【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
『このぉっ!!』
白きIS【白式・王理】が背部エナジーウィングを翻しながらその手に握る雪片を振り下ろす。
振るわれた刃は神速の速度を損なうことなく、目の前の物言わぬ機械を寸分たがわず真っ二つに両断した。
しかし、切り落とした無人機デュエルと同型機がビームサーベルを振り上げて一夏の背後を取っていた。
だが今の一夏は1人ではない。
白式のハイパーセンサーが飛来する物体を複数検知したのとほぼ同時に、背後に迫っていたデュエルは弾き飛ばされていた。
クルリと反転した白式はそのままエナジーウィングを用いて加速し、無人機デュエルに反撃を許さず同型機と同じように両断する。
切断された個所からスパークがほとばしり、推進剤を起爆剤として爆発していく。
『助かったっ、箒っ!』
『今は赤月なんだけどなー』
赤い双眸の箒はそう言ってため息をつく。
無人機デュエルを弾き飛ばした、天羽々斬が紅藤の装甲として装着されていく。
『あっ、悪い……っ』
『そんなに気にしないでよ、一夏』
罪悪感を感じて顔をしかめた一夏に悪戯っぽく笑った赤月。
すると、彼女の左目が普段の虹彩に変化していく。
それと同時に彼女の口調が変わる。
『談笑している場合ではないぞっ、まだ来るっ!』
身体の主導権が赤月から、本来の箒に戻ったのだ。
そして彼女の言う通り、二機の上方に無数の無人機と共に存在しているIS【ホワイトネス・エンプレス】
搭乗者はカーボン・ヒューマンタイプ:ラクス・クラインの15番目【サメル】
『いつまで持ちますかね。こちらの無人機はまだまだありますのよ?』
ラクスサメルの言葉通り、彼女の言うとおり機体背後には無数の無人機達が存在している。
その総数は優に50を超えている。
『……戦いの基本は数。その基本を覆すほどの実力を貴方達は持っていない……勝負は見えておりますよ、お兄様』
悔しいが、その通りであると一夏は認めざるをえなかった。
そもそもが機体の特性がこの場面に合っていないのだ。
一夏の白式・王理は一対一の近接戦闘では非常に強力な機体だ。
だが遠距離攻撃手段が存在しておらず、また広範囲への攻撃手段も持っていない。
箒の紅藤については、セイバーの【アムフォルタスプラズマ収束ビーム砲】を改良、調整した収束ビーム砲【桜花】が存在しているが、それでも広範囲に対する殲滅手段にはなりえない。
第4世代機である【セブンス・プリンセス】と【インペリアル・ナイト】、セシリアの【ブルー・ティアーズ】やラキーナの【ストライクフリーダム】等が持つ【
『だったら、アンタを倒せばいいだけだろっ!』
一夏の言葉に呼応するように、白式のエナジーウィングが煌く。
羽一枚一枚がラクスサメルへ向いた後、光が溢れてラクスサメルに向かっていく。
王理に進化したことで追加されたエナジーウィングからのエネルギーショット。
射程距離は中距離で広範囲への攻撃は一夏の連度不足によって行えないが、中距離や近距離での攻撃力は充分に存在していた。
だが、その一斉射撃も全て踊るように回避されてしまう。
『くそっ!!』
元々射撃は苦手な一夏の攻撃だ。
近接格闘ならまだしも、相手がカーボンヒューマン:ラクス・クラインならば当てるのも至難だ。
『……やはりこの程度。この程度なのですか』
彼女の先程までの口調とうって変わり、底冷えしたものに変化する。
まるで失望したとも言いたげな表情だ。
『貴方の程度が知れましたわ。所詮はプロジェクトモザイカの残滓に過ぎない貴方では、私には勝てない』
ラクスサメルがそう言って、手を振るう。
すると、無人機ストライクがビームサーベルを構えながらこちらに向かってくる。
だがその機動が先程までの無人機よりもクイックだった。
『っ!』
咄嗟に雪片を展開して、ストライクのサーベルを受け止める。
近接格闘武装同士の鍔迫り合いになる――かと思われた。
しかし無人機ストライクは脚部のスラスターを点火させ、そのまま白式を蹴り飛ばしたのだ。
『ぐぁっ!?』
不意打ち気味の一撃に装甲の一部が砕けて宙を舞い、それを突き破るかのようにストライクは追撃の刃を上段から振り下ろしてくる。
瞬間、機体のハイパーセンサーが高エネルギー反応を検知、二門の高出力ビームがストライクを背後から襲う。
だが、その反応はストライクも検知していた。
上段からの振り下ろしを即座に止め、瞬時加速で上方に逃れることで、そのビームを回避する。
一夏を援護するために、収束ビーム砲【桜花】で箒が援護していたが避けられた。
『っ、何だあの反応はっ!?』
『……今までと反応が違うね、クイックすぎる』
いやクイックどころではなく、まるで生きているようだと赤月が気づいた。
それに気づいたのか、ラクスサメルが冷笑を浮かべる。
『言い忘れておりました。私の機体は無人機を己の分身として操作する能力を宿しています。先程まではAI操作ですが今度は私がこの子達全てを操作している、と考えてください』
周囲にいる全ての無人機が有人機に変化した――ラクスサメルはそう言ったのだ。
言うならばビットIS、ともいえるだろう。
『そっ、そんな……っ!?』
ぞっと寒気が一夏の背中を貫く。
周囲の無人機全てがこちらにビームライフルを向けているからだ。
『フィナーレです』
ラクスサメルの指示の元、無数の閃光が飛来する。
飛来した閃光が白式に直撃し、そのエネルギーを枯渇させるはずであった。
『させないっ!』
紅い残像が白式を抱えて込んでいなければそうなっていただろう。
両目が赤い箒――赤月が、咄嗟に箒の身体の主導権を奪い、
ラクスサメル達から少し離れた所で反転し、一夏を離す。
『助かった……ありがとう、ほう……じゃない、赤月』
『どういたしまして』
ニコッと微笑む赤月。
そしてすぐに真剣なまなざしで一夏を見つめた後、少しはなれたラクスたちを一瞥してから口を開いた。
『……撤退も視野に入れたほうがいいかもね』
『っ、逃げるってのか!?』
赤月の言葉に一夏が反論する。
『……逃げるのは恥じゃないよ。彼女の言う通り、こっちは
『……悔しいけど、それだけは……どうしてもっ、俺は逃げたくないんだっ!』
一夏の語気が荒く、強くなっていく。
『ここで逃げたら、俺を俺として……織斑一夏って言う人間として認めてくれた皆に申し訳が立たないんだよっ!俺の我がままだって事はわかるっ、けど……けどっ……俺は、一人の人間として、勝ちたいんだっ!』
自分が弱いのは百も承知だ。
だがここで逃げてしまったら、それでも普通の人間じゃない自分を認めて受け入れてくれた皆に申し訳が立たない。
それどころか自分が造られた存在であり、シーゲルの手のひらの上の存在であるということを返上することができない。
だからその選択だけはしたくない。
それが一夏の本心であった。
感情が高ぶっているのか、一夏の目じりには涙が浮かんでいる。
その涙を見た赤月はため息をついてから、続ける。
『……ま、勝てないとは言ってないけど』
(なっ、できるのかっ!?)
赤月に身体の主導権を取られ続けていることを忘れた箒が、意識の中で驚愕した。
『一夏がそうしたいって言うのなら、奇跡を見せてやろうじゃないっ!』
そう言って赤月が笑うとコンソールが立ち上がる。
それは箒も見たことのあるもの。
今は亡き、紅椿が発現させた能力と同一の単一仕様能力の名前。
だが、少しだけ異なっていた。
【
(絢爛舞踏・改?)
『そう、これが本当の絢爛舞踏。今起動した能力でこの宙域の味方機のエネルギーも回復してる。そして、この力で一夏、白式・王理の本当の力を目覚めさせるの』
『本当のって……どういうことだ?』
赤月の言葉に、一夏が首をかしげる。
『【零落白夜】は本当の単一仕様能力じゃない。白式・王理には機体単体のエネルギーだけじゃ賄えなくて使えない本当の能力がある。私はISコアの意識だからそれが分かるんだ。外部から私達がエネルギーを供給すれば、きっとその力が目覚める……と思う』
『確実じゃないのかっ!?』
『仕方ないでしょっ、本当は調整とかいろいろいるんだから!ぶっつけ本番、無理やりたたき起こすしか今はできないのっ!』
箒の意識が現出し、虹彩が元に戻る。
抗議の1つや2つ言ってやりたい箒だったが、一夏がそれを遮った。
『箒、赤月、やってくれ』
彼のその言葉に2人は黙ったまま頷いた。
紅藤が、白式の後方に回り、背部のエナジーウィングユニットにマニピュレータを乗せる。
コンソールが起動、能力の発動と共に光が溢れ、まるで洪水のようになっていく。
『私達の力……っ!!』
『受け取れ、一夏ぁっ!!』
絢爛舞踏の輝きを、紅藤が白式へと与える。
それに併せて白式のコンソールが自動的に起動した。
【
王理の脚部や肩部の装甲がパージされ、それがマニピュレータを覆うように集まって巨大な【爪】を形成する。
雪羅から王理が継承したエネルギー爪【雪羅改】。
通常の雪羅とは異なり純白の光ではなく、
それはまるで親友の機体の武装を思わせる形状だった。
『……よぉしっ!!』
形状と溢れる光に笑みを浮かべた一夏。
不思議と、今から行う攻撃が失敗するイメージが浮かばない。
親友のお決まりの攻撃パターンだからか、とあるイメージが視界に映りこむ様な感覚を覚えた。
――その姿は運命の名を背負った光の翼を持つ機体。
そのイメージは残像を残しながら先行していき、一夏はそれ追いかけていく。
『っ、あれは……お兄様を止めなさいっ!』
ラクスサメルの指示に従い、ビット化した無人機達は生きているように、白式に向かっていく。
ショートレンジでビームサーベルを振り上げるビット無人機達だが、その機体が白式の雪羅改から溢れる紅い光に触れると糸が切れた人形のようにガクっとその機能を停止させていく。
『なっ、IS達が動かないっ!?』
動かないのではないく、機体そのものが言うことを聞かない。
まるですべての機能が初期化されてしまったかのように。
『ISの初期化だとでもいうのですかっ!?』
先行するイメージに並び立つように、少しずつその距離をつめていく。
当然、ラクスサメルとの距離も詰めていく事になる。
『っ、ならばっ!!』
ハイパーセンサーに高エネルギー反応を検知。
それはこちらに向かってくる無人機全てにとあるコードが発振されたのだ。
『一夏っ、気をつけて、あいつ自爆するつもりっ!』
『一夏ぁっ!!』
赤月と箒が援護しながら叫ぶ。
目の前で、紅藤からのビームに貫かれて無人機が爆散する。
二人の想いは一夏に確かに届き、さらに力が沸いてくる感覚を覚えていた。
『いまさらこんなもんっ!!』
エナジーウィングが煌き、前方だけにエネルギーショットを撃ちだす。
迫ってきていた無人機デュエルに直撃し、自爆間際のエネルギーが暴走して爆発。
半数までに減らした無人機IS達だが、まだ包囲を抜けるには足らない。
そしてエネルギーショットは連射が効かない。
だが打つ手が無いわけではない。
『このぉっ!』
雪片を展開して、そのまま前方の無人機に投げつけたのだ。
こちらに向かってきているのだから、仕損じることはない。
無人機ストライクのちょうどコックピット部分に雪片が突き刺さる。
雪片毎無人機は爆発に飲まれていくが、その爆発を一夏は突っ切ることを選択した。
多少のエネルギー消費は覚悟の上であり、箒達が託してくれたエネルギーはまだ尽きていない。
ならば、することはただ一つ。
『あんた達を倒すのは、俺だけの力じゃないっ!!』
爆発と無人機の包囲を突破した白式・王理はすでに、ラクスサメルを雪羅改の射程距離に収めている。
『っ!!』
ホワイトネス・エンプレスはビームサーベルを展開して振り上げるが、一夏のほうが速い。
――視界に存在していたイメージと一夏の動きが重なる。
『俺だけじゃないっ、皆の力だぁぁぁっ!!』
単一使用能力【夕凪灯夜】を宿した雪羅改が、ビームサーベルを握るマニピュレータ毎ホワイトネス・エンプレスの胸部へ押し当てた。
瞬間、ホワイトネス・エンプレスのビームサーベルの発振が停止し、機体の機能が次々とダウンしていく。
『こっ、これは……機体が、ISが初期化されて……っ!?』
絶対防御を発動させるプログラムすら初期化されていく。
ホワイトネス・エンプレスを拘束した白式はそのまま雪羅改で押し込んで、加速していく。
『うぉぉぉぉっ!!』
『なっ、このっ……がぁっ!?』
そして近くのデブリに彼女をたたき付けた。
シールドバリアも絶対防御もろくに起動していない機体では、その衝撃は搭乗者を直撃する。
ラクスサメルの額は衝撃によって砕かれた装甲が当たったことで裂けており、血が流れている。
ただ彼女の命自体に別状はない。
何故ならば、白式・王理の搭乗者保護で、ラクスサメルを保護しているからだ。
『あんたの負けだ。その機体はもう命令を受けつけないっ!』
いつでもエネルギー爪を展開できるよう雪羅を展開したまま、一夏はラクスサメルに告げる。
ハイパーセンサーには背後で武装を構えている箒の紅藤を捉えている。
『……くっ、こんな……このような結末を……認められるわけ……』
衝撃によって混濁する意識でラクスサメルは一夏を睨み付ける。
一瞬気圧された一夏だが逆に睨み返す。
拘束されながらも抵抗を見せていた彼女だがそのうち抵抗もなくなり、ダラリと力なく手を離した。
一夏が確認してみると、彼女は意識を失ったようであった。
『……勝った……んだよな?』
ダラリと意識を失ったラクスサメルを見つめて、一夏はそう呟いた。
そんな一夏に箒の紅藤が寄り添う。
『あぁ。勝ったんだ、一夏』
『……そっか……あぁ、勝ったんだ……っ!』
ぐっと少しだけガッツポーズした一夏は気づいたように、倒したラクスサメルに視線を戻した。
『この人、一応拘束したほうがいいんだよな?』
『……うん。クサナギに連れて帰って拘束する、でいいと思う』
赤月の本心からしてみれば、ISの初期化を行ったのだから搭乗者を宇宙で放置して戦力を減らしたかったのだが、これを言うと一夏に嫌われると考えて言葉を選びなおしていた。
『よし、箒、赤月、一度クサナギに戻ろう』
雪羅を格納してマニピュレータでラクスサメルをつかみあげた一夏に、箒が頷き、赤月も了承する。
クサナギへと戻るために、ハイパーセンサーで座標を確かめながら2機は宇宙を駆けていった。
クサナギへの帰還の際、先行する形で前にいる彼の背中を見て箒は笑みを浮かべていた。
すると彼女の深層心理の中で赤月が箒に語りかけてきた。
(格好よかったよね)
(そっ、そうだな)
にやけそうになる表情を隠すため、赤月から視線をはずす。
先程の一夏の動きが脳裏に思い出される。
強大な相手に引かずにそのまま打ち勝った彼の姿。
贔屓目も入るだろうが箒にとって何よりも、誰よりも雄々しく逞しく映った。
そんな彼の姿を見ることができた上、それに協力できたのだ。
まさに我が世の春である。
必死に顔を背けて隠しているが。
(……ここには私しかいないのに、強がらなくてもいいんだけどなぁ)
自分しかいない深層心理の中でもそっぽを向いた箒に赤月は苦笑していた。
次回予告
「PHASE8 蒼の旋律」
『その傲慢さを穿つっ!!』