異なるパッケージが装着されていた。

 

全体的な機体シルエットはエールストライカーを装備した形態に近い。

だが大型のスラスターが複数装備されており、その推力がエールストライカーよりも高次元にあるのは想像に難くなかった。

 

 

『これは、警告だ……といっても、君は聞く耳を持たないだろうけど……今の君じゃ、私達には絶対に勝てない』

 

『戯言を……ですが、ここにきての第二形態移行。やはりS.E.E.D.をもつ貴女は優秀な……っ!?』

 

 

ラキーナの言ったとおり、ラクスヴェートは彼女の警告に聞く耳を持たなかった。

自身の能力に絶対の自信を持つラクスヴェートだったが、言い表せない悪寒を感じた直後であった。

 

背後から衝撃が、ホワイトネス・エンプレスを貫いた。

 

 

『なぁっ!?』

 

 

驚愕の声を上げるとともに、人質として掴んでいたフレイのラファールを離してしまった。

だがそんなことは重要ではない。

 

何にやられたのかを、AMBACで姿勢制御を行いつつ確認する。

 

自身の背後の空間、そこには半透明の物体が二個浮かんでいたのだ。

その物体は、フリーダムストライカーの背部ウイングに搭載されていた【バラエーナプラズマ収束ビーム砲】の形状に酷似していた。

相違点を挙げるというのなら、幾何学模様が側面に刻み込まれている点だろう。

 

こちら側に射線を向け、肉眼ではっきりとその存在を確認できるというのにハイパーセンサーは何も検知していなかった。

 

 

仮想武装(イマジナリーバレット)……これがリバティストライクガンダムの単一仕様能力』

 

 

ラキーナは静かにそう告げて、ラクスヴェートから離れたフレイの元へと翔ける。

 

抱き寄せた彼女は気絶しており、頭部から出血していた。

いくつか打撲の後があるが、命には別状がないように見える。

 

そして背後から高エネルギー反応をリバティストライクは感知する。

ホワイトネス・エンプレスがその身に宿すフリーダムの最大火力、フルバーストモードでこちらを狙っていた。

先ほどの不意打ちによって装甲が弾け、その影響かラクスヴェートは額から出血しているようであった。

 

 

『堕ちなさいっ!』

 

 

怒りの声と共に極彩が宇宙を照らす。

だが、その光はラキーナには届かなかった。

何故ならば光の照射が終わると、そこには半透明のシールドが浮かんでいたからだ。

フルバースト攻撃に使用される四門の射線全てを、四つのシールドで防いだのだ。

 

 

(クルーゼのロキ・プロヴィデンスの影響を……受けてるよね、これ)

 

 

かつての怨敵、ライリー・ナウ、否、ラウ・ル・クルーゼの乗機であった【ロキ・プロヴィデンス】の【瞬間展開】

任意の場所へ瞬時に攻撃体勢で展開ができる極めて強力な能力の影響をはっきりと受けている。

 

だが、今はその力すら使う。

愛した女性を、愛する人を守るために。

 

 

『ばっ、馬鹿なっ……私のフリーダムの力が、そんなシールドなどに……っ!』

 

 

ぞくりと、心臓を掴まれたような悪寒を感じる。

一瞬の後、全方位からビームの照射を受ける。

 

 

『あぁっ!?』

 

 

弾き飛ばされたラクスがいた周囲には、先ほど不意打ちを受けた半透明の砲塔が、合計12門いつの間にか展開されていた。

 

 

『思ったとおりだ。今まで君の機体はダメージを受けていなかった。だけど、いつの間にか機体装甲に小さな傷ができている。その傷がいつできたのか。それはさっきのフレイの攻撃のときの爆発で装甲にダメージがあったってことだ。君の機体の能力、認識できていない攻撃は反射できない……違うかい、ラクス』

 

『……くっ!』

 

 

脂汗を滲ませたラクスヴェートが取った行動は素早かった。

即座に機体を反転させて、スラスターを全開に吹かせて撤退していく。

 

自機の最大火力であるフルバーストがあっけなく防がれた。

そして反射能力の弱点を見抜かれた上、彼女が操る力は反射能力と極端に相性が悪い。

 

ハイパーセンサーで認識できない砲塔が無数に現れる。

いくつか反射ができたとしても、エネルギーで作られていると思われる砲塔に効果は薄い。

 

分が悪すぎる故の、撤退。

判断は悪くはないが、相手が悪かった。

 

 

『逃がすわけ、ないだろっ!』

 

 

彼女の行く手を阻むように、無数の砲塔が虚空に展開される。

その数はかつてのストライクフリーダムの最大ロック数をも上回る223。

球状コンソールに展開されたロックオンマーカーが幾重にもその反応を捕らえた。

 

瞬間、砲塔はビームを白き女帝に放つ。

 

 

『あぁぁぁっ!?』

 

 

ビームの嵐、まさに光の大瀑布と形容できるそのビームにラクスは飲まれた。

最後の抵抗か、彼女に認識できたいくつかのビームが仮想砲塔に反射されていくが、雀の涙だ。

 

そもそもがエネルギーで形成された仮想の砲塔。

ビームで破壊されたとしてもラキーナには何のダメージもない。

 

 

そしてビームの嵐が消えた後に残ったのは、ボロボロになったホワイネス・エンプレス。

背部のフリーダムユニットは完全に喪失されており、装甲もすでに意味を成さないレベルで破壊されていた。

 

かろうじて発動した絶対防御で今の仮想砲塔一斉射撃を耐えたのであろうが、すでに虫の息であった。

 

 

『……終わりだよ、ラクス』

 

 

抱えたフレイからいったん離れる。

そのままビームサーベルを展開したラキーナは、ラクスに機体を向けそう告げる。

 

 

『……こんな、私は、ラクス……クラインなのに……なんで、なぜ……?』

 

『……人は結局、自分にしか、なれないんだ。誰かは分からないけど、君はラクスになってしまった。それが君の間違いなんだよ』

 

『……あぁ、そう……なんだ……』

 

 

振り上げていたビームサーベルを下ろす。

一瞬ラクスの身体が跳ねるが、その後すぐにダラリと力が抜ける。

虚ろになった彼女の瞳を、腕部部分のISの展開を解除してそっと瞳を閉じさせる。

ホワイネス・エンプレスの展開が解除されたラクスの身体を、そっとラキーナは受け止める。

 

 

『終わった、のね』

 

 

その様子を、意識を取り戻したフレイが寄り添いながら確認する。

額からの出血は搭乗者保護機能で止まっているようだった。

 

 

『フレイっ、身体は……?』

 

『ん、ちょっとつらいけど、大丈夫』

 

 

ガッツポーズをしてみるが、痛むのか顔をしかめたフレイを受け止める。

 

 

『……ごめんね、足引っ張って』

 

 

フレイが弱々しくラキーナに言った。

 

 

『ううん、気にしないで』

 

 

だがそれをラキーナは微笑んで返す。

 

 

『すぐに、クサナギに連れて行くから』

 

 

ぎゅっと生身の手でフレイを抱きしめるラキーナ。

空いている手ではラクスヴェートの遺体を回収して、クサナギを目指すためにスラスターに火を入れる。

フリーダムシルエットと同等レベルの推力で宇宙をリバティストライクとラファールは駆けていく。

 

 

(……かっこよくなっちゃってまぁ……!)

 

 

こいつの横顔に見惚れるの何回目だっけなどと考えたが、すでに数えるのも馬鹿馬鹿しくなったため思考を放棄したフレイであった。

 




令和最初の更新です。

次回予告


「PHASE7 王の理」


『俺だけじゃないっ、皆の力だぁぁぁっ!!』

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