【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE9 運命の翼を持つ少年

コロニーメンデル

 

その研究区画に多数配置されているシリンダーに光が映り込む。

映り込んだ光の色は3色。

 

――宝石のように眩く輝く、鮮烈な紅。

――蒼穹の空のように透き通った、澄んだ蒼。

 

そしてその2つを取り込まんと大きく開かれる、禍々しくそして艶やかな紫。

 

 

光の翼を展開したデスティニーと飛燕はそれぞれのビームライフルのトリガーを引く。

VLユニットによる高機動を維持したまま、正確な射線で放たれたビームの光は、紫の光の翼をもつ機体、シーゲルが駆る【コーディネーター】へと向かう。

 

だがそのビームの光はコーディネーターに届く前にピタリと空中で停止した。

ビームを歪曲させる【ゲシュマイディッヒ・パンツァー】とは異なり、まるで跳ね返るように角度を変え、放ったデスティニーと飛燕に向かってきた。

 

突然の事態であったが、2機の動きは速かった。

デスティニーは実体シールドを用いて反射されたビームを的確に捌いて防御し、飛燕は瞬時加速を用いて反射ビームの回避に成功していた。

 

 

(っ、今度は反射能力っ!一体全体、何個能力を持ってるんだよっ!)

 

 

思わず心中で真が毒づくのも無理はなかった。

戦闘を開始してから数分が経過しているが、すでに幾つか能力を見せていた。

 

数瞬前に見せたビームを跳ね返す【反射能力】

背部の紫の翼から溢れる怪しい【燐光】

これはVLユニット搭載機であるため、真と簪は【生態支配】や【電脳楽園(サイバー・ジェイル)】に類ずる能力があると警戒し、常にVLユニットを稼動させているためそこまで大きな問題ではない。

 

そしてハイパーセンサーに感知するのは無数の小型遠隔自立兵装。

その形状は彼のオリジナルの娘が駆っていた【ホワイトネス・エンプレス】が装備していたものと同様のデザインだ。

ビームの刃を形成して、こちらに高速で飛来する合計20の反応。

 

 

(スパイクドラグーンっ!)

 

 

VLユニットを翻して回避行動に移るデスティニーだが、S.E.E.D.が発現している真よりも、簪の飛燕の回避動作が遅れた。

 

 

『っ、あぐぅっ!』

 

 

飛燕の左肩にスパイクドラグーンが直撃した。

ビームによって左肩装甲の一部が抉り取られ喪失、その衝撃で簪が弾き飛ばされた。

 

ISをISたらしめている機能の1つに、シールドバリアが存在している。

実弾はもちろん、ビームなどの高威力光学武装の場合でも、減退を発生させ威力を弱めることが可能だ。

 

今この宙域で戦闘しているIS全てが実戦仕様(アンリミット)状態であり、シールドバリアも通常時よりも出力が上昇しているはず。

だがスパイクドラグーンは減退ではなくまるで存在していない(・・・・・・・)かのごとく、すり抜けた様に直接攻撃をしけてきていた。

 

 

『簪っ!!』

 

『っ、大丈……夫っ!』

 

 

弾き飛ばされる衝撃からAMBACで体勢を立て直す。

追撃で迫っていたドラグーンは、デスティニーのビームライフルによる援護と光の翼による加速で回避に成功した。

 

 

(これだっ、まるでシールドバリアをすり抜けて攻撃してくるかのような攻撃力っ、これも単一仕様能力なのかよっ!)

 

 

体勢を立て直した簪を援護する為に、ビームライフルとクラレントをビームライフルモードに切り替えてシーゲルに放つ。

だが、そのビームをクイックな反応を見せたスパイクドラグーンは回避して見せた。

一旦全てのドラグーンが【コーディネーター】の腰部に存在したドラグーン格納部位に格納され、鋭利な装甲部位へと変わる。

 

 

(せっかくエネルギーが全回復したのに、ドラグーンを一基も落とせなかったか……けどどういうことなんだっ?)

 

 

紅藤が発動させた【絢爛舞踏・改】の効力は、メンデル内のデスティニーと飛燕にも届いていた。

そのお陰か、シーゲルとの戦闘を開始して数分がたっているが、まだ9割程度残っている。

 

そんな中、真の心中に疑問が浮かぶ。

 

 

(シーゲル・クラインがドラグーン使えて……それどころか、こんなに強いだなんて……っ!)

 

 

真が疑問に思うのも無理はない。

 

自分達がISに搭乗して機体を自由に操れるのは、ISのイメージインターフェースと併せてMSパイロットであったからだ。

しかし彼の記憶の中ではシーゲル・クラインはそもそもMSパイロットなどの戦士ではなく、あくまで政治家である。

 

そんな人間が強力な機体を乗りこなし、扱うのに先天的な適正が必要となるドラグーンまで操って見せた。

【S.E.E.D.】が発動している今の自分と、国家代表候補生である簪を相手取って互角以上。

少なく見積もっても国家代表レベルであり、先に倒したラクスアウレフをも上回っているようにも感じている。

 

 

(ドラグーンもまるでレイやコートニーさん、劾さんと戦ってるみたいだった……一体どうなってるんだっ?)

 

 

戦友や歴戦の強者達と同レベルのドラグーン操作能力。

深まる謎に、真の眉間の皺が深く刻まれていく。

相対するシーゲルはと言うと、納得したように頷いた後口を開いた。

 

 

『ふむ、ドラグーンとはこういうものか……存外、【ライリー・ナウ】を支援したのは私にとって益のあるものだったね』

 

『真っ、今っ、ライリーってっ!』

 

『ライリー、いや、クルーゼを支援したのはアンタ達なのかっ!?』

 

 

シーゲルの口から出た名前に、二人の顔に驚愕が浮かぶ。

 

 

『その通り。まぁ、彼女、いや、彼には機体面の支援をしただけだがね。海洋プラントを使った作戦を考えたのは彼自身だ。その見返りに彼等の機体の稼動データを受け取っていた。この【コーディネーター】にも彼の戦闘データから得られた技術が組み込まれているのだよ』

 

『っ、単一仕様能力だけでも、沢山あるのに……なんて無茶苦茶な機体っ』

 

 

思わず簪も毒づいてしまう。

それに気づいたのか、シーゲルは柔和な笑みを浮かべて続ける。

 

 

『私の娘のカーボン・ヒューマンである彼女達も役に立ったよ。カーボン・ヒューマン技術の確立に君達の力の底上げ、十分に役目を果たしてくれたと言っていい』

 

『力の……底上げ?』

 

『そう。すでに最も再現度が高かったアウレフを含めた上位ナンバーの娘達は君達の仲間によって倒されている。残っているのは下位ナンバーの娘達しかいない、そう遠からずラキーナ君とアスランに倒されるだろうね』

 

 

シーゲルが全く焦った様子を見せずに告げる。

同時に開く空間投影ディスプレイ。

 

 

『そいつの言うとおりだよ、あっ君』

 

 

それは戦艦イズモで指揮を取ってくれている、束からのプライベートチャンネルを用いた通信だった。

 

 

『カナ君やラキちゃん、いっくん達がラクスのカーボン・ヒューマンと無人機達を撃破してくれてる。カナ君やラキちゃんの証言からラクスたちには番号が振られてたみたい。アウレフ、ヴェート、ギメル……ヘブライ数字の番号だね。使ってる能力もそのナンバーのラクスが使ってたものを解析して機能として搭載してるんだと思う、カナ君達が撃破したのと同じだから』

 

 

束のその言葉と同時に、コーディネーターが戻していたドラグーンは腰部装甲部分から切り離され、次々と展開されていく。

 

総数は二十基。

【コーディネーター】に装備されている全てのドラグーンが切り離されていた。

 

 

『さて闘争と言う糧はこれで十分。後は十分に育った君達と言う【種】を収穫するだけだ』

 

 

シーゲルの言葉に、真は肌が粟立っていた。

戦士として戦い抜いた彼だからこそ分かる寒気。

 

それは絶対的な力が襲い掛かってくる瞬間の寒気。

フリーダム(キラ・ヤマト)との死闘でも何度か感じた、寒気。

 

突如として、メンデルの研究区画が振動を開始した。

振動と共に、機体のハイパーセンサーが周囲を取り巻く高エネルギー反応を次々と検知し始める。

高エネルギー反応を検知した物体、それはシーゲルが展開したドラグーン。

 

その全てが、既存のISに搭載可能な光学兵器を全力駆動させても到底及ばないエネルギー量を示していた。

 

 

『っ、あっくん、簪ちゃんっ、すぐに回避してっ、とんでもないのがくるっ!!』

 

 

プライベートチャンネルを通じて、二人の周囲に高エネルギー反応を突如として検知した束から声が上がる。

 

 

――瞬間、光が研究区画の全てを多いつくし、爆発音が木霊した。

 

 

周囲にあったシリンダーが光の熱で融解し、研究区画の壁を光の刃が切り裂いていく。

コロニー内にも被害がでており、数少ない居住区が溢れた光の刃によって切り裂かれていた。

 

パラパラと壁の破片と残骸、粉塵が宙を舞う。

先の攻撃に使用したコロイド粒子によってハイパーセンサーも一部分が麻痺している。

 

 

『……ふむ』

 

 

数分たって宙を舞っていた粉塵がようやく落ち着き、周囲のコロイド粒子の減退と共に視界が回復する。

 

回復した視界に映るのは各部装甲が破損して地に伏せた飛燕と、ダメージを負いながらも健在のデスティニーの姿。

その光景を見て笑みを浮かべたシーゲルは口を開いた。

 

 

『やはり……君は切り抜けて見せるか、飛鳥君。先の攻撃はこのメンデルから直接エネルギーを吸い上げて使用する、【コーディネーター】最大の攻撃だったのだがね』

 

 

先程真と簪に与えられた攻撃の正体は展開した二十基のドラグーンを用いた超高出力ビーム砲撃。

 

単純だが、その範囲と威力が桁違いだった。

一本一本のビームがISの機体を飲み込んで余りある太さであり、かつてのフリーダムやストライクフリーダムのフルバースト攻撃のような一発ずつのようなものではなく、連続して継続的に放たれたものだ。

 

 

例えるのならば、機体を飲み込んで余りある太さの超出力ビームサーベルが面で襲ってくるということだ。

 

 

これを切り抜けられたのは真の反応速度はもちろんのこと、デスティニーの単一仕様能力がビームに対するアドバンテージを持っていたことが理由だ。

回避が不可能だと判断した彼は、自身に迫るビームを咄嗟にヴァジュラビームサーベルに取り込んで攻撃と相殺させ防御した。

しかしいくらデスティニーとはいえ無傷ではなかった。

 

その理由は出力の差が圧倒的だからだ。

コロニーを稼動させる莫大なエネルギー全てをたかがIS一機が受け止められるはずもなく。

 

防御に使用したビームサーベルはほぼ全ての部分が消滅しており、柄の一部分が残っている有様で、腕部マニピュレータの装甲も融解していた。

腕部のTP装甲が発動していたためか機能については問題もなく、エネルギーはまだ7割程度残ってはいるが。

 

当然真だけではなく、簪も回避行動に移っていた。

だがいくら飛燕でも逃げ場がなければ、どうしようもなかった。

 

そのためデスティニーと同じくバルムンクを最大稼動させて【盾】として利用した。

しかし飛燕にはデスティニーの【運命ノ翼】のような【単一仕様能力】も存在しておらず、真も援護が間に合わなかった。

 

バルムンクは超高出力ビームサーベルによって融解し、【シールドバリア透過能力】によってほぼダイレクトにその熱量は飛燕の装甲へと伝わっていた。

胸部や腕部、脚部装甲のほとんどが融解し、ISスーツも一部が焼かれて軽度の火傷も見えている。

 

 

『はぁっ、はぁっ……くっ……!』

 

 

先の攻撃を切り抜けた興奮からか耳の奥が熱く、呼吸が荒い。

真はすぐにでも倒れた彼女の元に駆けつけたかった。

しかし、それを許してはくれないだろう。

 

発射して解け落ちたドラグーンと入れ替わるように、【コーディネーター】の拡張領域から追加で射出展開されたドラグーンが、依然としてこちらを狙っているのだから。

 

 

『あっ、あんなのを連射できるなんてっ、あっくん、逃げてぇっ!!』

 

 

チャンネルから聞こえる束の悲鳴と共に、ドラグーンから再び光が溢れる。

次の砲撃までの残りカウントは僅かだ。

 

先程の砲撃で、研究区画の壁が破壊されており人工の空から差し込む光が、施設に射している。

本来ならばVLユニットと個別連続瞬時加速を駆使して、破壊された壁から外に脱出して回避に移るのが最善手だった。

 

だが真は、回避よりも他の事を優先した。

視界の先で、倒れる大切な人を放っておけるわけがない。

 

 

『これでチェックだ』

 

 

紅い光の翼が圧倒的な光の前に立ちふさがる。

最も大切な人の壁となる為に。

 

――シーゲルの声など、今の真には全く聞こえていなかった。

 

 


 

同じ頃――

 

青く輝く水の星、地球の衛星軌道上に存在する日出工業が建造した日本の軍事用宇宙ステーション【アメノミハシラ】

現在そこから2機のISが出撃しており、自機のハイパーセンサーをフル稼働させて周囲の警戒を行っていた。

 

 

『異常なし、っと』

 

 

黒の装甲と背部の大型ビームブレイドが特徴であるIS【ガイアガンダム】を駆る瀬田利香が、機体から齎された情報を処理して、つぶやいた。

 

背後にはトリコロールカラーのIS、背部にはドラグーンシルエットを装備した【インパルスガンダムMK-Ⅱ】、搭乗者である布仏本音は静かにうなずいた。

その様子に、利香はクスリと笑みを浮かべた。

 

 

『肩の力入れすぎだよ、本音ちゃん』

 

『でも、いつ何が起こるかわからないので……』

 

 

普段の緩い雰囲気を微塵も感じさせない、簪曰く、真面目モードの真剣なまなざしで利香の言葉に返す本音。

 

 

『アメノミハシラのレーダーはもちろん、地上で支援してくれている人たちもいるわけだし、何かあればすぐにこっちにも通信が飛んでくるから……そんなに肩の力を入れていると、こっちゃうよ。本音ちゃん大きいし』

 

 

現在利香や本音達、防衛組はアメノミハシラや地上の支援国家と協力して警戒に当たっている。

その理由はもちろん先のニュートロン・ジャマー投下を筆頭とした、シーゲル一派の行動だ。

 

アメノミハシラのレーダーを最大限稼働させ、日本を含めた地上の支援国家の警戒網を利用して地球全域に監視体制を敷いている。

 

この警戒網に何か引っかかれば、アメノミハシラからミーティアを射出、それを受け取った出撃しているISで迎撃に向かうし、イギリスではエーカー少佐を筆頭に戦闘機部隊がスクランブル準備を整えて待機してくれている。

 

なおアメノミハシラで待機している、チェルシーやアイリス、ジブリルを含めた防衛組とは3時間シフトで交代していた。

 

 

『……そうですね』

 

 

利香のセクハラめいた冗談は聞かなかったことにして、ふぅと深呼吸した本音はそのまま遠く星々が輝く宇宙空間を見つめる。

その先は、はるか遠いL4宙域――

 

 

『真君と簪ちゃんたちが心配?』

 

 

本音の視線の意図を見抜いた利香が尋ねる。

少し照れたような表情でコクリと、本音はうなずく。

 

 

『大丈夫、みんな無事に戻ってくるよ』

 

 

利香はそう言って優しく微笑む。

その笑みにあふれているのは信頼の感情だ。

 

 

『私の知ってるスーパーエース君が一番強い時ってわかる?』

 

 

スーパーエース君。

それが誰を指しているのか本音は一瞬きょとんとしたがすぐに理解した。

自身が届かぬ想いを向けた男性、自身の主を支えてくれた人。

 

 

『彼はね、誰かを守るときが一番強いんだよ』

 

 

利香はそう言って本音と同じように、はるか彼方の宇宙に視線を向ける。

 

 

(……真君、簪様、無事に……戻ってきてください)

 

 

利香の言葉を聞いた本音はうなずきながら、再度視線を宇宙に向けた。

 

 


 

 

『うぉぉぉぉぉっ!!!』

 

 

咆哮と共に、【クラレント・ビームサーベル】で超高出力ビームサーベル群を受け止めているデスティニー。

【運命ノ翼】を最大稼動させており、溢れる光の翼は、障壁のように背後で気絶している簪を守っていた。

 

だが、先程攻撃を受け止めたビームサーベルと同じ現象が左掌のクラレントにも起こっていた。

圧倒的な熱量を受け止めているためか、ビームコーティングされているマニピュレータが融解を始めており、通常装甲もすでに焼き切れ内部フレームとTP装甲が剥き出しになっている。

TP装甲が稼動しているお陰か、機能停止には至ってはいないが時間の問題である。

 

 

(ぐっ、うぅっ……っ!)

 

『真っ、まずいよっ、このままだとっ!!』

 

 

真のみに聞こえるデスティニーが悲鳴に近い声色で警告を告げる。

事実、機体のエネルギーは急激に減少している。

【絢爛舞踏・改】で回復したお陰で先程まで7割程残っていたエネルギーはすでに5割を下回り、減少を続けている。

 

 

『分かってるっ、分かってるさぁっ!!』

 

 

左腕部の【クラレント】で辛うじて防御を続けながら、空いている右手でコンソールを高速で叩き出す。

 

 

『単一仕様能力でクラレントとVLユニットを直結っ、余剰エネルギー放出経路構築っ、TP装甲にエネルギーを伝達っ、完了っ!!』

 

 

チラリと背後の簪に視線を移す。

先程から気絶している彼女だが、それ以上の傷はない。

その事実が真に不思議と力を与えていた。

 

コンソールへの入力が完了すると、押されていただけの状況が変化し始めた。

光の翼が少しずつ大きく、障壁としてより巨大に展開されていく。

 

真が行った操作は単純だ。

 

デスティニーのクラレントと、VLユニットを【経路】にしてエネルギーを受け流しているのだ。

これはデスティニーの【単一仕様能力】がエネルギー操作/吸収能力であること、クラレントという内蔵武装があってはじめて可能なことであった。

 

 

『がぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

 

絶叫にも近い咆哮を上げて防御し続ける。

彼の体感で数時間にも感じた数秒が過ぎ去ると、研究区画を包んでいた光が収まっていく。

ハイパーセンサーを常に脅かしていた莫大な熱量もまるで嘘のように消え去っていた。

 

 

『受け流しきったよっ、真っ!!』

 

『……っ!!』

 

 

苦悶の表情を浮かべる真であったが、彼女の言う通り、超高出力ビームサーベル群を受け流しきって見せたのだ。

だが代償は大きかった。

 

無理やり機体を経路として使用したのだ、TP装甲を採用しているデスティニーとはいえ不具合が起こらないはずがない。

光の翼を障壁として発生させていたVLユニットは左翼の5割が消滅。かろうじて残っているエネルギー噴出孔が融解し、右翼側も過剰な負荷から火花が迸っている。

左腕部マニピュレータは内部フレーム含めてほぼ全てが消滅しており、生身の腕が露出して火傷が広範囲に広がっていた。

 

 

『……素晴らしいっ』

 

 

シーゲルは心から感心したように、彼の姿を見つめている。

呼吸は荒く、身体には決して軽くはない傷を負いながらも戦意は欠片も衰えを見せず燃え上がっている。

 

二射目に使ったドラグーンが機体本体に戻ることなく解け落ちていくことなど、歯牙にもかけていない。

 

 

『人のっ、S.E.E.D.の可能性っ、やはり間違ってはいなかったっ、全ての人がその力を得ることができれば、相互理解も可能になるっ、人の世の平安は約束されるっ!』

 

 

狂喜の声をあげたシーゲルを睨み付けながら、少しでも体力を戻す為に大きく深呼吸を繰り返す。

それと共に勝つための行動を移す。

 

 

『束っ、さんっ、はぁっ、聞こえてっ、ますかっ?』

 

『……うんっ、聞こえてる。バイタルも機体の状況もちゃんと見れてるよ』

 

 

先の攻撃によってチャンネルも乱れていたのか、ようやく通信がクリアに聞こえるようになった。

 

 

『……デスティニーのっ、機体状況はっ、どうですかっ?』

 

 

デスティニーの機体状況を確認するが、現状はかなりダメージが大きいと言わざるを得ない。

残存エネルギー量は3割程度であり、武装も破損したり喪失している状況だ。

 

だが彼の声色は諦めた者のそれではなかった。

 

 

『あっくんっ、何をする気なの?』

 

『……奴に勝つっ、可能性がある選択をっ、するだけです。だからっ、能力についてっ、教えてくださいっ』

 

 

深呼吸を繰り返して呼吸を整えながらも、有無を言わさない声色に少しだけ言葉に詰まる束であったが彼の言葉を信じて口を開く。

 

 

『……分かった。今からデータを送るから、すぐに確認して』

 

 

束の返事と共にデスティニーの元へこれまで戦闘を行ったヴェートを筆頭にした、【カーボン・ヒューマン:ラクス】の機体/能力データが送られてくる。

高速で視線を動かして内容を把握する。

能力の詳細、機体特性、どのように攻略したのかを高速で頭に叩き込む。

 

深呼吸を繰り返して呼吸が落ち着いてきた真は、最後に大きく息を吐いた後にある決断を言葉にした。

 

 

『……デスティニー、ISの生体保護を最低レベルまで落としてくれ』

 

『っ、真っ、それって……っ!?』

 

 

真がそう静かに、デスティニーに告げると彼女も何を言いたいのかを理解して戸惑いの声を上げる。

 

 

『……カットした生体保護分のエネルギーを、右のクラレントとVLユニットに回してくれ。左翼の微調整、できるだろ?』

 

『だっ、ダメだよっ、そんな状態で被弾したら、満足にシールドバリアさえ張れないんだよっ!?』

 

『っ、あっくんっ、そんなことしたら身体が持つわけがないよっ!?』

 

 

デスティニーの声は聞こえていない束だったが、真の提案を聞いて耳を疑った。

真がやろうとしていること、ISの開発者である束にはよく分かったからだ。

 

 

『分かってるっ!だけどこのままだと、こっちが負ける……勝つためにはこれしかないんだっ!!』

 

 

地上に落下したした飛燕、簪に目を向ける。

搭乗者である彼女は気を失っているが、ISは展開されたままだ。

 

だが、このままの状況ならばこちらの敗北は必至。

その結果は自分も含めて彼女も、シーゲルの狂気の計画に組み込まれる。

 

それだけは容認できない。

 

彼もこの提案が無茶であることは重々承知だ。

負けるわけにはいかない、その為には限界を超える必要がある。

――何かを犠牲にしても。

 

 

『こんなこと頼めるのはデスティニーしかいないんだ……頼む……っ!』

 

 

真の言葉に、デスティニーは息を呑んでから苦渋の表情を浮かべた。

 

 

『卑怯だよ、私が……真に頼まれたら断れないって知ってくるせに』

 

『……』

 

 

無言で促してくる彼に、デスティニーは決断を下した。

 

 

『……生体保護に使用しているエネルギーを最低レベルまで低下。右腕部クラレントへのエネルギー供給、破損した左翼VLユニットの最適化を開始……っ!』

 

 

デスティニーの声とともに、呼吸で吸い込む空気が薄くなったのを感じる。

展開されているシールドバリアも薄くなったのか、肌を刺す刺激のようなものも感じ始めた。

 

簪を護るために半壊した左翼から再び、少しずつ紅い光が溢れ出した。

抜け落ちた羽のように、少しずつ、少しずつ溢れるその光は、まるで宝石のように煌く、美しい紅色。

 

右腕部クラレントも調整が完了したのか、ビームサーベルモードで発振されている。

 

 

『シールドバリアの出力低下っ、機体状態の変化っ、デスティニーが調整したの……っ!?』

 

『束さん、簪のバイタルは、どうですか?』

 

 

薄くなった空気で呼吸が辛いが、チャンネルが繋がったままの束に尋ねる。

 

 

『……大丈夫、気絶してるだけ。機体の展開が解除されないのは……』

 

『【飛燕】が守ってくれているんだ……ありがとうございます、安心しました』

 

 

そう言って真は笑顔を浮かべた。

本当に心から安堵した、年相応にしか見えない少年の顔。

 

だが次の瞬間には、鋭いまるで刃の様に目を尖らせた戦士の表情に変わっている。

そんな表情を見せた真を、束は止められなかった。

 

事実、今シーゲルを止められるのは、相対している真しかいない。

 

 

『……勝ってよ、絶対に』

 

『はいっ』

 

 

デスティニーはその最も特徴的な光の翼を大きく翻した。

 

 

その直後、【コーディネーター】の左肩装甲が吹き飛ばされた。

 

 

『っ!?』

 

 

狂喜の表情から一変したシーゲルは衝撃から体勢を崩す。

直後、背後からの衝撃に弾き飛ばされる。

 

背中を袈裟切り気味に切り裂かれ、非固定浮遊部位であるVLユニットから溢れていた光の翼は、切れた蛍光灯の様に発振を停止して残骸が落下していった。

 

 

(何が起こった?)

 

 

突如として自分を襲った現象に疑問が沸くのは当然だろう。

冷静な思考能力も保ったままだったのは、C.E.で激動のプラント黎明期をその才覚を持って切り抜けた賜物だろうか。

彼の思考に追従するように、機体のハイパーセンサーがある存在を検知した。

 

それは彼の相対的上方に存在していた、それは【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】と【飛鳥真】

搭乗者である真は、修羅の様な表情でこちらを睨み付けていた。

 

先の攻撃でも損傷が少なかった右翼からは通常通りの光の翼が広がっているが、損傷が大きい左翼からはおぼろげな【陽炎】の様に淡い光が、胸部を中心に機体全体に揺らめいていた。

 

シーゲルがデスティニーと真の存在を認知できたのはほんの一瞬。

次の瞬間には、彼の姿はシーゲルの視界から消えていたからだ。

 

そして再び身体を奔る衝撃。

今度は残ったVLユニットである右翼部が断ち切られていた。

 

 

『ぐぅっ!?』

 

 

AMBACで姿勢制御を行い周囲をハイパーセンサーで探る。

デスティニーは、シーゲルの左後下方の位置にいた。

 

だが、その反応が一瞬で喪失する。

いや、正確には喪失はしておらず拾えてもいないわけではなく、デスティニーの反応を途切れ途切れに検知はできている。

しかし検知している座標データがありえないものであった。

 

左後下方に存在していたデスティニーの反応は、1秒にも満たない時間でシーゲルの正面上方に移動しているのだ。

さらにそのコンマ数秒後には、シーゲルは再び衝撃によって弾き飛ばされ彼の背後に反応が移動していた。

 

 

(速いっ!こちらのハイパーセンサーが追いきれていないっ!?)

 

 

ハイパーセンサーの捕捉が追いつかない理由。

 

 

(いや、違うっ、速さも理由のひとつだがコロイド粒子反応っ、ということはミラージュコロイドを複合的に使用してかっ!?)

 

 

半壊しているとは思えないほどの機動力に加えて、今のデスティニーが行っている無茶苦茶な戦闘軌道。

これとデスティニーのVLユニットが持つミラージュコロイドが複合され、ハイパーセンサーの錯乱効果を生み出しているのだ。

 

 

(だがっ!!)

 

 

マニピュレータを広げ、掌に装備されているビーム発射口から薙ぎ払う様にビームを放つ。

 

 

『いくら機動力に振り切っていようがっ!!』

 

 

ハイパーセンサーは碌に機能していない。

だが大まかな位置を探ることはできる。

 

ゆえに【面】の攻撃を放つことで、デスティニーを捉えるのがシーゲルの狙いであった。

その狙いは的中し、残像を残しながら移動していたデスティニーと思われる【影】をビームに捉えることに成功した。

 

ビームの照射が終わり、光が消える。

いや、消えてはいなかった。

 

 

(おそらくあの機動力は……機体の性能を調整して実現させている、言わば【諸刃の剣】。ISのコアと意思疎通ができる彼だからできるのだろうが、その程度で……っ!?)

 

 

シーゲルの表情から笑みが消えた。

彼が放った翡翠色の光の中から、まるで何事もなかったかのように、デスティニーが現れたのだ。

ゆらゆらと揺れる紅の光は【陽炎】、いや【炎】のようにも見えた。

 

 

『……もう、アンタに言うことは何もない。アンタ達が押し付けようとしている運命なんてっ、これでっ、終わらせるっ!!』

 

 

真の姿が再び、シーゲルの視界から消えた。

 

 

(っ、そうかっ、あの陽炎の、炎のように見えるエネルギーはVLユニットから溢れている【コロイド粒子】かっ!)

 

 

シーゲルの予想は的中していた。

今のデスティニーが纏っている炎のようにも見えるエネルギーは、破損した左翼VLユニットから零れ落ちているエネルギーである。

それを人格コアであるデスティニーが機体に纏わせているのだ。

 

この【炎のドレス】にも見えるエネルギーによって先のビームを拡散、無効化させたのだ。

簡易的な【ゲシュマイディッヒ・パンツァー】に近く、先程のビームを無傷で切り抜けることができた。

だが、あくまでそれはシーゲルからの攻撃を無傷で切り抜けただけ。

 

今のデスティニーはシールドバリアを自身の武装のエネルギーで削り続けているのに等しい。

つまり凄まじい速度でシールドエネルギーが減少している状況だ。

 

 

(束さんから教えてもらった能力は全部、【搭乗者が己の意志で発動させる必要があるタイプ】、その予測は当たってた。こちらを捉え切れてないから使ってこないんだっ!)

 

 

高速機動を続けている真であったが、機体のエネルギー以上に消耗しているものがあった。

それは彼の体力だ。

 

 

(っ、まずいっ、これ以上は身体がっ、持たない……っ!!)

 

 

ISのハイパーセンサーを振り切る機動力を実現させる為に、現在のデスティニーは生体保護を最低レベルに落としている。

その状態で高速機動を連続すれば、身体に悪影響が起こるのは当然であった。

 

しかもデスティニーのそれは通常のISの高速機動とは次元が違う、【超高速戦闘】だ。

彼の身体にかかる負担も桁違いに高い。

通常の生体保護レベルならば多少の負荷で済んでいたが、今は違った。

いくらデスティニーにあわせるために耐G訓練を積んでいても、耐え切れない限界値と言うものは存在する。

 

汗は滝のように流れており、内臓がまるで潰されたまま動き回っているかのように感じる異物感とこみ上げる嘔吐感。

全身の筋肉と骨は軋みを上げており、戦闘機動に入るたびに何かが切れたような、いや何かが切れる痛みが走る。

 

 

(まだだっ、俺はっ、こんなことでぇっ!)

 

 

すでに焦点が合わずに視界はぶれているが、それを補っているのはデスティニーの声と培った戦士としての感覚。

 

 

『真っ、下方向、距離は20mっ!』

 

(分かってるっ!!)

 

 

口に出して言葉で返す余裕など、今の真にはない。

だから行動で、結果を齎すだけ。

 

 

『ちぃっ!!』

 

 

拡張領域からドラグーンを二十基展開してデスティニーに向けるシーゲル。

全てがビームスパイクを発振させた【スパイクドラグーン】であった。

コロニーメンデルからエネルギーを吸い上げる先程のビームサーベル攻撃は、真にエネルギー受信装置を兼ねていたVLユニットを潰されているため使用ができないが、迎撃に用いることは可能だ。

 

迫るドラグーン二十基、その全てが生きているかのように真を狙う。

 

 

『がぁぁぁっ!!』

 

 

雄たけびを上げつつ、真は機体の速度をさらに上昇させる。

スパイクドラグーンなど、すでにデスティニーの残像すら捕らえることができていない。

 

そして右のクラレント・ビームサーベルをシーゲルの正面で振りかぶる。

 

 

『それを待っていたっ!!』

 

 

奇しくも同じ右のマニピュレータから発振されるビーム手刀【カラミティ・エンドMK-Ⅱ】

オリジナルのラクスやAIラクスが使用していた武装と同系統の後継武装が出力を最大にして展開されていた。

 

シーゲルが狙っていたのは、単純なカウンター。

スパイクドラグーンはあくまで陽動。

 

真が潜り抜けること程度今の彼ならば可能だと、シーゲルは信じていた。

そして確実に仕留めるために、自分の目の前に現れるだろうと言うことも。

 

 

互いの右腕に内蔵された武装がぶつかり合う。

 

 

 

だがぶつかり合う刹那、【クラレント・ビームサーベル】が内部から弾けとんだ。

 

 

 

通常のVLユニット使用時よりもさらに高い負荷に晒され続けた事と、【炎】にも見えるエネルギーがクラレントへの影響が予想以上に存在していた。

その影響で内部の回路がはじけとび、暴発が生じてしまったのだ。

 

 

『っ!?』

 

 

当然これは真やデスティニーにとっても、予想外の出来事であった。

 

 

『どうやらっ、【運命】の女神は私を選んだようだなっ!!』

 

 

突如起こった事態に困惑の表情を浮かべる真と、勝利を確信したシーゲル。

ビーム手刀が振り下ろされる瞬間、真の耳に届いた【声】があった。

 

 


 

 

デスティニーガンダム・ヴェスティージの右腕部クラレントが砕け散る数秒前――

 

 

『……っ!?』

 

 

撃墜され気絶していた簪の意識が戻った。

頭を振って起き上がり、状況を思い出す。

 

 

(真……っ!?)

 

 

上方で戦闘を続けている大切な男性の姿。

 

国家代表候補生の彼女は分かってしまった。

今の真が相当の負担を自らの身体にかけて戦闘を行っていることに。

 

シーゲルの機体の拡張領域から射出されたスパイクドラグーンを、デスティニーはその速度で振り切って接近。

右のクラレントが振り上げられるが、カウンターを狙っていたのかシーゲルも右腕部の武装を展開していた。

 

ぶつかり合う瞬間、砕けるクラレントと真の顔に浮かぶ困惑と絶望の表情。

 

 

――それを見た瞬間、彼女の身体は勝手に動いていた。

 

 


 

 

『しーんっ!!!』

 

 

彼にとって最も大切な、守りたい人の声。

同時にデスティニーへと飛来する大型の物体。

 

 

『うぉぁぁぁぁっ!!!』

 

 

クラレントが砕けて、生身の彼の腕が露出しているマニピュレータで【それ】を掴み取り、迫るビーム手刀を蹴り上げる。

特に格闘技に優れているわけでもない為、下方向からの衝撃に振られた手刀は簡単に弾き飛ばされて軌道を変えられてしまった。

 

 

『何っ!?』

 

 

変わった軌道で振り切られた体勢のまま、シーゲルは困惑の声を上げつつも反撃に移ろうとしていたが、遅かった。

目の前のデスティニーがその両手に【バルムンク】を構えていたからだ。

 

 

『これでぇぇぇっ、最後だぁぁぁぁっ!!!』

 

 

咆哮と共にデスティニーの持つ刃が迫り――

 

 

――【コーディネーター】の胸部を真正面から切り裂いていた。

 

 

 




次回予告

「Epilogue 断ち切られた因縁」


「……しばらく、ISには乗りたくないな」

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