【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
少々時間は遡り、クラス代表戦の翌日
戦闘中に場を混乱させてしまった箒は自室――一夏と同室――で1日の謹慎を言い渡され謹慎中であった。
「……」
自分のベッドの上で昨日の件を思い出していた。
(軽率だったかもしれないが……私は間違っていない、一夏の為を想えばこそだ)
恋は盲目。
箒は一夏に関する事では大きく視野を狭めてしまう。
それは先日の様な【試合】ではなく【戦闘】では致命的である。
しかしそれに気づけと言われても酷であろう。
彼女は篠ノ之束の妹ではあるがあくまで戦いなどとは無関係な十代の少女なのだから。
そして彼女の心にはもう1つ浮かんでいる事がある。
それは――
「……一夏の隣に立てるようになりたい……力が欲しい」
【力への渇望】が彼女の心に生まれていた。
真やセシリアや鈴、そして一夏には専用のIS――【専用機】がある。
真やセシリアが一夏を鍛えてくれている特訓に訓練機で参加したこともあるが、その差は歴然だ。
自分だけ違う。
もし自分にも専用機があれば、一夏の隣に堂々と立てるのではないのか。
姉に連絡を付ければおそらくは――。
そんな考えを浮かべながら、目を閉じた。
――――――――――
IS学園地下、そこには特定のクリアランスを持たなければ入れない区画がある。
IS学園は規定によって国家に属さない事となっている――その特殊性からこういった監視・解析専用の区画が必要となるのだ。
真耶と千冬はその解析専用区画にいた。
「ようやく解析が終わったか」
「はい、どうにも無人機の装甲に使われている装甲材が特殊すぎて時間がかかりましたが解析が終わりました」
メンテナンスベッドの上に乗せられた無人機。
ストライクとイージスの残骸を睨みつけるように千冬は見ていた。
「コアなんですが……【未登録】のコアでした」
「やはりか……」
「それと、このISには【絶対防御】が搭載されていませんでした」
「何?」
「絶対防御に回すエネルギーを装甲に回している形跡が見られたんです、そしてその装甲ですが通電する事で衝撃の相転移を発生させる特殊な合金で作られています」
「衝撃の相転移……まさか……!」
「はい、この装甲に実体弾などの物理攻撃は意味をなしません。もちろん完全ではないでしょうが。この装甲を相手にするならばエネルギー兵器が有効だと考えられます」
無人機と戦闘を行った者達を望遠モニターから撮影した映像が流れる。
鈴の衝撃砲で吹き飛ばされながらもノーダメージ、だが一夏や真、未確認の男性搭乗者によるエネルギー兵器での攻撃はダメージを与えていた。
(あの男を通じて、束は私にメッセージをよこした……束が関与していないと考えるべきか)
残骸の破片を拾い上げて観察しつつ、思考を続ける。
(だがそれは束以外にISコアを作れる人間がいるということだ。世界のパワーバランスが崩れかねんぞ)
ISのコアを作れる人間は篠ノ之束のみ。
そしてコアの数には制限がある。
その制限がある意味での抑止力として機能しているのだ。
現在の世界はISの存在によって揺らぎながらも平和を保っている。
だがもしISコアの数が増え、充分な数が国家に行き渡った場合は――
「……下手をすれば戦争か」
それは考えられる最悪の未来、何としてでも回避する必要がある。
(やれやれ……これから山場がいくつあるのか考えるだけでも嫌になる)
だが自分はそれをやらなければならない責任がある。
ISが世界に広がる切欠――【白騎士】に関わった身として。
――――――――――
時間は戻って、クラス代表戦からしばらく経った頃。
「転校生ですか?」
「はい、今回は2名です」
放課後、一夏は教室に残されていた
真は一夏にノートを貸してくれと頼まれて付き合っていた。
なんでもまた転校生が来るとの事だ。
だが女子の転校生なら自分達にはあまり関係ないはずだが。
真耶が周りを見回し誰もいないことを確認して小声で二人に告げる。
「実は元々決まってたんですがスケジュールの調整が遅れて……それとまだ発表してはいけないんですが、1人は男子なんです」
「ええっ、本当ですかっ!?」
大げさに驚く一夏に思わず真耶は苦笑してしまった。
一方真は別の事を考えていた。
(……特にニュースとかにはなってないよな、今朝のニュースも特に変わりなかったはず)
今朝、携帯で確認した内容を思い出す。
(俺の時は大々的に世界中に報道されたよな……何でだ?)
自分の時はすぐさま速報として報道された。
だが今回はそのような様子もない――机の陰に隠して携帯を見たが特にニュースなどにはなっていない。
(3人目……実際には4人目か。転校が決まってたってことはかなり前から……俺と同時期に見つかっていた可能性もあるな。……あやしいな、この話)
C.E.――
前世で
どれもこれもほとんどが理不尽な内容であったことの教訓から【あやしい話】を疑うよう心がけている真は内心警戒を強めていた。
それに気づかずに真耶の話は進んでいく。
「相部屋の相手は織斑君になります」
「これで何の気兼ねもなくシャワーが浴びれる!」
「おいおい」
思わず素でツッコんでしまった。
どちらもルームメイトとは一定の関係を築いているが、やはり男女相部屋では気が休まらない所もあるのだ。
シャワーなどの前後は特に――。
湯上りの女の子は思春期男子には刺激が強すぎるのだ。
ちなみに一夏には女難の相でもあるのか、たびたび箒のシャワーシーンを目撃していたりする。
「いきなりのお話で申し訳ないんですが、織斑君はこの週末に引っ越しの方お願いしますね」
「分かりました」
その後、一夏は真からノートを借りて自室に戻っていった。
何でもISの座学だけではなく基本教科も勉強したいとの事だ。
最近は授業について行けないということもなく、成長スピードには驚かされている。
「……4人目か……警戒はしておくかな。ラクス・クラインの件もあるし」
この件と関連があるかは不明だが、そう決めて真も自室に戻っていった。
――――――――――
同時刻――自室
今、目の前にはずっとちゃんと見ることができなかった人がいる。
【更識楯無】、私の姉。
だけどそれは単なる擦れ違いだと彼が教えてくれた。
だから私は少しでも前に進みたい。
「お姉ちゃん」
「なっ、何かしら簪ちゃん」
お姉ちゃんがピクッと身体を震わせながらこちらに微笑む。
私とお姉ちゃんは共に正座で向き合っている状態だ。
「ごめんなさい」
「……え?」
私が軽く頭を下げるとお姉ちゃんが目をぱちくりさせながらそんな声を出した。
「今までお姉ちゃんはずっと私の事を考えてくれていたのに……。無視してて、ごめんなさい」
「……それだったら私の方が謝らないといけないわ。私のほうこそごめんなさい、簪ちゃん。あなたは決して無能なんかじゃないわ」
お姉ちゃんが土下座するように頭を深く下げる。
ずっと昔に言われた言葉。
ずっと心に残ってた言葉。
だけどそれが本心からの言葉じゃないとわかったのはつい最近の事だ。
「貴女は自慢の妹よ……簪ちゃぁん!」
「えっ、きゃあっ!?」
今まで凄い真面目な顔だったのに急に涙をボロボロと流しながらお姉ちゃんが抱き着いてきた。
「おっ、お姉ちゃん!?」
「ふへへ、簪ちゃんの匂い……はっ、ごめん、ごめんね!」
なんかよだれ垂らしてるし――。
でもこうして【刀奈お姉ちゃん】として接してくれたのは本当に久しぶりで悪い気はしない。
「……いいよ、抱き着いてても」
本当っ!?と目を輝かせてるお姉ちゃん。
本当に嬉しそうで断れそうにない。
「あら、香水?」
お姉ちゃんがクンクンと私の首筋の匂いをかぎ始めた。
「あっ、ちょっ……!」
「何でまた?」
「……別にお洒落位……するよ、お姉ちゃん」
本当は真に気付いてほしかったけど、クラスが違うし今日は昼食が一緒に取れなかったので気づいてもらえなかった。
その様子をジーとお姉ちゃんが見ていた。
「なっ、何?」
「……知ってるんだからねっ、真君の事、好きなんでしょ?」
お姉ちゃんの言葉を聞いた途端、顔が真っ赤になったのが分かる。
「なっ、なんで……!?」
何とかそれだけを言葉に出せた。
「最近の真君を見る目ね。こう熱が籠っていた感じがあったのよ……で今の反応を見るに本当なのね?」
「……うん、私は真が好き」
そうはっきり言葉に出した――彼の様に強くはっきりと。
「……そう分かったわ、応援するわ、簪ちゃん」
「……ダメって言わないの?」
正直、お姉ちゃんならそういう行動をとると思ってた。
「……簪ちゃんの顔を見るまでは真君には腕の1本くらい覚悟してもらうつもりだったわ」
お姉ちゃんが扇子で口元を隠して笑う。
めっ、目が笑ってない。
「……でも本気で彼の事が好きって分かったから。だからそういうことはせずに応援することにしたの」
「……お姉ちゃん」
「でも彼人気高いわよ? 強面だけど優しいとかで、2年3年でも話題に出るくらいよ?」
そうなんだ――でも――
「……大丈夫、負けないから」
はっきりとお姉ちゃんに伝える。
「……なら安心かな、じゃあまずは彼を落とす準備をしなきゃね」
「準備?」
「そう……まずは胃袋をつかむのはどうかしらっ!?」
その後、真が帰ってくるまでお姉ちゃんから男を落とす技術(?)の基礎を教わった。
正直あまり役に立ちそうにない知識ばっかりだったけど、その気持ちがとてもうれしかった。
――――――――――
夕食後自室――
「ほんと!? かんちゃん、たっちゃんと仲直りしたの!?」
「うん」
本音が簪の肩を掴んで驚いている。
「久しぶりにお姉ちゃんと色々と話せたよ」
「よかったよ~」
「ちょっ、本音っ」
カバッと本音が簪を抱きしめた。
とっさに離そうとするが、彼女の力が予想以上だったのか引き離せなかった
そんな様子を微笑みながら真は見ていた。
「よかったな、簪」
「……うん、真のおかげだよ」
「俺の?」
「うん、真が私の背中を押してくれたの」
本音が簪を離し、簪は真の目を見つめ微笑む。
「あっ……うん。そうか、ならよかったよ」
その微笑みに真は少し恥ずかしそうにしていた。
彼女の笑顔を救えてよかった
――心から真はそう思った。
かんちゃんヒロイン爆進。