【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
1年1組では先週真耶が伝えたように2名の転校生の自己紹介が行われていた。
1人は【金髪の美少年】、1人は【銀髪と眼帯の美少女】だ。
「フランスから来ました、シャルル・デュノアです。日本では色々と不慣れな事も多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」
【金髪の美少年】が1年1組の皆の前で頭を下げる。
中性的な顔立ち、綺麗な金髪を背中まで伸ばして束ねている。
背は真や一夏に比べるとかなり低い。
「おっ、男……!?」
一瞬の沈黙の後、清香が声を出した。
「はい、すでに僕と同じ境遇の方が2人いらっしゃるとの事でこちらに……」
瞬間――
シャルルの言葉をさえぎるかのように1年1組が沸いた。
「きゃあああ!!」
「男子よ! 織斑君、飛鳥君に続く3人目!」
「美形よぉ! もしかしてかに座のB型!?」
「優しいイケメン、強面イケメン、貴公子系イケメン!1組本当に勝ち組だわ!」
クラスメイト達が歓喜で湧きあがる。
一夏は歓声に耳を塞ぎ、真はシャルルを観察して呆れていた。
(……どう見たって【女の子】じゃないか)
男子用の制服を着ているが明らかに女の身体つき。
中性的な顔立ちだが声は男性にしては明らかに高い。
自分や一夏と比べればよりはっきりとするだろう。
それに先日話を聞いたときからネットやニュース、所属企業である日出工業でも確認したが、自分より後に男性操縦者が現れた話など欠片も存在していなかった。
(……フランス……デュノア……ってことはもしかしてデュノア社に関連する人間なのか?)
利香に叩き込まれたIS座学の中に気になる【キーワード】がありそこから思考の海に沈む。
IS学園で使用されている訓練用ISの中に量産型IS【ラファール・リヴァイヴ】と言う機体がある。
この機体はもう1つの量産型ISである【打鉄】と同じく第2世代型ISであり、操縦者を選ばず多種多様な拡張性を併せ持つことから世界でも第3位のシェアを誇り、7カ国でライセンス生産され、12カ国で正式採用されている。
そしてそのラファール・リヴァイヴを開発したのはフランスの【デュノア社】
シャルルのファミリーネームと同じである。
(そうだとしたら何のため……いや決まってるか)
真の中でシャルルが何のためにIS学園に来たかの予測がついた。
(一夏の詳細なデータか、俺のデータはある程度は世界中に渡されてるはずだろうし、重要度は一夏のほうが高い……だけどその方法が【ハニートラップ】かよ)
【ハニートラップ】――様は色仕掛けである。
(すでに引越しは終わってるし……一夏が気づくとも限らないし……千冬さんに相談してみるか)
何気に親友に対してひどいことを考えているが前科が色々とあるので仕方がない。
それにこれはれっきとした【犯罪】だ。
友人達の身に危険が及ぶかもしれない。
学園側もこの事態を知らないわけではないだろう、こういうときは責任ある立場の大人に頼るべきだ。
「騒ぐな」
千冬の一声で溢れていた歓声は一瞬で消える。
それを確認して千冬は小さくため息をついた。
「えっと、それでは自己紹介のほうお願いしてもいいですか?」
「……」
真耶の言葉を無視しているのか、銀髪の美少女は無言で突っ立っている。
「挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
千冬の声に彼女は佇まいを直して敬礼を向ける。
その姿は訓練された【軍人】のようだ。
「ここではそう呼ぶな、私は教官ではない。それにお前もここでは軍人ではなく代表候補生、そして一介の生徒だ、私のことは織斑先生と呼べ」
「了解しました」
敬礼したまま、彼女が返答する。
敬礼をといた後、彼女は1組の皆に振り返った。
「名前はラウラ・ボーデヴィッヒ、以上だ」
そして再び口を閉じる。
彼女の様子に真耶が混乱している。
無言のままラウラはクラスを見回し、一夏に目を合わせた。
一瞬彼女の顔に怒りが浮かんだ。
そのまま、ずかずかと一夏の席の前に立つ。
当の一夏はぽかんとした表情を浮かべていた。
「貴様が、織斑一夏か?」
「ああ、そうだけど」
瞬間、一夏の頬が転校生によって叩かれた。
「っ!?」
「この程度も避けられんとはな……。私は認めんぞ、貴様があの人……教官の弟であることなど認めるものか!」
「いきなり何しやがるっ!?」
思わず一夏は立ち上がってラウラを睨むが、彼女は無視してあいている席に座る。
ちなみにその席は清香の後ろであり、彼女は泣きそうな顔をしていた。
「……それではHRは終わりだ。各自着替えて第2アリーナに集合しろ。今日は2組との合同のIS操縦訓練だ」
その言葉で皆、授業の準備に取り掛かり始めた。
(……軍人ね、いきなり人を叩くのはどうかと思うけど)
ザフト時代の自分も模範的な勤務態度を取っていたとは言いがたいが、あれは目に余る。
それになんとなくだが個人的な感情が見えた気がした。
「ったく、何なんだよあいつ」
一夏が移動の準備をしつつ、叩いたラウラを睨みつけている。
「無視しとけよ、虫の居所が悪いんだろ?」
「……ああ、そうする」
「織斑、飛鳥、デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」
「あ、はい、分かりました」
千冬はそう言って教室を出て行く。
「君達が織斑君に飛鳥君?初めまして、僕はシャル……」
「シャルルさん、先に移動したほうがいいですわよ? それに3人がここにいらっしゃると私達も着替えられませんから」
苦笑しつつセシリアがシャルル達3人に告げる。
了解とつげて足早に3人は教室を出る
「男子はアリーナの更衣室で着替えるんだ」
「そっ、そうなんだ……」
一夏は走りながらシャルルの腕を掴んでいる。
シャルルは少々頬を赤くしているが彼に引っ張られる形で走っている。
走り方も男の様なものではなく、女性の走り方だ。
(……隠す気あるのかよ)
先ほどからずっと警戒していたが正直スパイにしてはお粗末過ぎるシャルルの仕草に、真は思わず苦笑してしまった。
―――――――――――――
そしてその日の放課後。
生徒会室には真と楯無の姿があった。
「お疲れ様、真君」
「わざわざありがとうございます」
「お話したいことはシャルル君のことよね?」
「……ええ、忙しいところすいません」
「いいのよ、困りごとを解決するのも生徒会長の仕事よ♪」
楯無が真に紅茶を出す。
楯無は真に対して一定の信頼を置くようになっていた。
実際、無人機襲撃の際にも真は事の終息に協力したのだ、それが楯無の信頼を得ることとなった。
楯無個人的には簪との仲が回復したことが大きいが、それは真の知るところではない。
「ほう、ちゃんと仕事をしているようで何よりだ」
千冬が生徒会室に入ってくる。
「お疲れ様です、織斑先生」
休憩時間や昼休みに楯無や千冬には自分が感じたことについては報告していたのだ。
ちなみに一夏に訓練に誘われたが千冬さんに話があると言った所素直に聞いてくれた。
楯無が千冬の分と自分の分の紅茶を用意して席に付いたのを確認して、真は話を切り出す。
「それで、何なんです、あのフランスの【女の子】は?」
応接用の椅子に腰掛けながら真は確信について話す。
その様子に楯無は苦笑しつつ答える。
「いきなり来るわねー、真君」
「気づいていたか、飛鳥」
「そりゃ、お世辞にも上手い男装とは言えないですよ……仕草だって女の子じゃないですか。それに一夏や俺に何かあるかもしれないじゃないですか」
合同授業の着替えの際、一夏や真の着替えを見てシャルルは思いっきり動揺していた。
真はワザと大胆に上半身裸になったりしてカマをかけていたのだ。
「てか2人とも気づいてるって事は学園側もですか?」
「ああ。流石にあれだけお粗末な男装だ、教師は全員な……。それも書類についても偽装されたものだ」
「私の方で確認を取りましたけどフランスのほうでもデータが書き換えられていました。おそらく国家絡みですね、対応は難しいと思います」
どうやって調べたんだと真は思ったが今は無視する。
「……彼女はデュノア社の人間ですよね? 何でこんなスパイみたいなことを?」
「彼女、デュノア社長の愛人の子らしいのよ。だからまあ無理矢理こんなことやらされているのでしょうね」
やれやれと楯無は肩をすくめてため息をつく。
「飛鳥、すまないがデュノアの事を見ておいてくれないか?」
「……対応できないから……現状維持って事ですか?」
「ああ、お前なら同じ男子ということで近くから見張ることもできるだろう?」
「こっちから何かしらの手を打つと国際問題に発展しかねないのよ。お願い、真く~ん」
まさか何も対応せずに現状維持になるとは思わなかった。
それどころか監視を依頼してきている。
完全に墓穴を掘った状況だ。
(マジかぁ……)
思わず天井を仰いでしまった。
「……もちろんそのままというわけではなく手も打つ。期限は1週間から2週間程度だ」
「ハニートラップとかあったらどうするんです?」
「ないでしょうね。彼女を見るにそんな事できそうにないし、それに相手一夏君だから」
「……了解です」
自分が彼女を見ていれば危険を取り除けるのならば協力するしかない。
それに彼女の事を救えるのなら救いたいというの気持ちもあるのだ。
望まないことを強要された、【望まない戦いを強要された女の子】を知っている。
――奇しくも彼女も金髪だった。
救えなかった。
――自分の腕の中で冷たくなった【ステラ】を。
「すまんな」
「……まあ、なるべく早めに何とかしてください」
努力しようと千冬は苦笑いで返した。
その後、ラウラについても千冬にお願いをしておいた。
一夏に対する態度は他者が見ていても気分がいいものではないからだ。
彼女はそれに了承してくれた。
その後は軽い雑談の後解散となった。
―――――――――――――
夜――自室
「はぁ……」
「どうしたの、真?」
ベッドの上でため息を吐いた真に簪が問いかける。
「いや、やることが多いなって……」
「……もしかして【デスティニーシルエット】が完成したからテストするの?」
「……えっ?」
完全に初耳の情報であった
――予定のロールアウトにはまだ時間があるはず。
「あれ、資料用のタブレットにメール着てたよ」
机の上においてあった共有の資料用タブレットを確認する。
利香からメールが届いていた。
2日後に持っていくとの記載もあった。
「本当だ……予定よりも相当早いじゃないか」
「日出の人達は本当に誇りを持った技術者なんだね。倉持とは大違い」
ふふっと黒い笑いを簪が浮かべているのでそれに苦笑で返す。
「しかしこんなに早くなるなんて……絶対無理しただろ、利香さんたち」
「……それのテストじゃなかったの?」
「ん、ああ、別件かな。……まあ、何とかしてみるさ」
疲れた様子でタブレットを机の上に置きなおす。
「……ねえ、真、甘いものとか食べたい?」
突然簪が真に問いかけてきた。
「甘いもの……いいな、ちょっと小腹もすいてるし。疲れたから甘いもの食べたい」
真の返答にぱあっと笑顔を浮かべて簪が自分のバッグから包みを取り出してきた。
「よければ……どうぞ。食堂を借りて作ったの、カップケーキ……だよ」
チョコ味のカップケーキを2つ手渡される。
「あっ、うん……ありがとう……」
彼女の雰囲気に飲まれ、真の顔も照れて赤くなっていく。
包みを丁寧にはがして、一口。
「……甘くておいしい」
「ほんとっ?」
「ああ」
ぺろりと1つ食べて終えて2つ目の包みを開ける。
「ありがとうな、簪」
「えっ、あっ、うん……。喜んでもらえてよかった」
お互い顔が赤く、雰囲気もどこか変わった気がする。
だが、その雰囲気はすぐに霧散することになった。
「かんちゃーん」
扉をノックする音と、本音の声が聞こえたからだ。
「!?」
2人ともビクっと身体を震わせて扉を見つめる。
「……あ、あはは、出るね」
「あっ、うん……」
お互い恥ずかしそうにして告げた。
その後、本音が漫画等の雑誌類を買ったから一緒に読もうと勧められていた簪だったが、どこかジト目で本音を見ていたのだった。
―――――――――――――
ホテルの一室
「【日本】は湿気が強くていけませんわねぇ……ま、密入国したんですから文句は言えないですわね」
カーテンで仕切られ照明が落とされた部屋は本来は暗いはず。
だが空間投影ディスプレイによる明かりが室内を照らしていた。
「……【篠ノ之箒さん】……束さんの妹、ふふ、束さんがどんな反応を取るか楽しみですわ」
ディスプレイに表示されたのは私服姿の箒の姿。
【赤い腕輪】を手で弄りつつ、ディスプレイを消す。
「向こうにはキラもいると言うのに見当違いな場所ばかり……おっと今はラキーナでしたね。まあ、もう彼などどうでもいいですが」
テーブルの上に置かれたワイングラスに手を伸ばし、一口飲む。
「ふふ、やはり【ミラージュコロイド】と【テスタメントウィルス】は便利ですわね……。MSにもつけるべきでしたわ」
腕につけている【白い腕輪】を見つめて自嘲するかのように彼女は呟いた。
「ああ、シンの表情を考えるだけで昂ぶってきますわ。でもまだだめ、シンはまだ【翼】を手に入れていない」
再び一口ワインを口に含む
「私が基礎を作った【トレースシステム】、それを改良した【VTシステム】。面白いですわね、利用しないなんてもったいないですわっ。 ああ、シン、早くあのときの様に美しい翼を持ってくださいな、お待ちしてますわ」
カーテンを少し開けて月を見る。
美しい月を眺めつつラクスはワインを飲み干した。