【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
真が一夏に部屋に連れ込まれて最初に目撃したのは、ジャージ姿のシャルルだ。
だがその胸部には【女性の証】の2つの果実が自己主張するかのようにジャージの布を盛り上げている。
「シャルルは……女の子だったんだよ」
「はは……ごめんね、真。僕は君達を騙してたんだ」
その事を知っていた真はそこまで驚いてはいなかったが、
無言でいたのが驚いていると2人に思われたようだ。
そしてシャルルの口から何故性別を偽ってIS学園に入学してきたのかが語られた。
シャルルはデュノア社社長の愛人の子供であること。
彼女の母親が亡くなった後、デュノア社長に引き取られ、IS適正が高かったこともあり、デュノア社のISテストパイロットとして扱われていたこと。
テストパイロットといってもほとんどモルモットに近かったこと。
第3世代型ISの開発に遅れを取り、経営が傾き始めたデュノア社を立て直すために男性搭乗者である一夏のデータと、真のより詳細なデータを手に入れる事が決定されたこと。
フランス政府も秘密裏に彼女のデータを書き換えていたこと。
そしてその目的のために男装を強要されてIS学園に入学したこと。
(……敵は【企業】と【国家】か。厄介だな、ホント)
シャルルの事情を聞いた真は素直にそう思った。
正直自分の手には余る――何とか救いたいとも思うのだが、生半可な手段では相手にできない。
首にかけていた【ドッグタグ】を握りしめ、手を離した。
「なあ、真、力を貸してくれ。俺はどうしてもシャルルを守りたいんだ!」
「……」
真の表情は暗い。
その顔を見てシャルルは顔を俯かせる。
「真、何で黙ってんだよ!」
シャルルの様子を見て一夏が真に叫んだ。
その様子に真はため息を混ぜて返す。
「……無理だ、一夏。【普通】にやったらどうにもならないぞ」
その言葉に一夏は真の胸倉を掴む。
一夏の表情は怒りに満ちている。
「何でだよ! 何でそんなこと……何かできることがあるはずだろっ!」
「ならどんな手段があるんだよ、言ってみろよ」
胸倉を掴みあげていた一夏の手を振り払う。
一夏は真を睨みつけ、次にシャルルに目線をあわせて何かを思いついたように表情を変えた。
「そっ、そうだ、IS学園にはどんな国の干渉も受けないっていう規約があるじゃないか! それならシャルルを守れるじゃないか!」
名案を思いついたように真に視線を戻す。
背後のシャルルの表情が明るくなっていく。
一夏はその案を真に判断してもらいたいかのように視線を戻す。
確かにその案はいいかもしれない。
だがそれでは彼女を縛る【鎖】を断ち切ることはできないのだ。
「……確かに【普通の学生】ならその案で充分かもな」
「えっ?」
どういうことだ?と一夏は首をかしげた。
シャルルも表情を再び暗くさせていく。
「彼女の事情が複雑すぎるんだよ。考えてもみろよ、彼女はまず書類を【偽装】して学園に入学してるんだ……その時点で【犯罪】だ」
【犯罪】
その言葉が真の口から出た瞬間、一夏の顔が驚愕で歪んだ。
おそらく考えてもいなかったのだろうなと真は内心苦笑していた。
「その規約だけど正規に入学した人間なら確かに守られるだろうな。俺やお前みたいに【特例】でもちゃんと正規に入学手続きをしてるからさ。だけど彼女は犯罪を犯してこの学園に入学した……その彼女に規約は適用されないだろうな」
「……ならどうしろってんだよ!」
やるせない怒りを振りまくかのように一夏が吼える
寮の部屋が完全防音でなければ外まで響いていただろう。
「……俺達の手には余るんだよ、彼女の件は」
「見捨てるってのかっ、見損なったぞっ!?」
「なら考え無しに動いて彼女の立場を悪くするってのかっ!? もっと冷静に考えろよっ!」
感情的になった一夏に釣られてしまい、つい真も叫んでしまった。
かつて守れなかった【ステラ】の姿が背後のシャルルと重なったのだ。
ステラは強化人間という境遇、シャルルと同じく自由を大きく縛られた存在だ。
真にとっても助けたいと心から思う存在だ。
故に考えなしに動いてしまった【かつての自分】と同じ行動を取ろうとしている一夏に怒りがわいたのだ。
「……悪い、叫んじまって。お前が優しいのは分かる、シャルルの事を助けたいと思う気持ちも分かる。なら何でもっと立場のある人に頼らないんだよ?」
「……立場のある人?」
怒りがまだ収まらないのか、一夏は真を睨んでいる。
「……千冬さんがいるだろ。あの人は初代ブリュンヒルデ。ISが普及したこの世界なら多大な影響力を持つ人だしこの学園の先生だ。まずは先生に頼るべきだったんじゃないのか?」
「……俺は千冬姉の付属品じゃないんだぜ? そんなこと……」
一夏は千冬の事を身内として大事にしているが、彼女の立場を利用することには拒否感を持っている。
だが、この状況を変えるにはそれくらいの覚悟がいるのだ。
「確かに身内に頼るのは気が進まないかもしれないけど、彼女を【救いたい】のならそれくらいやる覚悟を持てって事だよ、一夏」
「……」
一夏の表情が曇る。
それだけその行為に拒否感があるのだ。
「それにシャルル、君に聞いておきたい」
「……何?」
正体がばれただけでも大問題な彼女は、自分をかばってくれている一夏の案でも状況が好転しないため表情を暗くしている。
「君は【自由】になりたいか?」
「【自由】……そっ、そんなの当たり前じゃないかっ!」
彼女のアメジスト色の瞳から涙が溢れる。
「自由になりたいっ! もうモルモットなんて嫌だっ! 僕は女なんだっ! もう一夏や皆を騙したくないっ! 皆みたいに普通にお洒落して普通の女の子として生きたいに決まってるじゃないかっ! だれか……助けてよぉ……!」
堰を切った感情は止まらず涙も溢れ続ける。
その様子を一夏は悲痛な表情で見ていたが、真は口元に笑みを浮かべて呟いた。
「……だ、そうですよ、【楯無】さん?」
「呼ばれて飛び出てジャジャジャーン! 銀河美少女生徒会長、颯爽登場っ!」
生徒会長――
【更識楯無】が扉を吹っ飛ばす勢いで部屋に乱入してきた。
何故楯無がいるのか。
それは【待機状態】のインパルスを使って楯無にコアネットワークを介した通信を送っていたのだ――正確には【簪】を通してだが。
楯無の方にしても事情を知った一夏が頼るとしたらまずは真だろうと予測を立てていたので行動しやすかったのだ。
「えっ、生徒会長っ!?」
「ちょっ、マジかよ、一番知られちゃまずい人に!?」
「あー、大丈夫よ、とっくに知ってたから。私も真君も、それに織斑先生にも話は通ってるわ」
扇子で口元を隠しつつホホホと笑う楯無に何故喋ったという意趣をこめてジト目を送る。
「ええっ!?」
「知ってたのかよ、真っ!?」
彼女が暴露した事情にさらに一夏とシャルルは驚く。
「……そりゃあれだけバレバレな男装してればな、事情は知らなかったけどさ」
「さて、本題に入りましょ? シャルルちゃん、自由になりたいのよね?」
ふざけた態度から一変して真面目な顔になった楯無の顔に一夏とシャルルはたじろぐ。
「僕は……自由になりたいです!」
だがシャルルはまっすぐ楯無の顔を見て告げた。
その言葉に楯無は笑顔を浮かべた。
「なら任せなさいな! 生徒の悩みを解決するのが生徒会長よ!」
その豊かな胸を揺らしつつ胸を張る。
だがそれに納得がいかない表情を浮かべるものがいた。
「でも、たかが生徒会ですよね……? 彼女の問題解決できるんですか?」
一夏だ。
彼の疑問ももっともだが、楯無はそれにサムズアップで答える。
「まっかせんしゃい! 【うち】はちょーと特殊だからね、フランス政府をチョンチョンと突けばいいのよ、【裏】からね」
黒い笑顔で楯無は笑う。
(対暗部用暗部【更識家】……やっぱり楯無さんの事で間違いないか)
利香によってISの座学を叩き込まれた際に男性搭乗者の自分を【裏】から狙う【暗部】の存在を教えてもらっていたのだ。
楯無が持つ力はこの状況を打破するには最適なもの。
故に真は彼女に頼ったのだ。
(簪もそうなのかな?まあ、彼女達がいい人であり味方であることには変わりないし、気にすることじゃないか)
ふと自分に好意を寄せてくれている女の子の顔が浮かび内心苦笑していた真であった。
「まあ、つまりは取引よ、【二重スパイ】って言えばいいのかしら?」
「二重……スパイ?」
聴きなれない言葉に、一夏とシャルルが聞き返す。
「そう。シャルルちゃんはこっち側についてもらって、フランス政府とデュノア社の犯罪行為の【証拠】を得る。そしてその証拠を使って奴らを揺らしてやればいいのよ」
「なっ、なるほど……」
「まあ、シャルルちゃんにはもうちょっと我慢してもらうことになるかもだけどね、後悲劇のヒロインって事になるから、そこらへんは容赦してね?」
「……はい、それで自由になれるのなら僕はやります!」
強い言葉でシャルルは返した。
その後、楯無によって話がまとめられ、シャルルはIS学園側のスパイとして【定期報告】に見せかけてデュノア社とフランス政府を揺らすための証拠を得ることとなった。
得られた証拠と楯無が――更識家が持つ証拠と合わせて、敵を揺らすのだ。
「さて、話が纏まったところでそろそろ消灯時間よ? 真君、部屋に戻りましょう?」
「あ、はい」
必要との事を楯無は伝え終え、真は部屋を出ていくために扉に手をかける。
「待って、真!」
「何だよ?」
真が振り返るとシャルルは頭を下げて涙でぬれた顔で微笑む。
「ありがとう、色々と……」
「……俺は何もしてないだろ。話を通したのは楯無さんだし、助けようとしたのは一夏だ」
「それでも……色々と考えてくれたから……後……」
隣にいた一夏にも目線を合わせてから告げる。
「僕の本当の名前は【シャルロット】、シャルロット・デュノアが僕の本当の名前なんだ」
本当の名前を告げた彼女の表情は――笑顔だった。
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「……頼っておいてなんですがホントに暗部の人だったとは思いませんでしたよ」
「……あら、知ってたの?」
「日出の人に教えてもらってました。まぁ、だいぶ濁して教えてもらいましたけど」
一夏とシャルロットと別れ、廊下を歩きつつ真は楯無に告げた。
一瞬目を細めた楯無だったが、すぐに警戒を解いた
彼は敵ではないし、それだけの信頼はすでに彼に対してしているつもりだ。
「……女は秘密があったほうがモテるのよ?」
「……まあ、楯無さんは美人だと思いますよ、それにあなたみたいな人好きですし」
「へっ!?」
楯無がぽかんとした表情になって立ち止まる――つい彼女を追い越してしまった真が振り向くと彼女は顔を真っ赤にしていた。
「しっ、真君は何を言ってるのかしらね、おほほほ……!?」
手に持った扇子でパタパタと顔を扇いでいるがパニックになっているのが一目瞭然だ。
真は先ほど何気なく言った言葉を思い出してやっちまったと天井を仰いだ。
「……好きって言うのは人としてって事ですよ?」
「わっ、分かってるわよ、それくらい! お姉さんなんだからっ!」
(あー、この人打たれ弱いんだな……気をつけよう)
そう心に決めた真であった。
――――――――――――――――――
深夜――
すでにシャルロットは泣きつかれたのか早々に眠ってしまっていた。
対して一夏はベッドの中で先ほどの事を思い出していた。
(……守るって……何なんだろう)
自分はただ彼女の事を守りたかった――だがそれは真に否定された。
(俺は……真に勝てないのかな……)
自分が直情タイプなのは理解している、中学では色々と真や弾に助けてもらった。
【白式】という力を得た今なら守れると思っていた、全てを。
だがそんな自信は今回の件や無人機の襲撃事件で砕け散った
シャルロットを救ったのは実質真なのだ。
(……くそ……)
真は自分にとって昔からの友人で親友だ、だから並びたい。
なのに自分の行動は彼に追いつかない。
思考がどんどんマイナスに落ちていく。
意識が落ちるまで、一夏は本当の守るとは何かについて考え続けていた。
次回予告
「蒼穹の翼」
冷水を弾き蒼穹へ羽ばたけ、インパルス!