【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
シンの駆るデスティニーガンダム・ヴェスティージが、アスランのインフィニットジャスティスを撃墜した直後
「トリスタン、1番2番、ってぇー!」
戦場を翔けるネオ・ザフト陣営の旗艦、ミネルバⅡ。
2連装高エネルギー収束火線砲XM47【トリスタン】から発射されたビームは真っ直ぐ、前方に展開されたナスカ級【ピステール】と【アウェイク】の2艦を貫いた。
「続けて【ナイトハルト】、【ディスパール】っ!」
「了解ですっ!」
艦長であるノイマンの指示と共に、宙間戦闘用ミサイル【ナイトハルト】と迎撃用ミサイル【ディスパール】がミサイルハッチから射出され、迫るMSを迎撃して行く。
戦力比ではほぼ互角と見られていた戦い。
現在の勢いはシンがアスランを落としたという情報が広がりつつある状況。
当然、ネオ・ザフト側に戦況は傾いている――そんな時であった。
「艦長、前方より……アークエンジェルが接近していますっ!」
チーフオペレータであるアビーがレーダーと目視による確認を終えた後、艦長席に座るノイマンに叫ぶ。
(……来たか)
かつて彼が乗り込んでいたアークエンジェルとミネルバはメサイア戦役では艦隊戦を繰り広げた。
その結果はミネルバが敗北し撃沈。
不沈艦の異名を取るかつての乗艦。
その指示を取っているのは変わらずマリュー・ラミアス。
メサイア戦役での経験を活かし、こちらを抑えるつもりなのだろう。
(……思えばあの時から、俺達は間違っていたのかもな)
ノイマンの脳裏に浮かぶのは、アークエンジェルで崩壊するヘリオポリスを脱出した際の事。
当時、階級が一番高いからという理由で艦長にはマリュー・ラミアスが選ばれた。
人間的には好感を持てる人だと、ノイマンは思う。
だが彼女は技術士官でもあり、軍人としての資質には疑問の声も上がる。
当時のアークエンジェル搭乗員には正規の女性士官もいた。
淡い感情を抱いていた女性。その後姿が幻影のように浮かぶ。
(あの時。もしも、バジルール中尉が艦長になっていたのなら……)
正規の軍人として軍の規律を守る亡き士官。
彼女が艦長であるのならば、自分達は力の意味を教育できたのではないのか?
キラとラクスに力の責任について、伝えられたのではないのか?
そんなIFを想像したノイマンは一度頭を振る。
(そんなたられば、意味はないか……っ)
「ノイマン君、大丈夫か?」
艦長席とは異なるVIP用の席に座るネオ・ザフト総帥アンドリュー・バルトフェルドが彼に問う。
その言葉に少し笑みを浮かべながら、ノイマンは答える。
「……えぇ。これから当艦はアークエンジェルを討ちます。よろしいでしょうか、総帥?」
「戦闘については君に一任している。あのアークエンジェルが相手だ、君以外に適任はいないよ」
バルトフェルドからの返答を聞いたノイマンは、艦長帽をぐいっと押さえ込みすぐさまに指示を飛ばす。
「トリスタン1番、2番発射後、タンホイザー起動っ、目標は前方アークエンジェルっ!」
ノイマンの指示のもと、艦橋のスタッフはコンソールを操作する。
ミネルバⅡのタンホイザーが起動。機能、設置場所はミネルバと変わりなく艦前方から展開される方式だ。
そして追加の指示を、ノイマンは発した。
「タンホイザー発射後、機関全速――対アークエンジェル用シークエンス、【コールブランド】っ!」
ミネルバⅡの艦橋にノイマンの指示が響く。
そのシークエンスに、艦橋スタッフ一同は身体を強張らせた。
対アークエンジェル用シークエンス【コールブランド】
それは文字通り、対アークエンジェルを想定した戦術。
アークエンジェルには直轄の防衛戦力として、ビーム兵器に圧倒的な防御性能を誇る【ヤタノカガミ】を装備したMS【アカツキ】が存在している。
そして当のアークエンジェルもビーム兵器に対して有効な防御手段となるラミネート装甲を持っている。
艦長であり、アークエンジェルにも長年搭乗していたノイマンはこの点については把握している。
それを打ち破る策をこのミネルバⅡは有していた。
ミネルバⅡのトリスタンが発射される。
そのうちの数発はアークエンジェルを掠るが、ラミネート装甲を貫通するほどではなかった。
お返しとばかりに、アークエンジェルのゴットフリートがミネルバを襲う。
こちらも相対速度が速いためか、ミネルバⅡをそれて行く。
そして、両艦が互いの最大兵器の有効距離内に入った。
「タンホイザー、ってぇぇぇ!」
チャージが完了したタンホイザーの砲口から陽電子ビームが発射され、宙域を照らす。
だが発射と同時に、その射線上にMS【アカツキ】が突っ込んできた。
ヤタノカガミと背部バックアップユニット【シラヌイ】からドラグーンが射出され、大型のビームシールドとなる。
陽電子ビームすら散らすそのビームシールドによってミネルバⅡのタンホイザーは無力化された。
代わりにアークエンジェルが備える二門のローエングリンが発射準備を整えていく。
『俺はやっぱり不可能を可能に……!』
コックピットで得意げに言うのはアカツキのパイロットであるムウ・ラ・フラガ。
タンホイザーの照射が終了し、アカツキのドラグーンは機体に戻る。
このままメサイア戦役の再現になるのか、そう思われた直後、搭乗者であるムウ毎アカツキは機体を真っ二つに引き裂かれた。
陽電子砲によって生じた爆発から現れたのは金色に光り輝く【膜】。
いや、正確には【膜】ではない。
ミネルバⅡの艦前方、タンホイザーよりも下部に存在していた金色の装甲部分が展開され、まるでビームの刃の様に巨大な剣となっているのだ。
この光の剣の名は、超大型対艦攻性突撃刃【コールブランド】。
攻性防御帯【スクリーミングニンバス】と【アルミューレ・リュミエール】の技術を流用した対艦格闘武装。
流線型に展開された光波防御帯によって弩級戦艦であるミネルバⅡそのものが刃となって切り裂くのだ。
余談だが、この武装を知ったカナード・パルスはあまりいい表情をしなかった。
アルミューレ・リュミエールの技術を流用しているスクリーミングニンバスをさらに流用してるからだ。
ただ、かつて相対したゲテモノMAよりはマシと評価していることは記載しておこう。
MSが戦艦の武装をもろに喰らってしまえば当然、質量の違いから破壊されるのみだ
ミネルバⅡは残骸へとなり果てたアカツキなど路端の石のように無視して、迎撃用のビームを【コールブランド】で打ち消しつつ、アークエンジェルに突貫していく。
『総員、対G姿勢っ!!』
コールブランドを用いるためにミネルバⅡは推進機関を全速で稼働させており、そのGによって顔が歪む。
それはノイマンだけではなくバルトフェルドや艦橋にいる者、格納庫の整備員等すべての搭乗員も同じだ。
だが、この程度で目的が果たせるのならば安いものであった。
まさに流星の様に輝く一筋の光になって戦女神は大天使へと突貫していく。
『ムウーッ!?』
アークエンジェル艦長、【マリュー・フラガ】、旧姓【マリュー・ラミアス】の悲痛な叫び声が響く。
しかしそれに返してくれる人間はもういない。
対アークエンジェル用シークエンス【コールブランド】
シークエンスは次の段階に移る。
アカツキを切り裂いたミネルバⅡがその速度を維持したまま、艦体を回転させ始めた。
コールブランドでアークエンジェルの艦橋を切り裂こうとしているためだ。
――だが物事はそううまくは進まない。
「ローエングリンのチャージはっ!?」
復讐に燃えるマリューの声が響く。
「チャージ完了していますっ!」
アカツキがタンホイザーを防いだ直後から、アークエンジェルの陽電子砲【ローエングリン】もチャージを開始していたのだ。そしてそのチャージはアカツキが散った直後に完了していた。
チーフオペレータの声に憎悪に顔を歪ませながら、叫ぶ。
「ローエングリン、ってぇぇぇっ!」
マリューの指示のもと、特徴的な足にも見える構造の艦首からアークエンジェルの陽電子砲【ローエングリン】が発射された。
2門の陽電子ビームは最大戦速で突撃していくミネルバⅡへ突き進み、コールブランドとローエングリンは真っ向からぶつかり合った。
瞬間、その宙域だけがまるで地球の昼の様に明るくなり、直後にコールブランドとローエングリンのエネルギーから凄まじい爆発が発生した。
やがてローエングリンの照射が終わり、超エネルギー同士の衝突による爆発も収まった。
「やったのっ!?」
確かな手ごたえを感じたマリューはそうチーフオペレータに叫ぶように尋ねた。
「おっ、おそらく。ただ今の爆発と衝撃に加えてニュートロンジャマ―の影響で正確な……なっ!?」
チーフオペレータの驚愕の声と共に、爆煙を突き破り金の剣が現れる。
コールブランドがローエングリンを突き破り、現れた。
これは当然の結果でもあった。
バッテリーMSに搭載されている大型ビームシールドで陽電子砲を散らすことができるのだ。
そもそもの出力がけた違いの戦艦に装備されたアルミューレ・リュミエールならば、陽電子砲を【切り裂く】事は十分可能と建造段階から予測されていたからだ。
つまりは
最も陽電子砲を装備している弩級戦艦はネオ・ザフトでも当のミネルバⅡしか存在していなかったという、ネオ・ザフト側の懐事情などもあったため、一発勝負の形となってしまったのだが。
しかし、分の悪い賭けではなかった。
『このまま切り裂けぇぇっ!』
ノイマンの指示に呼応するかの如く、金色の剣となったミネルバⅡはアークエンジェルへ直進する。
些か艦体にダメージが見られるが、その速度は最大戦速のまま。
「かっ、回避―っ!」
マリューは咄嗟に操舵手へ指示を出すが遅かった。
ノイマンが操舵手ならばおそらくはギリギリ間に合ったかもしれないが、それは叶わぬ夢。
次の瞬間、アークエンジェルの艦橋をミネルバⅡのコールブランドが切り裂いた。
ヤキンドゥーエとメサイア戦役を通じて不沈艦とも呼ばれた伝説の戦艦アークエンジェルは、切り裂かれた艦橋から広がる爆発によって、その伝説に幕を閉じることとなった。
「……おさらばです、ラミアス艦長」
爆発によって消えていくアークエンジェルを眺めながら、ノイマンは艦長帽を脱いで敬礼を取る。
(バジルール中尉、ケジメはつけました)
そう心中で告げた彼は艦長帽を被りなおす。
「アビー君、ミネルバⅡの被害状況は?」
アークエンジェルを打倒したミネルバⅡであったが、その被害は軽いものではなかった。
いかにアルミューレ・リュミエールと言えど、最大戦速で陽電子砲の一撃に突っ込んだのだ。
その威力を完全防御できずに、艦の彼方此方から火の手が上がっていた。
「タンホイザーをはじめ、トリスタン1番2番、ミサイルは使用可能、メインの推進機関へのダメージも軽微です。ただ第3艦橋のダメージが深刻です、負傷者が多数。死者も出ている模様っ」
矢次に表示される艦の状態をアビーはノイマンへと報告する。
「負傷者を回収しつつダメージコントロールを急いでくれっ、一時後方に下がるっ、消火急げよっ」
ノイマンの指示を聞いた操舵手は頷いて艦を後方に下げる。
(シン、こっちは終わったぞ……お前も頑張ってくれよ。全員分の紅茶、用意しておくから)
決戦の前に出会った青年と交わした約束を思い浮かべる。
彼の戦いはまだ戦いは終わってはいない。
仲間の勝利を願いつつ、遠ざかっていく戦場を眺めた。
ビームラムやFTBシーケンスを思い浮かべる人は私とお酒を飲みにいこう。
この次は最終章「FINAL STAGE 運命の翼を持つ少年」のプロローグになります。
次回予告
「過去編⑩ C.E」
『カガリ・ユラ・アスハよ、貴様に問う。貴様は理念と民、どちらが国であると考えている?』