【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE5 空に奔る衝撃

真が正式に日出工業に所属することとなった翌日。

日出工業の応接室に2人の女性が打ち合わせのために待機していた。

 

1人は一見子供のようにも見える緑髪の女性だが母性に溢れた2つの果実が、彼女を子供ではないと主張している。

だがスーツを着ていてもどこかおっとりした雰囲気をかもし出している。

 

もう1人は、緑髪の女性と比べて凛とした雰囲気が漂っている黒髪の女性だ。

女性にしては身長が高く、おそらく真より少し下程度であろう。

スーツがピシッと似合っており、絵に描いたようなできる女といった感じだ。

 

 

彼女達が待機していると、応接室に優菜が入ってくる。

少し疲れているような雰囲気だが、それを顔には出していない。

 

 

「遅くなり失礼しました、なにぶん色々と忙しくて……」

 

 

優菜の入室にあわせて黒髪の女性が立ち上がる。

緑髪の女性もそれに習い、立ち上がる。

 

 

「それでは自己紹介をば。日出工業の応武優菜と申します。本日はよろしくお願い致します」

 

「IS学園で教鞭をとらせていただいております、織斑千冬です。本日はよろしくお願い致します」

 

「おっ、同じくIS学園で教師を勤めております、山田真耶です。本日はよろしくお願い致します」

 

 

 3人がお互いの名刺を交換して、簡易な自己紹介を行って椅子に座る。

 

 

「優菜社長自らがご対応していただけるのはこちらとしても助かります」

 

「世界最強のブリュンヒルデにそんな風に言ってもらえるなんて嬉しいです」

 

「ご謙遜を。件の彼を政府や委員会から保護した手腕は痛快かつ的確で、参考になる点が多々ありました」

 

「まあ、あれは個人的に許せなかったのもあったので……さて、本題のほうに参りましょう?」

 

「ええ。彼のIS学園への入学の件、ご検討いただけましたでしょうか。」

 

 

 本日の打ち合わせは真の【IS学園】への入学についての調整である。

 

 真の立場は現在【日出工業所属のIS搭乗者】となっているが、この立場が不変のモノと言う訳ではない。

なのでIS学園と呼ばれる日本に設置されたIS搭乗者を養成する学園に入学させて、保護させるというのがIS学園側の要望だ。

IS学園はどの国家・企業にも属さず、警護もあるためここに入学すれば真の安全はほぼ確保される。

 

 

「私の方でも彼の入学は大歓迎です。それに【1人目の彼】もIS学園に入学するのでしょう?」

 

「はい、織斑一夏も同じく入学します。ということは入学については問題ないとのことでよろしいでしょうか?」

 

 

 千冬が優菜に確認を取る。

優菜もそれについては首を縦に振り、承諾の意を示す。

 

 

「こちらとしては問題はないのですが……1つ要望があるのです」

 

「要望……とは?」

 

「彼の使用する専用機は少々特殊なモノでして。それについての定期的にスタッフを送り調整とデータの収集を行いたいと考えております。加えて政府と委員会の取引に新型機と彼のデータを渡すと条件に出してしまいましたので……よろしいでしょうか?」

 

 

 IS学園への部外者の立ち入りは基本的に許可されていないのが現状だ。

しかし真は得られたデータを政府と委員会に渡す契約があるため、この要望は認めてもらわなければならない。

 

 

「そうでしたね。彼の状況はもう1人と比べてかなり悪い……そう言うことならこちら側も問題ありません」

 

「はい。この後すぐ学園側にもこの事をお伝えいたします」

 

「ありがとうございます、織斑教諭、山田教諭」

 

 

 その後は詳しい入学式の日程や当日のスケジュール、入学前に必読な参考書などをやり取りし打ち合わせは終了した。

 


 

 千冬と真耶の2人は打ち合わせ終了後、日出工業近くのカフェで先ほどの打ち合わせについて意見のやり取りを行っていた。

 

 

「丁寧かつ迅速な対応でしたね。織斑先生」

 

「私とそう年齢も違わんだろうに1代で会社を倉持と双璧をなすレベルまでに拡大した人物だ。流石としか言いようがないが……」

 

 

 そこまで言って千冬は黙る。

テーブルの上に置かれているコーヒーを黙って見続ける彼女を不思議に思い、真耶が話しかける。

 

 

「どうかしたんですか?」

 

「いや、何か隠しているような、そうでないような……ああ、これは勘だから気にしなくていい」

 

 

 そう言ってコーヒーに口をつける、コーヒーの苦さと香りが気分をリフレッシュさせていくのを感じた。

 

 


 

 日出工業本社 地下IS開発/整備区域

 

 現在優菜は日出工業本社ビルの地下数10mに作られた、広さ数100mの巨大な区画で真の専用機の初起動に立ち会っていた。

 何故本社の地下にこんな施設があるかと言うと、ある物好きな研究者が「カッコいいからだ!」と優菜に直談判し、当の優菜はその気迫に押され許可を出してしまったと言う経緯がある。

まあ、そのおかげで色々とスムーズに開発等が進むので問題はないのだが。

 

 

「へっくし」

 

「あら、社長、風邪です?」

 

 

 優菜のくしゃみに隣にいた白衣を着た女性研究員が気づく。

季節は冬から春へと移り変わり始める時期であり、環境の変化によって体調を崩す場合もあるだろう。

だが優菜はそれを否定する。

 

 

「誰かが私の噂でもしてるんでしょ? モテる女はつらいわね」

 

 

 そう言って笑うが研究員にはジト目で見られている。

 

 

「社長知ってます? 社長にはレズ疑惑があるって」

 

「ぶっ!?」

 

 

 思わず噴き出す。

周りにいた研究員達がその様子を不思議そうに見ている。

 

 

「何よそれ!? そんなの私知らないわよ!?」

 

「だって社長、すっごい美人なのに男性との交際のお話とかないじゃないですか。それに仕事ばっかりみたいですし、結構有名ですよ、この噂?」

 

 

 ケラケラと笑いながら女性研究員は手元のタブレットに視線を移す。

 

 

「ぐぬぬ、そういうのはまだ大丈夫だと思ってたからなぁ……絶対撤回させてやる……!」

 

「別に撤回しなくていいのに~。あぁ、可愛いなぁ……食べちゃいますよ?」

 

 

 女性研究員の言葉に優菜は絶句し、少し彼女から距離をとる。

応武優菜27歳、初めて同性の部下に本能的な恐怖を感じた日であった。

 

 整備区画の端はISの稼働状況を見るための訓練フィールドになっている。

そこに真と利香は立っていた。

2人はIS搭乗時に機体との連携を強める【ISスーツ】を身に纏っている。

 

 真のスーツは日出工業特注のモノであり、前世のザフトのパイロットスーツに近く露出はない。

しかし、利香のISスーツは改造されているのか、腹部などが露出されている。

 

 そのため、なるべく真は利香の身体を見ないようにしていた。

思春期の男子にこのスーツは色々と酷だろう。

 

 

 真の目の前には【灰色の機体】が鎮座している。

脚部・腕部の装甲は利香の【ガイアガンダム】と同じであるが、ガイアほど大きなマニピュレーターではなく生身の腕が二回り大きくなった程度。

背部のランドセルも共通しているが、ランドセルには外部ユニットを装備するためのコネクト部が存在していた。

 

 

 また本体とは別に少し離れた場所に、この機体の武装であろう大型ナイフが2つ置かれていた。

 

 

「これが……俺の?」

 

「これが君の専用機、【ZGMF-X56S インパルス】をモデルに製作した第3世代型IS【インパルスガンダム】よ」

 

 

 シンにとってはデスティニーを受領する前の愛機、テストパイロットとして、リーカやコートニー達と共に作り上げた最初のMS【インパルス】

それをモデルにした機体に不思議と懐かしさを感じた。

だが1つ疑問に感じたことがある。

 

 

「【ガンダム】?」

 

 

 そう【ガンダム】という名前だ。

この名前から思い出されるのはMSのOSの頭文字【G.U.N.D.A.M】であるがこれはどの【Gタイプ】のMSにも共通しているもののはず。

当時は【デスティニー改修機】として認識していたが、歌姫の騎士団への反乱を起こした時の乗機の名前にも【ガンダム】と言う単語が入っていたことを思い出した。

 

 

「あー、それなんだけどね、インパルスの開発者【ジェーン・ヌル・ドウズ】って覚えてる?」

 

「えっと、確かザフトのセカンドステージシリーズの基礎を作った人ですよね」

 

 

 シンの記憶にあるその名前は有名なものだ。

かつてのザフトを支えたセカンドステージシリーズのMS、インパルスなどが含まれる【Gタイプ】等を設計した人物だからだ。

シンは直接会ったことはなかったが、テストパイロットとして関わっていたため、名前は覚えている。

 

 

「その人が日出にいるのよ」

 

「……え?」

 

「今ここにはいないけどね」

 

 

 利香の言葉に辺りを見回していた真が照れたように見回すのをやめる。

 

 

「その人もこの世界にってことですか」

 

「そうね。で、そのガンダムってのはジェーンさんがつけたGタイプの愛称なのよ」

 

「愛称?」

 

「そう、彼女いわく【名前のない兵器なんて美しくもない】らしいわ。だからISの名前にも【ガンダム】ってのを入れてるの。日出がここまで大きくなったのも彼女がいたからってのもあるわね」

 

 

 サラッと重要機密を漏らす利香だが、ここにはそれを気にする人間はいない。

そして真は改めて【インパルス】――否【インパルスガンダム】を直視する。

 

 

「……触っていいです?」

 

「モチロン♪」

 

 

 利香の了承を取り、装甲に触れる。

 初搭乗時とは違い【S.E.E.D.】も発動せず情報も流れ込んでこなかった、しかし身体に機体が馴染んでいく様な感覚があった。

次の瞬間、真の身体はIS【インパルスガンダム】に包まれ、浮遊していた。

 

 

「……問題なく搭乗できたわね」

 

『インパルスなのにトリコロールカラーじゃないんですね?【初期化(フィッティング)】って奴ですか?』

 

「そそ、もう少しすれば【最適化処理(パーソナライズ)】されるから」

 

 

 最適化処理(パーソナライズ)

ISには初期形態から搭乗者の情報を読み取り、装甲やソフトウェア等を自動で最適化する機能があるのだ。

 

 

『なるほど……ん?』

 

 

 腕部の表面装甲に色が付き始めると同時に【最適化処理(パーソナライズ)】が開始される。

腕部から全身へ鮮やかなトリコロールカラーが機体装甲を彩っていく。

 

 【初期装備(プリセット)】として先ほど床に置かれていたナイフが装備されている。

【フォールディングレイザー 対装甲ナイフ】。

インパルスと同じ名称でコンソール画面に表示されていた。

 

 

『ちゃんとインパルスだね、よかったよかった』

 

 

 そう言って利香は自身のIS【ガイアガンダム】を身に纏う

何故?と真が問いかけようとすると同時にオープンチャンネルで通信が入る。

 

 

『これから実戦形式でISの操縦方法を身体に叩き込んでいくからね。その機体には【シルエットシステム】が搭載されてるから、動作確認ととりあえずはシルエット交換を感覚でできるようになるまでかな』

 

 

 利香はガイアの肩部に浮遊してた実体剣2本を掴み取る。

すると刃の部分に【ビーム】が発生した。

 

 

『はぁ!? 聞いてないですよ!?』

 

『言ってないもーん。それと座学の方も叩き込んであげるから、入学までの1ヶ月……覚悟しておいてね?』

 

 

 そう言って、瞬間的に加速した利香が真に突っ込み実戦形式での訓練が始まった。

 

 

 後に真はこの1ヶ月をこう語る。

 ――地獄だったと。

 

 


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