【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
執務室の様な内装に長机。
ネームプレートが置かれており【生徒会長】と記載されていた。
腕を汲み、優雅に椅子に座っている【水色の髪の女生徒】
顔も少し簪に似ており、リボンの色からして年上である。また彼女の後ろにいる【眼鏡をかけたどことなく本音に似ている三つ編みの女性徒】は最上位である3年の赤をつけている。
「初めまして、飛鳥真です」
「初めまして、生徒会長の【更識楯無】よ、楯無でいいわよ、真君。 なんならたっちゃんでもいいわよ♪」
「【布仏虚】です、初めまして、どうぞこちらへ」
虚に席に座るように案内されて、真は用意されていた来客用の席に座る。
楯無が自身の椅子から立ち上がり、真の目の前の席に座る。
その手には【扇子】が握られている。
「……で俺に何の用なんですか?」
「率直に聞くわ、あなたは簪ちゃんにとって何?」
「……はい?」
「……お嬢様」
思わず声をこぼした真。楯無の後ろで顔を手で覆って天井を見ている虚だったが、当の楯無はあくまで真面目に真を見つめていた。
「何って……趣味の合う友人でルームメイトですけど?」
「あんなに可愛い簪ちゃんがただのルームメイトぉ!? 可愛いとか手を出したいとか思ったりしないわけぇ!? なめてんの!?」
先程のまでの優雅な態度やおどけた態度から一変し、急に怒り出した楯無。
その手に持っていた扇子に【ブッ殺】と表示されていた。
「いっ、いきなり何なんだよ一体!?」
いきなり目の前で怒り出されて、真も混乱している。
その様子を見かねて、ため息をつきつつ虚がフォローに入る。
「お嬢様、落ち着いてください」
「落ち着けるもんですか! 可愛い簪ちゃんと同じ部屋なのに何も興味を示さないなんて……はっ、まさか真君はホモなの?」
「何を言ってんだアンタは―!?」
若干顔を青くしつつ、真から距離を取る動作の楯無。
彼女の手に持つ扇子には【非生産】と表示されていた。
ただでさえ1組のごく少数の生徒にそんな噂を流されつつある
至ってノーマルな真にとってはたまったものではなく思わず叫んでしまった。
その後流石に見かねた虚からのツッコミに「ひぎぃ」なんて声を出した後、場は落ち着いた。
その後再度自己紹介から話が再開された。
更識楯無はIS学園の生徒会長でロシアの【国家代表】でもあり、この学園最強らしい。
日本人なのになんで別の国の代表なのか気になったが、自由国籍を取得しているとの事だ。
布仏虚は彼女の従者らしい。
妹と同じですと彼女から聞いたが、本当に姉妹なのかと思うくらいしっかりしている。
そして楯無から自分がここに呼び出された理由を聞いた真は顔を顰めた。
呼び出された理由。
それは簪の現状についての確認だったからだ。
何でも今日の夜から3日ほど学園から離れるらしい
そのためにルームメイトの真に彼女の現状を確認したかったようだ。
彼女が今何をしているのか、ちゃんと食事を取っているのか、ちゃんと睡眠を取っているのか、話は合うのか、真に何かされていないかetcetc……。
今朝の簪の様子を伝えつつ度が過ぎてるシスコンだな、と真は楯無がどのような人なのか理解した。
だが会話をして彼女が悪い人間じゃないことはよく分かった。
しかし気になることもあった。
「……簪ちゃんは少し無理してるのね、大体わかったわ、ありがとう真君」
「本当にわざわざすみません」
楯無の背後で虚が軽く頭を下げる。
「……1ついいですか、楯無さん」
「おっ、何かな? お姉さんに聞きたいこと?」
「ええ、簪との関係についてです。本音さんに聞きました、仲が悪くなってるって」
その言葉を聞いた瞬間、微笑んでいた楯無の顔が一気に暗くなって沈んでいく。
「俺も妹がいるんで不思議に思ったんですが……喧嘩してるのに何で謝らないんです?」
「そっ、それは……!」
姉妹や兄弟ならば喧嘩をすることもあるだろう。
だが長期に渡って続くというのはそうあるものではないはず。明らかに動揺している楯無。
それを見かねた虚が代わりに真に返答する。
「お嬢様はそのことだけについてはヘタレなんです。謝ろう謝ろうとしてるのに結局はそれができずにもう何年もたってしまったんです。本当にどうしようもないヘタレなんです」
「……今日はなんだか毒舌ね、虚ちゃん」
楯無がジト目で虚を見るが彼女はそれを無視していた。
「……謝るのが1番だと思いますよ、俺は」
「ううっ、それができれば苦労はしないわよぉ……!」
シクシクと涙を流しつつ楯無は真に返答する。
「……後1点いいです?」
「なによぉ、真君も虚ちゃんと同じく私をいじめるのぉ?」
本音から聞いていたイメージと全然違うな、と思った真だったがそれはぐっと押さえて聞きたかったことを聞く。
「これも本音さんに聞いたんですが、楯無さんはISを1人で組み立てたって……本当ですか?」
真の質問を聞いた楯無は流していた涙を一瞬で引っ込めて返答する。
「そんなことないわよ」
「え?」
「私のIS【
その答えを聞いて、何故本音は1人で組み立てたといったのだろうと疑問に思った真だったがその答えは虚から返された。
「それは、更識の名を高めるための【嘘】ですね、本音もそう聞かされてます」
「【嘘】……なんですか?」
「はい、更識家と布仏家は色々と【特殊】ですから。そういった誇張した情報と言うのも必要になるんです」
特殊の部分に含みを持たせて虚は言い切る。
「……色々とあるんですね……あっ」
ふと腕時計が目に入る。
色々と話し込んでいたせいか結構な時間が経っていた。
真が腕時計で時刻を確認した後、席から立ち上がる。
「すみません。この後、俺が所属している企業の人がくるんでそろそろアリーナの方に向かわないと……」
「ええ、大丈夫よ。ありがとう真君」
「お手数をお掛けしました、飛鳥君」
「失礼します」
真は一礼し、生徒会室から出ていく。
「……私の疑いすぎかしらね」
さきほどまでのおどけた態度は消え去り、真面目な表情で自分の椅子に戻る。
彼をここに呼んだのは妹の事を知るのが9割だが、残り1割は彼が自分の視線に気づいたことが気になったからなのだ。
「繰り返し調査しましたが、家庭環境などに不審な点は見当たりませんでした」
「……そうね、人当たりも良さそうよね。苦労人っぽいけど……勘が良かっただけかしらね」
彼の友人である織斑一夏の周りにはトラブル(主に女性関係の)が絶えないと報告書でも上がっていた。
「彼が苦労人という点は私も同意します」
その報告書を挙げた虚は苦笑しつつ返す。
「学生らしくゆっくりしたいわぁ……かんざしちゃぁん」
ぐでーっと机に突っ伏し妹の写真(隠し撮り)を懐から出して頬ずりを開始する。
「だめですよ。今日の夜から更識の家に向かわないと予定に間に合わないんですから」
「あひん」
ピシャリと楯無に告げてからこれからの予定を確認する虚であった。
――――――――――――――――
アリーナ 整備室
すでに日は落ちて星空と月が学園を照らしている中、真はアリーナの整備室にいた。
各アリーナにはそれぞれISの整備を行う整備室が設けられている。
設備についてはISの生産・整備を主に行う企業と比べても遜色ない機材が集まっている。
整備室に来た時に簪を探してみたがここにはいないようだった。
メンテナンスベッドの上に鎮座したIS【インパルスガンダム】
大小様々なコードが接続されておりシルエットは装備していない。
伸びるコードは近くの作業台に置かれたPCに接続されており、様々なデータコードが画面を走っている。
「ぬふふ、流石私の可愛い【ガンダム】ちゃんとザフトのトップエース【シン・アスカ】だね。この戦闘データから得られるものは多いよー」
【黒のスーツの上によれた白衣を来た赤髪セミロングの女性】
【ジェーン・ヌル・ドウズ】が吸い出されていくデータの羅列を確認してにやけつつ呟く。
顔は充分に美人に含まれるのだが、目の下には盛大に隈を作っており、髪も手入れされていないのかボサボサであり台無しになっている。
たまに興奮して叫びだすところもあって、真はジト目で背後から眺めていた。
「変わった人ですね」
「ははは……まあ、あれでこっちでもC.E.でも超優秀なんだけどねー。はいこれ」
苦笑しつつ、横にいた利香は真に手に持っていたタブレットを渡す。
「これは?」
「現在製作途中の新しいシルエットの情報よ」
タブレットを操作すると、確かにシルエットの情報が記載されている。
【ガイア】、【アビス】、【カオス】、【ノワール】、【ライトニング】、【ガンバレル】、【バルゴラ】とシルエット情報が表示されているがどれも未定との事だ。
だが1件製作途中と表示されているものがあった。
「【デスティニーシルエット】?」
「そう、聞いたことはあるでしょ?」
「デスティニーの前身になったシルエットですよね。コートニーさんも使ってたヤツですね、ネオ・ザフトの時も使ってましたよ」
「そうそう。まあ、フォース、ソード、ブラストのデータの流用が一番しやすいシルエットでもあるからね」
MS【インパルス】はシンに与えられたもの以外にも少数が量産されていた。
その量産されたインパルスを使ってインパルスのコンセプト【装備換装によりあらゆる戦況に対応する万能機】とは真逆のコンセプト【単機単一の装備であらゆる戦況に対応する万能機】を目指したのが【デスティニーシルエット】だ。
【フォース】、【ソード】、【ブラスト】、3つのシルエットの特徴を統合したシルエット。
デスティニーシルエットを装備したインパルスを開発陣は【デスティニーインパルス】と呼称していた。
シンの知り合いである【コートニー】は3号機に乗ってメサイア攻防戦に参加していた。またネオ・ザフト決起時も同じ機体に搭乗し、ともに戦い抜いた。
ついでに【マーレ】は1号機に乗って活躍したが、とある野次馬にシルエットを強奪されたとか。
その最大の特徴はシルエットの大部分を占める【翼】
【デスティニー】に装備された、【
(デスティニーに搭載されたモノはVLの加速能力しか持たない近似種だが)
VL稼働時はフォースインパルスを軽々凌駕するほどの超高機動戦闘が可能になる。
その分エネルギー消費は劣悪であり、デュートリオンシステムを搭載したインパルスでも10分程度が限度だった。
また、全開で稼働させた場合は機体の可動部に相当な負荷をかけることも判明していた。
「俺は使ったことないですね、これ」
「MSの方は機体のフレームに負荷をかけていたみたいだけど、こっちはシミュレーションによると問題ないレベルになってるから安心してね」
「なるほど、いつできるんです?」
その真の質問に利香は手帳を出して、スケジュールを確認している。
「そうだね……IS学園のイベントでいえば【学年別トーナメント】辺りがロールアウト時期って考えておいてね」
「結構かかるんですね」
「そりゃねー、インパルスの全データは私の頭に入ってるけど、VLは調整が難しいんだよぉー。ただでさえエネルギーを食う【シルエット・システム】なのに全部乗せたコレ、エネルギー馬鹿食いなんだよぉー」
真と利香の会話にデータの収集を終えたのかジェーンが参加してきた。
「そんなになんですか?」
「うん、ただ浮遊しているだけでシールドエネルギーがガリガリと減るレベル。それにこれ使うとソードとブラストがしばらく使えなくなるから」
「はい?」
とんでもない欠陥をさらっとジェーンは口にした。
「デスティニーシルエットの容量が相当大きいからね。だからシルエットを使う場合はソードとブラスト用に割り当ててるシステムや領域を一旦コピーして圧縮して削除してからようやく使えるんだ、欠陥だね」
「マジですか……」
「マジの大マジ、しかもこれ製作が開始されてから判明した欠陥なんだよねー、社長も頭抱えてたし。 まあ、【切り札】と思ってうまく使ってやってね♪」
ジェーンの回答に大きくため息をついた真だった。
――――――――――――――――
学生寮 真の部屋
「……でさ、あいつ、私との約束を中途半端に覚えてたの」
「……アイツぅ」
部屋のソファの上で涙目の鈴に真は絡まれていた。
利香達と別れたあと、食事を終え自室に戻ろうとした真だったがロビーに涙目の鈴がいたのだ。
理由を聞いてみたところ、どうやら一夏絡みであるらしくそのまま部屋までついてきたのだ。
なんでも鈴が言うには、今日の訓練が終わった一夏に、過去の別れの際にした約束について聞いてみたのだという。
その内容は完全にプロポーズのそれであった。
「料理の腕が上がったら毎日酢豚を食べてもらいたい……プロポーズじゃねえかよ」
正確には日本人がよく知った【毎日みそ汁を飲んでもらいたい】のアレンジなのだが意味は通じる。
だがそれを一夏は【毎日酢豚を奢ってくれる】に勘違いして覚えていたとの事だ。
「私、つい怒っちゃって思いっきりビンタしちゃってさ……どうしよう、真」
「あいつ、どう勘違いすればそうなる……!」
完全にプロポーズの文句であったのに、奢りの約束になったことは理解不能であったが、中学でも似たようなことがあったと思いだした。
一夏が告白された時の返事だ。
『ああ、付き合うよ、買い物だろ?』
その返事はすべてが壊滅っぷりだった。
弾が血涙を流していたのを覚えている。
「鈴はどうするつもりなんだ?」
「……あいつが全部思い出すまでは無視する。クラス対抗戦もボッコボコにしてやる」
小学生かよっとツッコむがこうなると鈴も頑固であることは旧知の仲である真は知っていた。
「……それとなーく伝えとく。期待すんなよ」
「ありがと真! 聞いてもらえたら少しすっきりしたわ」
「おかげでこっちはストレスでハゲそう」
真がハゲたら面白そうね、と笑いながら鈴が部屋を出ていく。
笑えない冗談だと思いつつ、今や遠い場所にいる赤髪の友人の顔を思い浮かべた。
「弾、今ほどお前が隣にいてほしいと思ったことがないよ……」
窓から夜空を見上げると、サムズアップしている悪友の顔が浮かんだ。
――――――――――――――――
時刻は消灯時間まで残り10分
「……」
真はジャージに着替え、自分の机で本日渡されたシルエットの資料を読んでいた。
資料に記載されている数値だけ見ると性能は高いのだが、やはりデスティニーシルエットは燃費が劣悪のようだ。使い方を誤れば自らの首を絞める諸刃の剣――慎重に使いどころを見極める必要がある。
「最悪フォースには換装できるわけで、悪手だけどいざとなったら換装してしのぐのも……」
タブレットを操作しつつ新シルエットを含めた戦術を考えていた時だった。
「……ただいま」
ルームメイトである簪が部屋に戻ってきた。
「お疲れ」
「……起きてたんだ」
「ああ」
彼女が持っていたバッグを自分の机に置く。
資料に目を通しつつ返事をするが、今日聞いた色々な話が頭の中に浮かんでくる。
余計なお世話かもしれないが、やっぱり放ってはおけない。
そう思って声をかけようとした時だった
ドサッと何かが倒れる音が聞こえた。
「……え?」
振り返ると――簪が倒れていた。