【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE8 蒼の旋律

宇宙を走る幾条もの光。

それが放たれたのは蒼い遠隔無線砲塔。

 

4つのビット兵器を回収したIS【ブルー・ティアーズ】を駆るセシリアは何故か、苦悶の表情を浮かべていた。

 

AMBACで体勢を整えながら、頭に手を当てる。

 

彼女が苦悶の表情を浮かべている理由。

それは――

 

 

(っぅ……頭が……頭痛が酷いっ、戦闘が、長引きましたか……っ!)

 

 

そう頭痛であった。

ラクスダレットとの戦闘が開始されて数十分。

 

戦闘が長引くにつれて感じていた頭痛が、少しずつ強くなり治まる気配を見せない。

頭の中を掻き毟られているような、無視はできない痛みが広がっていく。

 

 

『お顔がすぐれませんよ?』

 

 

ビット兵器の攻撃を回避していたラクスダレットが、セシリアの苦悶の表情に気づく。

 

咄嗟にスターライトmkⅢのトリガーを引いて、レーザーを発射する。

だが放たれたレーザーは、ラクスダレットの目の前の【空間】に【穴】が開いてその中に吸い込まれて消えていく。

 

その様子に内心舌打ちをすると同時に背後に感じた寒気。

その寒気が何を意味しているのかは理解している。

すぐさま瞬時加速で上方に加速して回避に移った。

 

その一瞬後、彼女がいた座標を大量の光が襲った。

先程穴に消えた、自分が放ったレーザーに加え、大出力ビームも混ざっている光の瀑布。

だが当然、回避に成功していたセシリアにダメージはない。

しかしその圧倒的なまでの攻撃密度には、思わず冷や汗が流れた。

 

 

『正直に申し上げますと、まさか貴女の空間認識能力と戦闘能力がここまでのものとは思いませんでしたわ。こちらの予想を上回る、と称賛させていただきます』

 

 

わざわざマニピュレータを解除して生身の手を現出させたラクスダレットはパチパチと拍手を送る。

 

 

『BT1号機【ブルー・ティアーズ】。率直に申し上げて、その機体のポテンシャルはBT2号機【サイレント・ゼフィルス】、3号機【ダイブ・トゥ・ブルー】に比較すると低い。偏向射撃という特殊能力を除いた場合、第3世代機の中でも平均的な性能と評価せざるを得ません』

 

 

セシリアを指差しながら、ラクスダレットは続ける。

 

 

『ですが貴女はその性能差を自分の技能で補っている。その結果過去にサイレント・ゼフィルスを、そして今無人機を数十体破壊したうえで私と戦えている』

 

 

ラクスダレットの言葉を遮ろうと得物を向けるが、そこで一際激しい頭痛が彼女を襲った。

そのため射線がずれて、レーザーが放たれてしまった。

 

当然、ずれた射線では捉えられる相手ではない。

 

 

その様子を見て、ラクスダレットは笑みを浮かべる。

それは嘲笑の色がとても強いものであった。

 

 

『偏向射撃の際には、非常に高い稼働率で運用されているのでしょうね。ですがそれは貴女自身に高い負荷がかかり続けているのです』

 

 

現在のブルー・ティアーズはセシリアが意識して偏向射撃を行えるように成長したため、高い稼働率を維持している。

通常の戦闘ならば特に問題はないし、同時制御も今の彼女ならば苦も無く操れる。

だが偏向射撃を使用した戦闘が長期化した場合は話が異なってくる。

 

偏向射撃は機体の機能でもあるが、それをマニュアルで操っているのはセシリア自身である。

搭乗者の脳波制御で、複雑なBT兵器の操作を処理する。

 

難易度を例えるならば――

 

 

アクセルを全開で踏み抜いて加速させたスポーツカーを操作しつつ、ラジコンを4台自由自在に操って並走させるに等しい。

 

 

――負荷がかからないはずがないのだ。

 

試作機の性質が強いブルー・ティアーズは基本的に搭乗者が負荷を背負う必要がある。

一度や二度の使用、ある程度間隔をもって使用した場合は時間経過で回復できるためさしたる問題にはならないが、度重なる使用による負荷がセシリアを襲っているのだ。

 

今の彼女の脳は【過度の負荷に悲鳴を上げているエンジン】とも形容できる。

エンジンの悲鳴が彼女を襲っている頭痛の正体。

 

 

『焼き尽きたエンジンは戻らないもの。あまり無理をなされますと、こちらが困るのですよ……貴女は非常に優秀な素体になります』

 

 

ラクスダレットの言うとおり、焼き尽きたエンジンは直らないし、戻らない。

エンジンならば新しいものに交換すればいい。

だが、人の脳はそう簡単にはいかない。

それはつまり廃人となることを意味している。

 

 

『……ですので、戯れはここまでということにしましょう』

 

 

彼女の言葉と共に、先程からセシリアの攻撃を無効化している【黒い穴】が周囲360度、無数に展開されていく。

ハイパーセンサーに検知したその総数は優に100を超えていた。

 

 

『なっ……!?』

 

『これが私のホワイトネス・エンプレスの単一使用能力【転送点穴】(ワームホール)……簡単に言えば空間を連結させる穴。BT3号機【ダイブ・トゥ・ブルー】と似ていますわね』

 

 

【転送点穴】(ワームホール)

これがラクスダレットの能力。

空間と空間をつなぎ合わせる穴を発生させる能力。

戦闘においてはセシリアの放った攻撃全てをこの穴で受けることで無力化していた。

 

攻防に応用が利く非常に強力な能力であり、先のニュートロン・ジャマー投下もこの能力によるものだった。

機体単体での射程距離は長くはないが、外部からのエネルギー供給を受けることで飛躍的にその範囲を伸ばすことが可能であった。

 

そしてその穴全てから、高エネルギー反応を検知した。

 

 

『きゃぁっ!!?』

 

 

降り注ぐビームに、ブルー・ティアーズとセシリアは成す術なく飲み込まれてしまった。

圧倒的な量による全包囲攻撃。

回避しようと抵抗したが、多少回避したところで被弾を抑えることができないほどの密度であった。

 

ビームにより装甲が砕け、融解。

右腕部、左脚部が破損しティアーズも2機ビームに貫かれて破壊されてしまう。

同時に、絶対防御が発動して機体のエネルギーが急激に下がりレッドゾーンに突入する。

 

そしてその衝撃で機体ごと弾き飛ばされてしまった。

 

 

『これで勝敗は決しましたね』

 

 

ラクスダレットも少しだけ安堵したような表情になっていた。

セシリアと言う優良な個体を手に入れることができたための安堵。

 

 

(……勝てない……今の私では彼女に……)

 

 

戦意を砕かれたセシリアは、虚ろな瞳で虚空を見つめていた。

そんな時であった。

 

レッドゾーンに突入していたブルー・ティアーズのエネルギーが突如として回復したのだ。

 

 

(……エネルギーが、回復した……?)

 

 

激しくなる頭痛と受けたダメージによって歪んでいた視界が少しだけ、回復した。

残量がわずかになっていた機体のエネルギーがほぼ全快している。

 

 

(これは箒さんの……絢爛舞踏……?)

 

 

紅椿、いや紅藤の発現させた【絢爛舞踏・改】の効力がこのタイミングでブルー・ティアーズに届いたのだ。

距離はかなり離れていると言うのに、何故エネルギーが回復したのかと疑問は浮かぶ。

だがセシリアにとってはまさに僥倖であった。

 

 

(……そうです。まだこんなところで……負けるわけにはいきませんっ。ここで彼女達を止めなければ、世界は……っ!)

 

 

敗北に飲まれかけていた自らの心に、光が差したのを確かに感じたのだ。

心身ともに疲弊している今の状況は変わらない。

 

だが、立ち上がれないわけではない。

その気力は今分けてもらったばかりなのだから。

 

右マニピュレータ部分が弾き飛ばされ、生身が現出していた手をぎゅっと握りしめる。

 

 

(あと少しだけ……力を振り絞りなさい、ブルー・ティアーズ……っ!)

 

 

スラスター制御で姿勢制御を行い、打ち抜かれて破壊されたビット2機を切り離す。

そして即座にスターライトmkⅢのトリガーを引く。

 

その標的はもちろん、ラクスダレット。

 

 

『っ、まだそんな力が……っ』

 

 

意識を失ったものとばかり考えていたラクスダレットは体勢を立て直して反撃してきたセシリアの行動に驚愕していた。

だが、彼女の放ったレーザーはホワイトネス・エンプレスには届かなかった。

 

ハイパーセンサーで彼女の反撃は検地していたため、再び空間に空いた【転送点穴】(ワームホール)に飲み込まれて、消えてしまったからだ。

そしてセシリアの背後の空間に穴が空いた。

 

悪寒として、それを感じ取ったセシリアは、即座にスラスターに火を入れて回避に移る。

その際に彼女の瞳は、空間に開いた穴を凝視していた。

 

 

(……)

 

 

回避行動は無事成功し、レーザーは虚空に放たれ消えていく。

崩れた体勢を即座に立て直し、セシリアは再度得物をラクスダレットに向ける。

 

 

『あなた方の計画を止めるために私は止まれませんっ、負けられませんっ!』

 

『……人間など所詮は闘争と平和を繰り返すことしかできない愚かな存在。ミスオルコット、貴女の経歴はこちらでも調べさせてもらいましたが、貴女ならば私達の言葉も理解できるはずでは?』

 

『……人は、確かに汚いところも多いっ。それは認めます……ですがっ!』

 

 

【転送点穴】(ワームホール)が数個、周囲に展開されるがセシリアの動きのほうが一瞬は早かった。

 

穴から迸るビームを機体のスラスター制御で回避してみせる。

その様子に、ラクスダレットは目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。

 

 

【転送点穴】(ワームホール)を避けたっ!?』

 

 

セシリアが選択した【転送点穴】(ワームホール)を利用したオールレンジ攻撃の回避手段は単純なものだ。

 

それは――

 

 

【見てから避ける】

 

 

――ただそれだけ。

 

空間に穴が空き、ビームが発射されるまでには僅かにタイムラグが存在している。

さきほど、それを観察して見つけていた。

そのタイムラグを利用して、ビームの射線予測を行って回避しているのだ。

 

だがタイムラグといってもコンマ以下の数秒。

常人は一瞬以下、ISのハイパーセンサーを用いても捉えるのは至難の、まさに【雲耀】の一瞬。

 

セシリアの、特異と言ってもいいほど高度な空間認識能力があってはじめて可能な見切り。

例え世界中探したとしても彼女以外可能な人間はいないと言っても過言ではないだろう。

 

 

『ですが……ですがそれでも、綺麗で優しい心を持った人もまた多くいるっ!少なくとも私の周りには、愛する家族と、大切なことを教えてくれた友人の皆さんがいますっ!』

 

 

スターライトmkⅢのトリガーを引き、レーザーを発射。

発射されたレーザーがホワイトネス・エンプレスに向かう。

 

だが、レーザーの射線上に【転送点穴】(ワームホール)による穴が開く。

先程までと同じようにその穴にレーザーが飲み込まれる――はずであった。

 

【湾曲】してその穴を避けたレーザーがホワイトネス・エンプレスに直撃したのだ。

優雅なドレスのような装甲は、無残に弾け飛んでいた。

 

 

『なぁっ!?』

 

 

ラクスダレットにはもはや冷笑を浮かべる余裕などは存在していない。

先程のように全方位に【転送点穴】(ワームホール)を展開しようともしたが、連続でレーザーを放つセシリアによって行動が遮られてしまう。

 

 

『すぐに分かり合えないからこそ、人はわかりあうための努力を惜しまないっ!!だからぶつかり合って理解しあったり、話し合うことで分かり合うのですっ!!』

 

 

放たれるレーザーを受け止めようとするラクスダレットであったが、やはり全てのレーザーが【転送点穴】(ワームホール)を避けて彼女を襲う。

ゲシュマイディッヒ・パンツァーを起動するが、歪曲されたレーザーが絶えず彼女を襲うためエネルギーが急激に下がっていく。

 

 

『この場面でさらに成長するのですか、貴女はっ!なぜその力を調停のために使おうと思わないのですっ!人は管理される事で永遠の存在になりえるというのにっ!』

 

 

彼女の言葉に、セシリアはあることを理解した。

 

 

『やはり……結局あなた方は、全てを調和するといって、全く相手を理解するつもりがないのですっ、はるか上段から見下ろすことしかないっ!私はあなた方を止めてみせますっ!』

 

 

破損したスラスターを吹かせて、そのままマニューバに移行する。

生き残ったスラスターを使った個別連続瞬時加速(リボルバーイグニッション・ブースト)による凄まじい加速の中、セシリアの脳裏にある記憶がよみがえっていた。

 

それはクルーゼ事件を終え、学園が再開された直後の事。

とある理由から、セシリアは真とラキーナをアリーナに呼んでいたのだった。

 

 

「高機動射撃戦での……」

 

「射撃マニューバ……ですか?」

 

 

真とラキーナの疑問の言葉に、セシリアがうなずいて答えた。

 

 

「お恥ずかしい話ですがブルー・ティアーズは決定力に欠いている……そう感じるのです」

 

「でもブルー・ティアーズは射撃戦重視の機体だから、中距離に徹すればそれでもいいんじゃないか?」

 

 

機体特性の面を考えて、真が言う。

基本的にはセシリアもそれは同じ意見である。

 

 

「はい、ブルー・ティアーズの基本戦術は真さんが仰るとおりです……ですが……」

 

 

一拍あけて、彼女が続ける。

 

 

「この1年様々なISが現れ、私はその戦いの中で同時制御と偏向射撃を身に着けることができました。しかしそれだけでは対応できることも少ないと感じるのです。特に偏向射撃は負荷がかかります」

 

「……確かにな。偏向射撃も強力だけどそれ一辺倒だと対策練られるし、負荷も相当なもんだろ」

 

「はい。過度に使用したりせず、間隔を空けての使用ならば問題はないのですが……やはり長期戦は難しいです」

 

「そこで、私と」

 

「俺か」

 

 

「はい。私が知る中で高機動戦闘と射撃戦闘のスキルで2人に並ぶ方は、国家代表や候補生はいないと思っています。今後の切り札の開発に協力してほしいのです」

 

 

そう言ったセシリアは頭を下げる。

 

 

「わがままなお願いというのは重々承知しています。ですが、どうか力を貸してください……っ!」

 

 

その行動に含まれた、彼女の想いと熱意。

それはきっとオルコット家の正式な当主となったことが関係しているのだろう。

 

真はそう推測した。

そして同時に友人として彼女の想いに答えてあげたいとも思い、頭を掻きながらそれに返す。

 

 

「……分かった。でも俺は誰かに何かを教えるってあんまりやったことないし、役に立つかは……確約できないぜ?」

 

「……真は苦手そうだもんね、誰かに教えるって」

 

「うるさい、ほっとけ」

 

 

ラキーナの呟きを真が拾い、ジト目の抗議を行う。

まさか聞こえるとは思っても無かったのか、視線を逸らして誤魔化すラキーナに抗議の視線を送り続ける真。

 

友人達のそんな日常の様子を、顔を上げたセシリアは苦笑して眺めていた。

 

 

意識が現実に回帰する。

 

 

(切り札は、残っています……っ!)

 

 

友人達が力を貸してくれたお陰で開発できた、切り札。

それがまだ残っている。

 

 

『力を貸してくださいっ、ティアーズっ!!』

 

 

その言葉と共に、セシリアはティアーズを2機切り離して、加速。

ティアーズはまるで生きているかのようにラクスダレットに向かっていく。

レーザーを発射するたびに、クイックに軌道を変えて別角度から回り込む様にしてさらに追撃を発射する。

 

4機中2機を失っているため、万全とは言えず、ゲシュマイディッヒ・パンツァーによって歪曲も行われている。

だがその分を歪曲されたレーザーを偏向射撃で操ることでカバーする。

 

 

『このレーザーの動きっ、まだここまでの力をっ!?』

 

 

ゲシュマイディッヒ・パンツァーでレーザーを歪曲させて無効化し、【転送点穴】(ワームホール)による反撃を行おうとしたラクスダレットであったが、すでに彼女でも読み切れないほど、レーザーは複雑な軌道で攻撃を続けていた。

 

そしてこのレーザーを操る本体のセシリアも行動していないわけが無かった。

 

 

『はぁぁぁっ!!』

 

 

一気に加速してラクスダレットの至近距離まで詰め寄ると同時に得物を構える。

 

 

『むっ、無駄ですっ!レーザーは私には……っ!』

 

『奥の手は取っておくものですっ!』

 

 

セシリアのブルー・ティアーズのビットの総数は6機である。

そのうちの4つが、レーザーを。

そして残りの2つは――ミサイルだ。

 

ゲシュマイディッヒ・パンツァーはビーム兵器に対する絶対的な防御能力を有する。

だが、それはビームに限定した話であり、実弾兵器に対しての効果は薄い。

 

その結果、放たれたミサイルはラクスダレットに直撃した。

直撃したミサイルによってゲシュマイディッヒ・パンツァーの発生に不具合が生じ、今まで歪曲してたフィールドが消失する。

 

うねりを上げて宇宙を照らす光の束となったレーザーが、ホワイトネス・エンプレスに降り注ぐ。

 

 

『あぁぁっ!?』

 

 

その結果は全身の装甲の破壊という最上の結果を齎した。

だがまだ終わらない。

 

ミサイルを放った衝撃をそのまま加速に利用したセシリアは、ラクスダレットの相対的下方にいた。

すでに自身の得物である、スターライトmkⅢを狙撃体制で構えている。

 

 

『その傲慢さを穿つっ!!』

 

 

狙撃銃から迸った光は、一直線にホワイトネス・エンプレスに直撃した。

 

 

『か……っ!?』

 

 

降り注いだレーザーによってダメージを受けていた上、とどめに最大出力の一撃を喰らったホワイトネス・エンプレスは絶対防御を発動。

今までのダメージにあわせて、直撃を受けたラクスダレットの意識は途切れていた。

 

 

『……勝ち……ましたわっ!!』

 

 

高らかに、宣言するようにスターライトmkⅢを掲げてやりきったと満足の表情を浮かべるセシリア。

 

だが――

 

 

『っ!?……あっ、つぅっ……!』

 

 

頭に奔ったあまりの激痛に涙を浮かべて、スターライトmkⅢから手を放してしまう。

 

 

高機動連続射撃(オールレンジマニューバ)

真とラキーナがセシリアに協力して考案された高機動射撃マニューバ。

主にティアーズとの高機動連携攻撃マニューバであり本来は偏向射撃を使用しないのだが、今回はティアーズをすでに2機失っている状態であったため、偏向射撃を用いてその分をカバーしていた。

 

ゆえに限界ギリギリのセシリアにとっては負荷は絶大なものであった。

敢行前から激痛によって視界が歪んでいたが、すでに焦点が定まらないほどに悪化している。

 

脂汗が止まらずにガクガクと体が震えている。

呼吸も荒く、動悸が治まらない。

とてもではないがまともな戦闘など行える状態ではない。

 

幸い周囲の宙域に無人機はいない。

このままでは遅かれ早かれ狙われて彼女の命はない。

 

だが、そうはならなかった。

何故ならば――

 

 

『セシリアちゃんっ!大丈夫っ!?』

 

 

アクア・ヴェールを纏った【霧纏の淑女】を駆る更識楯無が現れたのだ。

セシリアのバイタルに異常を検知したクサナギのジェーンが楯無を寄越したのだ。

 

 

『……あっ……くぅっ……』

 

 

セシリアも彼女が現れたことは認識できたが、視点がどうしても合わない。

すでに彼女はセシリアに寄り添っているが、その距離でもぼやけている。

 

 

(……1人で、倒したのね……凄いわね、この子)

 

 

彼女の様子と意識を失って漂っているラクスダレットを交互に見た楯無は、この場で何があったのか、そしてその結果がどうなったかを察した。

 

ぎゅっとセシリアを抱き寄せてスラスターを点火。

そのまま漂っているラクスダレットを蛇腹剣【ラスティーネイル】を展開して、絡みつかせる。

これで搭乗者保護を効かせることも可能だ。

 

 

『すぐにクサナギに連れて行くわ。だからもう少し頑張って』

 

 

返事をする余裕もないのかこくりと、セシリアが頷いた。

セシリアが楯無と共に戦場を離脱していく。

 

戦闘はIS学園組が優勢だと言ってもいいだろう。

だが、まだ戦いは続いている。

 

その場所は、メンデル――コロニーの中であった。

 




次回予告


「PHASE9 運命の翼を持つ少年」

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