【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
―――意識が浮かんでくる。
ぼんやりとした頭で目を開けると見慣れた天井が見えた。
なるほど、自分のベッドで寝ているのかと理解した。
そこでふと自分の腰あたりに重さを感じた。
まだぼんやりする頭で何があるか確認してみるとそこには見知った顔がいた。
「……本音?」
幼い頃からの親友であり従者でもある、布仏本音がベッドの傍に置かれた椅子に座って、私の手を握っていたのだ。
「っ! かんちゃん!」
がばっと起き上がった彼女が私に抱き着いてきた。
いきなりの事で頭が混乱している。
「ちょ、本音、どうしたの?」
「どうしたじゃないよぉ、あすあすからかんちゃんが倒れたって聞いて……っ!」
え? 倒れた? 私が?
――そうだ、思い出した。
部屋に戻ってきた後、急に意識が遠くなったんだ。
思い通りの結果が出ずに、無理をして……。
「……ごめん、本音」
「……うぅ、よかったぁ」
私を抱きしめつつ、本音は安堵からか涙声になっていた。
ベッドの近くの時計が目に入った。
時刻を見ると朝の6時過ぎだった。
「……本音、もしかしてずっといてくれたの?」
「うん、織斑先生が許してくれたの、保健室に動かすわけにもいかないから2人で見ていろ、何かあれば知らせろって」
「……そうなんだ」
ふと、ルームメイトの姿が見えない事に気付いた。
「……本音、彼は?」
「おっ、目が覚めたんだな、よかった」
本音に聞くと同時に部屋の扉が開いて彼が現れた。
私が起きたことに安堵している表情だ、迷惑かけたよね…。
「2日くらいはゆっくりしてろって織斑先生が言ってたよ、後で保健の先生もくるって」
「……うん」
真が部屋に備え付けられている冷蔵庫からお茶を渡してくれた。
やっぱり倒れた原因は無理をしすぎていたせいらしい。
――でもこんなことで止まってたらいつまでたっても……
「……また1人で無理をするつもりなのかよ?」
「……っ!?」
何で真がそのことを――
「全部本音さんに聞いた、1人でIS作ってることも、無理してることも」
思わず本音を見てしまった。
彼女は居た堪れないのか表情を暗くし、うつむいていた。
「……なんで誰にも頼らないんだよ」
「……真には関係ない」
「……関係あるさ」
「っ! 関係ないっ!! あなたに私の何が分かるのっ!?」
思わず怒鳴ってしまった
――だけど彼に私の気持ちなんてわかるわけない!
「無力さに苛まれる辛さを分かるんだよ俺にはっ! それに目の前で…1人で泣いてる様な目をしてる奴をほっとけるかよっ!」
私の叫びに、彼が答えるように叫ぶ。
――泣いている? 私が?
彼は一瞬表情を歪めるが続ける。
「似てるんだよっ!無力さに押しつぶされそうになって1人でがむしゃらに進んでた【俺】と!」
私と同じ色の瞳。
燃えるような彼の赤い瞳と目が合う。
彼の瞳に何故か涙が浮かんでいた。
泣いてる……の?
真がはっとなって涙をぬぐってこちらを見ている。
「……何で……どうしてそこまで…私を助けようとしてくれるの?」
……まだ会って間もないのに、なんでそこまで?
「……俺は【花】を散らせないために戦うって決めた、助けられるのなら絶対に手を差し伸べるって決めたんだ。それがヒーローごっこならそれでもいい……俺自身が決めたんだ、だから助けたいんだ」
彼がそう言って頭を深く下げた。
「だから頼む、簪、何でもいい、できることがあるのなら俺に手伝わせてくれ!」
「私も!」
今まで黙っていた本音も立ち上がって頭を下げる。
「……本音まで」
「かんちゃん、お願い、頼ってよ…そんなに私頼りない?」
「……そんなことない」
「だったら! かんちゃんが1人で苦しんでるの見てるだけなんてつらいよ、だからお願い!」
2人そろって頭を下げてくれている
――私は――
「……少し、考えさせて……」
その言葉に2人は顔をあげてくれた。
「うん!」
「ああ」
本音と真は笑顔で答えてくれた。
その後、彼はお姉ちゃんから聞いていたことについても話してくれた。
ISを1人で作ったのは嘘だったということについては驚いた。
そしてお姉ちゃんが私の事を何よりも大事に考えてくれていることも。
その後まだ疲れているのかすぐに睡魔が襲ってきた。
先ほどまでの彼と本音の言葉を思い出しつつ、意識を手放した。
――――――――――――――――――
簪の体調は2日ほどで完全に回復した。
そして回復した日の朝食の席――
「本音、真…ISの件だけど2人に手伝ってほしい」
その言葉に同席していた真と本音は顔を見合わせから頷く。
「うん、まかせて、かんちゃん!」
「俺もできることがあるなら何でも手伝うよ」
「2人ともありがとう、まずは現状の説明なんだけど…」
朝食を食べつつ2人は彼女から現状の説明を受けた。
現在、簪のISである【打鉄弐式】本体の完成度は約5割といったところであり、武装については全くの手つかずの状態であるとの事。
まずは本体の方に取り掛かりたいこと、武装については本体の完成度が8割を超えたあたりから着手する予定であるとの事だ。
なお武装には【マルチロックオン・システム】というシステムを搭載予定であり多数の目標をロックできるシステムとの事だ。
これを聞いたときに真が一瞬顔をしかめたことに簪は気づかなかったが。
「真……お願いがあるんだけどいいかな」
「お願い?」
「うん、私を日出の人に紹介してほしいの」
その言葉に真は驚くが、簪の言いたいことを理解する。
彼女は自分のISの開発企業を変えたいのだ。
倉持技研から日出工業に。
日出は倉持と双璧をなす企業。
真の専用機である独自のIS【インパルスガンダム】を開発しているため人材も技術も豊富という判断だ。
「分かった、俺から優菜さんに聞いてみる。移籍に関するゴタゴタは優菜さんなら何とかしてくれると思う。そもそもが倉持が悪いみたいだから……それに簪は代表候補生だし優菜さんもメリットがあるって考えてくれるだろうから大丈夫だと思う」
「ありがとう」
「いいさ、後は楯無さんとの事だな」
真の言葉にピクッと簪の身体が震えた。
「……少しずつなら変えていけるかも、多分」
「……大丈夫、ゆっくりでも」
歩くような速さでもいい
――きっと変えていけるから。
「……本当にありがとう、真」
微笑む彼に聞こえない程度の声で確かにそう告げた
――何故か胸が温かくなった。
その後、真が優菜へ連絡して簪の件を伝えた。
これに対し優菜も、優秀な人材の獲得と倉持の技術を解析できる為、検討を実施。
後日倉持に働きかけるよう承諾した。
優菜からの工作と取引で倉持所属の【打鉄弐式】プロジェクトは買い取られることとなった。
その費用はそれなりの額になったが、倉持の技術を解析して自社のモノに出来るメリットは限りなく大きいため予算もかなりの額を割り当てられていたため問題はなかった。
倉持としても新規プロジェクトを優先するあまり、現存プロジェクトを断りもなしに凍結してしまった点をもらされるのを嫌ったためか、倉持はこの件については特に異議を申しこんでは来なかった。
1週間後、彼女と彼女のISの所属は日出工業に変更となった。
ちなみに日出の技術者達はIS製作を中止した倉持に対し、不満を爆発させていたとか。
真と本音に加えて正式な日出の技術者達のチームが組織され、中止となっていた【打鉄弐式】の製作プロジェクトは再開されることとなった。