【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE22 淡く揺れる想い

2日後――

第3アリーナ

 

アリーナの上空で動く2つの人影と4つの浮遊砲台。

真とセシリアが模擬戦を行っているのだ。

 

 

【ティアーズ】から奔るレーザーをシールドで受け流し、AMBACによる姿勢制御を行う。

 

だが背後から【別のティアーズ】が迫る。

 

 

『ちっ!』

 

 

放たれたレーザーは空を切る。

真はフォースシルエットの大推力スラスターを噴かして、推力任せの回避を選択せざるを得なかった。

 

そして彼が回避した先を狙う銃口。

【スターライトMK-Ⅲ】を構えたセシリアだ。

 

 

『そこですっ!』

 

『まだだぁっ!』

 

 

機体各部のバーニアを噴かせての姿勢制御から、彼女に向き返りシールドで防御。

レーザーの射撃に間に合い、何とか防御に成功した。

 

 

『羨ましいほどの機体制御技術ですねっ!』

 

 

ティアーズを自身の周囲に戻し、元から浮遊させてあった2機、戻した2機の4つに

自分自身を加えた5条のレーザーを真に向けて放つ。

 

 

『一斉射撃かっ!』

 

 

瞬時加速での回避。

ただの瞬時加速ではなく連続で行う二重加速で一気に距離を稼ぐ。

 

回避に成功したことを確認して、すぐさまビームライフルを展開しティアーズに向けて放つ。

連続で射撃を行うが、ビームに貫かれたティアーズは1機のみであった。

 

 

『ちぃっ、ほんっと厄介だよ、ドラグーンはっ!』

 

『ティアーズです!それと人間は成長するのですっ!してみせますわっ!』

 

 

すでにセシリアはティアーズを2つ操作しつつ行動ができるようになっていた。

といってもティアーズの操作についてはまだ【対象の背後に回って射撃】等の単純な行動をとらせる事しかできていないが、それでも彼女は大きく成長し続けている。

 

先程から真はフォースインパルスで彼女のティアーズとの同時攻撃に防戦一方である。

元々高い狙撃/射撃能力を持つセシリアに簡易的とはいえ攻撃を行ってくるティアーズ、多対一の形になっている。

 

だが多対一は逆に考えれば一網打尽にできるチャンスでもある。

セシリアはティアーズによる同時攻撃が可能となったとはいえまだまだ拙い。

 

牽制の為かティアーズのみが一か所に集まって射撃を行う。

一か所に集まったのならば【面】での攻撃に切り替える。

 

 

『そこっ、ビームコンフューズ!』

 

 

即座にビームサーベルを展開し、起動して投げ付ける。

回転してブーメラン状になったのを確認してライフルを放つ。

 

ビーム同士が干渉しあい拡散して、ティアーズに襲い掛かる。

残っていた3機のティアーズは拡散されたビームによって沈黙する。

 

 

『つっ!?』

 

 

拡散されたビームはティアーズだけではなく後方にいたセシリアにも被害をもたらしていた。

シールドバリアによって弱いビームは弾かれるが反射的に目を瞑ってしまった。

 

即座に【ブラストシルエット】に換装。

上部装甲のカラーが瞬時に緑に変わり【ケルベロス】を展開、ロックオン。

 

 

『いっけぇぇぇっ!』

 

『くうっ!?』

 

 

放たれた2門のビームを瞬時加速で回避。

しかし余波によってシールドエネルギーが減っていく。

 

まだエネルギーは残っている。

すぐさま体勢を立て直し射撃姿勢に移行。

 

しかし穂先がビームで形成された槍、【デファイアントビームジャベリン】を突きつけられていた。

ビームの発射後、体勢を崩したセシリアに瞬時加速によって詰め寄ったのだ。

 

 

『くぅ……っ!?』

 

『……今回は俺の勝ち……だな』

 

 

穂先部分のビームの展開を解除して真が微笑む。

実際、そのまま突かれていたらエネルギー切れだったであろう。

 

 

『……そのようですわね』

 

 

悔しさをにじませつつ、ふうとセシリアは一息つき微笑む。

 

 

『これで3戦して1勝2敗……負け越してしまいましたわね』

 

『ドラ……ティアーズの同時操作で背後を取られたときには冷や汗をかいたよ、前より対処が難しかった。後は【面】攻撃に対する対処方法だな』

 

『【偏向射撃(フレキシブル)】が可能ならば先程の様な単純操作はしなくてもいいのですが……まだまだですわね。でも次は私が勝ちますわ』

 

『そっ、そうか、今後はレーザーが曲がってくるかもしれないのか。本当に厄介だな……!』

 

『ふふ、そのうちお見せできるように努力いたしますわ……おや、あれは簪さん?』

 

 

模擬戦後の反省会を空中で開いているとセシリアがAピット内を指さす。

ハイパーセンサーで確認してみるとそこには【打鉄弐式】をピット内で簡易整備している簪の姿があった。

 

彼女はISスーツ姿であり、そばには本音の姿も確認できた。

 

 

『各部スラスターの調整と稼働試験だな』

 

『彼女のISの完成度は現在どのような段階なんですの?』

 

『90%、あとは細かい調整と武装を組み込む段階だな、まあ、武装はしばらくはインパルスと共有のモノを使ってもらう筈だけどな』

 

『開発企業が同じだとそういう利点もありますね……それと1点、お聞きしても?』

 

 

そういってセシリアは先程までオープンチャンネルで会話していたのに

わざわざプライベートチャンネルに切り替えた。

 

 

『何だよ?』

 

『真さんは簪さんの事をどう想っていらっしゃるのかな……と』

 

 

ニヤニヤとセシリアが笑いつつ真に質問を投げかけた

貴族といっても女の子、【そういう話】には興味があるのだ。

 

しかも学園内では中々に噂になっているのだ。

真と簪は実は付き合っているのはないのか――と。

 

 

『……どうなんだろうな、俺は』

 

 

少し寂しいような表情を浮かべて真は自嘲気味に微笑む。

 

 

『どう……とは?』

 

『いや、彼女が好意を示してくれてるのはわかってるつもりなんだ』

 

『気づいていたのですね。ふふ、一夏さんとは違いますね』

 

『流石にな』

 

 

結構ひどいことをお互いに考えていたのか互いに苦笑しつつ、真は想い返す。

 

 

1つ目は救えなかったステラへの想い

――境遇を亡き妹と重ねた。そして彼女を悲劇から救えなかった。

 

2つ目は自ら拒絶したルナマリアへの想い

――彼女の妹を殺した、殺させてしまった【傷】から発展したが彼女の事は大切だった。だが自分は戦い続けるために彼女を遠ざけた。

 

 

『……簪にはISとかの知識については凄く世話になってるし、趣味も話も合うし、一緒にいると楽しいと思うんだ。彼女の笑顔を見れたときに本当に嬉しいと思えたんだ。これが【好き】って事なのか?』

 

 

思い出した2つとは違う3つ目。

C.E.より平和な【この世界】で生まれた簪への想い。

 

特別な事情や状況もなく自分から誰かを【好き】になるなんてしたことがなかったから、うまく受け取ることができていないのが現状だ。

 

 

『そうだと思います』

 

『……俺は誰かを好きになっていいのか』

 

 

ルナマリアの想いを拒絶してしまった自分が簪の想いを受け入れてもいいのか。

それにこの世界には【ラクス・クライン】がいる。

 

奴がいるのに誰かを愛してもいいのだろうか

 

――戦うためには簪も拒絶しないといけないのではないのか?

――だがそれでもと考えている自分もいるのだ。

 

戦士として進み続けていた彼は、自ら惹かれてしまったことで判断がつかなくなっていたのだ。

 

 

『……真さんの過去に何があったかは存じません。ですが人を愛することに理由はいらないと思います。私のお母様は貴族であろうが、どのような事情があろうがお父様を愛した。それはお互いを想い合ったからだと思うのです。愛の前に理由なんて些細な事だと、私は思っています』

 

 

悩む真に向かって、強い口調でセシリアが告げる。

 

 

『……もう一度、よく考えてみるよ。ありがとう、セシリア』

 

 

隣で浮遊している彼女の瞳をまっすぐ見て頷く。

 

 

『それがよろしいでしょう。友人として、その答えが良いモノであることを祈りますわ』

 

 

微笑みつつ、セシリアはそう返した。

 

―――――――――――――――――――

Bピット内

 

 

「凄いんだね、真って」

 

 

ISスーツ姿のシャルルが先程まで行われていた模擬戦の内容を思い出し呟いた。

隣には同じくISスーツ姿の一夏と鈴がドリンクを飲みつつ、模擬戦を眺めていたのだ。

 

真とセシリアの模擬戦の前に、一夏と鈴の模擬戦も行われていたのだ。

 

結果は3戦して1勝2敗――初戦は鈴相手に【二重加速】による零落白夜を当てて一夏は1勝していたのだ。

その後の2戦は戦法を切り替えた鈴の衝撃砲によって加速を遮られ、自力の差によって負けてしまったが。

 

 

「アンタやあいつ、まだISに触って数ヵ月でしょ? それで代表候補生に勝てるとかどんだけよ、ったく」

 

 

鈴がジト目で一夏に視線を送ると彼はそれに気づかず、険しい顔で真を見ていた。

 

 

「姿勢制御や機体制御はやっぱり真が上か……でも加速してからの攻撃なら俺の方が……」

 

「一夏?」

 

「ん、あっ、どうした?」

 

 

先程の険しい顔から一変していつもの一夏に戻る。

 

 

「どうしたの?」

 

「いっ、いや、何でもないんだ、やっぱ2人はすげーなってさ」

 

 

シャルルの質問に慌てた様に取り繕う。

 

 

「……アンタならわかるでしょ、シャルル?」

 

「え?」

 

 

ぽかんと鈴に聞き返すシャルルに鈴は苦笑を浮かべた。

 

 

「女には分からない……【男の意地】ってやつよ、たぶん」

 

 

鈴は一夏の表情を見つめて悪くないわね、と呟いた。

 

―――――――――――――――――――

 

模擬戦終了後 アリーナ内 整備室

 

模擬戦が終了した後、日出工業の人間――【瀬田利香】が真に件の品を届けに訪問してきたのだ。

現在メンテナンスベッドに鎮座している【インパルスガンダム】に【デスティニーシルエット】のデータと実物をインストールしている。

 

 

「後30分くらいかな、ごめんね、疲れてるだろうに」

 

「いえ、別に大丈夫です」

 

「私も大丈夫です」

 

 

制服に着替えた真と簪が利香に返答する。

その答えを聞いて再びごめんねと利香は頭を下げた。

 

 

「それと簪ちゃん、弐式の方はどう?」

 

「後は私に合わせて調整して……完成です」

 

「よかった~、調整の方は真君や本音ちゃんとやる予定なの?」

 

「はい」

 

「調整が終わった後でいいから、調整後の機体データを送ってくれるかな。以前選んでくれた【武装】にフィードバック予定だから」

 

「分かりました」

 

「そう言えば聞いてなかったけど、どんな武装を選んだのさ?」

 

 

真が以前確認した資料の中にはキワモノというか独創的な武装が多く見られた。

装甲を分離させての合体剣や合体砲、非固定浮遊部位をシールドとして、そこにクレイモアを仕込んだ【シールドクレイモア】etc……

簪がそこからどんなものを選んだかが気になったのだ。

 

 

「……秘密、でも近いうちに教えるよ」

 

 

少し顔を赤くして簪が微笑む。

それに照れたようにあぁ、と返す真であった。

 

 

「……なら、弐式の正式名称も考えないとね。【打鉄弐式】って【ペットネーム】みたいなものでしょ?」

 

 

青春青春と聞こえない程度の声量で呟きつつ、簪に尋ねる。

 

ペットネーム、それは戦闘機などに与えられる愛称のことだ。

【打鉄弐式】という名前は打鉄の後継機であるため便宜上与えられた名前なのだ。

 

 

「あっ、それは私の方で考えても大丈夫ですか?」

 

「もちろん、簪ちゃん以外が決めたら意味ないからね。どんなのを考えてるの?」

 

 

その利香の質問に赤い顔のまま簪は真をチラッと見る。

当の真はインパルスにインストールされていくデータの羅列を眺めている。

 

 

「候補はいくつかあるんですが……もう少し考えたくて」

 

「……うん、こういうのは大事だからね、ちゃんと考えなくちゃ。決めたら連絡してね!」

 

 

利香がグッとサムズアップを取った。

 

 

その後、デスティニーシルエットは無事インストールされたが、アリーナの使用時間が残り少なくなっていたためテストは翌日に持ち越されることとなった。

 

 

―――――――――――――――――――

夜 自室

 

 

利香と別れた2人は夕食をとり、自室で休息をとっていた。

真はベッドに転がって小説をよみ、簪はクッションに座りつつTVゲームをプレイしている。

機体各所の様々なパーツを組み替え、自分好みの機体を作れる事で大ヒットを飛ばしたロボットゲームの続編だ。

 

結構な音量でプレイしているが、真はすでに慣れていた。

 

 

「これくらいの音量でいい?」

 

「大丈夫、それくらいなら慣れたからさ」

 

 

ゲームを一時中断して簪がジュースを冷蔵庫から取り出す。

それに小説から目を離さずに答える。

 

自分も飲み物でも飲もうかと考えていた時だった。

 

 

ドンドンッと部屋の扉が叩かれたのだ。

 

 

「本音?」

 

 

簪がゲームを再び一時中断して疑問の声を上げる。

だが本音はこんなに強く扉を叩いたりはしない。

 

 

「俺が出るよ」

 

 

小説をベッドの上において、扉に向かう。

そして扉を開けると――

 

 

「真っ!よかった、居てくれたかっ!」

 

 

なにやら焦ったような一夏の姿。

すでに訓練は終わっており私服に着替えていた。

 

 

「なにか……」

 

「あー、えっと……頼む、ちょっと部屋まで来てくれ!」

 

「えっ、あっ、おいっ!?」

 

 

何か用かという台詞も終わらないうちに、一夏に肩を掴まれて自室から引っ張り出された。

その様子を眺めていた簪は首を傾げていた。

 

 

「何なんだよ、一夏、どうしたんだ?」

 

 

手を払って先を歩く一夏に疑問を飛ばす。

だがその疑問の答えは半ば自分の中にあった。

 

 

(まさか……彼女のことか?)

 

 

内心違ってくれと懇願したが現実は残酷であった。

 

 

「シャルルの事で相談したいことがあってさ……頼むよ」

 

 

(……やっぱりか)

 

 

いつかばれるだろうとは考えていたがまさかこんなに早くとは思わなかった。

 

シャルル――彼女がこの学園に来てからまだ2日なのだ。

 

 

「凄く重要な話なんだ、お前にしか頼めないんだ」

 

(……俺より先に千冬さんだろ)

 

 

こういうときに大人に頼らずにどうするんだ、と一夏に告げようとしたが半ば強制的に一夏とシャルルの部屋に連れ込まれた真であった。

 


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