【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE3 2人目の搭乗者

 男性搭乗者が発見されたという衝撃のニュースから数日後。

全国一斉の搭乗適正調査が行われる事となった。

 

 

 真達の通う中学でも男子生徒が体育館に集められ、中央に鎮座している量産型IS【打鉄】に触り適性を見るというテストが行われている。

鎮座している姿はまるで戦国時代の武士が着るような鎧そのものだ。

ただスラスターなどがあるため純然に鎧という訳ではないが。

 

 スタッフを見ると着ている制服が2つに分かれている。

1つは真にとっては見慣れているモノ

 

 父親が着ている作業着にもつけられている社章、【日出工業】のスタッフだろう。

もう1つは見たことがない制服だが、ISの適性テストということはおそらく倉持技研のスタッフであろうと真は判断していた。

 

 

「なあ、真、ISに乗れたらIS学園に行けるんだよな?」

 

 

 真の前に並んでいる弾がにやけながら真に話しかけてくる。

IS学園は全寮制の女子高であり、そこに通っている女生徒は美少女ばかりといわれている。

彼女ほしいと常日頃から言っている弾にとっては楽園であろう。

 

 

「……行けるんじゃないか?」

 

 

 浮かれている弾をジト目で見つつ、適当に返す。

真は弾の様にこのテストを楽観視することはできなかったのだ。

 

 

(……2人目が見つかったとしても後ろ盾がない。人道的な処置は見込めないだろうな、最悪モルモットか)

 

 

 一夏の場合は彼の姉が世界最強のブリュンヒルデであり、篠ノ之束の知り合いという強力な後ろ盾がある。

 

 だが真には強固な後ろ盾なんてものは存在していない。

一応篠ノ之束には【あっくん】と呼ばれてはいたが、一夏程の後ろ盾ではない。

 

 前世のザフトでの経験が思い出される。

当時、エクステンデッドのステラを拘束したザフト軍はその身体データを取るため

彼女をモルモットにしようとしたのだ。

 

 その当時はシンの独断で連合に返却した為、ステラはモルモットになることはなかった。

しかしそのためベルリンの悲劇を起こしてしまったことはシンの中に重い十字架として残っている。

 

 

(弾やクラスメイトの皆が2人目になったら……どうする? 俺だけで何とかできるか?)

 

 

 万が一の為、制服を少々改造して裏地にナイフホルダーを仕込んでいる。

一見ポケットに見えるように改造しているため、母親などにはばれていない。

 

 軍用の大型ナイフに比べれば大きさは劣るが、アウトドア用サバイバルナイフだ。

首や胸などを突けば十分致命傷を与えることができる。

 

 

(ナイフはあるし、スタッフは見たところ素人。だけどあの【眼鏡をかけた女の人】……おそらくISを持っている)

 

 

 真はスタッフの中に1人だけ雰囲気が違う者がいることに気づいていた。

戦士の嗅覚――シン・アスカとして鍛えられた感覚が自身と同じ匂いを感じ取ったのだ。

 

 眼鏡をかけた栗色の髪をショートカットにした女性、身長は真より10cmほど下回っている。

IS専用のスーツ越しだからか、鍛えられていることが分かるが女性的な雰囲気も醸し出している体つき。

その左腕にはブレスレットの様な【黒い腕輪】がつけられていた。

【日出工業】の社章付きの上着を羽織っているので、どうやら企業所属のIS搭乗者のようだ。

 

 

(おそらくあれが彼女のIS。父さんが言ってたな、ISは待機状態だとアクセサリーみたいになるって……もし万が一の場合になったら、ISの起動前にやるしかない)

 

 

 大胡から教えてもらったIS知識を思い出しながら、戦略を立てていた時だった。

 

 

「よし、俺の番だ!」

 

 

 どうやら検査の順番が弾に回ってきたようだ。

確認の為一旦思考の海から這い上がり、弾の検査を見守る。

 

 

「はい、それじゃそこに手を置いてね」

 

「動け動けよ~……どうだ!」

 

 

 スタッフの指示の通りに弾がISに触れる

しかし何も反応を示さない。

 

 

「……はい、お疲れ様でした」

 

「ちくしょおおおおおおおお!!!」

 

 

 スタッフの声と、弾の無念の叫びが体育館に木霊した。

この結果に正直真は胸を撫で下ろした。

 

 

「お疲れさん、駄目だったな」

 

「くそぉ……何で一夏だけぇ……!」

 

 

 結果に恨み言を漏らす弾が列から外れる。

 

 

「次は君ね……あら、もしかして大胡さんの息子さん?」

 

 

 スタッフの女性が名簿を確認し、大胡の名前を出す。

予想外の事に少々驚きつつ聞き返す。

よく見たらスタッフの女性の制服には【日出工業】の社章がついている。

 

 

「父さんを知ってるんですか?」

 

「ええ、お世話になってるわ。彼は第3世代ISの開発責任者でもあるし……ああ、ごめんね、そこに手を置いて」

 

 

 第3世代という気になる言葉が出たが、そこには触れない。

スタッフの女性の指示に従って真は【打鉄】に触れる。

 

 その瞬間

 

 ――意識の中で【種】が弾け飛んだ。

 

 

「っ!?」

 

 

 同時に凄まじい情報の奔流が真の頭に流れ込む。

打鉄の操作方法、装備の詳細情報、ハイパーセンサーの稼働状況、パッシブ()イナーシャル()キャンセラー()の稼働状況、シールドエネルギーの状況etc――気が付くと真は打鉄を身に纏っていた。

 

 

(今のは【S.E.E.D】か!? MSにも乗ってないのに!? 生まれ変わってから発動したこともなかったのに!? というか俺、今ISを装着しているのか!?)

 

 

 予想もしていなかった状況に流石の真も混乱してしまう。

だがそれ以上に混乱しているのは弾や集められた男子生徒、またはスタッフの方であった。

 

 

「ふっ、2人目……!?」

 

「まさか本当にいるなんて……!」

 

「おっ、おい、真……マジかよ……!」

 

「2人目キター!?」

 

「飛鳥さんが2人目!?」

 

 

(っ! やばい、この状況!?)

 

 

 パニックになっている皆を見て、ある程度は冷静さを取り戻す。

しかし状況は真にとってかなり悪い、とりあえずは身の安全を確保しなければならない。

 

何としてもモルモットだけは回避しなければ――

 

 

(ハイパーセンサーってのは自分の後方まで正確に把握できるのか……あるいは【S.E.E.D】が発動してるからか? )

 

 

 ハイパーセンサーで体育館全体を確認。

後方に開いている窓を確認した。

 

 先程流れ込んできた情報からPICの操作を行う。

彼がイメージするのはMSをスラスターで浮遊させるイメージ、併せてそれを自分の身体で行うイメージ。

すると身体が浮かび上がり、空中へ飛び上がる。

スラスターを全開に吹かして、先ほどハイパーセンサーで確認した体育館の開いている窓に向かって飛ぶ。

 

 

「ちょっ、飛鳥君、まっ……!?」

 

 

 真の突然の行動によってさらにスタッフ間にパニックが広がる。

しかし、その中でも冷静に行動できた人物が1人だけいた。

 

 その人物は真の行動がおそらく実験台にされると恐れたことによる行動だとも認識していた。

 

 

「っ!?」

 

『おっと、逃げちゃダメだよ、真君』

 

 

 全身が黒い機体。

搭乗者の両腕から両肩、両足を覆うように大きな装甲とマニピュレーター、背部にはMSのランドセルの様なスラスターユニット、肩部には実体剣が埋め込まれたシールドが2つ浮遊している。また腰部にはMSなどでよく見るサーベルの柄の様なものが2つ装備されていた。

どこかデジャヴを感じる機体が真の眼前に割り込み、脱出を拒む。

同時にプライベートチャネルが繋がる。

 

 

『あんたはっ!?』

 

『あらら、忘れちゃったの? お姉さん悲しいぞぉ?』

 

 

 おどけた様な声色で黒い機体の搭乗者は真に顔を合わせる。

美人――だが真にとっては見覚えがない。

 

 

『誰だよアンタ!?』

 

 

『ほんとに忘れちゃったの? 君がザフトのテストパイロット時代は手取り足取り教えてあげたのになー?』

 

 

 その言葉と彼女の態度でシンの脳裏に思い出されるのは、コーディネーターであるのに眼鏡をかけた優秀な女性パイロット。

テストパイロット時代に、コートニーと共にシンを鍛えてくれたお節介焼きな年上の女性。

ネオ・ザフトには参加せず、地球に降りて復興団体に所属していた人物。

名前は【リーカ・シェダー】

 

 

『……まさか、アンタ……リーカさん!?』

 

『そうそう、思い出してくれてありがとう……っと!』

 

 

 驚愕と共にわずかに真にできた隙を彼女は見逃さなかった。

突如彼女のIS腰部からワイヤーが発射され、真の打鉄の腕部に絡みついたのだ。

サーベルの様な武装はワイヤー発射装置だったのだ。

 

 これがMSならば真は事もなげにワイヤーをサーベルやら近接武装でいなせた、または回避できたであろう。

しかしISに搭乗するのはこれが初めてであり、戦闘機動などろくに取れない。

【S.E.E.D】が発動し能力が上がっていても、経験が圧倒的に不足しているのだ。

 

 

『はいはい、拘束ー!』

 

『うわぁっ!?』

 

 

 瞬間的な加速によりリーカが目の前から消え、ワイヤーによって後方に引っ張られる。

そしてリーカは再び加速し、そのままの速度で体育館の床に叩きつけられた。

 

 

「ぐあぁっ!?」

 

 

床にたたきつけられた衝撃のせいで、打鉄が解除され真は投げ出される。

 

ISには【絶対防御】と呼ばれる機能がある。

機体のシールドエネルギーを消費して搭乗者を守る機能であり、ISによって死者が出ないのはこの機能のおかげでもある。

 

床との激突の衝撃には絶対防御が発動した、しかし投げ出されてからの衝撃には【絶対防御】は発動しない。

というか投げ出されてしまったので発動も何もないのだが。

 

身体に走る衝撃によって真は満足に立ち上がることもできない。

 

 

「ぐっ……くそっ……!」

 

 

 何とか立ち上がろうとしたが、身体が縛られていることに気づいた。

いつの間にか先ほどのワイヤーが身体に絡みつき、簀巻きにされていたのだ。

 

 

『どう? 私のIS【ガイア】のワイヤーは?』

 

 

「……脱出失敗か、くそ……!」

 

 

 簀巻きの状態にされながら何とか状況を打破する策を考えるが何も浮かんで来ない。

リーカのISのマニピュレーターによってさらに簀巻きのまま床に押さえつけられる。

 

 

『悪い様にはしないよ、そうでしょ、社長ー?』

 

「……ええ、ありがとう利香(・・)

 

 

 いつの間にか体育館に社長と呼ばれた女性が姿を見せていた。

淡い紫の色のショートヘア、180cmを超える長身の美女。

 

 コツコツとヒールの音を体育館に響かせつつ簀巻きにされた真の元に女社長が歩み寄る。

 

 

「こんな形になっちゃって申し訳ないわ。初めまして2人目の男性搭乗者、飛鳥真君。私の名前は【応武優菜】。貴方のお父さん、大胡君の勤める会社【日出工業】の社長よ」

 

 

 優菜と名乗る女性は倒れている真を抱えて起き上がらせる。

いつの間にかワイヤーは消え、リーカもISの起動状態を解除していた。

 

 

「……父さんの企業の社長さんが何で……?」

 

「それは君を保護するためよ。たった今から君は【日出工業】所属のIS搭乗者になったのよ」

 

 

 優菜が微笑みながら真の質問に答えた。

いきなりの爆弾発言に真は唖然としてしまった。

 

 そしてその余波は周りへと及び――

 

 

「「「ええ~!?」」」

 

 

 体育館に日出工業のスタッフ以外の叫びが木霊した。

 

 




※S.E.E.D.とは
「Superior Evolutionary Element Destined-factor」
【優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子】

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