【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE7 怒れる瞳

 少々時間は過ぎて、1時限目終了の休憩時間

 

 

「真、俺疲れたよ……」

 

「まあ、その気持ちは痛いほどわかる……後でノート貸してやるよ」

 

 

 真の前の席、机に突っ伏している一夏を見て真は苦笑する。

自己紹介をかねたSHRが終了した後、1時限目の授業が始まったのだ。

 

 その授業の際に一悶着があった。

一夏が授業内容について理解ができず、千冬からの参考書はどうしたのだという質問に対して必読である参考書を古い電話帳と間違えて捨てたと発言した。

大きく必読と書かれていたのにどうして捨てたんだよ、と真は突っ込みたい気持ちを抑えるのに必死だった。

 

 もちろん一夏は千冬からの出席簿アタックを喰らった後、再発行後1週間で覚えろと罰を科されてしまった。

ちなみに真については座学を利香から叩き込まれており、問題なかったため同じ男子として一夏のサポート係を任命されてしまった。

 

 

「し~ん~、ありがとな~」

 

「やめろよ、引っ付くな気持ち悪い」

 

 

 大げさなリアクションで引っ付いてくる一夏を引き離す。

その様子を見ていたクラスメイトが「織斑×飛鳥なんてどうよ?」なんて呟いているのが聞こえたため、あとで弁明しようと心に決めた真であった。

 

 

「少しいいか?」

 

 

 その声に真と一夏が振り向くと、そこには黒髪のポニーテールの少女が立っていた。

少々目つきがきついが、それを補って余りある美少女。

まさに大和撫子の言葉が当てはまるだろう美貌であり、プロポーションも抜群だ。

 

 

「久しぶりだな、一夏、真」

 

 

 親しそうにその少女が2人に話しかける。

真と一夏はその少女に見覚えがあった。

かなり成長しているが一夏にとっては幼馴染、真にとっては幼い頃一夏と共に遊んだ仲。

 

 

「箒……なのか? 久しぶりだな!」

 

 

 一夏の言葉に真は幼い頃の記憶を思い出す。

当時、剣道を習っていた一夏とその道場の娘であった彼女、【篠ノ之箒】と暇をみてよく遊んだものだ。

残念ながら小学4年生の時に箒は転校してしまい、その後遊んだりすることもなかったのだ。

 

 

「2人とも本当に久しぶりだな……すまない真、一夏を借りてもいいか?」

 

「復習させたかったけど後でいいか、OK大丈夫」

 

 

 真の返答を確認した箒は、一夏の手を取って立ち上がらせ教室から出ていく。

積もる話もあるのだろう。

 

 何故なら箒は幼い頃から一夏に想いを寄せているのだから。

真から見れば何で気づかないレベルで好意を示しているのだが、悲しいことにその想いに一夏は全然気づいていない。

まあ、それは箒の想いだけではないが。

 

 さて当然の事だが一夏がいなくなったことで、現在このクラスにいる男性搭乗者は真のみとなった。

そのため、好奇の視線が真に飛んでくる。

早速赤紫色の髪をショートカットにした活発そうな美少女、【相川清香】が真に話しかけてきた。

 

 

「飛鳥君は織斑君と仲よさそうだね、もしかして古い仲なの?」

 

 

 清香が質問すると同時にその様子を見ていたクラスメイトから「あっ、抜け駆け!」なんて呟いているのが聞こえたが無視を選択する。

 

 

「ああ、子供の頃からの付き合いさ、相川さん……だよね?」

 

「うんっ! 覚えててくれたんだ……ってあれ? でも飛鳥君、私の自己紹介の時いなかった気が……?」

 

「内容は聞いてたけど織斑先生にクラスの皆の写真と名簿を見せられてさ、それで覚えたんだ」

 

 

 クラスメイトの自己紹介を聞くことしかできなかったが、名前と顔写真は千冬に見せてもらっていたのだ。

なるほどと清香が頷き、真に手を差し出す。

 

 ――握手だ。

 

 

「これからよろしくね!」

 

「こちらこそよろしく」

 

 

 彼女からの握手に微笑みながら答える。

女尊男卑の思想が世間に広がってる中、同年代とはいえ初対面の男性と特に気兼ねなく接する姿勢の彼女には純粋に好意が持てる。

その後清香の友人【鏡ナギ】等数人と自己紹介を含めた雑談を数分交わした後、彼女達は自席へと戻っていった。

 

 

「あすあすは人気だねー、モテるねー」

 

「あすあす?」

 

 

 ニックネームか?と思い振り返る

袖丈が異常に長い制服を来た美少女、【布仏本音】が話しかけてきた。

 

 

「そうそう。飛鳥真君だから【あすあす】、織斑一夏君は【おりむー】なのだ」

 

 

 独特なネーミングセンスだが、不思議と悪い気はしなかった。

 

 

「なるほどね。でも物珍しいのもあるんじゃないかな、布仏さん」

 

「本音でいいよー。後でいろいろお話してもいい?」

 

「あぁ。大丈夫だよ、本音さん」

 

 

 ポヤポヤという擬音が似合いそうな雰囲気を出しながらやったーっ、と喜びながら本音は自席へと戻る。

 

 

「……ああいう女の子達ばっかりなら変に気を張る必要もないんだけどなぁ」

 

「ちょっとよろしくて?」

 

 

 真が呟くとほぼ同時に【美しい金髪を縦ロールにした少女】が真に話しかけてきた。

白い肌、白人特有の透き通った目に凛とした佇まい、加えてプロポーションも非常に良い。

 

 相川も布仏もこの少女も美少女であり、弾ではないがIS学園は美少女ばかりだなと思わざるを得ないと振り返った真は考えた。

 

それと同時に彼女の目を見て――

 

 

(……嫌な目だな)

 

 

 とも思ってしまった。

実際に彼女の目はまるで値踏みするかのような目つきであった。

 

 

「飛鳥真さんでよろしかったですわね?」

 

「あぁ、そういうアンタは……イギリス代表候補生の【セシリア・オルコット】さんで合ってるよな?」

 

「えぇ。流石に日出工業に所属している方はご存知でしたか」

 

 

 セシリアは真の回答に満足そうにうなずく。

【代表候補生】とは国家におけるIS搭乗者の代表である【国家代表】の候補生の事であり、彼女の場合はイギリスの国家代表候補生である。

利香にISについての座学を叩き込まれており、各国の代表及び代表候補生についてもある程度の知識はある。

 

 

「で、俺に何の用です?」

 

「特に用という訳ではなく、あなたは先程の自己紹介の際にいらっしゃらなかったのでご挨拶……といったところです」

 

「わざわざどうも」

 

「お気になさらず。女性との話し方については心得があるのですね」

 

「まぁ、日出に所属してからはそういった面も教えてもらいましたからね(処世術だっての)」

 

 

 これまで彼女と会話してみて感じたこと。

それは高いプライドを持っていることだった。

 

 それは自信とも密接に結びつくが、彼女の場合は行き過ぎている様に見える。

でなければ初対面の男性を値踏みするかのような目で見ることなどできないだろう。

 

 それを感じたからこそ、真は当たり障りのない返答を返すことにしたのだ。

初日から問題ごとを起こすなんて気はさらさらない。

 

 

「ところでもう1人の方は?」

 

「あー、別件で離れてて……伝言があるなら伝えますが?」

 

「いえ、問題ありません……それでは失礼致します」

 

 

 軽く会釈をし、セシリアが自席へと戻っていく。

会釈の際に彼女の耳についている【青いイヤーカフス】が見えた。

おそらくあれが彼女のISだろう。

 

 ただの会話なのに予想以上に労力を必要とした。

そのためセシリアが離れていくと同時に真は机に突っ伏す。

ほぼ同時に一夏と箒が教室に戻ってきた。

 

 

「ん、真、どうしたんだ?」

 

「いや、別に? お嬢様の挨拶らしい」

 

 

 突っ伏しながらの真の適当な返答に、自席に戻ってきた一夏は首をかしげた。

 

 


 

 休憩時間が終わり2時限目

 

 

「そうそう、1限目に伝え忘れていたが近々行われる【クラス対抗戦】に出場する【クラス代表】を決定する必要があるんだった」

 

 

 授業開始と同時に千冬の口から爆弾が落とされた。

 

 

「自薦他薦は問わない、誰かいないか?」

 

 

 千冬の言葉に一斉にクラスメイト達が手を挙げる。

 

 

「織斑君がいいと思います!」

 

「同じく織斑君で!」

 

「えっ、俺!?」

 

 

 選ばれることはないだろうと思っていたのか、素っ頓狂な声を一夏が出す。

この時点で真は嫌な予感を感じていたが、すぐ後にそれは実現してしまう。

 

 

「私は飛鳥君で!」

 

「私も飛鳥君で! 見せてもらおうか、日出工業のIS搭乗者の実力とやらを!」

 

「あんた落ち着きなさいって……私も飛鳥君で!」

 

「やっぱりこうなるのかよ!」

 

 

 一夏が他薦された段階で半ば想像していた展開だったが真は声を上げた。

ちなみに清香やその友人であるナギも手を挙げていた。

 

 

「ふむ、織斑と飛鳥か、他にいなければこの2人のどちらかが代表となるな……言っておくが拒否権はない」

 

「納得いきませんわ!」

 

 

 バンッと机をたたき、セシリアが立ち上がる。

 

 

「このクラス唯一の代表候補生であるわたくしではなく、なぜ彼等を代表にしなければならないのですか!?」

 

「自薦他薦は問わないといったはずだ。それではオルコットも含め3人か……そうだな、3人で戦って勝った者がクラス代表、でどうだ?」

 

 

 千冬がクラス代表の決定方法を提示する。

その方法を聞いてセシリアは笑みを浮かべる。

 

 

「そのような勝負の結果など見えております。わたくしの実力ならば勝利という結果に揺らぎありません!彼等など相手になりませんわ!」

 

「……よく言うぜ、イギリスだって大した国じゃないくせにさ。料理なんかじゃ英国料理は世界一まずい料理何年一位だよ」

 

 

声高々に勝利を確信し暴言を吐いたセシリアに、一夏が食って掛かる。

 

 

「あっ、あなたは私の祖国を侮辱しますのっ!?」

 

「先に侮辱したのはそっちだろ! 何言ってんだよっ!」

 

「っ、許しません……決闘を申し込みますっ!!」

 

 

売り言葉に買い言葉。一夏も立ち上がり、ますますヒートアップしていく。

 

 

「おい、一夏、流石に落ち着け……オルコットもだ」

 

 

 流石にこれ以上は見ていられない為、真が2人を制す。

 

 

「何だよ真!馬鹿にされてんのにいいのかよ!?」

 

「落ち着け一夏、流石にこれ以上はまずい。オルコットも、アンタは【代表候補生】だろ。自分の発言が国家の発言にだってなりかねないんだ。こういうことの怖さ、わかるだろ」

 

「うっ、それは……!」

 

 

代表候補生。つまりは国家代表の候補生、つまりそれだけの責任が候補生の肩にかかっているということだ。

下手をすれば外交問題にすら発展しかねない。

 

 真が冷静にこの事を指摘できたのには理由がある

それは己も過去に同様の事をしてしまったことがあるからだ。

 

 彼の脳裏に思い出されるのは、前世での出来事。

アーモリー1で開発されたセカンドステージシリーズの強奪事件、その追撃の際にミネルバに乗船していたオーブ代表【カガリ・ユラ・アスハ】に対して暴言を吐いてしまったことだ。

当時は現在の様にぶれることの無い【花を散らせないために戦う】という確固たる信念は持ち合わせておらず、あわせてあまりにも状況が見えていないオーブ代表への怒りもあった。

レイやデュランダル議長がその場にいなければ、外交問題に発展していたかもしれないのだ。

 

 それを反面教師としているから落ち着いて物事を見ることができていた。

――そうこの時点までは。

 

 

「……ふん、自国が侮辱されたというのに随分と冷静ですね。さぞ愛国心のない【ご家庭】で生活なされていたのでしょうね。まだ織斑さんの方が愛国心に溢れているのではなくて?」

 

 

 真の言葉を理解できないセシリアではない。

だが認めるのが癪であった為、捨て台詞の様に呟いたその言葉が真の心に【ひび】を入れた。

 

 

 ――コの女ハ今なンてイッタ?

 

 

「……今、なんて言った?」

 

 

 震える声でなんとかそれだけ絞り出す。

 

 

「何度でも言ってさしあげます。私とは違い、さぞ寂しい【ご家族】とお過ごしされたんでしょうね?」

 

 

 真の弱いところを突いたとでも思ったのか笑みさえ浮かべて同じような台詞を繰り返す。

さらにセシリアは同じような台詞を繰り返そうとしたが、凄まじい怒気が相対している相手から放たれていることに気付いた。

 

 特徴的な紅い瞳は怒りに溢れ、燃えているかのようだ。

まるで視線だけで相手を殺そうとでもしているかのようだ。

 

 

 ――父さんを、母さんを、マユを――

 

 

 ――父さんを、母さんを、真由を――

 

 

 脳裏に浮かぶのは、原型を残さず肉塊へと成り果てた大切な父と母。

 脳裏に浮かぶのは、ちぎれた腕と無残に潰れ息絶えた大切な妹。

 

 脳裏に浮かぶのは、自分の事を信じ送り出してくれた大切な父と母。

 脳裏に浮かぶのは、自分の事を心配して泣いてくれた大切な妹。

 

 

「……俺の家族を侮辱したな?」

 

 

 かろうじて残っていた理性もすぐに【怒り】に飲まれて消える。

 

 

「決闘? やるってんならやってやるさ、後悔するなよ」

 

「っ!? もっ、もちろんですっ!」

 

 

 怒気にひるんでいたセシリアを睨みつけながら席に座る。

真の怒気にひるんでいたセシリアだが何とか立て直し、食って掛かる。

 

 

「……真」

 

 

 一方で一夏の頭は冷えていた。

先程自分が感じていた怒りは、真の怒りによって吹き飛ばされ不思議と冷静になっていたのだ。

一夏だけではない、真の出す怒気によってクラスメイト全員が押し黙っていた。

 

 

「……やれやれ、勝負ということで話はまとまったな? なら1週間後、第2アリーナを使用してクラス代表を決める。それでいいな?」

 

 

 真の怒気に呑まれていた教室に響く千冬の言葉で、その場は何とか静まったのだった。

 


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