【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PROLOGUE 逆襲のシン・アスカ③

 通信モニターには桃色の髪の歌姫の姿が映し出された。

ミネルバⅡとの通信が切れるほどNJの影響が強いのだが、エターナルとデスティニーはさほど離れてはいない為か内容はクリアに聞き取れた。

 

 

『聞こえますか、デスティニーのパイロット、シン・アスカ……こちらはエターナルのラクス・クラインですわ』

 

 

『……俺に何の用だ、ラクス・クライン』

 

 

 残った左手のクラレントを射撃モードで構えさせ、返答する。

何かおかしな点があればすぐにでも撃沈できるように。

 

 

『あなたに聞きたいことがありましたので』

 

 

 モニターの中でラクス・クラインは微笑んでいる。

 

 

『何故あなたは戦うのですか?』

 

 

 ラクス・クラインの問いについて内心、今更かよとため息をこぼした。

 

 

『……無自覚な悪意をばら撒くアンタ達を止めるためだ』

 

『悪意? 私達が?』

 

『……アンタ達は話し合う事をしない。相手の事をまるで考えずにただ自分の意見を押し通す、そして自分達の基準でしか物事を判断できない』

 

 

 メサイア戦役後、プラントはラクス・クラインを最高評議会議長として受け入れた。

その後プラントの主導で行われた政策は、徹底的なコーディネーター優遇政策であった。

実質的な地球圏の支配者となっていた当時のプラントの力に地球諸国はただ従うしかなかった。

 

 またプラント内部でも問題が発生していた――それは増税だ。

世界から争いの種を取り除く鎮圧作戦、軍事支出増加に伴う増税に次ぐ増税。

プラントの経済は冷え切り、一般労働者の賃金は日常生活にも貧窮するレベルまで低下してしまっている。

 

 

『……』

 

 

 ラクスは微笑みを変えずにシンの言葉を聞いていた。

通信モニターに映るその顔にシンは内心ゾッとしていた。

まるで仮面のような笑み――シンには彼女の微笑みがそう見えた。

 

 

『……あなたの様な方が私のそばにいてくれたら、このような結末にはならなかったでしょうに』

 

「っ!? 何を言っている、ラクス・クライン!?」

 

 

 ラクスの言葉に強烈な悪寒を感じた。

それとほぼ同時にミネルバⅡから警告が送られてきた。

単語1つだけの警告文だったがそれを確認したシンに戦慄を与えさせるのには十分であった。

 

 ――送られてきた警告文の内容は

 

 

 "GENESIS"

 

 

「なっ、ジェネシスだって!?」

 

 

 シンの叫びと同時に、L5宙域にガンマ線の光が瞬いた。

 

 

 突如としてL5宙域に現れたのは第二次ヤキンドゥーエとメサイアで使用された禁断の戦略兵器【ジェネシス】を内蔵した機動要塞であった。

形状はメサイア戦役時に使用された、宇宙機動要塞メサイアとほぼ同様のものである。

 

 いや突如として現れたというより最初から宙域にミラージュコロイドによって察知されないように存在していたと考えるのが自然だ。

そしてキラがシンによって討たれた後に、ミラージュコロイドを解除して姿を現したのだ。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 ガンマ線レーザーの光によって反射的に目を閉じていたが、すぐさま状況を確認する。

デスティニーのレーダーに先程まで反応があった味方艦隊の内約5割の反応が消えていた。

言うまでもなくジェネシスの掃射で消滅したのだ。

 

 また味方艦隊と交戦中であったザフト艦隊も同じく消し飛んでいた。

デスティニーのモニターに映るのはかつてのメサイアとほぼ同等の機動要塞。

 

 

『ふふっ、綺麗ですわね』

 

 

 ラクスの声が繋がったままの通信から聞こえてくる。

 

 

『ふざけるな! 今ので何人の人間が死んだと思ってる!? それに味方まで巻き込んで!』

 

『私は世界のモノ、世界は私のモノ、それが摂理ですのに世界が拒むから……こうなるのですわ』

 

 

 通信モニターに映るラクスはまるで玩具ではしゃぐ子供の様な笑みを浮かべつつシンに告げる。

背筋に寒気が走ると同時にそれを美しいと感じてしまった。

 

 

 再びミネルバⅡよりコックピットモニターに警告が送られてくる。

機動要塞(便宜上メサイアⅡと呼称)の射線が地球に向いていると。

 

 

「ジェネシスを地球に撃つだとっ!?」

 

『どうしますか、シン? 私の元に来ていただけるのなら、地球から射線を外すことを約束いたしますわ』

 

 

 子供をあやす様な言葉を彼女は告げる。

彼女の言っている内容は降伏を迫るものだ。

だと言うのに感じるのはまるで母親に抱きしめられているかのような安心感。

 

 ラクス・クラインの本質は【蛇】

アダムとイブを唆して知恵の実に手を付けさせた【蛇】だ。

 

 

『あなたは今迷っているはずですわ……でなければすぐに私を殺したはず』

 

「……っ!」

 

 

 ラクスの笑顔を美しいものだと感じたことがばれていた。

シンの心を見透かした彼女は立て続けに告げる。

 

 

『苦しまなくてもいいのですよ、シン……私にすべてを委ねてくださいな』

 

 

 唯一無二の強烈なカリスマ。

敵軍の兵士までを魅了する歌姫。

以前までならば、メサイア戦役の時のシンならば確実に惑わされ、下手をすれば取り込まれていただろう。

 

 ――だが今は違う。

 

 

『……なるほどな。そうやってキラ・ヤマトやアスランを取り込んだんだな』

 

『……』

 

 

 シンの言葉を聞いた途端、ラクスの顔から初めて笑みが消えた。

残ったのは無表情。

 

 何の感情もない。

 彼女の顔。

 

 今のシンが戦う理由、それは世界の人々の命を侵す毒花を刈り取ること。

 

 もう2度と今ある花を吹き飛ばさせないために。

初めからシンにそんな甘言が届くはずがなかったのだ。

 

 

『俺も危なかったよ。だがな、もう2度と今ある花を吹き飛ばさせないために俺は戦う!アンタに全部委ねることなんか、するものかあああっ!』

 

 

 誘惑を振り切るように、デスティニーの光の翼が広がる。

VLを稼働状態にするのと同時に、左手のクラレントを連続発射させる。

 

 

『……ああ、やはりあなたの様な殿方がいれば……私は……』

 

 

 クラレントのビームによってエターナルが火に包まれる直前、繋がったままの通信から確かにそう聞こえた。

 

 歌姫の搭乗艦はビームによって撃ち抜かれ、静かに爆炎に飲まれていく。

同時にミネルバⅡより通信が入った。

通信には、ジェネシスの発射準備が始まっていると表示された。

 

 

「っ!? ジェネシスが!?」

 

 

 モニターに映るジェネシスにデスティニーを向かわせる。

 

 

「間に合えっ、間に合えええええっ!!」

 

 

 VLはすでに最大稼働状態である。

消耗などすでに無視し、デスティニーが戦場を翔る。

 

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