【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE12 中国からの使者

「という訳で1年1組のクラス代表は織斑一夏君に決定しました、1つながりで縁起がいいですね!」

 

 

クラス代表決定戦翌日のSHR、副担任の真耶が告げる。

当の一夏は訳が分からないという表情を取っていた。

 

決定戦の戦績は真とセシリアが共に【1勝1分】であり、自分は【0勝2敗】の内訳であったはず。

思わず手を挙げて真耶に質問してしまった。

 

 

「あのー、俺2連敗してるんですけど……戦績なら真かセシリアが代表になるのが筋なんじゃ?」

 

 

一夏の疑問はもっともである、他のクラスメイトも疑問に思っていたからだ。

その疑問に対して立ち上がったセシリアが回答する。

 

 

「その理由は、私と真さんが辞退したからですわ」

 

「え? そうなのか、真?」

 

 

一夏が自分の後ろの席で眠たそうに欠伸をしていた真に問いかける。

先日【とある理由】から深夜まで起きていたため若干寝不足なのだ。

 

ちなみに、先日の試合の後セシリアは一夏に対して謝罪をしていた。

彼女の謝罪に対して、自分も少々言い過ぎたと一夏も謝ったことで2人は友人の関係になっていた。

 

 

「ああ、俺達は辞退した」

 

「何で?」

 

「候補の中でお前が一番負けたからだよ」

 

 

真の回答にグフッと血を吐く真似をして、一夏はヨロヨロとオーバーなリアクションを取る。

その通りだから反論もできない。

 

 

「一夏、その分成長してもらうために俺達は辞退したんだ」

 

 

実は代表戦が終わった後、担任である千冬に頼まれたのだ。

一夏にIS乗りとしての経験を積ませるために、クラス代表を辞退してほしいと。

 

真とセシリアについてはISに対する理解度は高い、しかし一夏の場合は違う。

このままいくと何かしらの【事故】すら起こるかもしれない。

 

この要望に対して、不満もなく真とセシリアは承諾したのだった。

 

 

「一夏さんの戦いには光るモノを感じました、なので私と真さん、そしてクラスの皆さんでサポートさせて頂きますわ、そして……」

 

 

そういってセシリアがクラスの皆を見回した。

 

 

「この場を借りて謝罪させてください。先日の軽率な発言、大変申し訳ありませんでした!」

 

 

真に行ったように深く頭を下げ、クラスの皆に謝罪する。

 

 

「皆さんがよろしければ非力ながら私は全力で皆さんを……一夏さんをサポートさせて頂きたいと思います、どうかよろしくお願い致します!」

 

 

そのセシリアの発言にクラスメイトの皆は――

 

 

「オルコットさん、変わったよね、私は全然いいんだけど」

 

「うん、私もー、謝ってくれたしね。 それになんかこう……輝いてるって感じなのかな?」

 

「ぬぅ、すでにフラグが立っているとは……このリハクの目をしても見抜けぬとは……!?」

 

「お前は目が見えぬのか……!」

 

 

と返した。

若干数名の珍返答は無視するとして、

セシリアの謝罪は1組の皆に好意的に受け入れられたのだ。

 

 

「さて、そういうことだ。それでは授業を始めよう」

 

 

今までその経緯を見守っていた千冬が教壇につき、授業が開始された。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「クラス対抗戦、勝てば半年スイーツ食べ放題だって!」

 

「たくさん食べるためにも痩せなきゃ!」

 

「いや、その理屈はおかしいんじゃないかしら」

 

 

1限目の休憩時間、クラス対抗戦の賞品【スイーツ半年フリーパス】について皆が和気藹々と話し合っている。

1限目に千冬が賞品について話したのだ。

 

 

「スイーツね。まあ、食べれるなら食べたいね」

 

 

先程じゃんけんで真とセシリアに負けた一夏が箒と放課後のアリーナ使用申請に向かったため、

眠そうに呟く真であった。

 

 

「あれ、飛鳥君はそんなにスイーツ好きじゃない?」

 

「んー。甘いものは好きだけど、俺は和菓子とかの方が好きだな」

 

 

横の席に座っていた清香が真に話しかけてきて、それに返す。

清香は手で携帯を操作していた。

画面が見えたが【今季のスイーツ特集】と表示されている。

 

 

「女の子は好きだよな、甘いお菓子。相川も好きなのか?」

 

「うん、私も大好き。あー、これもおいしそう」

 

 

清香がそう言って真に画面を見せる。

表示された画面には【春の新作スイーツ サクライロノキセツ】と言う名前の菓子の画像が表示されていた。

たっぷりの薄紅色のクリームが、桜の花びらを象ったタルトの上に乗っている

 

確かにおいしそうだがカロリーも高そうだ。

 

 

「……太るよ?」

 

「あっ、ひっどーい!」

 

 

そう言っているが口元が笑っているのでそこまで怒ってはいないようだ。

 

 

「そういうのが食べたいなら一夏には頑張ってもらわないとな」

 

「飛鳥君やオルコットさんたちがサポートするから大丈夫でしょ! あ、そうそう」

 

 

思い出したように清香がポンッと手を叩く。

 

 

「今日の20時から、織斑君のクラス代表就任記念パーティーやるからね」

 

「はっや、今日かよ」

 

 

一夏がクラス代表になった事が知らされたのは今日の朝である。

流石に早すぎないかと思った真だが清香がそれに回答する。

 

 

「まあ、元々誰かが代表になったらやるつもりだったからねー、てなわけで出席ヨロシク!」

 

「なるほどね、了解」

 

 

ありがとねーと席を離れて別の友人たちのグループへ向かっていく。

それを見届けた真に別の人物が話しかけてきた。

 

 

「あすあすー、いまいいー?」

 

 

布仏本音だ――彼女が真の背中に抱き着いてくる。

女の子特有の柔らかい感触が背中に伝わる。

 

 

「うおわっ!? ちょ、待って!?」

 

 

流石に抱き着いてくるのは予想外だったため、引き剥がして席を立つ。

その様子をクラスメイトに見られていたため、「え、布仏さんと飛鳥君まさか!?」なんて声も聞こえてくる。

 

だが抱き着いてきた時の柔らかい感触――クラスメイトの声を無視しつつ、感触を忘れないようにしようとひっそりと心に決めた真だった。

 

 

「ごめんねー、ちょっと眠くて……」

 

「眠いからって抱き着いてくるのかよ……で、何?」

 

 

眠そうな表情をしている本音に用件を聞く。

本当に眠そうに目をこすりながら彼女が返す。

 

 

「明日の放課後あいてる?」

 

「明日? 少しなら大丈夫かな、日出の人が来るからそんなに時間は取れないけど……」

 

 

真が先日深夜まで起きていた理由は、日出のスタッフと【インパルスガンダムの開発主任】が来訪するためだ。

【インパルスガンダム】と他国の専用機との実戦データは貴重なものである。

 

加えて各シルエットを実戦で使用した感触や、問題点などをレポートに纏めなければならなかったのだ。

また【新しいシルエット】が開発中との連絡を受けていたのでそれについても報告があるらしい。

ザフト時代からそうであったが、やはり書類仕事は自分に合わないと感じていた。

 

ちなみに先日は消灯時間を過ぎるギリギリの時刻に、ルームメイトである【簪】が戻ってきた。

なんで遅くなったのか聞いてみたが話してはくれなかった。

 

 

「いいよぉ、たぶん10分くらいで終わるから」

 

「10分なら大丈夫だな、でどこにいけばいい?」

 

「生徒会室ー、明日の放課後に案内してあげる」

 

「……俺、何かした?」

 

 

生徒会室と聞いてビクッと身体が震えた。

特に自分は何も問題を起こしていないはず――セシリアとの決闘は解決済みだがそれを問題と取られたか、と真は考えるが本音はそれを否定する。

 

 

「だいじょうぶ、あすあすが何かしたってわけじゃないからー」

 

「……なら何で呼び出されてるんだよ」

 

「うーん、私の口からは言えないんだ、とにかくよろしくねー」

 

 

ぽやぽやと自席に戻っていく本音を見つつ、自席に突っ伏す。

 

 

「なんか……嫌な予感がする……」

 

 

シン・アスカとしての――戦士としての嗅覚ではなく、本能で悪寒を感じた真であった。

 

 

――――――――――――――――――

 

そして同日――

IS学園 食堂

 

夕食後の自由時間、食堂の一角を貸し切り一夏のクラス代表パーティーが行われていた。

連結されたテーブルの上に所狭しとポテトチップス等のお菓子や、オレンジジュース等飲み物が置かれている。

 

いつの間に作ったのであろうか、【織斑一夏君クラス代表就任おめでとう】なんて垂れ幕も用意されている。

 

 

「こんなのいつの間に作ったんだよ」

 

 

手にオレンジジュースが入った紙コップを持ちつつ、一夏は苦笑いしていた。

放課後、真とセシリアとの模擬戦を含めた訓練(箒は観戦のみ)を終えた一夏が夕食を終えた後、女子に半ば拉致されてこの一角に案内されて最初に感じたことを言葉に出した。

 

こう言ったイベントに対する女子の行動力というのは馬鹿に出来ないと言うことをつくづく感じる。

 

ちなみに訓練の内容については、飛行時の姿勢制御と遠距離攻撃の対応の2点主にしていた。

姿勢制御については【AMBAC】の基礎を真から、遠距離攻撃の対応についてはセシリアから基礎を教えられていた。

 

AMBACについては及第点を得ることができたが、遠距離攻撃については一朝一夕とはいかずフェイントを織り交ぜたセシリアの射撃に何度も迎撃され、零落白夜を用いた攻撃も【ショートブレード】をあえて投げるという奇策に惑わされたところを撃ち落とされるという結果に終わってしまった。

 

一夏の機体【白式】には射撃武装がなく、近接ブレードオンリーなため、遠距離攻撃を主軸にされるとブラストインパルスと戦った時の様に一方的に潰される。

対応は急務であると真とセシリアは感じていた。

 

閑話休題

 

 

「主賓が来たぞー!」

 

「織斑君、乾杯のあいさつ―!」

 

 

やいのやいのとクラスメイトが囲む中、パーティーの主賓として挨拶をするよう言われた一夏が口を開いた。

 

 

「かっ、かんぱーい!」

 

「かんぱーい!」

 

 

しかしやはり1時間も経つと、主賓を祝う雰囲気は小さくなりそれぞれ駄弁りながらお菓子を食べるという雰囲気になっていた。

 

途中、新聞部副部長を名乗る【黛薫子】という女生徒が一夏や真、セシリアに

質問を投げかけていた。

これに対して真は当たり障りのない回答を返していた。

 

 

「ふー、これ以上食べると太るわね」

 

「あんた食べたもの全部胸に行くくせに……ほらもっと食え、たんと食え、おかわりもいいぞ」

 

「あががが……ボリボリ」

 

 

若干数名が女子として出してはならない声を出す中、パーティーに参加していた真は席を立つ。

 

 

「あれ、あすあす? どっかいくの?」

 

 

袖が余った制服で器用に紙コップをつかみジュースを飲んでいた本音がそれに気づく。

 

 

「ああ、腹いっぱいになったからちょっと夜風に当たりに」

 

 

そういって真はパーティー会場から離れて夜風に当たりに行く。

 

――――――――――――――――――

 

学生寮から少し離れた場所で真は夜風を感じていた。

 

 

「ふぅ……」

 

 

季節は春でありそこまで風は冷たくない。

パーティーの雰囲気で火照った身体を落ち着けるにはちょうどいいだろう。

 

 

「……最初はどうなるかなと思ってたけど。悪くないよな、この学校も」

 

 

ここ数ヵ月で自分を取り巻く環境は激変した。

下手をすれば人並みの自由すらなくなるほどに。

だがその激変した環境でも自分を支えてくれる人達、明るく付き合ってくれる友人達がいることを幸いだと感じていた。

 

 

「こっちでも色々と波乱万丈だけど……頑張ってみるよ、レイ」

 

 

目を閉じて風を感じる。

いくら春とはいえあまり長い間夜風に当たっていると風邪をひくだろう。

ほどほどにして寮に戻るか、と思った時声が聞こえた。

 

 

「……あー、学生寮ってどこなのよ! 事務の人ももうちょっと詳しく教えてくれたっていいじゃない!てかこの学校広すぎんのよ! 大学なのかっての!」

 

 

キャンキャンと怒声が聞こえる。

どこかで聞いたことのある声だったため、真はその発信源を探す。

 

周囲を見渡すと発信源であろう制服を着た女子がボストンバッグを持ちつつ、夜空に向かって吠えていた。

自分より20cm程低い身長、特徴的なリボンと栗色のツインテール、なにより声に聞き覚えがあった。

 

 

「……もしかして鈴なのか?」

 

 

中学の途中で転校してしまった友人【凰鈴音(ファン・リンイン)】が真の目の間で夜空に向かって吠えていたのだ。

 

 

「おーい、鈴!」

 

「え?」

 

 

鈴に向かって真が手を振りつつ、駆け寄る。

鈴がそれに気づいて振り向き、その顔に驚愕が浮かんだ。

 

 

「あんた……真なの!?」

 

「ああ、久しぶりだな、鈴」

 

「ほんっとに久しぶりね。そういえばあんたも2人目としてIS学園に入学してたわね」

 

「せっかく藍越受けたんだけどな……鈴は転校してきたのか?」

 

「ええ、こう見えても中国の代表候補生なのよ、私」

 

 

鈴がすっきりとしたラインの胸を張って真にドヤ顔を送ってくる。

その言葉に真が驚く。

 

 

「えっ、お前転校したの中2の時だろ? たった1年で代表候補に? 凄いな」

 

「えへへー、ほめるなほめるなー」

 

 

照れたように手を振りつつ笑顔で鈴が返す。

そして辺りをキョロキョロと見渡し始めた。

それを察した真が鈴に告げる。

 

 

「一夏ならクラスの皆と食堂にいると思うけど……ちょっと入りにくいと思うぜ」

 

「ふーん……まあ、いいわ、明日会えるでしょ」

 

 

この少女。

鈴も一夏に想いを寄せる少女の1人だ。

真や弾はその想いに気付いていたが、相手はあのザ・朴念仁の一夏であった為、結局気づかずじまいだったのだが。

 

 

「ところでさ、真、学生寮ってどこ?」

 

「ん、ああ、案内するよ」

 

「ラッキー! 助かったわ、真! この学校広すぎるのよー……道に迷っちゃうわよ」

 

「ああ、それわかるよ」

 

 

久しぶりの旧友との再会で真は忘れていた。

一夏に想いを寄せるのは1人ではないということを。

それを思い出したのは、鈴を学生寮の寮母に預けて別れた後だった。

 

 

(……あっ、箒と会わせたらやばいやつだぞ、これ)

 

 

真は2人を知っているが、箒も鈴もお互いの事は知らない。

お互い一夏への想いは強い。

会えなかった分が合わさってさらに強くなっている。

 

他人の事は言えないが、どちらも直情タイプ。

2人に対して付き合いが長いため、暴力は振るうなよと常々言ってあるが聞かない可能性もある。

おそらく明日は朝からめんどくさいことになるだろうなと確信しつつ、自室に戻った。

 

この日もルームメイトの簪は消灯時間ぎりぎりに部屋に戻ってきた。

 

一言二言言葉を交わしたが、彼女はすぐ寝てしまった。

そして彼女の表情が疲れ切っていることに真は気づいていた。

 

 

(こんな遅くまで何してるんだ? しかも顔色が悪くなってる気がする……今度本音さんに聞いてみるか、かなり親しい仲みたいだし)

 

 

朝食の席などで一緒になるからか、簪と本音は親しい仲であることに気付いている。

自室の友人の体調がすぐれていないことを放置できるほど、薄情ではないつもりだ。

 

 

(……俺に何かできることがあればいいけど)

 

 

自分も床に就きつつ、そう考えていた。

 


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