【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
一夏のクラス代表就任パーティーの翌日
「……ふう」
小さく息を吐いて、ジャージ姿の真が自室の扉を開ける。
日課となっていたトレーニングから戻ってきたのだ。
IS学園に入学してからも、早朝のランニングと柔術の型の確認、ザフト式軍隊格闘技の訓練を真は続けている。先日は深夜まで起きていたが、もう慣れたものだ。
時刻は午前7時15分、これから着替えて朝食に向かう予定だ。
ふと、自分のベッドの隣。
簪のベッドを見るとまだ彼女は眠っていた。
普段ならば大体この時刻には起きているはずだが、珍しい。
(……疲れてるみたいだな、昨日調子悪そうだったのも疲れてるせいなのか)
先日の様子を思い出しながら真が簪を起こしにかかる。
彼女には悪いが、授業があるのでそのままにしておくわけにもいかない。
「簪、朝だぞ」
「……んっ……」
小さく声をもらして彼女が目を開ける。
ごしごしと目をこすって、小さく欠伸をしていた。
「おはよう」
「……おはよう」
軽く挨拶をしてから、シャワーの為タオルを手に取る。
汗を軽く流してから朝食に向かいたいからだ。
顔を洗って洗面所から戻ってきた簪に、真が告げる。
「俺、軽くシャワー浴びてくるよ」
「……先に食堂に行ってる、本音と席取って置くね」
「悪いな」
「いい」
真と簪は趣味が合うので良い交友関係を築けている。
朝食は本音と取ることが多いが、どうやら簪は一夏を避けているように見える。
理由は気になるが、無理に聞くのも憚られる。
「んじゃ、あとで食堂で」
「……分かった」
真はタオル片手にシャワールームへ、簪は着替えてから食堂に向かう。
(体調悪そうだったな……そのうちぶっ倒れなきゃいいが……)
ベッドから起き上がった簪が一瞬ふらついていたことは見逃さなかった。
真はこの時まだ気づいていなかった。
彼女が無理をしている要因が自分にあることを。
――――――――――――――――
「2組に転校生が来たんだって」
「へー、この時期に?」
「珍しいね、転校生なんて」
朝の1組では転校生の話題で持ちきりになっていた。
真はその転校生が友人である鈴だと知っているので、その話題にはあまり興味はなかった。
ちなみに鈴からは一夏を驚かせたいので、転校生が自分であることは黙っているよう頼まれていた。
「2組ってことは隣か、どんな奴なんだろ。知ってるか、真?」
目の前に座っている一夏が真に話しかけてくる。
「ん、悪い。知らないんだ」
「そっかー」
心の中で一夏に謝罪しつつ、真は手に持った携帯に送られてきたメールを読んでいた。
メールの差出人は【瀬田利香】
来訪予定のスタッフは利香であり、今日の確認点などを要約したメールを送ってきていたのだ。
利香と共に来る予定のスタッフは【ジェーン・ヌル・ドウズ】
C.E.でセカンドステージシリーズMSの基礎を作り上げた人物であり、日出の技術力の基礎を作り上げた女性。
【インパルスガンダム】も彼女の作品であるとの事だ。
ちなみに【ガイアガンダム】はジェーンに教えを請いた真の父、大胡を責任者として開発されたISらしい。
(この人の名前明らかに偽名だよな)
などと考えつつ、目の前の一夏に話しかける。
「一夏」
「ん、どした、真」
「悪いけど今日、日出の人が来るから訓練に付き合えないんだ、箒と剣道してたらどうだ?」
「そうなのか、セシリアはどうだ?」
セシリアは自席でキューブ型の立体パズルを高速で解いている最中であった。
この立体パズルだが、BT兵器に必要となる【空間認識能力】と【並列思考】を鍛えるのに最適なトレーニング方法であり、その基礎中の基礎でもあった。
真と一夏との模擬戦を経て、彼女は再び基礎から自身の力を磨き上げているのだ。
数秒で手に持っていた立体パズルを解き終えた彼女は、申し訳なさそうに答えた。
「申し訳ありません、私も少し本国と連絡を取らなければならないので本日は少々都合が……」
「分かった、じゃあ、剣の訓練をしてるよ」
少し残念そうに頷く一夏だったが、すぐに笑顔を返す。
チラッと横目で箒を見ると、彼女は今の話が聞こえていたのか少々顔を赤くしていた。
メールを確認しているとクラスメイトの会話がまた聞こえてきた。
「転校生ってことはISの操作とか上手なのかな」
「でも織斑君は専用機持ちだし、他の専用機持ちの4組の人は休むらしいし……いけるでしょ!」
「その情報、古いよ!」
よく知った声が響き発信源を探すと教室が開かれており、【鈴】が仁王立ちで立っていた。
それに気づいた一夏は思わず立ち上がった。
「鈴……鈴なのか?」
「久しぶりね、一夏!」
ツインテールがまるで彼女の感情を表すかのようにゆさゆさと揺れている。
実際嬉しいのだろう、久々に想い人に会えたのだから。
「中国から来た転校生ってお前だったのか!」
「そうよ、そして驚け! 私は代表候補生になったんだから!」
「マジか! セシリアと同じかよ、すげぇな鈴!」
旧友同士が出会ったことで話に花が咲き始めた時だった。
底冷えした声が1組の教室に響いた。
「一夏……誰だその女は?」
箒だ――彼女も一夏を想っている1人なのだから、他の女が親しそうに
一夏と会話していたら面白くないのは当たり前だろう。
「ほっ、箒さん? どうなさったのですか?」
箒が普段一夏の隣で笑っている姿を見ていたセシリアが冷や汗を流しながら疑問を口にした。
それに答えたのは真だ。
「セシリア、手を出さないほうがいい」
「真さん、何故ですの?」
「……セシリアのお父さんがお母さん以外の女の人にデレデレしてたらいやだろ? そういうことさ」
なるほど、と真剣な顔つきになったセシリアが一夏たちの動向を見守る。
内心、真は大いに焦っていた。
(やっべぇ、出会っちまった! 朝も色々あったから完全に忘れてたぁ……!)
箒の声に反応した鈴が彼女を睨む。
「……何よアンタ? 私は一夏と話してるんだけど?」
「貴様こそ何様だ、別のクラスだろう? さっさとクラスに戻るがいい」
まさに一触即発の状況。
無理やり割り込むしかいい方法が浮かばない。
だがその状況はたやすく崩壊した。
「何をしている、貴様ら」
「え?」
鈴が背後から聞こえた声に振り返ると、1組の担任千冬が立っていた。
「ちっ、千冬さん」
「織斑先生だ。凰、さっさと2組に戻れ、授業開始の時間だ」
「うっ、すいません……一夏後でね!」
鈴が千冬の圧力におされて、そそくさと2組に戻っていく。
その様子に心の中で真はガッツポーズをとっていた。
(ナイス千冬さん!ナイスタイミング!)
「貴様らもさっさと席につけ、そして飛鳥、織斑先生だ」
ガンッと真の頭に出席簿が振り落とされた。
「っつぅ、自然に心読むのやめて下さいよっ!?」
真のその叫びに2発目が振り下ろされたのだった。
――――――――――――――――
本日の授業が全て終了し、すでに教室に残っている人影は少ない。
机に疲れたように突っ伏しているのは真だ。
すでに一夏と箒の姿はない。
剣道場に向かうと言っていたので
今頃2人は剣を合わせているのだろう。
それはそれで鈴にとっては面白くないだろうが先約だから仕方ない。
「だぁー……やっと終わったか……疲れたぁ」
「おつかれ、あすあす」
彼の背後から本音がポンッと背中を叩いておつかれの意を示してくる。
真がここまで疲れている理由は昼休みの事だ。
昼休み、一夏達と共に食事を取るために食堂に向かったが、鈴が待っていたのだ。
その後は朝の件の再来。
睨み合いが発生したが、そこに無理やり割り込んで自己紹介を成立させた。
一夏は箒を【ファースト幼馴染】、鈴を【セカンド幼馴染】等と紹介した為2人にぶん殴られたが。
またその席で鈴が自身が2組のクラス代表になったことと、一夏は初心者であることから自分が教えると言い出した。その言葉に箒が反論しそうになったが、セシリアと真の2人が、自分たちが一夏を鍛えているからそれは必要ないことと、クラス代表戦は全力で戦う旨を伝えたので、変に拗れることもなかった。
だが、その分真(後セシリア)にかかる心労が大きかったのだ。
閑話休題
「ありがとう、本音さん」
「いいのいいのー、そしたらいこっか、生徒会室」
「ああ、日出の人は後1時間くらいで来るみたいだから、大丈夫」
利香から先程メールが来ていたのだ。
ちょっと遅れるとの事だ。
「んじゃ案内よろしく」
「れっつごー」
2人は生徒会室に向かうため、教室を出ていく。
「……なあ、本音さん」
「なにー?」
生徒会室に向かうため、階段を上りつつ真は先日から気になってた事を尋ねる。
「簪の事なんだけど……」
「かんちゃんのことー?」
階段を上り終わって、彼女が足を止めた。
真が隣に来るまで待った後、少し前を歩きつつ聞き返してきた。
「ああ、彼女いつも部屋に戻ってくるのが遅いんだ、最近はさらに遅くなって消灯時間ギリギリにさ……何してるか知らないか?」
「うーん、知ってるけど……」
珍しく困惑した表情を彼女は浮かべていた。
だがすぐに微笑む。
「……あすあすならいいかなー、えっとね、かんちゃんは1人で【IS】を作ってるの」
「……は?」
予想外の回答が来て、真の思考が固まる。
真は【IS】を【MS】と同様のモノだと認識している。
ISは現在スポーツとして主に広まっており、この学園でも代表候補生等を除いた殆どがそう考えている。
だが現在世界で認識されているのは【超兵器】としての一面なのだ。
また前世の初勤務地はザフトの軍事用プラントで兵器の生産工場でもあったアーモリー1。
MSがどのように工場で生産されているかを知っているため、それを1人で行うという行為は、はっきり言って常識を疑うレベルにとんでもない行為なのだ。
「1人でってなんで!? てかいくらIS学園でもそういうのはちゃんとした設備と人員がいるところで……!」
「中止になっちゃったから、かんちゃんのISの製作」
「中止って……なんでそんなことに?」
「かんちゃんのISを作ってたのは【倉持技研】ってところでね、大体5割程度は完成してたの。だけどおりむーが見つかって、おりむーのデータを取るための専用機の製作が始まってそっちに人員をとられちゃって。残ったのは製作が中止されたかんちゃんの専用機【打鉄弐式】の基本フレームとパーツのみなんだ」
「……だから彼女は一夏を避けるのか」
「うん、毎日残って1人で組み立ててるの。かんちゃんの技術は凄いよ、それはよく分かってる。けど限度もあるよぉ」
「本音さんは手伝わないのか?」
「何度も手伝わせてって言ったんだけど、かんちゃん頑固だから。それに今かんちゃん絶対焦ってる」
「焦ってる? なんで?」
「……あすあすがせっしーと互角に戦ったから」
「……え?」
焦っている理由が自分だと彼女は言った。
「……俺のせい?」
「ごめん、あすあすが悪いわけじゃないの。ただやっぱりそれでも羨ましいと思うんだ。自分のISを製作するはずだった企業のライバル企業のISがあとから出てきたのに、自分は何をしてるんだろうって……」
(……だからあんなに疲れてるのか……俺の……せい……)
まさか自分がセシリアと戦った結果、彼女が焦っているだなんて考えてもみなかった。
「それにかんちゃんには【楯無様】への思いもあるから」
「【楯無】?」
聞きなれない名前に思わず聞き返した。
「うん、更識楯無様。かんちゃんのお姉さんで更識家の当主、私たち布仏家は代々更識家に仕えてるの」
「そんな家がまだあるんだな」
「うん、自分でもそう思うよー」
廊下を曲がる。
夕焼けが廊下を照らしている。
「かんちゃんが小さな頃にね、楯無様と仲が悪くなっちゃって。それが続いちゃってて、それに楯無様がISを1人で組み立てちゃったから余計に意固地になっちゃってて……」
「1人でって……マジかよ」
信じられないが、そんな人間がいるようだ。
まあ、知り合いに篠ノ之束という規格外もいるためいるのだろう、そういう人間が。
「私も人伝に聞いただけだからわからないけど……」
「……何か、何かできることはないのかよ」
理由を聞いてしまったからには放ってはおけない、それに彼女の思いは痛いほどわかってしまう。
IFの話だが、前世で【インパルス】のテストパイロットから降ろされたり、開発が中止されてしまったり、正式パイロットになれなかったら自分はどうなっていただろう。
家族を失った無力さを糧にテストパイロットに上りつめた。
それが唐突になくなってしまったら。
自分は彼女の様に行動できていただろうか?
「……私はかんちゃんの思いを汲みたいの。かんちゃんが自分から頼ってくれるまでは……」
「それで彼女がぶっ倒れてもか!?」
朝、一瞬彼女はふらついてた。
絶対に無理をしている。
「……それでも私は、従者として簪様の思いを汲みたいの」
「……ごめん、いきなり叫んだりして」
いつになく真面目な口調で会話をする本音に怒鳴ってしまったことに謝罪する。
いつの間にか、生徒会室とプレートがつけられた部屋の前に2人は立っていた。
「ここが生徒会室だよー。ごめんね、色々と聞かせちゃって」
「……教えてくれって頼んだのは俺だよ、ありがとう本音さん」
自分に何ができるのか――頼ってこない相手にこちらから何かするのは迷惑かもしれない。
だがそれでも何かをしたいと思いつつ、真は生徒会室の扉をノックする。
「失礼します」
「どうぞ」
真は入室許可が聞こえたため、扉を開けて中に入っていった。
本音はその様子を見届け、外の様子を眺める。
夕焼けがきれいだ。
「飛鳥君ならきっと簪様を助けてくれる。だってすっごく目が優しいんだもん」
初めて見たとき本当に同年代の目なのかと思った。
布仏家も更識に連なる家。
それなりに色々な人間を見てきたが、そんな中にあんな目をしている人間はいなかった。一見キツく見えるその目は一夏や他の友人たちを【優しく見つめている】のだ。
まるで【決して零れ落とさないよう包み込むように】。
彼の瞳はそう
本当の悲しみを知り、愛に溢れている――と本音は感じているのだ。
「私じゃ逆に意固地になっちゃうかもだし……他人に頼る形になっちゃって情けないけど、お願い、飛鳥君」
そう静かに呟いた。