【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE10 和解と暗躍

第2アリーナ ピット内

 

 

「すげぇ……っ!」

 

 

 真とセシリアの試合に目が釘付けになっていた一夏は、試合終了と共に賞賛の声を漏らした。

いつの間にか握り締めていた両の手のひらには、汗が浮かんでいた。

隣にいる箒もそれには同意見だ。

 

 

「あぁ。まさか真があれ程とは……」

 

「……やっぱり真はすげぇ! 最初はぜんぜん攻撃当たってなかったし、どんどん機体の色を変えていってさ!男の意地見せてくれたぜっ!」

 

 

 一夏が先ほどの戦闘を思い出し興奮しながら言う。

 

 

「……一夏、お前はこの後その真と、真と引き分けたオルコットとも戦うんだぞ? 大丈夫なのか?」

 

 

 この1週間剣道しか一夏は行っていない。

その原因は自分にあるので、箒は負い目に感じているのだ。

 

 

「そうだった……けどやるからには全力でいくさ!」

 

 

 苦笑しつつ、一夏は箒に力強く告げた。

対して教師陣も真の戦闘能力について評価を行っていた。

 

 

「飛鳥はオルコットと互角か。近接と射撃共に高レベルに纏まっているし、機体操作も問題ない」

 

「……凄いですね。彼がISに触れた期間はまだ1ヶ月ですよ?たった1ヶ月で代表候補生と互角だなんて」

 

 

天才ですね、と真耶が続けるが千冬は真の能力について考えていた。

 

 

(……入学時にIS適性を見たが一夏と同じ【B】だったはずだが)

 

 

 入学時に真と一夏はそのIS適正を検査されていたのだ。

結果は2人とも適性【B】の判定が出されていた。

 

 

(彼女の言うように【天才】と言うやつか。しかもまだまだ伸びしろもある様だ)

 

 

 ふと一夏を横目で見る。

彼はやる気に満ちているように見える。

 

 

(……やれやれ、真には感謝をしないとな。一夏にもいい影響を与えてくれている)

 

 

 真は弟である一夏の幼い頃からの友人であったため、千冬とは親しい仲である。

弟の親友が、いい影響を与えてくれていることに千冬は内心感謝していた。

 

 次は一夏とセシリアの試合。

真耶が慌てた様子で連絡用の携帯を取り出しピットを出て行く。

どうやら一夏の専用機が到着したようだ。

 

 

(さて一夏はオルコット相手にどれくらい持つのか……見せてみろ、お前の可能性を)

 

 

 千冬もその後を追う。

 

 


 

 それから20分後。

第2アリーナ内 第3更衣室

 

 

 先ほどの試合でインパルスとブルー・ティアーズ共に破損していたが、自己修復機能とパーツの交換で問題なく稼動ができることが判明し、現在整備中である。

そのためインターバルが設けられていた。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 更衣室に備え付けられたシャワールームから上半身裸のまま真が出てくる。

現在第3更衣室は男子用に指定されているため、遠慮なく脱いでいた。

 

 

「はぁ、引き分けかよ。くそ……っ!」

 

 

 ダンっと、ロッカーを叩く。

溢れるのは情けなさ。

大切な家族への侮辱の言葉を撤回させることができなかった。

 

 だが決まってしまったことは仕方がない。

次で挽回するしかないと切り替えて途中だったISスーツの着替えを再開する。

 

 

「……ん?」

 

 

 ふと視線を感じた。

だが、今はここは貸切のはず。

 

 周囲を一通り見まわしてみるが、誰もいない。

気のせいかと判断して着替えを続ける。

すると、トントンと更衣室のドアがノックされた。

 

 

「……一夏か?」

 

 

 自分の次は一夏が彼女と戦う予定なので着替えに来たのか?

だが彼はISスーツをすでに身に着けてピットにいたはず。

 

 すると返ってきたのは女性の声だった。

 

 

「私です、セシリアです、よろしいでしょうか?」

 

「っ!? 5秒待って!」

 

 

 何で彼女がここに来ているか分からないが、まだISスーツを完全に着てはいなかったため慌てて着替えを再開する。

完全にISスーツを身に纏ってから、戸を開ける。

 

 そこにはISスーツのままのセシリアが立っていた。

手にはスポーツドリンクを持っていた。

 

 

「お疲れ様です、飛鳥さん」

 

「……何の用だよ、オルコット」

 

 

 彼女からドリンクを受け取りつつぶっきらぼうに返す。

その様子を確認したセシリアは深く頭を下げた。

 

 

「申し訳ありませんでした、飛鳥さん。先日のことは深くお詫びいたします」

 

「……は?」

 

 

 いきなりの謝罪に素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

 

「先日貴方のご家族の事を侮辱してしまい、大変申し訳ありませんでした!」

 

 

 一度顔を上げてからまた深く下げ、謝意を示す。

 

 誠心誠意。

その言葉がぴったりと当てはまる様子に先日から感じていた怒りの炎が、彼女の行動と態度から急速に鎮火していくのを感じる。

 

 

「……頭上げてくれよ、オルコット」

 

「でっ、ですが、私は酷い事を……」

 

「いいから、顔上げてくれ」

 

 

 真の言葉にセシリアは頭を上げる。

彼の表情を見ると、苦笑をしていた。

 

 

「いきなりでびっくりしたけど……本気で謝ってくれてる事、分かったからさ」

 

「飛鳥さん……」

 

「それでさ、なんでいきなり謝ってくれたんだ? 理由があるんだろ?」

 

「それは……」

 

 

 彼女は自身の父親の事、試合中に感じた事全てを真に伝えた。

全力で貴方とぶつかりたい、友人になってほしいと。

 

 

「オルコットはお父さんのこと、大好きなんだな」

 

「うぅ……っ」

 

 

 真が微笑みながらセシリアに言う。

指摘されたことで顔が真っ赤になっている。

 

 

「いや、別に馬鹿にしてるわけじゃないんだ。俺も同じだよ、家族のこと大好きなんだ。それと友人だっけ……いいよ」

 

「よっ、よろしいのですか!?」

 

 

 ガバッと真に詰め寄りつつセシリアが大声を上げる。

 

 

「えっ、うっ、うんっ……」

 

 

 彼女の綺麗な顔がいきなり近づいてきたの少々距離を取ってから、真は返答する。

前世と合わせればすでに40年に近い人生を送ってきているが、一応現在は思春期なのだから仕方がない。

 

 

「あっ、ありがとうございます、飛鳥さんっ!」

 

「……真」

 

「えっ?」

 

「もう友達だろ。なら真でいい」

 

 

 感謝して頭を下げたセシリアに向かって言う。

それに対してセシリアは微笑みを返した。

 

 

「それでしたら私もセシリアと呼んでください、真さん」

 

「ああ、これからよろしくな、セシリア」

 

 

 そう言ってから真は手を差し出す。

その手に込められたのは、和解。

 

 

「はい!」

 

 

その手にセシリアは笑顔で答えた。

 

 


 

 

「……青春してるわねぇ」

 

 

 真が再びピットに向かった無人の更衣室のロッカーから声が響いた。

 

 真が着替えを行っていた2つ隣のロッカーが開いて、中から【水色の髪】の女生徒が出てくる。

制服の上着がベスト風に改造されており、茶色のパンティーストッキングを着用している。

IS学園は制服のリボンの色で学年を区別しており、1年は青、2年は黄、3年は赤となっている。

 

 彼女がつけているリボンは【黄色】である。

そして出てきた女生徒が手に持った【扇子】を開くとそこには【青春爆発】と記されていた。

 

 

「んふふー、いいものも見れたしね。中々鍛えられてるじゃない」

 

 

 彼女は真が更衣室を利用してたときもロッカーに隠れていたため、じっくりと観察していたのだ。

 

 

「上半身裸の写真とか需要高そうね、人気もあるみたいだし」

 

 

 そのまま、おどけた様子で更衣室から出ていく。

しかし更衣室から出た後の彼女の表情は真剣そのものだった。

 

 

「しかし飛鳥真君か……まさか私の視線に気づくなんてね。少々侮っていたわ。再調査がいるわね、簪ちゃんのために」

 

 

 そう呟いてから、足早にどこかに去っていった。

 

 


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