【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE16 動き出す悪意

5月 クラス対抗戦当日

 

第2アリーナ 観客席

 

第2アリーナは多くの生徒で溢れている。

観客席に座っているのは1年生だけではなく、2年、3年生も多い。

 

IS学園は多くのイベントで有名であるが、その中でも最初に行われるのがクラス代表戦だ。

加えて今年度は過去例がなかった【男性搭乗者の1人】が1組のクラス代表であり、また2組の代表は【代表候補生】で専用機持ち。

期待が高まってしまうのは仕方がないであろう。

 

対抗戦の組み合わせは、1組対2組、3組対4組。

 

つまり初戦から【一夏VS鈴】である。

 

 

「早めに来て正解だったな」

 

「そうだね。大丈夫、本音?」

 

「だいじょうぶだよーかんちゃん……ぐぅ」

 

 

観客席に座った真の右隣に簪が、彼女の右隣に眠そうにしている本音が並んで座っていた。

 

 

「弐式、間に合ってれば参加できたかもしれないのにな」

 

「流石にそれは無理……かな。でもこんなに早く完成度が7割超えるとは思わなかった」

 

 

専用機の開発が再開された簪であったが、さすがにクラス代表戦には間に合わなかった。

クラス代表戦については、訓練機で出ようとも考えたが別の生徒がすでに出場することとなっているし、一時は完全に出場しないつもりでいたのにそれはあまりにも無責任な行動であったため、今回は出場しないことにしたのだ。

 

 

「10分くらいなら動かせるんだよな?」

 

「うん、正確には9分48秒……武装はインパルスのシールドを武装として装備させてもらってるから防御ならできるよ」

 

 

【打鉄弐式】の組み立ては予想以上のペースで進んでいた。

2週間程度で起動すらままならなかった本体は、制限時間があるもののPICによる飛行や通常動作ならば特に支障なく行える状態になっていた。

 

武装についてはまだ未着手ではあるものの、インパルスの武装の一部、正確には実体シールドを非固定浮遊部位に2つ装備している形となっている。

 

ちなみにクリスタルの指輪。

【打鉄弐式】の待機形態は左手中指につけている。

 

 

「日出の人にはいろいろと教えてもらってるよー、やっぱプロは凄いねー」

 

「……俺は本音さんがたったの数日でインパルスを整備してくれるようになったことの方が凄いと思うけどね」

 

 

いつもぽやぽやしているのが真の中の彼女のイメージであり、整備の腕が高いとは知らなかったのだ。

簪の事情を教えてくれた時は非常にまじめだったが。

 

実際本音の整備の腕は日出の社員と遜色ない程高い。

すでにインパルスの整備ならば問題なく可能なレベルである。

 

 

「ほめてもなにもでないよー」

 

 

えへへーと喜んでいる本音を微笑みながら見ていると、自分の前に座っていた清香とその隣に座っている黒髪のショートカットをヘアピンで両側から止めている少女。

【鷹月静寐】がこちらを向いていてニヤニヤしていることに気付いた。

 

 

「相川に鷹月、どうしたんだよ?」

 

「いや、飛鳥君もすみにおけないなーって」

 

「うんうん、更識さんと布仏さんと。まさに両手に花だね」

 

「……あー、うん、そうだねー」

 

「フフ、さて真さんは一夏さんの試合、どう見ます?」

 

 

真のジト目かつ適当な返しに苦笑しつつ、彼の左隣に座っていたセシリアが尋ねてきた。

 

 

「……鈴はやる気十分だしISもかなり厄介だと思う、正直厳しいと思うな」

 

 

真とセシリアが鈴のISについて調査した結果、彼女のISには中々厄介な【武装】が装備されていることが判明したのだ。

 

 

「ですが一夏さんの近接戦闘能力は高いですし、この数週間でIS戦の基礎はおさえています。それに【アレ】も習得していますから番狂わせもありうるのでは?」

 

 

セシリアの意見に黙ってうなずく

彼女の考えと自分の考えは同一だったのだ。

 

 

「ポイントはいかにして【零落白夜】を当てるか……か」

 

「ええ、そこが勝負の分かれ目……ですよね、箒さん?」

 

「なっ、なぜそこで私に振るんだ、セシリア!?」

 

 

セシリアが自身の左隣に座っていた箒へ話題をパスする。

先ほどからどこかムスッとした表情でアリーナを眺めていたのだ。

 

 

「綺麗なお顔が台無しでしてよ?一夏さんの事を考えているようですが、淑女ならば常に優雅たれ……それは大和撫子も同じでは?」

 

 

少し意地悪くセシリアが笑って、箒があっという間に顔を真っ赤にしていく。

この数週間、一夏と鈴が【約束】と言うキーワードで言い争ってるのを見て嫉妬を感じていたのだ。

 

 

「それに一夏さんは貴女に応援されれば百人力だと思いますが?」

 

「……当然だ!約束なんてものは知らないが、一夏を平手打ちするような奴には負けないぞ!」

 

 

IS学園で一夏に再会した箒だが、暴力はほとんど振るっていなかったのだ。

それは幼い頃一夏が、「お淑やかな女の方が好み」と言っていた事を覚えているからだ。

流石に怒鳴ったりはしていたが。

 

 

「ははは……まあ、頑張れよ、一夏」

 

 

現在試合に向けて準備をしているだろう親友に向けエールを送る。

 

 

――――――――――――――――――

 

『白式、織斑一夏いきますっ!』

 

 

白式に包まれた一夏はカタパルトから射出され、ステージへと出撃していく。

 

 

『来たわね、一夏』

 

 

すでにアリーナにはIS【甲龍(シェンロン)】に包まれた鈴が浮遊していた。

その両手には2本の青竜刀【双天牙月】が握られている。

 

ステージ中央へと向かうと共に、【雪片弐型】を展開し右手に持つ。

 

 

『ああ、来たぜ鈴。俺が勝ったら約束の事、ちゃんと教えてくれよ』

 

『嫌よ、説明なんてしたくないわよ馬鹿!』

 

『だから言ってんだろうが! 教えてくれりゃあ謝るって!』

 

『うるっさいわね! 馬鹿一夏!』

 

『あ、また馬鹿っていったな!? 馬鹿っていったほうが馬鹿なんだよ!』

 

 

互いにヒートアップしていく。

完全に痴話喧嘩であり、試合の前の会話ではないだろう。

 

 

『この馬鹿一夏、朴念仁!』

 

『誰が朴念仁だよ、貧乳!』

 

『貧乳といったわね!? 貧乳と言ったあああ!?』

 

 

鈴の激怒の咆哮と共に試合開始のコールがアリーナに響いた。

 

IS【甲龍】の非固定浮遊部位の装甲部分が開き、内部に光が奔った。

同時に一夏が何かに殴られたかの様に吹っ飛ばされた。

 

 

『っ!? これが【衝撃砲】って奴かよ!?』

 

 

体勢を【AMBAC】により立て直し、スラスターによって距離を取る。

 

IS【甲龍】の装備。

 

それが衝撃砲である。

この装備は空間に圧力による砲身を作成して、衝撃を砲弾として打ち出す兵器である。

 

真やセシリアが厄介と称したのは砲弾のみならず、【砲身】を圧力によって作成しているため【不可視】と言う点だ。

つまりは射撃位置の予測が不可能なのだ。

 

 

『あら、真やセシリアから聞いてたの?なら話は早いわ。回避不能の衝撃砲で私を貧乳って言ったこと後悔させてあげる!』

 

『っ! そう簡単にいくかよぉ!』

 

 

スラスターを噴かして、鈴に接近しようとする一夏。

それを予測し、衝撃砲での迎撃を行う鈴。

 

 

観客が盛り上がるであろう試合に期待を膨らませていた時だった。

 

 

突如上空から【光】が降り注ぎ、強烈な衝撃がアリーナに走った。

 

 

――――――――――――――――――

 

強烈な衝撃がアリーナに走った。

 

空から降り注いだ強烈な【光】と強烈な衝撃により、アリーナはパニックとなっていた。

 

 

「っ! 今のビームは何だよ!? 大丈夫か!?」

 

 

とっさに簪と本音を庇っていた真が2人から離れつつ毒づいた。

強力なビームによる攻撃。

 

それがアリーナを覆うシールドにぶち当たったのだろう。

 

 

「かんちゃん、大丈夫!?」

 

「うっ、うん……大丈夫」

 

 

簪を押し倒してその身を守っていた本音が彼女から離れる。

 

一体何が、と状況を確認するとそこには【この世界には絶対に存在しないはずのモノ】が【2つ】存在していた。

1つは上空に浮遊している。

 

トリコロールカラーで【インパルス】のシルエットと似たようなバックパックを背部に装備した機体。

 

もう1つはステージに侵入している全身がマゼンタレッドの機体、両手両足にクローが装備されトサカ状の頭部センサーを持っている。

 

 

「あれは……!?」

 

 

どちらにも見覚えがあった、それはかつてザフトのアカデミーの教科書でみた【MS】

連合が戦局の打開をかけて5機製造し、ザフトが奪取した4機のうちの1つと、唯一連合に残った1つ。

 

 

(あれはGAT-X105【ストライク】!?それにGAT-X303【イージス】!?)

 

 

最初期に連合で開発されたGタイプ、いやガンダムタイプのMS。

だがISサイズまでダウンサイジングされている。

 

 

(あれはMSじゃなくてISなのか!?まさか【キラ・ヤマト】や【アスラン】!?)

 

 

優奈や利香やジェーン、そして自分自身。

 

C.E.にいた者たちがこの世界にも存在している

つまり【奴ら】も存在している可能性を考えなかったわけではない。

 

だが信じたくなかったというのが真の本音であった。

 

 

突然の乱入者に一夏と鈴は驚愕の表情を浮かべていた。

イージスが一夏に向かって行く。

 

 

(奴らの狙いは一夏なのか……っ!?)

 

 

そこまで考えた瞬間、悪寒が奔った。

ストライクが【ビームライフル】を展開しこちらを狙っているのに真は気が付いたのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

光が迸ると同時に、ものすごい衝撃がアリーナに走った。

その瞬間、目の前が真っ暗になったことに私はパニックを起こしかけていた。

 

 

「っ! 今のビームは何だよ!? 大丈夫か!?」

 

「かんちゃん、大丈夫!?」

 

 

横で庇ってくれていた本音と、本音ごと庇ってくれていたらしい真に声をかけられた。

 

 

「うっ、うん……大丈夫」

 

 

何とかパニックを起こさずにそれだけを返せた

空とステージを確認すると【全身装甲のIS】と思わしき機体が2機浮遊していた。

 

真もそれに気づいたのか、2機を確認して驚いている。

 

マゼンタ色の方がステージにいる織斑君と鈴さんに向かっていく。

 

そして2機のうちの1機。

残ったトリコロールカラーのISがこちらに射撃武装を向けているのに気付いた。

 

 

「……えっ?」

 

 

我ながら情けない声を上げてしまったと思う

本当にそれだけしか出てこなかった、なぜならそのISは躊躇なくライフルの引き金を引いたのだから。

 

 

「っ!?」

 

 

思わず目を瞑ってしまう。

だが痛みはやってこなかった、何故ならばシールドを構えてこちらを守ってくれている【インパルスガンダム】

 

真がいたのだ。

 

 

『無事か、簪、皆っ!!』

 

 

あのISから放たれたビームは、少し離れたところを浮遊しているインパルスのシールドで拡散され無効化されていた。

真の言葉にようやく冷静な思考が戻ってくるのを感じた。

 

 

「だっ、大丈夫……だよ。ありがとう」

 

 

何故だろう、非常事態だと言うのに顔が凄く熱い

熱でもあるのだろうか、顔も真っ赤なのかな……。

 

 

『すぐに弐式を展開してくれ、シールドで皆を守ってくれ!』

 

 

真はそういって【フォースシルエット】に換装し、インパルスを飛翔させていく。

同時に横にいるオルコットさんがISを展開していた。

 

 

『真さん、援護いたしますわ!』

 

『セシリアは皆や一夏を!上空の奴の狙いはおそらく俺だっ!』

 

 

怒鳴るように真が叫び、ビームライフルを展開してトリコロールカラーを射撃している。

 

急機動でトリコロールカラーは射撃を避けて上昇していく。

一旦射撃を中止して、インパルスはトリコロールカラーを追いかけるように上昇していく。

 

おそらく彼は自身を狙っている敵を追ってアリーナから離れるつもりだろう。

 

 

『ですがっ!』

 

『頼むっ!』

 

 

反論しようとしたがチャンネルを切られたようでオルコットさんは顔を顰めている。

 

 

『……仕方ありませんわね、更識簪さん。でよろしかったです?』

 

 

ISを展開した彼女がこちらに視線を合わせた。

彼女の視線に先ほどから感じていた熱は静まって行くのを感じる。

 

 

「うっ、うん」

 

『ISを展開してくださいな。私達が皆さんをお守りいたしますわよ? 』

 

『……分かった。避難が終わるまで守って見せる』

 

 

すでに生徒達の避難は始まっている。

 

稼働時間に限界はあるけど今の弐式なら皆を守ることができるはず。

弐式の装甲に包まれていく中で私はそう考えていた。

 

――――――――――――――――――

 

日本近海

 

海面しか存在しないはずの領域が歪み、歪みが収まると黒い船が現れた。

船の外見はアメリカ海軍が開発した【ズムウォルト級ミサイル駆逐艦】とほぼ同様だが、船体には【手に持ったハンマーで音符を破壊する兎】のエンブレムが刻まれていた。

 

そして甲板に設置されたハッチからの中から2人の人間が現れた。

1人は女性、もう1人は長髪から女性に見えるがしっかりと鍛えられたその身体と顔つきから男性であることが分かる。

 

 

「カナくん、大丈夫? 行けるかぁい? お姉さんがじっくりと大人の検査してあげようかぁ?」

 

「問題ない」

 

 

女性はウサギ耳を模したカチューシャを付けており、胸元が開いたエプロンドレスを身に着けている。

女性の胸にある果実がその存在を雄弁に語るかのように、ぷるんと自己主張している。

 

男性のほうはまるで拘束服をボディアーマーのように改造した服装をしている。

アメジスト色の瞳に、海面の光を反射させるように綺麗な黒の長髪、加えて顔は美形だ。

 

女性のほうがおどけた様な声で長髪の青年に声をかけ、長髪の青年は少々ぶっきらぼうに返し、右腕にはめた【翡翠色の腕輪】を軽く触る。

 

 

「ラキちゃんやクーちゃんと一緒に整備したから、君の要望の通りになってるはずだよん!」

 

『感謝する……ラキを頼むぞ、【篠ノ之束】』

 

 

青年の体を【IS】の装甲が包んでいく。

口より上部を完全に覆うようなツインアイタイプのセンサーが装備され、巨大なランチャーのような砲塔を2門、非固定浮遊部位として浮遊させていた。

両手のマニピュレータ部――人間でいう手の甲の部分には三角錐の突起物が装備されている。

 

背部のランドセル部分には、大型のブースターやスラスターを装備した

高機動用パッケージの様なものを装備している。

 

 

「【アイツ等】を止める事が私の【贖罪】……! IS学園を皆をお願い、カナくん!」

 

 

ウサギ耳の女性、IS開発者であり世界で最も有名な天災【篠ノ之束】が青年に向けて軽く頭を下げる。

その行動と言葉は彼女を昔から知っている【織斑千冬】が見ればさぞ驚いたであろう。

 

 

『……分っている、【ドレッドノートH】、ガンダム出るぞ!』

 

 

束が離れたことを確認した青年はブースターを点火させ、空へと駆けていく。

青年が発進したのは、【謎の2機】がアリーナを襲撃する10分程度前の事だった。

 





かんちゃんかわいい。

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