【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
PHASE1 運命VS白き王①
進路調査が行われてから数日後――
3月 ブレイク号 トレーニングルーム
金属の擦れ合う音が一定のリズムで響く、ブレイク号の一室。
トレーニングルームとして様々な最先端のトレーニングマシンが設置されているこの部屋で、1人黙々とベンチプレスを続ける者がいた。
「186……187……188」
トレーニングウェアに身を包んだカナードが、一見細身に見えるが鍛え上げられた逞しい両腕でベンチプレスを用いたトレーニングを行っていた。
もちろんベンチプレスだけではなくサンドバッグを使用したスパーや、ランニングマシーンでの走り込み等も行っていた。
「198……199……200」
200で一度切り上げて合計350㎏のダンベルを専用の台座に置く。
その重量からか船体が少しだけ揺れた。
「だいぶ戻ってきたな。もう少し強度を上げるか」
感覚を確かめるように右こぶしを握りしめる。
先のクライン事件の際に切断された右腕はすでに治療も終えており、現在はリハビリ期間中であった。
利き腕である左腕に比べるとやはり筋力が衰えており、より強度を上げたトレーニングに励もうと、台座にかけてあったタオルで流れる汗を拭きつつカナードは思案する。
汗を拭き終え、一息つくとトレーニングルームのスライドドアが開き誰かが入室してきた。
「カナード様。お疲れ様です」
ゴシック服を身に着けた銀髪の美少女、クロエが手に持っていたドリンク容器をカナードに手渡す。
手渡されたドリンクを口に含み喉を鳴らして一気に半分ほど飲み干したカナードは薄く笑う。
「ありがとう、クロエ」
「はい。あっ、これからシャワーですか?」
「あぁ。一息入れようと思っていた」
再度口をつけて一気に飲み干して空にしたドリンク容器と、汗を拭ったタオルを肩にかけトレーニングルームから退室していく。
彼の後を追ってクロエも退室すると同時に、空間投影ディスプレイが展開された。
『やっほい、カナくーん』
ISのネットワークを使った通信を送ってきたのは、この船の艦長である天災、篠ノ之束。
白衣姿の彼女は自室から通信を行っているようであった。
『あらら、トレーニング中だった?いやー、束さん、汗流して身体鍛えてる男の子の姿って女の子にはドキっとするものだと思うんだ。くーちゃんはドキっとした?したよね?後でストロベリッた内容教えてねー!』
「たっ、束様っ!」
相変わらずのテンションでまくし立てる束と頬を赤らめたクロエに、ため息をついてカナードが返答する。
『それで、用件はなんだ?』
『あっ、ごめーん。こほん、実はカナ君にお願いがあってね』
『お願い……?』
うん、と束が頷き用件を説明していく。
それに伴いカナードの眉間の皺が濃く、強く刻まれていったことをクロエは見逃さなかった。
それに時間は多少前後して――
IS学園 学生寮 真の部屋
今日は真の部屋に一夏が遊びに来ていた。
IS学園の中では唯一同性の友人の部屋だ、遊びに来る回数は自然と多くなる。
もっともその友人である真に彼女ができたため、遠慮することも多かったのだが。
真はソファに寝転んで探偵小説を読んでおり、一夏は棚に並べられているDVDソフトを取り出してパッケージ裏を眺めていた。
ソファの目の前のテーブルに緑茶とポットが出されており、茶菓子で出していたポテトチップス等の菓子類はいくらか減っていた。
「なぁ、真」
「なんだよ」
「ライダーって全部がグロいわけじゃないんだな」
「あほか、お前が勝手にシーズン2借りてったからだろうが」
寝転んでいた真は読んでいた小説を閉じてげんなりしたような表情で起き上がる。
「俺や簪は、最初はマイルドなのを薦めようとしたのに、勝手にこれ借りるわ~ってお前が持って行ったのがピンポイントでグロいだけだよ」
「そっかぁ……すごいな、これ。ゲームと医者ってどう見ても合わないテーマなのに」
「おすすめだぞ。アフターストーリーとしてサブの話もあるし、終わったら小説もある」
「媒体多いなっ」
「持ってるから、読みたければそこにあるよ。簪の部屋なら戦隊やウルトラマンもあるぞ」
DVDソフトが並んでいる棚の横、小説や漫画本が収められている本棚に一夏は視線を移す。
綺麗に巻毎に並べられた本棚には確かに、ライダーと書かれている本が納められていた。
「うーん、また今度にするわ。まずは見てからだし」
「分かった。だけどシーズン1は持ってくなよ、あれもなかなかにグロいから」
一夏は真の言葉に苦笑しながら漫画本を数冊、本棚から取り出してソファに座る。
寝転んでいた真が起き上がっているため問題なく座れており、真はソファにもたれ掛るように座りながら小説を読み直していた。
そして数分、部屋は静寂が支配する。
真が再び読み進めている小説は終盤に差し掛かっており、探偵役の青年とその内弟子が密室殺人事件のトリックを暴こうとしているという山場であった。
そんな時、隣の友人が口を開いた。
「――なんで、整備科なんだ?」
開口一番、真面目なトーンで一夏がこちらを見つめていた。
小説に栞を挟んで目の前のテーブルに置く。
「誰に聞いたんだよ」
「千冬姉だよ」
「千冬さんかぁ……なんだかんだ、甘いよなぁ。あの人」
苦笑して頭を掻いてから、真が一夏に視線を向ける。
「……コロニー計画は知ってるだろ?」
「あぁ。日出で進んでる計画なんだろ」
真の口から出た計画について、一夏も多少は聞いている。
コロニー【メンデル】とは違うタイプの円筒型コロニー【ヘリオポリス】。
かつてC.E.で崩壊したコロニーであるが、この世界で日出工業が主体となって再建造を進めている計画だ。
頷いて答えると真が続ける。
「ずっと考えてたんだ。俺にしかできないことが何かあるのかって」
目を閉じて今までの戦いの記憶を思い出す。
オーブで戦火に巻き込まれ、ザフトのスーパーエースとして、そして傭兵として駆け抜けたシン・アスカとしての自分の人生。
「去年の夏ごろ、ちょうどオリジナルのラクスを倒した後に優菜さんから話をもらってたんだ。今後どうするのかを考えたうえで、それに乗ることに決めたんだ」
瞳を開いて、少しだけ苦笑している真を一夏は眺めている。
「搭乗者として国家の代表を目指すことはもちろん考えたさ、視野に入れてた。だけどそれは俺だけにできることじゃない」
ISに乗ることが嫌いなわけじゃない、むしろISに乗ることは好きな部類に入る。
だが自分でなければできない【何か】が他にあるのではないかと考えたときに、優菜から選択肢をもらった。
「コロニー計画に参加する為にISを中心とした技術を得る。進学も視野に入れて専門的な知識を身につけたいって思った。まぁ、それでもさんざん悩んで家族とも相談して、俺は整備科に行くことを選択したんだ」
「……」
真が一夏に説明を終えると、どういうわけか微妙な表情を一夏は浮かべていた。
何かを言い出せずに、無理やり抑え込んでいるかのような雰囲気を真は感じ取った。
「なんだよ、どうかしたのか?」
「……いや……真は、ちゃんと考えてるんだなって思ったんだよ」
「そりゃ、一応お前よりも長生きしてるからな。ぅ、いや違う、俺は16歳だ……39じゃない、16歳なんだ」
自身の年齢で自爆した真はそう言って苦笑している。
「……なぁ少しだけ、いいか?」
「ん?」
まだ何かあるのか?といった表情に変わった真に、一夏は決意して続ける。
「頼む真、俺と……戦ってくれっ!」
「はぁ?」
いきなりの一夏の提案。
それに話が見えず素っ頓狂な声を上げる真に、一夏の顔が赤面していく。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ、話が見えないぞ、一夏?」
「あっ、悪いっ、えっと……その……ちょっと待ってっ、説明するからっ、くそ、恥ずかしいなっ」
そう言って1分程度、一夏は自分の心を整理していく。
それを真は黙って待っていた。
「……俺はさ、ずっと……憧れてたんだ、真に」
恥ずかしさから顔が赤くなっている一夏が、必死に自分の中にある思いを言葉に変えていく。
「俺に?」
「あぁ。昔から助けてくれてた。そしてIS学園でも誰かを守る意味を教えてくれた。絶望していたときに真が言ってくれた言葉、嬉しかったんだ」
『お前が何を思ってるかなんて知らない! だけどお前は彼女を助けたいと思ったんじゃないのかっ!?』
『それは決して間違いなんかじゃない! それはお前だけが感じたもののはずだ! 誰かの真似なんかじゃなく!』
『【助けたい】と感じたことは決して薄っぺらなんかじゃないっ!! 俺も同じなんだよ! 俺は今ある命を、【花】を散らせないために戦ってるっ!それは俺が助けたいと思ったからだ! 俺自身が決めたんだ! だからお前も決めろよ、一夏ぁっ!!』
――VTシステム暴走事件の際、自分に投げかけられた言葉。
「皆の笑顔を守るために戦うんじゃなかったのかよっ!それともあれは嘘だったのかっ!?」
「確かにお前の生まれは他と違うかもしれない。けど笑って泣いて、死線を潜ってお前が見つけた信念は他の人間が、ましてやシーゲルなんかが決めたことじゃない……一夏、お前が自分で悩んで掴んだお前だけのものなんだよっ!」
「だからさ、立てよ。そしてシーゲルにぶつけてやれ。生まれなんて関係ない、俺は俺だ、これは俺の人生だってな」
――出生が普通の人間とは異なり絶望して折れかけた心を、救ってくれた言葉。
思い返そうとすれば鮮明に脳裏に浮かぶそれに頷いて一夏は続ける。
「……俺にしてみれば、真は千冬姉と同じ【憧れ】で目標なんだ。だから追いつきたいって、肩を並べていたい。心からそう思ってる」
「おっ、おう」
こそばゆいように真も少し照れたような反応をしてしまった。
そんな真を見て少しだけ笑みを浮かべた一夏が、続ける。
「……だからさ、今の俺が真にどこまで通用するのか知りたいんだ。こんなの俺のわがままだってのは分かってる。だけど……お願いだ、真っ!」
勢いよく頭を下げる一夏。
「……分かった、分かったよ。恥ずかしいなぁ、もう」
頬をかきながら芯は恥ずかしそうに言う。
照れているため赤面しつつだが、全く嫌ではなかった。
「……それでもし俺が勝ったら、搭乗者として進むことを考えてくれないか?」
その言葉を一夏は口に出せなかった。
本当はそう彼に伝えたかった。
しかし真も考えて、悩んで決めた道だと言っていた。
それを納得がいかないから、と自分の感情だけで否定することはできないし、したくない。
口から出そうになった言葉を必死に押しとどめた一夏は、切り替えるために口を開く。
「よかった……ただ手は抜かないでくれよ?全力で来てほしいんだ」
「分かってる、遠慮しないぜ?」
一夏に返事を返した後、スッと真が拳を目の前に掲げる。
一夏も右腕を上げて、こつんと拳同士をぶつけ合った。
それから数十分後。
真とのISバトルの約束を取り付けた一夏は、自室に戻っていた。
携帯を操作しており、ちょうどそれが終わったため顔を上げる。
「……」
携帯を机の上に置き、椅子に腰を下ろして一息入れる。
(真が選んだ道なんだ。俺がとやかく言うことじゃない)
納得がいかない気持ちは少しだけ残っている。
だがそれを頭を振ってかき消す。
友人が選択した道なのだ、それをとやかく言うことはできない。
そちらの感情のほうが大きい割合を占めているのだ。
(そういえば、簪さんは知ってるのかな。いや、知ってて当然か)
所属企業が同じパートナーとして、そして恋人として共にいる女性。
その人に真が相談していないはずがない。
きっと自分が知らない間にひと悶着あったとは思うが。
(……俺はやれるだけのことを、やっておくだけだな)
気持ちの切り替えはすでに終わった。
今は親友との戦いのために、全力を尽くそう。
「よしっ」
パチンと軽く顔を叩いてから立ち上がった一夏は、すぐに自室から出て行く。
同日夕方 整備室
アリーナに備え付けられたIS整備室に響く、小さな金属音。
それは人の手によってある物体が組み上げられていく音であった。
その最後のステップとしてスライド装填を行い、弾丸を装填させる。
「できたよぉ~!」
ゆるい女の子の声と共に作業台の上に自動拳銃が置かれる。
「っ、嘘だろぉっ!?」
その後数秒遅れて焦りと驚愕が混ざった男の声が響き、作業台の上に同じく自動拳銃が置かれた。
「いぇ~い!」
元気にピースをする作業服姿の本音とは対照に、同じく作業服姿の真は少し落ち込んだ表情を見せていた。
「マジかぁ、1回目と2回目は感覚を思い出す為。3回目は本気だったんだけどなぁ……」
「本音の方が5秒速かったよ。これで3連勝?」
空間投影ディスプレイのタイマーを止めて、計測を終了したISスーツ姿の簪が真に言う。
簪の言うとおり、この銃組立競争は3戦目であった。
全ての勝負で本音が、真よりも早く拳銃を組み上げて勝利していた。
1戦目と2戦目は傭兵や軍人であったときの感覚を思い出すことに集中していたが、3戦目はそのおかげかスムーズに動くようになっており、勝利するつもりで策も用いて本気で望んだ。
具体的には組立の途中で直接チャンバーに弾丸をこめることで、マガジンを入れることとスライド装填のステップを短縮させたのだ。
しかしそれでも結果は、本音の勝利であった。
(本音の整備士としての腕って、ヴィーノに並ぶんじゃないか?得意分野は違うだろうけど)
ヴィーノ・デュプレ。
自身が最も信頼していたメカニックと比較しても、本音の整備の腕は遜色ないと感じる。
最もヴィーノはメカニックとしては整備よりも設計の方が得意と言っていたのだが。
「ふっふっふっ~、伊達に整備はしてないよー、あすあす」
「自信はあったんだけどなぁ。負けました」
肩をすくめて真はため息をつく。
「これから色々と教えてあげるから~」
「そうだな。銃ならともかく、ISの細かな構造とかパーツがどう組み合わさってるのか、表面上しか知らないし……よろしくお願いします、本音先生?」
「まっかせて~!あ、これ片付けてくるね~」
作業台の上に置かれた2丁の拳銃から装填された弾丸を抜き取り、専用のホルスターに収める。
キャスターのロックを解除して、そのままゴロゴロと移動させていく。
「真が整備科……やっぱりまだ慣れない感じがあるね」
2人きりになった後、簪が言う。
「そんなにか?」
「うん。最初に話を聞いとき、私も本当に驚いたから……お姉ちゃんもお父様も話したら驚いてた」
簪の言葉通り、彼女を含めて姉である刀奈や蔵人も、真は搭乗者としての道を歩むと思っていた。
彼女の言葉に真は苦笑する。
「これからISに乗る機会が全く無くなる訳じゃないんだけどなぁ」
「うん。一応確認だけど、専用機であるデスティニーどうなるの?それに、真はこれからも学園にいれるんだよね?」
「あぁ」
苦笑する真は少し不安そうな表情になっている簪に説明する為に、一拍あけてから続ける。
「俺が整備科に行きたいって言う理由を優菜さんに話してあるんだ。優菜さんもそれに納得して、俺の立場を色々と考えてくれて行動してくれたんだ」
真が進路希望を出す際に、まずは直属の上司である優菜に相談していた。
その際に優菜にも驚かれていたが、真の話した理由に特に疑問もなく、納得してくれていた。
そこから彼女の行動は早かった。
国際IS委員会へ真の進路についての報告と併せて、取引を行ったのだ。
優菜が用意した取引材料は【ISの宇宙空間での稼動データ】であった。
主に歌姫の騎士団やシーゲル一派との戦闘で得たデータを一部編集し、戦闘部分のみ削除したデータであるが取引材料としては十分の効果を上げた。
その理由はこの世界の宇宙開発の遅延だ。
巨大なISであったエクスカリバーという例外は存在しているが、コロニーや月面都市などは存在しておらずC.E.に比べれば雲泥の差だ。
そこにISの宇宙での稼動データを渡す。
これにより宇宙開発のスピードも飛躍的に上昇させることが可能だろう。
併せて、コロニー計画についてに真が参画予定であることも、委員会側に彼の進路を納得させる理由には十分であった。
宇宙での稼動データもコロニー計画の進行と共に増える。断る理由もないだろう。
優菜が行ってくれた様々な対応に、真は深く感謝していた。
「だからデスティニーが俺から没収されることも、俺がIS学園から追い出されることもないって」
「……うん、よかった」
説明を終えた真に簪は微笑む。
「そういえば、ラキーナも整備科だって聞いたな」
「そうなの?」
「あぁ、直接アイツから聞いたんだ」
数日前に、ラキーナとの会話の中で彼女もまた整備科を志望していると聞いた。
キラ・ヤマトであったころからギーク気質のある工学生であったと、いつかアスランに聞いたことがあった。
そもそもプログラミング技術等は自分よりも遥かに上であるし、そこまで違和感を感じていなかった。
「分からないことがあれば本音先生かラキーナに聞けばいい。加えて束さんだっているんだ。気が楽でいいなぁ」
そういった後、真はぐっと身体を伸ばす。
それと同時に、片付けを終えた本音が戻ってきた。
「そういえばあすあす、おりむーと決闘するって聞いたけど、本当?」
「え、そうなの?初耳」
「……どっから洩れたんだよその情報。一夏から頼まれたの今日なんだけど」
一気にジト目になった真の表情を見て、本音が続ける。
「噂話になってるよ~?」
「……まぁ、本当だけどさ。マジでどっから洩れたんだろ」
一夏から頼まれた決闘について、真は簪と本音に伝える。
「成程。それって男の子の意地、ってやつ?」
アニメや特撮ではそういった展開がないわけではない。
むしろ多いため、理解を示した簪が頷く。
「……俺にそう言ってくれるのは本当に嬉しいって思うけどな」
「織斑君強くなってるよね、私から見てもそう思う。勝算はあるの?」
簪の言葉に、真は――
「アイツが俺のこと憧れだって言ってくれるのは嬉しい。けど、まだ負けてやるつもりはないよ」
――そう、強気の笑みを浮かべて返答した。
真と一夏の決闘は、この日からちょうど1週間後。
学園が春休みに入るのと同日に行われることとなった。
次回予告
「PHASE2 運命VS白き王②」
『この瞬間を、待っていたんだーっ!!』