【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE2 変わり行く日常

 

 時刻は午前7時。

リビングでは真と父親である【飛鳥大胡】が朝食をとっていた。

 

 190cmを越える長身にがっちりとした筋肉質の体格、やや濃い茶色の髪の毛をショートレイヤーにし、少々の髭も生やしているが下品には感じず男らしさを際立てている。

これが飛鳥家の大黒柱、飛鳥大胡である。

大胡はすでに食事を終えており、コーヒーを飲みつつ、目の前でフレンチトーストを食べている真を見つつあることを聞く。

 

 フレンチトースト、トマトが盛られたサラダ、ブラックコーヒー。

これが本日の飛鳥家の朝食なり。

 

 

「真、明日は問題ないのかい?」

 

「ん、問題ないよ。父さんはどうなのさ、今度社長さんと打ち合わせみたいなのがあるんじゃなかった?」

 

 

 フレンチトーストを軽く平らげた真は、コーヒーを飲みながら大胡に問い返す。

対する大胡も同じくコーヒーを飲みながら真に返答する。

 

 

「ああ、そうだね、僕のほうも問題はないさ。応武さんはよくしてくれているよ」

 

 

 大胡はIS等の最先端科学を応用した製品を生み出している企業【日出工業】の技術者である。

IS部門のシェアは日本の倉持技研と双璧をなしており、企業所属のIS搭乗者もいるほどだ。

またIS部門だけではなく、災害救助用のパワードスーツや重機などを開発している。

大胡はその企業のIS技術開発部門に技術者として所属している。

 

 

「……父さんは凄いよ。ISの技術者ってことはあの思想をモロに受けるのにさ」

 

「おだてても小遣いは上げないぞ、真」

 

 

 別にそんなつもりじゃと真は苦笑する。

それを見て大胡も微笑んでいた。

 

 

「あの思想の影響がないって訳じゃないさ。でもね、そんなモノに負けてたら技術者なんてやってられないよ。技術者は自分の夢を形に変える仕事だからね、他人なんか入る余地もないさ」

 

 

 大胡はそう言って飲みかけのコーヒーに口をつける。

その姿に真は尊敬の念を覚えた。

 

 

「凄いよ、父さんは」

 

「だからおだてても小遣いは上げないよ……試験、頑張りなさい」

 

 

 大胡の言葉に力強く頷く。

するとリビングに眠たそうな女の子の声が響いた。

 

 

「ふわ~……。お父さん、お兄ちゃん、おはよー」

 

 

 腰まで伸ばした綺麗な茶色の髪、真とは異なり紫の瞳、幼い雰囲気を出しつつも若干13歳でありながら出るところは出始めている身体、顔も相当の美少女である真の妹、【飛鳥真由】である。

パジャマのまま眠たそうに目をこすりながら真の隣に座り、あくびをしていた。

 

 

「おはよう、真由」

 

 

 真と大胡がそろって真由に挨拶を返す。

 

 

「う~ん、眠いよぉ……」

 

「また夜更かしをしていたのかい、真由?」

 

 

 大胡が静かに真由に問いかける。

穏やかな口調だが少々怒気がこめられており、大胡の目は笑ってはいなかった。

それを感じ取った真由は少し怯えながら答える。

 

 

「お父さん、ごめんなさい……。夜更かししてました」

 

「はあ、全く……。何をしていたんだい?」

 

「えっと……撮り溜めてた仮面ライダーを見てたの」

 

 

 真由の趣味は意外にも日曜朝に放送されている特撮番組の視聴だ。

この趣味は幼い頃真と一緒に番組を視聴していたらいつの間にかはまってしまったことに起因している。

ちなみに真も特撮番組の視聴は継続しており、兄妹でどのライダーが好きかなど、たまに議論している。

 

 年頃の少女の趣味からは若干外れていることに少々ため息をつきつつ、大胡は真由に告げた。

 

 

「……夜更かしは程々にしなさい」

 

「はぁい、ごめんなさい」

 

 

 真由は謝罪しつつ、玲奈によって目の前に出されていた朝食を食べ始める。

 

 

「そういえばお兄ちゃん、明日試験だっけ?」

 

「ん、ああ。まあ問題はないかな」

 

「さっすが、お兄ちゃん! でも一夏さんや弾さんは大丈夫なの? ガッコは同じでしょ?」

 

 

 真由は真の友人【織斑一夏】と【五反田弾】と言う人物の名前を出した。

 

 

 織斑一夏は真の幼い頃からの友人である。

曲がったことが嫌いなまっすぐな人間であり、好感が持てる。

ただ女心についての理解が全くないため、それに付き合わされる真や他の友人達はいい迷惑である。

しかも一夏は俗に言うイケメンだ。

 

 五反田弾は小学校からの友人である。

知り合ったきっかけは一夏絡みの女生徒へのアフターケアで意見が一致したためだ。

珍しい赤毛の彼は一夏と同じくイケメンではある。

しかしイケメンの前に【残念な】が付くタイプであるが。

 

 真も女生徒から人気が高い。

しかし一夏関連のアフターケアに追われていたため、告白されることなんてなかったという悲しい事情があるのだがそれは別の話だ。

 

 

「弾も一夏も問題ないと思うよ、ちゃんと勉強させたしね……寝坊しなければ」

 

「あはは……さすがにしないんじゃない?」

 

「まあ、流石にしないか……うん、ご馳走様」

 

 

 真は残っていたコーヒーを飲み干し、手を合わせる。

しかしこの時の杞憂がまさか現実になろうとは当時の真には思っても見なかったのだ。

 

 


 

 

翌日

 

 藍越学園・IS学園合同入学試験会場と記された立て看板の前に真は立っていた。

 

 

「遅いっ。一夏はいったい何してるんだよ」

 

 

 イラつきながら何度も腕時計を確認する。

真のイラつきの原因は、試験開始までの時間は刻一刻と近づいているのに、友人である一夏が待ち合わせ場所に来ていないことだ。

 

 

「まあ、落ち着けって、真。焦るのも分かるけどよ」

 

 

 そう言って弾は苦笑しつつ同じく時計を見る。

試験開始までは残り30分。

受付等の受付時間終了までが残り10分程なので、実質20分程度しか残ってない。

 

 

「携帯にかけてみても通じないし……弾、家のほうはどうだ?」

 

「さっきから家にかけても出ないから外には出てるとは思うけど。今、千冬さんいないって言ってたし」

 

 

 弾は先ほどから一夏の家に数回電話をかけているが、一夏は出ない。

彼女の姉であり、超が付く有名人でもある【織斑千冬】もでない。

 

 

「……もう5分待ったら中で待とうぜ、流石に俺らもやばい」

 

 

 弾の提案に真は頷く。

試験会場入口を見回してみるが、やはり一夏の姿はない。

 

 

「一夏、どうしたんだよ……!」

 

 

 その後5分経過したがやはり一夏は現れなかった。

仕方なく真と弾は藍越学園側の試験会場に入り、受付を済ませる。

 

 

 その後無事試験は終了したが結局会場に一夏が現れることはなかった。

 

 


 

 

 試験終了後の受験者があふれる会場前に2人は出てきていた。

真と弾の試験は問題なく終了し、本人たちも手ごたえを感じていた

しかしやはり友人が試験会場に来ていなかった事により彼らの表情は冴えない。

 

 

「あいつ、頑張って勉強してたのに……」

 

 

 真は一夏の努力を知っていた。

藍越学園の卒業後は安定した就職が見込めるため、姉であり自分を守ってくれていた人の負担を少しでも減らせるようになりたいと言い、一夏は真や弾と共に受験勉強を続けていたのだ。

 

 

「……ちょっと電話してみるわ」

 

 

 弾が携帯の電源をONにする。

試験会場内では、電源をOFFにしていたので当然だ。

 

 

「まずはあいつの携帯に……ん、何か向こう側騒がしくないか?」

 

「向こう側って……IS学園の入学試験会場か?」

 

 

 弾がIS学園側の入試会場が騒がしいことに気づき、真もそれに気づく。

確かに弾の言うとおり、何やらIS学園側のスタッフがあわただしく出入りを繰り返している。

2人とも友人の事に頭が一杯になっていたため、気づくのが遅れたのだ。

 

 

「すいません、何かあったんですか?」

 

 

 気になった真が目の前を通ったIS学園側のスタッフと思われる女性に話しかけた。

スタッフの女性が振り向き、驚愕した表情で真の質問に答えた。

 

 

「何って、男性搭乗者が現れたのよ!」

 

「っ、搭乗者って……?」

 

「ISのよ!」

 

 

 そう言って立ち止まっていたことに気づいた女性スタッフはすぐさま試験会場に入って行ってしまう。

女性の発言は最強の兵器と言われるISの【前提】をぶち壊すものだった。

 

 

「はぁ? 男はISを操縦できないんじゃあ……?」

 

 

 そう、ISは原因は不明だが女性にしか反応せず操縦できないもののはずである。

 

 

「おっ、おい! これ見ろ、真!」

 

 

 少々呆けていた真が弾に呼ばれて、彼の携帯の画面を見せられる。

携帯はTVを映しており、ニュースが流れていた。

ニュースキャスターの女性が驚愕の表情と共に内容を伝えている。

 

 

『驚くべき速報です。先ほどIS学園入学試験会場にて男性のIS男性搭乗者が発見されました!男性搭乗者の名前は【織斑一夏】君15歳で……』

 

 

 ニュースキャスターの女性の口から出た名前はよく知る友人のモノ。

それを聞いた2人の反応は異なるモノだった。

 

 

「無事でよかったけどよあいつ、何やってんだよ……」

 

 

 弾は少々呆れたように呟く。

 対する真は――

 

 

「……この発見は色々と世界が動くな。まずいなこれは……」

 

 

 ――【シン・アスカ】として、熟練の戦士としての勘と嗅覚で世界が動くことを感じ取っていた。

 

 


 

 

 同時刻

 日出工業 本社 社長室

 

 

 日出工業の社長室で、同じように男性搭乗者発見のニュースを見ている人物が2人いた。

1人は真の父親の大胡、いつもは作業服なのだが今日は社長との打ち合わせがあったため、スーツ姿だ。

 

 もう1人は女性だ。

 

 

「……大変な事になりましたね、社長」

 

「そうね……彼は知り合いでしょ、大胡君」

 

 

 淡い紫の色のショートヘアに180cmを超える長身、物柔らかな表情を浮かべたスーツ姿。

顔やプロポーションもモデル並みに整っており10人中10人が美女と答えるだろう。

この女性が日出工業の社長である。

 

 

「ええ、息子とは幼い頃からの仲で……」

 

「なるほどね……息子さんの名前は……真君だったかしら?」

 

 

 女社長は大胡に真の名前を聞く。

それに対し大胡は不思議そうに聞き返す。

 

 

「ええ、そうですが……真の事をご存知で?」

 

「まあ、以前から興味を持ってたのよ……中々に母性に来る顔をしてるのよ、彼」

 

「はあ……」

 

 

 息子の事を褒めていると取っていいのか判断がつかない大胡が気の抜けた返事を返す。

 

 

「さて、こうしてはいられないわ、大胡君、準備を」

 

「えっ、準備……ですか?」

 

「そう、準備よ……男がISに乗れるのだもの、おそらく日本各地で男性搭乗者の

確認テストが行われるはず……こちらのほうで色々と根回しをしないとまずいわ」

 

 

 そう言って女社長は目線で大胡についてくるように命じ、社長室から出て行く。

大胡もそれについていく。

 

 

「……飛鳥真……真・飛鳥……【シン・アスカ】……おそらく彼ならば……」

 

 

 女社長はそう自分だけに聞こえるように呟いた。

彼女の胸にはネームプレートがあり、そこに記載されている名前は――

 

 

【応武優菜】

 

 

 と記されていた。

 

 


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