【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

16 / 132
本編
PROLOGUE 逆襲のシン・アスカ①


 世界全土を巻き込んだ2度の大戦があった。

【ヤキン・ドゥーエ戦役】と【メサイア戦役】、2つの大戦には大きな共通点があった。

 

 それは、絶対的な戦力を持った英雄が大戦を終結に導いたことだ。

ヤキンドゥーエでは、憎しみに焦がれた両陣営のトップを下して。

メサイアでは、遺伝子によって世界を縛ろうとした独裁者を断罪して。

 

 英雄達の名は【歌姫の騎士団】といった。

【自由】と【正義】の剣を持つ聖なる騎士団、彼らを信奉する者たちは絶えずそう崇めている。

 

 世界は英雄たちを受け入れた、しかしそれに納得しない者達も少なからず存在していた。

大戦を終結させた英雄とは聞こえがいいが、実際はただのテロリスト集団だからだ。

 

 第二次ヤキンドゥーエ戦役では、プラント及び連合の戦力に少なくない被害を出したうえ、両陣営の首領を排除して。

 

 メサイア戦役では、当時のプラント最高評議会議長であり混乱した地球圏を一時とはいえ静定させる為の【政策】である【デスティニープラン】を発表した【ギルバート・デュランダル】を、具体的な代替案もなく一方的に非難し、実力行使で排除して。

 

 大戦後の世界は、歌姫の騎士団の具体案もない【平和と自由】を目指す戦いによって

【火種のついた火薬庫】となった。

 

 そしてついに火薬庫は爆発し3度目の大戦が開始されることとなる。

後のC.E.の歴史書ではこの大戦を【ネオ・ザフト戦役】または【シン・アスカの逆襲】と呼称している。

 

 

 

 June.1. C.E.80

 

 L5宙域。

 現在この宙域では、【反歌姫の騎士団連合(ネオ・ザフト)】と【歌姫の騎士団】との最終決戦の火蓋が切って落とされていた。

 

 大戦後に解体された旧地球連合の戦闘艦や、メサイア戦役での戦没艦である【ミネルバ型】の改装艦を旗艦として構成されたネオ・ザフト艦隊。

 

 過去の大戦で不沈艦の名を知らしめた【アークエンジェル】と歌姫の搭乗艦【エターナル】を旗艦として構成された、歌姫の騎士団改め現ザフト艦隊。

 

 両陣営の艦隊から発射されるビームとそれに撃墜されるMS、またはMSに撃沈される戦闘艦の爆発によって宙域は一種の芸術の様に瞬いていた。

 

 

 

 戦闘宙域の中に一際目立つ、真紅と漆黒で彩られた【GタイプのMS】が自身に襲い来る黒いMS【ドム・トルーパー】3機を両の手に持つビームサーベルで瞬く間に両断した。

 

 そのMSの名は【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】

デュランダル政権下で制作された高性能MS【デスティニー】をネオ・ザフトが改修した機体である。

トリコロールカラーで彩られたかつての面影はすでになく、特徴であった背部の【ヴォワチュール()リュミエール()ユニット】は以前より一回り程大型化され、付属していた対艦刀、高エネルギー長射程ビーム砲はオミットされている。

 

 ちなみに【ガンダム】とは本来、MSのOSの頭文字【G.U.N.D.A.M.】だが、この機体の設計者達によって正式名称にされている。

 

 多くの改修点のあるMSだが変更されていない点が1点ある。

それはまるで【血の涙】を流すような印象を受ける頭部の意匠である。

 

 新生したデスティニーの胸部コックピットの中で搭乗者であり、ネオ・ザフトの象徴【シン・アスカ】はモニターに映る撃破したMSの残骸を一瞥した後、旗艦である【改ミネルバ型 ミネルバⅡ】へ通信を送る。

 

 ザフトの赤服が着るパイロットスーツ――赤色の部分が全て黒に塗り替えられている――に似た物を身についている。

 メサイア戦役時での身長は170cmそこそこだったが現在は180cmを超えていた。

今年で23歳となったシンは、かつてのどこか幼げな雰囲気は消え、立派な青年へと成長していた。

だが特徴的な紅い瞳に宿る意思は以前と変わらず、いや以前より強く燃えている。

 

 

「オペレーター、こちらシン・アスカ、敵部隊について情報がほしい、応答願う」

 

 

 通信モニターに金髪の美女が表示される。

【アビー・ウィンザー】、シンの残り少ない【同志】であり、信頼できる仲間である。

 

『こちらミネルバⅡ、アビーです。シン、作戦通りそちらに【インフィニットジャスティス】の反応が接近中です』

 

 ニュートロン()ジャマー()の影響が少ないのかアビーからの返答はクリアに聞こえる。

そして、機体のレーダーにも反応があった。

 

 レーダーに表示される形式番号は【ZGMF-X19A】

シンにとって因縁の深い相手が乗るMSだ。

 

 

『っ! 了解、こちらでも確認したっ!』

 

 

 改修前のデスティニーはインフィニットジャスティスに手も足も出ずに撃墜されている。

 トラウマにはなっていないが、それでも操縦桿を握る手には力がこもる。

惨敗の原因は、当時のシンの精神は崩壊一歩手前であったことや機体相性が最悪であったことだが。

 

 

『気を付けて……シンっ!』

 

『ああ、アビーもなっ!』

 

 

 信頼できる仲間からの声に力強く答えて、VLユニットの稼働率を高め【光の翼】を発生させながら討つべき敵へと向かう。

 

 

 目視で目標を確認できる距離に近づいた途端に、コックピット内に警告音が奔る。

 

 

「ちっ!」

 

 

 すぐさま機体を回避させる。

一瞬前までデスティニーが存在した箇所をビームが奔る。

モニターにはすでにビームサーベルを連結させ、突っ込んでくる仇敵の姿。

 

 

『アスランっ!!』

 

『シンっ!』

 

 

 即座に腰に装備されているビームサーベルを抜き、連結ビームサーベルと切り結ぶ。

鍔迫り合いになり、周囲にはコロイド粒子がぶつかり合って発生する閃光が奔る。

 

 

『シンっ! 何故だ、何故こんな戦いを起こすんだっ!』

 

 

 アスランはシンが戦う理由については理解していたつもりだった。

かつて短い間だがミネルバにてシンと共に戦い、彼が戦う理由がかつての自分と同じだと思ったからだ。

母をユニウス7で失った復讐――自分とシンは似ていると。

 

 だが決定的に違う点がある。

それは――

 

 

『はっ、わからないのかよっ! そうだろうな、花を吹き飛ばすことしかできないアンタ達は残された花の気持ちなんてわからないだろうなっ!』

 

 

 デスティニーは両手に握られたビームサーベルの連撃をジャスティスに叩き込む。

緩急をつけ、時にはフェイントを混ぜる。

対するジャスティスは連結ビームサーベルとビームシールドを使って連撃を捌く。

 

 

『お前はまたっ……! 過去に囚われて、憎しみに……!』

 

 

 ジャスティスのビームシールドを使ったシールドアタック。

デスティニーはビームシールドを起動して受け止めるが弾き飛ばされてしまう。

だがデスティニーはすぐさま体勢を立て直し、左手のビームサーベルを腰部に戻す。

 

 

『いい加減にしろっ! 過去に囚われるのはもうやめるんだ!』

 

 

 連結ビームサーベルを解除し、両の手にビームサーベルを持ったジャスティスが

スラスターを全開にして突っ込んで来る。

デスティニーはVLユニットを起動して光の翼を発生させ後方に下がり回避する。

 

 

『ふざけるな!そんなのただの言葉じゃないか!』

 

 

 デスティニーの光の翼が広がる。

機体サイズより大きく巨大に、血の様に【紅い翼】が広がる。

 

巨大な光の翼を翻しながらデスティニーがジャスティスに向けて突っ込む。

 

 

『過去に囚われるのはやめろ? 誰がそれを間違いだと決めたんだ!? 失ってしまった過去を想うのは間違いで、未来を守る事だけが正義なのかよ!? それを決めていいのはアンタ達じゃない! 俺達じゃないのかっ!?』

 

 

 シンとアスランの決定的な違い、それは過去への思いの強さだ。

アスランは未来だけを見ている、過去を思い返すことはあっても背負って戦うことはない。

 

 それは仕方がなかったとはいえ、自身の手で父親を殺害してしまったことによるトラウマでもあるだろう。

 

 だがシンは自身に降りかかった全ての事を背負って戦っている。

最初から彼がそうだったわけではなく、多くの別れと出会いを繰り返したから背負うことができている。

 

 最愛の家族との別れ、初恋の少女との別れ、親友との別れ、導いてくれた人との別れ――

 

 連合の英雄達との出会い、ジャンク屋との出会い、傭兵達との出会い、サハク家との出会い、野次馬との出会い、ネオ・ザフトの仲間との出会い――

 

 彼らがいたから、かつてと違い確固たる信念を持って戦うことができているのだ。

もちろんネオ・ザフトの仲間達もシンと同じく過去を想って戦っている。

 

 

「うおおおおおおおっ!!!」

 

「はっ、早いっ!?」

 

 

 最大稼働しているVLによる既存のMSを圧倒するスピード。

 これが【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】の真髄。

【圧倒的なスピードによる強襲】――そのコンセプトを極限まで追求した機体。

 

 しかしそのスピードによりパイロットには強烈な負担を強いることになる。

だが今のシンの頭にそんなことは微塵も存在していない。

強烈なGで顔が歪むが、操縦桿を握る手は絶対に離さない。

 

 

『くっ、この馬鹿野郎っ!!』

 

 

 アスランの頭の中で【種】が弾けた。

【SEED】が発動したアスランは、近接戦闘では無敵のMSパイロットである。

凄まじいスピードかつ不規則な機動で突っ込んでくるデスティニーを正確にとらえ、右脚部に装備されている【グリフォンビームブレイド】を起動し、蹴り上げてくる。

 

 以前のデスティニーはこのビームブレイドを起動したジャスティスに敗北している。

奇しくも以前と同様のシチュエーションになっている。

完全にデスティニーはジャスティスに捉えられており、このままでは以前と同じく蹴り上げられて大破することが明白だった。

 

 

――だが

 

 

『やれるとおもうなぁぁっ!』

 

 

 シンの頭の中でも【紅い種】がはじけ飛んだ。

 

 

 突如ジャスティスの右脚部が吹き飛んだ。

ジャスティスの右脚部を破壊したのは、デスティニーの両腕マニピュレータ部に装備された【パルマフィオキーナ】を改修した武装【クラレント】

 

 パルマフィオキーナは実験要素の強い武装であり、稼働すると発光してしまうため相手には使用する事が明白となる欠点があった。

しかしパルマフィオキーナはビームライフルとしても使用が可能であり、また数秒程度とはいえハイパーデュートリオン機関を搭載しているMSのビームサーベルを受け止めることが可能な程出力が高い。

 

 デメリットを補うことができる可能性を秘めた武装をどうしても残したいと考えたネオ・ザフトの技術者達は、より実用性を高めるために、パルマフィオキーナの改修を行った。

稼働状態が丸見えになる欠点は、稼働状態のマニピュレータ部にミラージュコロイドを発生させる機能を追加したことで、稼働時の発光を一瞬光る程度に軽減することに成功した。

またコロイド粒子を拡散/集束させることで、ビームを拡散させる力場としての機能を持つことも判明している。

 

 さしものアスランでも超高速機動中のデスティニーのマニピュレータ部を確認することは不可能だ。

 

 

「なっ!?」

 

「はあああああっ!!!」

 

 

 最大稼働のVLから生まれる圧倒的なスピードのまま右手に構えたビームサーベルでジャスティスに突きを繰り出す。

ビームキックが失敗したジャスティスは慣性のまま蹴りを振り切っている体勢になっている。

 

 回避不可能。

デスティニーのビームサーベルがジャスティスを貫いた。

ビームサーベルはコックピット付近に突き刺さっている。

 

 

『ぐっ……シ……ン……っ!』

 

 

『終わりだ、アスラン……強かったよ、アンタ』

 

 

 接触回線にてそう告げデスティニーはサーベルを横に薙ぎ、ジャスティスから離れる。

小規模の爆発が起こり、やがてそれが連鎖していく。

 

 

そして機体の推進剤に引火し――散った。

 

 

「はあ、はあ、はあ……っ!」

 

 

 討ち取った仇敵――その実力を痛感している。

 VLの最大稼働稼働中のデスティニーを的確にとらえていたのだ、クラレントがなければ以前と同じになっていたかもしれない。

幸いなことに機体には特に大きなダメージはない、しかしVL最大稼働はシンの体に大きな負担を強いる。

全身の筋肉と骨が軋み、腹の内では臓器がグルグルと回っているような異物感から吐き気が込みあがってくる。

まだ仇敵は1人残っている、こんなことではネオ・ザフトの皆に示しがつかない。

そう思い、シンはミネルバⅡへ通信を入れる。

 

 

「アビー、俺だ、アスランは倒した」

 

 

『シンっ! 本当ですか!?』

 

 

 通信モニターの向こうでいつも冷静なアビーが歓喜の表情を浮かべている。

通信内容が艦橋のメンバーにも漏れたようで、歓声が上がっている。

中には「ミネルバの仇が取れた!」「やっぱりシンはスーパーエースだぜ!」等の声が上がっている。

 

 

『ああ、喜んでるところ悪いんだけど……フリーダムは?』

 

 

『っ、すいません。現在ネオ・ザフトの約6割の戦力を持って足止めをしています、しかし被害は甚大です』

 

 

 そう、シンとアスランを1対1で戦わせるためにネオ・ザフトの戦力の半分以上を使って

フリーダム――【キラ・ヤマト】を足止めしていたのだ。

残りの戦力は、エターナルとアークエンジェルの撃沈または足止めの為の戦力だ。

 

 

「くそっ、戦争は数だと思うんだけどな、ほんとフリーダムだ」

 

 

 そう軽口を言いつつ、モニターにはミネルバⅡから送られてきた戦闘宙域のデータが表示される。

 

 

『我々の目的も後少し……シン、お願いします』

 

『ああ、任せてくれ』

 

『頼むぜ、俺らのスーパーエース!』

 

『分ってるよ、ヴィーノ』

 

 

 通信モニターが分割し、赤毛のメッシュが入った青年の顔が表示される。

ミネルバから、いやアカデミーからの付き合いであるMS整備士の【ヴィーノ・デュプレ】である。

整備士の制服を着ているヴィーノだが、作業用の手袋は左右で異なったデザインの物をつけていた。

ヴィーノの手袋の本来の持ち主は【ヨウラン・ケント】、メサイア戦役で戦死したシンの友人だ。

 

 

『ヴィーノ、それはヨウランの……』

 

『……ああ、こうすればあいつが力を貸してくれる気がして……んじゃ、シン頑張れよ!』

 

 

 そう言ってヴィーノは通信を切る。

もう片方の通信モニターに映るアビーは、その美しい顔に悲痛な表情を浮かべいていた。

 

 

『シン、これから足止め部隊には撤退してもらいフリーダムを誘い出します』

 

『……分かった、頼むよアビー』

 

『シンの方も……お願いしますね』

 

 

そう言って無理やり微笑んだアビー、直後に通信が切れレーダーには見知った形式番号が表示される。

 

【ZGMF-X20A】

アスランのジャスティスと共にC.E.の聖剣伝説と称えられたMS【ストライクフリーダム】だ。

レーダーに表示された目標に向け、デスティニーを向かわせる。

 

――全ては決着をつけるために。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。