【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE2 運命VS白き王②

IS学園 一夏の部屋

 

時間はあっという間に過ぎ、1週間が経過した。

学園は修了式を終えて、春季休暇に入っていた。

 

式自体は午前中に終了して、部屋に戻ってきた一夏は洗面台の前で鏡を見つめていた。

映るのは自分の顔、少し隈ができているように見えるのは緊張から昨日寝れなかったためだろう。

おかげで午前中に何度もあくびをしてしまった。

 

蛇口から流れる水を掌で掬い上げて、顔をつける。

冷たい水が意識をはっきりと起こしいくのを感じる。

数度繰り返してタオルで顔の水滴を拭う。

 

ソファに掛けていた制服の上着を掴んで袖を通した一夏は、最後にパンッと頬を叩く。

先程まで意識の底にあった倦怠感はすっきりと拭われていた。

 

 

「……よしっ」

 

 

気合を入れて自室から出て行く一夏の足取りに迷いはなかった。

 

今は己の力をにぶつけるだけだから。

受け止めてくれる、目標である友人に。

 

 

それから数十分後、第3アリーナ 観客席

 

 

「……むぅっ」

 

 

座りながらピットの方角をチラチラと眺めている箒は、落ち着かない様子で小さく呻く。

落ち着かないのに合わせて表情には隠しきれていない怒りの感情が溢れていた。

 

隣に座っている鈴は、先程からこの調子である友人に小さくため息をついてから口を開いた。

 

 

「箒、いい加減に落ち着きなさいよ」

 

「鈴っ、しかし……っ!」

 

「アンタの気持ちも分かるわよ?でもね、一夏が集中したいって言ったなら仕方ないじゃない」

 

 

そう、本来なら箒達は一夏が使用する予定のAピットで彼を鼓舞する予定であった。

だが、一夏が集中したいと、彼女達に伝えたのだ。

本当に申し訳なさそうに、だがそれ以上に真剣な声色であったため箒達は二つ返事で返したのだが。

 

 

「それは、そうだが……っ」

 

「女には分からない、男の子の意地ってやつよ。アイツにとってこの決闘はそれだけ大切なの。赤月もそう思うわよね?」

 

 

鈴の言葉と同時に、箒の左目の虹彩が赤く染まる。

先までムスッとしていた箒の表情は、一気に破顔して笑みを浮かていた。

 

普段の箒からはイメージできない満面の笑み。

だがどことなく幼いイメージを感じるのは気のせいではなかった。

 

 

『私もリンと同じかなー。というか、オリジナル……じゃなかった、箒は一夏があれだけカッコよかったのに納得してないの?』

 

『それは……納得していないわけじゃない、そばにいたいと思うのは当然だろう?』

 

 

まるで箒が一人で二役を演じているかのようだが、彼女はクライン事件を経て覚醒した赤月の人格と、二重人格の様に人格の切り替えができるようになっていた。

彼女のIS【紅藤】のコア人格【赤月】が会話するためには、彼女の身体を使う必要があるため自然とこのような形になってしまっているのだ。

 

これについてはすでに周知の事実として広まっており、一夏や真、鈴達も把握している。

同じ声で分かりにくいが虹彩の色で判別が付くし、なにより箒は少し硬い喋り方だが赤月はまるで子供のように溌剌と喋るのだ。

 

あまりにもギャップがあるために判断は容易と、鈴は認識しているが言葉には出さなかった。

 

 

『分かるよ、箒の気持ち。応援したい、背中を押してあげたい。でもさ、こういうときは一夏の事を信じてあげるのも大事なんだよ』

 

『……』

 

「ほーらみなさいよ。シャルやラウラも同じでしょ?」

 

 

鈴は自分の右隣に座るシャルロットとラウラにも話を振る。

二人は頷いてから口を開いた。

 

 

「そうだね。ボクのいいたいことは全部赤月が代弁しちゃったよ。僕は一夏を信じるよ、きっと真ともちゃんと戦えるって」

 

「右に同じだ。私達にできるのは一夏が最高のパフォーマンスを発揮して、真と戦えるようにしてやることだ」

 

『……分かっている。分かっているからここにいるんだ』

 

 

ブスッとむくれた表情になるが、そもそも一夏の気持ちに理解を示してここにいるのだ。

それでも感情が顔に出やすい彼女だから、先程からふくれっ面だったのだが。

 

 

『箒は聞き分けがいいよね~、お姉ちゃんがヨシヨシしてあげる~』

 

『子ども扱いするなっ!それに姉なんて1人で十分だっ!』

 

 

勝手に動いて頭を撫でた右手を、左手で払って箒は声を荒げる。

そんな様子を見ながらもメインモニターに視線を移していた鈴は、モニターに映る時刻の表示を見て呟く。

 

 

「そろそろかしらね」

 

 

鈴がそう呟くと、観客席にいるいつもの面子もAピットに視線を移す。

鈴達はAピット側に近い場所で席を取っているがBピット側には簪や本音の姿が見えない。

Bピット側にはアイリス王女とジブリルが並んで座っており、アイリスはジブリルが差し出した紅茶を飲んでいた。

 

おそらく簪達はBピットにいるだろうと鈴は予想していた。

本音はデスティニー専属の整備担当でもあるし、真と簪の仲を考えると少し羨ましくも思う。

 

決闘開始まで後数分だろう。

ふとドクンドクンと心臓の鼓動が早くなっていることに気づいた。

 

箒に引きつられて興奮していたのだろう。

苦笑しながら深呼吸を行い、気持ちを落ち着かせていく。

 

 

(……一夏、頑張りなさいよ。真も手加減なんかしたらぶっ飛ばしてやるんだから)

 

 

数度の深呼吸で気持ちを切り替えた鈴は、二人にそれぞれエールを送った。

 

 


 

 

同じ頃、Bピット

 

 

『背部VLユニット、スラスター共に出力問題なし。両腕部マニピュレータ、両脚部スラスター問題なし。クラレント、トリモチランチャー、ダミーバルーンetc……異常なしっ、武装コンディションオールグリーン』

 

 

デスティニーを纏った真は、眼前に浮かぶ空間投影ディスプレイを高速でタイピングしながら機体状況の確認を行っていた。

 

 

「こっちでも確認したよ、問題なしっ!」

 

「うん。機体コンディションは完璧」

 

 

真の言葉にあわせるように、本音と簪が自分達の前に浮かぶディスプレイを操作して告げる。

 

 

『2人ともありがとう』

 

「生徒のために頑張るのが先生だからねっ」

 

「……本音」

 

『頼りになるなぁ、ホント』

 

 

早くも先生面をしている本音に呆れたようにジト目の視線を簪は送る。

それに苦笑した真はふぅっと一息入れて、コンソールを弄る。

コンソールの操作により、デスティニーがカタパルト部分に接続される。

 

 

「よ~し、それじゃ発進準備お願いね、あすあす」

 

「あっ、私もてつだ……」

 

 

本音が外部操作の為に専用端末の元に駆けてくのを追いかけようとした簪だが、ぶーと頭の上で×印を本音が作っていた。

その行動の意図を察した簪はため息をつくが、微笑んでいた。

 

 

「……本音、余計なお節介」

 

 

そう言うが口元には笑みを浮かべた彼女はくるりと反転し、カタパルトに接続されたデスティニーに向けて口を開く。

 

 

「真、頑張って」

 

 

本音もいるため大きくはない声だが、そのエールは真の心を鼓舞するには十分だった。

機体コントロールが譲渡された真は、右マニピュレータを一旦展開解除して生身の腕を露出させる。

 

 

『あぁ、行ってくる』

 

 

右手でサムズアップを取った後に、微笑みながらシュッとハンドサインを簪に送る。

それに簪は少し赤くなった顔でこくんと頷いた。

 

 

『飛鳥真、【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】、行きますっ!』

 

 

真のコールの後、電磁加速によって急激な加速を得たデスティニーがカタパルトから射出された。

AMBACとスラスターによる機体制御によってその加速のまま、VLユニットを広げる。

 

 

真の発進とほぼ同刻――Aピット

 

 

『白式・王理、織斑一夏、行きますっ!』

 

 

デスティニーとは異なる白く輝く翼を翻して、Aピットから白式が発進してくる。

【黒】と【白】、互いに正反対の機体色の2機は、アリーナ上空の丁度中央部分で向かい合う形で静止している。

 

もう間もなく決闘が始まるタイミング、観客席の箒達も決闘がついに始まるのだと浮き足立っていた。

そんなタイミングで箒たちに走りよってくる人影にまず、シャルロットが気づいた。

 

 

「あ、フレイ」

 

「はぁい、シャルロット。ふぅ、何とか間に合ったわね」

 

 

パタパタと両手で顔を扇ぎつつ、ラウラの横に座るフレイ。

そんな彼女にシャルロットが尋ねた。

 

 

「どうしたの、そんなに急いでさ?」

 

「代表候補生としてのレポート提出がギリギリでね、シャルロットも出したでしょ?それをラキに手伝ってもらってたのよ。お陰で何とかパスしたわ」

 

「ん?だがそれならラキーナはどうしたんだ?」

 

 

暑がっているフレイの他にラキーナの姿が見えないことを不思議に思ったラウラはフレイに尋ねる。

 

 

「あー、全速力で走って来たから……ほら、あの子ならあそこにいるわよ」

 

 

ニタニタと笑うフレイが観客席の入り口に目をやると、壁に手を付いて息も絶え絶えのラキーナの姿が見えた。

基礎的な身体能力は代表候補生であるフレイのほうが高いため、この結果は当然のものだった。

 

荒い呼吸を少しでも抑える為に深呼吸しながら、ラキーナもフレイの隣の席に座り込んだ。

汗が滝のように流れており、深呼吸をしてもぜぇぜぇと荒い息が少しも治まっていないようであった。

 

 

「げほっ、おぇっ、酷い、レポートどころか機体整備も手伝って上げたのに……置いてかれたっ、ふぐぅっ」

 

「トレーニングしてないアンタが悪いのよ。あ~、もう、背中摩ってあげる」

 

 

瞳には涙を浮かべて、わき腹を押さえて相当苦しそうにしているラキーナの背中を摩りながら、フレイはアリーナ上空で向かい合うデスティニーと白式に視線を移す。

 

 

「ふーん、まるで【悪魔】と【天使】ね」

 

 

フレイが相対する2機を見て呟く。

 

 

「どっちかというと、【魔王】と【勇者】じゃないかしら」

 

「なるほど、どちらも言い得て妙だな」

 

 

えっ、とラキーナの横にいつの間にか楯無が座っていた。

さらにその隣に3人目の男性搭乗者であり臨時教員でもあるカナード、続いてセシリアも座っている。

 

 

「わっ、私としては【騎士】同士の決闘のようにも感じるのですが……見えませんか?」

 

 

苦笑するセシリアは楯無とカナードの呟きに対して精一杯フォローを飛ばす。

 

 

「苦しいな。どちらも騎士なんて柄じゃないだろ」

 

「そうね。真君は騎士というより【戦士】って雰囲気があってるし、一夏君は【侍】ってイメージだしね」

 

「……そっ、そうでしょうか……そうですね……」

 

 

しかし、飛んでくるのはカナードと楯無の鋭い突っ込み。

加えて箒たちのジト目の抗議からくる堪れない気持ちをセシリアは受け入れるしかなかった。

 

さて、観客席がそんな事になっている事には気づいていない真と一夏は互いに向かい合ったまま、試合開始のコールを待っていた。

そんな中、一夏が目の前の真に口を開く。

 

 

『改めてありがとな』

 

『ん?』

 

 

いきなりの一夏からのお礼の言葉に真が首をかしげた。

 

 

『いや、決闘、受けてくれてさ』

 

『別にいいって』

 

『サンキュ。それじゃ、全力で行くからな』

 

『あぁ。分かってる』

 

 

そう返事をした真は瞳を閉じる。

脳裏に浮かぶのは、大切な女性の姿。

先程自分を鼓舞してくれた、愛する女性のイメージ。

 

鮮明に浮かぶ彼女の姿をイメージした途端、彼の意識の中で紅い種――【S.E.E.D】が弾け飛んだ。

 

それと同時に試合開始のコールがアリーナに響いた。

 

 

瞬間、白式のハイパーセンサーからデスティニーの反応がロストした。

 

 

『っ!?』

 

 

ロストの一寸後、機体のハイパーセンサーが一瞬で左前上方向に移動した【何か】のエネルギー反応を検知。

あまりの速度と相手側の武装の影響で正確な補足ができていないため、ハイパーセンサーでもただエネルギーの検知ができただけだ。

 

その検知と同時に一夏は機体を回避行動に移す。

降り注ぐ高エネルギーの粒子ビームによって白式のシールドエネルギーを少しだけ削られるが、何とか被害を最小に抑える事には成功した。

 

だが己の眼前に迫っていた黒の蹴撃には、反応が追いつかなかった。

 

 

『ぐぅっ!?』

 

 

奔る衝撃に、堪らず弾き飛ばされる白式。

白式をスラスターの速度を上乗せした蹴りで弾き飛ばしたデスティニーは、その反動を利用して離脱して距離をとった。

 

 

『早速っ、やってくれるなぁっ、真っ!』

 

 

油断はしておらず集中していたはずなのに、初撃(ファーストアタック)をあっさりと奪われた。

その事実に引き攣った笑みを浮かべた一夏は、AMBACで体勢を立て直す。

 

機体が飛ばすアラートが、彼の笑みを拭い去った。

アラートの正体は、中距離を維持したままこちらをテレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔で狙っているデスティニーであった。

 

 

『っ!!』

 

 

瞬時加速によって白式が回避に移った刹那、超高出力ビームが数瞬前まで白式のいた空間を薙いだ。

そのまま地面に着弾、発生した爆発によって土煙を舞い上げる。

 

回避に成功した白式だが、アラートは鳴り止まない。

その理由はデスティニーが光の翼を瞬かせて、高機動を維持したまま白式を狙い続けているからだ。

 

テレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔の発射にはトリガーが必要ない。

加えて両掌に内蔵されているクラレントもそれは同じで、ビームライフルモードに切り替えて回避先への予測射撃も織り交ぜてくる始末。

 

 

(……やっぱりっ、こうくるかっ、真っ!)

 

 

テレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔による超高出力ビームは何とか回避し続けているが、織り交ぜられているクラレントのビームによってシールドエネルギーが減り続けている。

 

そしてデスティニーは白式とは丁度ミドルレンジの距離を保って高速機動を続けていた。

半ば予想していたが、実際予想通りの展開に陥ってしまったのは歯がゆいものであった。

 

 

「やはり、こうなったか」

 

 

観客席で試合を観戦しているカナードが呟く。

その呟きを試合を観戦しながら、箒が拾った。

 

 

「やはりとは、どういうことだっ?」

 

 

試合が開始されてわずかな時間で一方的な展開に移っている。

万全の状態で望んだはずの一夏がどうしてこうなっているのか、それに目の前のカナードは思い当たる点があるようだ。

 

 

「この決闘についてだが、俺は織斑一夏から相談を受けていたんだ」

 

「そうなのかっ?」

 

「あぁ」

 

 

時間は少し戻り、1週間前

ブレイク号 カナードの私室

 

 

「というわけで頼むっ!」

 

「束さんからもお願い、カナくーん」

 

 

頭を深く下げている一夏、ソファに座りながら手を合わせてお願いしてくる束を交互に見た後、カナードは手に持っていたファイルを放り投げてからため息をつく。

 

 

「……織斑一夏のお願いを聞いてほしい、とは言っていたが……」

 

 

トレーニングの後、束から依頼されたお願いとは一夏のお願いを聞いてほしいといった内容だったのだ。

 

 

「束さん、いっ君のお願いを無碍にしたくないんだ。でも束さん、戦闘のアドバイスなんてからっきしだし。カナ君なら適切なアドバイスだってできるでしょ?」

 

「……分かった、分かった。どうせ俺が首を縦に振るまでやめないつもりだろう、お前は」

 

「イェ~イ、さっすがカナ君、わかってるぅ!」

 

「なら、俺がやるはずだった依頼をアスラン・ザラとミシェル・ライマンに回してくれ、どうせ手持ち無沙汰だろう」

 

「りょ~かいっ! んじゃっ、後はよろしくねっ!」

 

 

束は満面の笑みを浮かべてソファから飛び上がると、そのまま部屋から出て行く。

アスランとミシェルを探しにいったのだろう。

 

そのリアクションにカナードはさらに深くため息をついた。

彼女にカナードへの相談を持ちかけた立場の一夏も、テンションや行動についていけずに苦笑いを浮かべていた。

 

さて、カナードは空いている椅子を一夏の前に出して、自分も座りなおす。

それを確認した一夏も椅子に座りながら口を開いた。

 

 

「なぁ、今の俺は真に通用するかな?」

 

「……結論から言うと、勝算はほぼない。勝てる可能性は限りなく低い、そのレベルだろう」

 

「っ、ずばり言うよなぁ」

 

「変に取り繕うよりも率直に言ったほうがわかりやすいだろう。それにお前も予想していたな?」

 

 

自分の言葉に、一夏が怯んだのはほんの一瞬。

一夏の性格上、本来ならばかなりうろたえるだろうと予想していたが実際は違った。

彼の反応は、そう言われるだろうと覚悟していた人間の反応だったからだ。

 

それを見逃さずに確認すると、一夏も頷いた。

 

 

「まぁな」

 

「何か対策はとっているのか?」

 

「日出経由で出てる一般公開されてる範囲のものだけどな、それで動きとか対デスティニーを想定したイメトレはしてるよ。本当は公開されてない歌姫の騎士団連中との戦闘データみせてもらいたいんだけど、所属が違うから無理だし。後は高機動戦闘のシミュレーションも最近こっそりやってたんだ」

 

 

一夏の返答に、カナードは素直に感心していた。

我武者羅に訓練だけするのではなく、自分に何ができるのかを必死に考えて、できる範囲は狭くとももがいていることに。

程度の差は当然存在しているが、過去の己と重なった気がしたのだ。

 

 

「……いいだろう。少しは協力してやる」

 

「っ、ホントか?」

 

「あぁ」

 

 

カナードの返事に一夏は小さくガッツポーズを取る。

 

 

「さて、まずお前達は互いに癖や相手の機体についてある程度知っている。その場合重要になってくるのは戦闘経験と純粋な技量だ」

 

「うん」

 

 

彼の言葉と共に、空間投影ディスプレイが展開される。

そこに映るのはIS【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】だ。

 

 

『戦闘経験ならばC.E.を含めた場数で真はお前を超えている。それに追従できる奴はこの世界の生徒の中ではいない、これは断言できる』

 

「そりゃそうだろ。真は元軍人だったんだろ?」

 

『あぁ』

 

 

元軍人のスーパーエースであることに加えて、傭兵としても戦い続けた人間と、一般人の戦闘経験など比較するまでもない。

この世界の生徒と、カナードが説明したのはラキーナがいるからだろう。

真とは幾度となく刃を交えたらしいとのことを思い出したが、今思考の片隅に放置した。

 

 

『そして技量だが、【S.E.E.D】を抜きにした場合でも国家代表クラスと見ていい。【S.E.E.D】が発動していればそれ以上だろう』

 

 

カナードが映し出しているのは昨年の夏、現役の国家代表である【更識楯無】との模擬戦の映像であった。

デスティニーガンダム・ヴェスティージが最初に【単一仕様能力】に目覚めた試合であり、その様子は一夏も眺めていた。

戦闘記録でも本体の映像よりも残像が多くの割合を占めるほどに圧倒的な機動力、クラレントを筆頭にした高い威力を持ったビーム武装にそれを手足のように操る真の技量。

 

改めてみるとはやり脱帽ものである。

自分の記憶と映像を符合させていくととあることを思い出した。

 

 

「おい、これ録画禁止って言われてたやつじゃないか」

 

 

そう、この試合だが実は試合記録が残っていないのだ。

この試合の発端が楯無の失言が原因であり、しかも彼女は現役の国家代表。

蔵人や優菜などのVIPが呼ばれていたが非公式扱いなのだ。

 

そのため、試合記録は録画禁止を言い渡されており、それは当時アリーナで観戦していた全員がチェックされたはず。

自分や箒に加え、カナードも含まれていたはずだった。

 

 

『足がつかなければいい、俺も束やラキーナ程じゃないが技術はあるつもりだ』

 

「いいのかよ……もう半年近く前のことだけどさぁ」

 

 

うへぇと顔を歪ませた一夏に話が逸れたなと手振りでカナードは催促する。

 

 

『更識楯無との模擬戦の時もそうだが、デスティニー最大の特徴はVLユニットだ。それが齎す単一仕様能力や機動力に、真の技量と合わさる事で国家代表でも終始優勢に立ち回れている。現在ではこの当時よりも単一仕様能力をかなり応用できるようになっている』

 

 

試合記録が終了するまでの数分、一夏は展開されたディスプレイを凝視していた。

そしてなにやら思案している事を確認した後、カナードは口を開いた。

 

 

『さて、真のデスティニーガンダムがお前相手にどんな戦法を取ってくるか、今のお前ならば大体分かるんじゃないのか?』

 

 

一夏はうんと頷いた後に口を開く。

 

 

「多分だけど、真が俺相手に使ってくるのは……」

 

 

「――【徹底したミドルレンジからの射撃戦】、それが俺と織斑一夏が予測していた真の取る戦術だ」

 

 

時間は戻って、第3アリーナの観客席。

カナードが箒達に1週間前に相談された経緯を話し終える。

 

 

アリーナの上空では、デスティニーが超高速機動を続けながら、肩部に展開されている【テレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔】で白式を攻撃し続けていた。

クラレントをビームライフルモードで放つことによって回避先を限定させ、的確に命中させている。

試合が開始されて数分、すでに白式のエネルギー残量は6割強。

対するデスティニーの残量は8割強。

デスティニーは被弾をしていないため、武装使用のみで減っている状況だ。

 

どちらが優勢に試合を進めているのかは一目瞭然だ。

 

 

「……確かにそのとおりの状況ね」

 

 

カナードの言葉に苦虫を噛み潰したような表情で試合を見つめる鈴が頷いた。

 

 

「実力差は歴然ね。てか飛鳥真ってあんなに強いの?」

 

「多分、【S.E.E.D】を使ってるんだと思う。動きに無駄がないから」

 

 

直接真の戦闘を見ることがなかったフレイの言葉に、同じく【S.E.E.D】を持っているラキーナが返す。

 

 

「それだけ【本気】ってことね」

 

 

フレイの返答に頷くラキーナを見て、悔しそうに顔をゆがめているのは箒であった。

 

 

(一夏があれだけ頑張っていたのに、まだあれほどの差があるのか……っ!)

 

(実力差は大きいね。100回戦って100回負けるよ、アレ)

 

 

深層意識の中で赤月も実力差が存在していることを肯定していた。

一夏がこの試合に向けて努力をしていることは知っているし、応援もしていた。

 

だが実際の試合内容は一夏が押され続けている。

 

 

(まぁ、簡単に差が埋まれば苦労もしないよね)

 

「……一夏は勝てないのか?」

 

 

赤月の言葉に対して、箒の口から小さく言葉が零れた。

一夏達を慕うヒロインズも全員が同じことを考えていたため無言で試合を眺め続けている。

 

だがそれを拾ったものがいた。

 

 

「……早合点が過ぎるだろう」

 

 

それはカナードであった。

少しため息をついた彼に箒達の視線が集まる。

 

 

「カナードさん、本当ですか?」

 

 

彼の隣に座っていたセシリアが少し驚いたように尋ねる。

 

 

「あぁ。【勝てる可能性は限りなく低い(・・・・・・・・・・・・・)】とは言ったが、【勝つ可能性がゼロ(・・・・・・・・)】とは言っていない」

 

「本当かっ!?」

 

 

箒がその言葉に食いつき、彼も静かに頷く。

 

 

「かなり低いが【可能性】自体は存在している。それについてはすでに織斑一夏に伝えてある」

 

 

カナードはそう言ってアリーナで続いている試合内容に目を移す。

彼に釣られて、箒達も視線を再びアリーナに戻す。

 

すると、状況は変化しつつあった。

 

 


 

 

『なんっとぉっ!!』

 

 

そんな叫び声を上げつつ、機体のスラスターを制御して上方から迫る超高出力ビームを回避し終えた一夏。

 

 

『いい加減、射撃にも慣れてきたぜ、真っ!』

 

 

デスティニーも常時、ハイパーセンサーを振り切る超高機動を維持しているわけではない。

ゆえに高速を維持して機動を続けているデスティニーをハイパーセンサーを利用して何とか追いかけることができるのだ。

機体のエネルギーは減少する一方だが、先程よりも少しずつ被弾する回数が少なくできてきている。

またデスティニーの射撃武装のバリエーションがあまり多くないこともうまく作用していた。

 

 

『……』

 

 

その様子を高機動を維持しながら、真は無言で眺めている。

もちろん手を止めずに、クラレントからビームを放ち続けてだ。

 

 

『それに……攻撃できないってわけじゃ、ないからなっ!』

 

 

一夏がそう叫ぶと、白式背部のエナジーウィングが煌く。

【白式・王理】に進化して追加されたエナジーウィングからのエネルギーショットだ。

広範囲への攻撃はいまだ錬度不足によって不可能だが、射撃戦ができないわけではないのだ。

 

放たれた一斉射撃はデスティニーの残像を捉えたのみだった。

しかし射撃についてはからっきしだった一夏の反撃に、観客席で眺めていた箒達も目を見開いていた。

 

だがその直後、白式の直前に数条のビームが飛来。

それを回避できずに、直撃して体勢を崩す。

 

 

『ぐぅっ!?』

 

 

何とかAMBACで体勢を整えた後、即座にその場から離脱して追撃から逃れる。

 

 

(やっぱり射撃じゃ真を捉えることなんて無理か。いや、分かってたけどっ!)

 

 

回避先を限定させるために放たれたクラレントのビームが掠る。

少しだけエネルギーを減らされながらも、何とか回避を続けていく。

 

しかし、エナジーショットによる反撃以降より一層激しくビームが飛来するようになっている。

加えてデスティニーも光の翼の輝きが増して、それに比例して機体の速度が上昇し続けていた。

その速度はハイパーセンサーでも捕捉するのが困難なレベルに達していた。

 

――このままでは先程となんら変わらず、敗北は必至。

 

 

『そうは、いくかよぉぉぉっ!!』

 

 

浮かんだ最悪の想定を振り切るように、得物である【雪片】を構えて突貫していく。

その速度は全高機動ISの中でも上位に食い込むものであった。

 

しかし、それもその速度にも反応できる相手では悪手であった。

即座にデスティニー肩部から展開されている【テレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔】が煌き、砲口からビームが放たれる。

 

 

『っ!!』

 

 

即座に軌道変更を行うことで直撃は回避するが、ハイパーセンサーが高速で接近する物体を検知。

ビームが円を描きながらこちらに向かって飛来してくる――デスティニーがフラッシュエッジⅡを展開し、投擲していたのだ。

 

 

『っ、うぉぉっ!!』

 

 

フラッシュエッジⅡを弾き飛ばすことにはなんとか成功したが、それによって体勢を一瞬崩す。

被弾を負いながらもAMBACで即座に切り戻し、最短距離を突っ切って行く白式だがその突貫は間もなく終わることとなる。

 

フラッシュエッジⅡとビームの間を縫って、何かがデスティニーのマニピュレータ先端部分から放たれたのだ。

白い液体の様なそれは、まっすぐ向かってきていた白式の【雪片】に直撃した。

 

 

『っ、これって、【トリモチ】かよっ!?』

 

 

粘着性の物体・液体であり、破損したコロニーの簡易修復等に使われる代物。

トリモチの粘着力によってマニピュレータの展開も正常に行えないようになってしまった。

 

 

『っ!?』

 

 

そして、眼前に飛び込んでくる黒い機影。

左マニピュレータから溢れている強烈な赤い光が、白式の装甲を紅に染め上げた。

 

 

『しま……っ!?』

 

『遅いっ!!』

 

 

クラレント・ビームサーベルが白式の右マニピュレータを切り落として、握っていた雪片ごと落下していく。

クラレントが返す刃で白式の胸部から肩部までを切り裂いて、シールドエネルギーは残り2割まで減少し、破壊された白式の装甲の欠片は宙を舞う。

 

 

『がっ!?』

 

(悪いがこれで終わりだ、一夏っ!)

 

 

衝撃で顔をゆがめる一夏に一瞥した後、右腕のクラレントを起動させる。

だがその直後、デスティニーの右マニピュレータを掴み上げられた。

 

当然その相手は眼前の白式であり、デスティニーが右のクラレントを発振させると同時にスラスターに火を入れて密着してきたのだ。

密着というよりも、体当たりに近くガグンッと響くその衝撃に真の表情が歪んだ。

 

 

(っ、何っ?)

 

 

困惑は一瞬。

押し返そうとした真の視界に、武装を掲げる白式が映る。

 

先程切り落とした右マニピュレータに、破壊して落下した装甲の破片が覆うように集まって巨大な【爪】を形成していた。

その武装は雪羅から王理が継承したエネルギー爪【雪羅改】だ。

 

薄く笑みを浮かべている一夏の表情。

その表情からは、まるで作戦通りだと読み取れた。

 

 

『【肉を切らせて骨を断つ】、シンプルだが作戦はこれしかない』

 

 

時間は少し戻り、1週間前の作戦会議の場でカナードが一夏に具体的な作戦を伝える。

ドレッドノートから空間投影ディスプレイを投影し、とある戦闘映像を映し出す。

 

それはデスティニーガンダムとIS【コーディネーター】、【シーゲル・クライン】の戦闘映像であった。

凄まじい速度で上下左右に機動し続けているデスティニーがコーディネーターを追い詰め、最後には捉えきったものだった。

 

 

『流石にこの機動力はリミッターを外している状態だが、これに近い機動を捉えるのは至難だ』

 

 

戦闘映像が終わるとぽかんと口を開けていた一夏が、ハッと気づいたように口を閉じる。

 

 

『この映像を見て、何か思うところはあったか?』

 

「んー、正直でたらめな機動力過ぎてなぁ……てか、この映像の出所どこよ?」

 

『真を経由して日出工業からだ。デスティニーと飛燕はVLを搭載しているC.E.関連の機体だからユウナ・ロマ……いや、応武優菜とジェーン・ヌル・ドウズに交渉したら比較的容易くな……それで?』

 

 

その答えに顔をゆがめながら、繰り返し流れている戦闘映像を凝視する。

合計で5回ほど繰り返した頃、一夏が何かに気づいて口を開いた。

 

 

「……こんな状況でもクラレントしか使ってないのか?最後、ぶっ壊れた後は武装を切り替えてたけど」

 

『そうだ。正確にはクラレントが最も有効的に使える(・・・・・・・・・・・・・・・)、が正しいだろうな』

 

 

カナードが頷いて、戦闘映像を一旦停止させる。

 

 

『デスティニーはVLユニットによって超高速機動が可能なISだ。それに伴い武装も内蔵タイプのものが多いし、超高速機動中に使える武装には限りがある』

 

 

確かに超高機動中に大型の得物など使いにくいだろうと、一夏が頷く。

 

 

『そこで真はクラレントをビームサーベルモードで多用する。決め手にもな』

 

「っ、なるほど」

 

 

コクコクと頷く一夏に苦笑しながらカナードは続ける。

 

 

『だから懐に潜り込んで、あえてクラレントを喰らった後に反撃しろ。その一瞬なら【S.E.E.D】を発動させた真とは言え一瞬は固まるはずだ。そこに【雪羅改】を打ち込め。それが唯一の勝機だ。手順はサポートしてやる』

 

「っ、分かった、サンキュー!!」

 

 

脳裏に浮かんだカナードとの作戦会議の内容を反芻しながら、右マニピュレータから展開した【雪羅改】を振りかぶる。

掴んだデスティニーの右マニピュレータは、離さずゼロ距離で密着している。

ここまでがカナードと共に考えた、一夏が勝利を得るための作戦。

 

 

『この瞬間を、待っていたんだーっ!!』

 

 

完全に捉えたタイミング。

後僅かで勝利を手に入れることができる。

 

この時点の一夏は少なからず舞い上がっていた。

それも仕方ないだろう。目標にしている人間相手に善戦し、勝利を目の前にしているのだから。

 

だがまだ戦いは終わってはいない状況では、油断(・・)となる。

その油断は掌に転がりかけていた勝利を遠ざける結果になった。

 

 

次の瞬間、雪羅改とデスティニーを押さえ込んでいたマニピュレータが飛来した、【光の刃】で破断されたのだ。

 

 

『……えっ?』

 

 

思わず一夏の口から困惑の言葉が洩れた。

 

両マニピュレータを破壊した光の刃、それは先程弾き飛ばした【フラッシュエッジⅡ】

それが自動追跡装置によって本体であるデスティニーに帰還してきたのだ。

 

 

(っ、ブーメランっ?まさかっ、そんなっ、読まれてっ!?)

 

 

ようやく状況に理解が追いついた一夏だったが、すでに遅かった。

動きを止めた白式に報いの赤き光が放たれたのだ。

 

 

『ごっ!?』

 

 

ほぼ無防備で直撃を受けた白式は、そのまま地面へと叩き落された。

撃墜されると同時に白式のエネルギーは、クラレントの直撃と落下の衝撃でエネルギー残量が【Empty】と表示されていた。

 

 

(……最後、蹴りを叩き込んでこなかったのは、ブーメランが戻ってくるのを把握してたから……か)

 

 

不思議と冷静な思考で、自分の身に起きたことを把握できていた。

 

 

『……あぁ、負けたのか、俺』

 

 

全身に奔る衝撃の痛みを感じながら、撃墜された一夏は呟く。

すると視界が急に歪んできた。

身体の奥から熱い何かがこみ上げてきて、抑えることができなかった。

 

 

『クッソォ……っ!!』

 

 

目から熱い雫が零れていき、視界に映りこむ赤い光。

歪んだ視界でも、赤い光の翼ははっきりと認識できた。

撃墜した白式の目の前にデスティニーが着地する。

 

 

『……』

 

『……』

 

 

それから数分、互いに言葉を交わすことはなかった。

その間、真は何も言わずに一夏からの言葉を待っていた。

 

 

『……真っ』

 

 

一夏がようやく口を開く。

 

 

『何だよ』

 

『……やっぱり、真は強いな……勝てなかった』

 

 

声が震えているのは気のせいではないだろう。

彼の言葉と同時に白式の展開が解除され、一夏は地面に寝転がっている体勢になる。

 

 

「……まぁ、まだ負けてやれないさ。ほら、立てよ」

 

 

真もデスティニーの展開を解除して、寝転がっている一夏に手を伸ばす。

ゴシゴシと目元を拭った一夏が、その手をとって立ち上がる。

 

目元が赤くなっていたが、どこか爽やかな笑顔で一夏が微笑んでいる。

 

 

「……次は、負けねーからなっ。整備科で怠けてたら追い抜いてやるからなっ」

 

「しばらく負けてやれないって言っただろ」

 

 

真もそう返して苦笑気味に微笑んだ。

 




次回予告

「LAST PHASE それからの日々」


「俺は今、幸せだよ」

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