【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
どこか寂しさを感じた。同じ女だからわかる寂しさとでも言うべきものだろうか。
もしかしたら、彼女は自分を支えてくれる男が欲しかったのではないかと思うのだ。
C.E110年 地球圏統一連邦政府軍 統合参謀本部所属 アビー・ウィンザー中将著
「歌姫の騎士団についての私的見解」より抜粋
目標はメサイアⅡの管理区画。
今のデスティニーにはビーム砲などの大出力火器が装備されていないため、管理区画を直接叩くしか止める手段はない。
当然、メサイアⅡからは迎撃の為のビームが放たれる。
まるでビームが壁になったかの様な密度だ。
「うおおおおおおおおおおおっ!!」
ビームシールドを構え、全速でビームの嵐に突っ込むデスティニー。
機体とパイロットが万全の状態であるならば、この嵐を無傷で掻い潜ることも可能であっただろう。
しかしジャスティスとフリーダムとの連戦による機体の損壊と、パイロットの消耗があるため全てを回避することは適わず、頭部や右肩など数箇所を被弾してしまっている。
「まだだ、デスティニー……!俺たちはまだやらなきゃいけないことがあるんだっ!」
被弾によって頭部を吹き飛ばされ、衝撃がコックピットに伝わる。
だがシンの瞳に宿る戦意に陰りはない。
VL最大稼動状態を維持したまま、メサイアⅡに取り付くことに成功した。
メサイアの構造を知っているシンはすぐさま、管理区画をロックオン。
「こんな兵器あっちゃいけないんだ、消えろおおおっ!!」
残った武装である左手のクラレントを連射し、管理区画を撃ち抜く。
しかし状況は好転しなかった。
「っ!? 核の爆発が始まるのかっ!?」
メサイアⅡ内部に高エネルギー反応が確認された。
ジェネシスは
シンが管理区画を破壊すると同時に、核の起爆命令が送信されていたのだ。
だが今ならジェネシスの発射口から内部に侵入して、破壊することが可能のはず。
「迷っている暇なんてっ!」
紅い光の翼を翻し、デスティニーがジェネシスの発射口に飛び込む。
発射口から侵入したデスティニーはジェネシス内部のミラー部分に到達――
だがデスティニーの武装に要塞攻略用の武装はなく残っているのはクラレントのみ。
それはシンも承知の事であった。
「……コード起動、【Ash to Ash】」
コックピット内に警告ブザーが鳴り響き、モニターにはカウントが表示された。
音声認識による【自爆コード】が起動したのだ。
ハイパーデュートリオン機関を持つデスティニーの動力を意図的に暴走させて自爆させればジェネシスを内部から破壊できるはず。
「……まさかアスランと同じ行動をするなんてな」
先ほど倒した仇敵、アスランのヤキンドゥーエでの行動を知っていたため自嘲的な笑みをこぼす。
「……やれるだけやったさ。アビー、ヴィーノ、ネオ・ザフトの皆……後は頼む」
その直後、デスティニーは光に包まれた。
――デスティニーの捨て身の自爆により、メサイアⅡは沈黙した。
直後、現ザフト陣営がネオ・ザフト陣営に降伏を打診し、ネオ・ザフト側はこれを受託した。
キラ・ヤマト、ラクス・クライン、アスラン・ザラと絶対的な英雄を失ったザフトには戦線維持するだけの士気が残っていなかった。
C.E. 80
プラント独立戦争と合わせれば10年程続いた戦乱の時代は終わった。
ザフト、ネオ・ザフトは共に解体され、世界は新たに設立された【地球圏統一連邦政府】によってようやく一つに纏まった。
長きに渡る戦乱によって人類は疲れすぎていた。
休眠とも言える平和の時代を求めたのだ。
そこにナチュラル・コーディネーターの区別は存在しなかった。
世界はようやく平和への道を歩み始めた。
しかし、そこには【シン・アスカ】はいない。