【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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INTERMISSION 家族

 インパルス初起動と同日

日出工業所有 私有地 社宅

 

 

 真のIS適性発覚による彼の家族への影響を鑑みて、飛鳥家は日出工業の社宅に保護されていた。

ここならば警護の目があるし、いざとなれば利香等の日出工業のIS搭乗者が飛鳥家を護衛する事が可能だという優奈の判断であった。

 

 日出工業所有の私有地に建てられた社宅。

高級マンションの様な外見の1室、リビングに飛鳥家の人間全員が集まっている。

 

 

 目的は真の今後。

IS学園への入学等についての確認だ。

 

 

「真、身体の方は大丈夫なの?」

 

 

 真の母親、玲奈の心配そうな声がリビングに響く。

テーブルには大胡、玲奈、真、真由がついている。

 

 真の頬には、絆創膏が2つほど貼られている。

利香との実戦訓練のせいで軽度の切り傷を負っていたのだ。

 

 

「まあ、軽い傷だから。体力的には結構辛いけど、おかげで今日一日で【コイツ】をある程度は動かせる様になったよ」

 

 

 真が自身の首にかかっている【ドッグタグ】を見て苦笑をこぼす。

IS【インパルスガンダム】の待機形態はこのドッグタグである。

 

 いくら彼が古武術で身体を鍛えていても、今までまったく関係がなかったISを実戦形式で動かしたのだから疲れるのは仕方がない。

それに大胡も合わせて苦笑した。

 

 

「今日が初めての起動と訓練だったのに利香君も中々ハードだなぁ」

 

(……リーカさんは昔からそうだったなぁ)

 

 

 思い出されるのは、ザフトのテストパイロット時代。

コートニーとリーカ、おまけにマーレによる模擬戦の内容だ。

 

 コートニーは的確にこちらの行動を封じてくるいわゆる【詰将棋】の様な戦い方をするのに対し、リーカは機体の特性を十二分に発揮して、クロスレンジでの力と力の戦いを主にしていたのだ。

 

 当時彼女が乗っていたMSはセカンドステージシリーズの中でも近接格闘戦に重きを置いた【ガイア】であったため、ソードインパルス以外では相手にし辛く、苦戦したことを覚えている。

もっとも、コートニーの詰将棋の様な戦い方にも同じレベルで苦戦していたのだが、それは余談である。

 

 

「やっぱり私は反対よ。何で真がIS学園なんてところに行かなきゃならないの……!」

 

 

 それは母親にとっては当然の感情だ。

ISに搭乗できるというだけで真を取り巻く環境は大きく変わってしまった。

一時はモルモットにもされそうだったのだ。

 

 

「……IS学園への入学は決まってしまったし、定期的にデータを取るためにはどうしてもISの操縦ができなきゃ。真はそういう契約で今ここにいられるんだよ?」

 

「あなた……それはそうだけど……」

 

 

 いつもきつい目をしている玲奈だが、息子がISという今まで無関係だったモノにかかわる為納得できていない表情をしている。

 

 

「大丈夫さ、僕だってそりゃ心配さ。だけど息子の事を信じてやらない親はいないだろう? それに僕や、応武さん。日出の皆で真を支えるんだ、何があったって乗り越えられるよ」

 

 

 決して楽観的な考えではなく、息子を信じており、また自分たちの力に自信と誇りを持っているから。

大胡は力強く玲奈に伝えた。

 

 

「母さん、心配させてごめん。だけど俺は大丈夫だからさ」

 

「……わかったわ、真。私はあなたと日出の皆さんを信じるわ」

 

 

 そういって玲奈は真の隣まで歩いていく。

どうしたのさ?と聞こうとした真だが、彼女に抱きしめられてしまった。

玲奈の身長は150cmちょっとしかないが、真は座っているため問題なく抱きしめることができた。

 

 

「かっ、母さん!?」

 

「あなたは自慢の息子よ。頑張りなさい」

 

 

 抱きしめられたことは少々恥ずかしい。

だけどこのぬくもりは心地がいい。

 

 何より家族の温かさを感じることができる。

1分程度抱きしめられ、玲奈から解放される。

 

 

「……お兄ちゃん、私もいい?」

 

 

 今まで黙っていた真由が真の左手を握りながら言う。

え?と真が聞き返すのと、真由が彼に抱き着くのはほぼ同時であった。

 

 

「おっ、おい、真由!?」

 

「頑張ってねお兄ちゃん……!」

 

 

 真由の声は震えている。

 

 彼女も玲奈と同じく彼のモルモット化の件についてショックを受けていたのだ。

モルモット化については撤回されている。しかし場の雰囲気にあてられてしまったようだ。

 

 

「……ああ、頑張るよ」

 

「うえぇ……!」

 

 

 ついには泣き出してしまった。

 

 

「おいおい、泣くなよ真由」

 

 

 ポンポンとあやす様に妹の背中を軽くたたく。

 

 

「だってお兄ちゃんがいなくなっちゃうんじゃないかって……!」

 

「俺はいなくなったりなんてしないよ」

 

「うん……うん……!」

 

 

 真由が泣き止むまで背中を軽くたたき続けた。

5分ほど経って、真由は真から離れた。

同時に自分がやった行為について照れたのか顔を真っ赤にして、自室へと向かってしまった。

 

 

「……やれやれ」

 

 

 そう呟く真の胸には温かさが満ちていた。

この温かい想いがある限り、自分達はどんな困難だって乗り越えることができる。

そう確信していた。

 


 

 時は過ぎて真のIS学園入学1週間前

 日出工業 本社 会議室

 

 

 日出工業の会議室に優奈の姿があった。

この会議室では【次期量産型ISの仕様決定】を議題として、技術者が議論を交わしていた。

真がインパルスを稼働させてから、インパルスの稼働データ及び男性搭乗者のデータが集まっておりそのフィードバックも兼ねている。

 

 現在、【純日本製の量産型IS】と言うブランドは【打鉄】にシェアを握られている。

それに対抗すべく、また日出工業の技術力を示すために技術者達は議論を重ねている。

 

 ちなみに本来ならば大胡も出席する予定であったが、彼は保護を優先するためしばらくは社宅で待機、及び社宅でも可能な作業のみにタスクを抑えている。

 

 この会議に集められている技術者は全員優秀な人物だ。

インパルスやガイアに使用されているビーム兵器の理論構築と実物を開発した実績がある。

 

 だが――

 

 

「だから言ってるだろう? 我が【凶鳥】なら物理的破壊力を伴った重力操作も可能だと!」

 

「ふん、ならまずは基幹となるシステムとハードを完成させるんだな……その点我等の【亡霊】は拡張性に優れているし、ガイアの稼働データを使っているから信頼性も高い!」

 

「2人ともわかっていないな……【凶鳥】、【亡霊】……確かに優れた機体だ、認めよう。だがロマンだ!ロマンが足りない! だから【勇者】のようにロマンを持つべきだ!!」

 

 

 聞いている優奈の表情はすぐれない。

いや、明らかに何かを我慢している表情だ。

優奈の背後では秘書である利香も苦笑いを浮かべていた。

 

 

(この変態(バカ)どもめ、くそぉ、胃が痛い……っ!)

 

 

 彼女の胃痛の原因は、現在案として出されている【次期量産型ISの仕様】だ。

そう【量産型】なのだ。

 

 以下仕様書から抜粋。

 

 

 案① 開発コードネーム【凶鳥】

 

 インパルスを素体とし、各部装甲を簡易化しカラーを青紫に指定。

【シルエットシステム】は搭載せず、【グラビコン・システム】を搭載。

搭乗者支援の為支援AIを搭載予定。

武装の【ビームサーベル】及び【ビームライフル】はインパルスと共通。

専用武装は特殊合金製の十字手裏剣型カッターを投擲/操作する【ファング・スラッシャー】

 

 ※グラビコン・システム

 シールドエネルギーの流動及びPICを応用することで、疑似的な重力制御を可能とする装置。

 しかし技術部的な課題が多々あり開発難航中。

 

 

 

 案② 開発コードネーム【亡霊】

 

 ガイアを素体とし、各部装甲を増加。

肩部のシールド埋め込み式実体剣はオミットし、スラスターを増設。

【凶鳥】と同じく支援AIを搭載予定。

 武装の【ビームライフル】はガイア及びインパルスと共通。

専用武装は両腕装甲部及び両脚装甲部に装着した放電打撃武装【プラズマ・ステーク】

また既存のIS用武装など、豊富な換装用武器を使用可能。

 

 

 

 案③ 開発コードネーム【勇者】

 

 インパルスを素体とし、スラスターと最低限の装甲及び対装甲ナイフを持った状態【ブレイブ】を基礎とする。

ブレイブ状態時に、搭乗者からの合体コールを行うことで追加パーツを展開。

追加パーツと合体することで、絶大な装甲と機動力を併せ持つ強化形態【ブレイブキング(仮)】へと変貌する。

 

 武装は腕部装甲を飛ばす【ブレイブナックル(仮)】。

 

 

 以下似たような案が5件――

 案全てを確認した後、ぶちっと何かが切れたような音が優奈の頭の中で木霊した。

 (ちなみに残りの開発コードネームは【古鉄】【風神】【堕天使】【銃神】【武神】)

 

 

「あほかぁぁぁっ!!」

 

 

 机を両手でたたき、怒りのあまり立ち上がる。

議論を行っていた技術者達は何事かと優奈を注視した。

 

 

「あんた達っ! まじめにやりなさいよっ! 量産機っ! 量産機についての会議なのよっ!? なのに案が全部専用機並じゃないっ! それに最後の【勇者】ってのは何っ!? 最初から合体してなさいよこれ、非効率でしょっ!?」

 

 

 バンバンと怒りを机にたたきつけながら叫ぶ。

 

 

「だいたい量産機なんだから扱いやすくしなさいよっ! なんで量産機なのに拳で殴りに行くのよっ!? なんで量産機に専用機もつけてないようなシステムを積み込むのよっ!? てか作れるのこれぇっ!? 追加パーツぅっ!? 量産できるようにコストを抑えなさいよぉっ!!」

 

 

 一頻り叫び終えた後、ぜえぜえと息を切らせて座り込む。

 

 

「変態的なの禁止っ! いい? ちゃんとした量産機の仕様を決定しなさいっ!」

 

 

 だがこの後結局ちゃんとしたモノは出ず、最終的にどの案が一番カッコいいのか?で議論が白熱してしまったため、会議は中止となった。

 

 

「もうやだぁ……お腹痛いぃ……」

 

 

 涙目になりつつ社長室に戻っていく優奈を、

ある女性社員が恍惚な表情を浮かべながら見つめていたという。

 


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