【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
翌日 放課後 第3アリーナ
「……今、なんとおっしゃいましたか? ボーデヴィッヒさん?」
『何だ、聞こえていなかったのか? ではもう一度聞け。 織斑一夏や飛鳥真など所詮は力の意味を知らん無能だと言ったのだ』
何故この2人が対面しているかと言うと、アリーナでセシリアがISの訓練を行っているとIS【シュヴァルツェア・レーゲン】を身に纏ったラウラが乱入してきたのだ。
ラウラは一言二言挑発を放ったが、セシリアはそれを無視した。
だがその次にラウラが発した言葉は彼女にとって聞き捨てならないものだった――
挑発の言葉がセシリアの心に染み込んで行く。
まるで【水滴】の様に。
そしてその水滴は彼女の心の水面に落ち、大きな【波紋】を起こす。
そして溢れるのは――
『……私の友人を侮辱いたしましたわね?』
【怒り】
静かな怒りが彼女の瞳に溢れている。
呼応するかのようにIS【ブルー・ティアーズ】が展開され、身に纏う。
いつもは優雅にゆれている彼女の髪の毛が不思議と逆立っているようにも見えた。
『フン、イギリスの候補生ともあろう人間が態々聞きなおさなければ理解できなかったのか?』
それさえも笑うかのようにラウラが答える。
『いい加減に口をお閉じになったほうがよろしいですわよ? 覚悟はよろしいですか?』
そう答えるや否や【スターライトMK-Ⅲ】を展開し、トリガーを引く。
レーザーが放たれる直前にラウラはスラスターを起動して回避に移っていた。
セシリアのライフルの銃口の向きから射線を読みきっていたのだ。
『ふん、その程度か?』
『そうやって上からモノを見れるのも今のうちですわ、ティアーズ!』
ティアーズが【4機】、本体であるセシリアから離脱し浮遊砲台となってラウラに迫る。
その行動に対して余裕の笑みを浮かべていたラウラの表情が初めて変わり、驚愕の表情となった。
『馬鹿な、貴様は同時制御など行えないはずっ!?』
『人間は成長するのです! 淑女としては最低の行いですが、私怨で貴方を叩き潰させてもらいますっ!』
セシリア自身も今の自分の状態に内心驚愕していた。
同時制御はまだ2機が精一杯であったはずなのに、今は4機全てを自分の思いのとおりに動かせる。
しかもその操作を行いつつ自分は相手を精密に狙撃することもできる。
5条のレーザーがそれぞれ別角度からラウラに迫る。
『くうぅっ!?』
瞬時加速で何とかレーザーの包囲網から離れるが、ティアーズはなおもラウラに砲口を向けている。
『舐めるなぁっ!』
ラウラは怒りと叫びと共に左目の眼帯を引きちぎる。
その下には【金色の瞳】が存在していた。
その瞳の名は【ヴォーダン・オージェ】
擬似的なハイパーセンサーであり、情報処理能力を飛躍的に高める代物だ。
彼女のそれは【ある理由】から制御不能となっているものだ、彼女の処理能力を超える情報を脳に叩き込んでくるため普段は眼帯で抑えている。
だが短時間ならば利用することが可能だ。
思考が加速し、迫ってくる全てのティアーズの位置が手に取るように分かる。
同時にセシリアが何をしようとしているのか、行動の1つ1つがスローモーションに見えている。
『止まれぇっ!』
ラウラが吼える。
するとまるで空中に固定されるかのように迫っていたティアーズ4機が【停止】した。
【
これがティアーズが空中で停止した理由であり、ラウラの第3世代IS【シュヴァルツェア・レーゲン】に搭載された武装。
この武装の機能は対象を任意で【停止】させること。
本来ならば複数相手では相性が悪いが今は【ヴォーダン・オージェ】によってブーストされている、故にティアーズ全てを停止させることができたのだ。
『なっ!?』
『遅いぞ、雌豚ぁっ!』
咄嗟にラウラに向けライフルの銃口を向けるセシリアだったが、今のラウラを捉えるには遅すぎる。
瞬時加速により距離をつめ、腕部プラズマブレードを起動し叩き付ける。
ミサイルビットの起動も間に合わないほどの速度であった。
『くうっ!?』
瞬時加速によって加速された状態での攻撃によりセシリアは弾き飛ばされるが、一瞬で空中に静止させられた。
レーゲンから射出されたワイヤーブレードが身体を完全に拘束していたのだ。
『手こずらせてくれたな……イギリスの雌豚ごときが!』
『うぐっ……!?』
金の瞳を宿す左目を閉じて、レーゲンの左手でセシリアの首を掴み締め上げる。
ISの機能の1つであるスキンバリアも抵抗を続けるがレーゲンの力の前には無力に等しかった。
「かっ、はっ……!」
『見せしめだ、そのまま無様な顔を見せ続けろ、そうすれば織斑一夏をおびき出す餌にもなるだろう』
シールドエネルギーが見る見る間に減っていきついにはブルーティアーズも機能を停止する。
スキンバリアが抵抗を続けているがセシリアの意識が薄れていく。
『多少は手こずったがこの程度か……2号機が奪われるなど大失態を犯す国だ、候補生もこの程度だというのも頷けるな』
ラウラが冷笑を浮かべる。
薄れ行く意識の中でそれを見てしまったセシリアは涙を零す。
悔しい。
大事な友人への侮辱の言葉を撤回することもできなかった自分への憤り、情けなさが溢れる。
その時であった。
『っ!?』
ラウラの表情が驚愕に変わり、背後を振り返る。
『はあああああああっ!』
【翼を持った青い機体】
薄れた視界の中では誰か判別できなかった。
その機体が手に持った2本の【大型実体剣】でラウラに切りかかったのだ。
ラウラの反応が遅れるほどの【速度】であった。
咄嗟にセシリアを掴んでいた手を離してラウラは離れた。
瞬間、自身を拘束していたレーゲンのワイヤーが切断され、身体が自由になる。
だがブルー・ティアーズは機能を停止しているため、自然と落下していくことになる。
しかしすぐに何かに身体を包まれた。
薄れた視界で一瞬だけピントが合った。
黒髪に紅い瞳を持った【少年】
「し……ん……さ……」
『大丈夫かっ、セシリアっ!?』
【背中に持つ翼】から青い光が溢れている
――セシリアは見たこともない装備だが間違いなく【インパルス】、そして【飛鳥真】であった。
『簪、セシリアを頼む!』
『うんっ!』
アリーナに張られていたシールドバリアの一部を突破して真がセシリアの下に駆けつけたのだ。
そしてシールドバリアにあいている穴の外側にいる簪も【打鉄弐式】を装備している。
真はセシリアの身体を揺らさないように簪に預けて振り返り、背の【デスティニーシルエット】の【
今のインパルスは【デスティニーシルエット】に換装しており、その背部には翼型の大型スラスターを兼ねている【VLユニット】を背部に非固定浮遊部位として展開している。
各部表面装甲はかつての恩人である【コートニー・ヒエロニムス】が搭乗していたMSデスティニーインパルス3号機を模しており、白と青で彩られている。
(き……れい……)
意識が完全に闇に落ちる前にセシリアが見たのはとても美しく広がる【青い光の翼】であった。
―――――――――――
『飛鳥……真っ!』
体勢を立て直したラウラが真を射殺すように睨み付ける。
だがそれは真も同じだ――紅き瞳に怒りを宿し、ラウラを睨み返す。
真は簪と共にデスティニーシルエットのテストのために第3アリーナに向かっていたのだ。
アリーナでセシリアがラウラに攻撃されていると、アリーナから出てきた生徒に聞きISを展開して駆けつけたのだ。
今は張りなおされているがシールドバリアはデスティニーシルエットの出力全開の状態ならば一部破損させて侵入することができた。
『セシリアの機体は機能停止していた、何であそこまで痛めつけたっ!?』
『フン、奴には織斑一夏をおびき出す餌になってもらいたかったが……まさか貴様が先に来るとはなっ!』
右肩部のレールガンユニットから弾丸を発射する。
だが今のインパルスにはその射撃は遅すぎる。
光り輝く青い光の粒子を撒き散らしてインパルスは回避する。
すかさず右手に持つビームライフルによって反撃を行う。
だがラウラもその射撃を回避していく。
真のライフルの射線を読んでいるのだ。
『アンタ軍人だろ、何で他人をあそこまで傷つけることができるんだよっ!』
『知ったことかっ、私の目的の邪魔をするのなら貴様も潰すっ!』
瞬時加速。
腕部プラズマブレードをインパルスに叩き付けるために振り上げる。
だが青の残光を残してラウラの視界からインパルスが消えた。
正確にはレーゲンのハイパーセンサーがインパルスの位置を把握しているがすでに【背後】を取られていた。
ハイパーセンサーで感知できても人の身体が追いつかないのだ。
『なっ、速いっ!?』
『そこだあっ!』
『ぐうっ!?』
実体剣【エクスカリバー】をレーゲンの背中に叩き付ける。
装甲の一部が破壊され落下していく。
連撃でエクスカリバーを振り上げるが、2撃目はスラスターを噴かれ回避された。
『何だそのスピードはっ!?』
ラウラの顔が再度驚愕に歪む。
『……あんたは敵だって事がわかったよ、今ある【花】を散らす……俺の敵だっ!』
真は冷たい目で彼女に言い放つ。
『いくぞ、デスティニーインパルス!』
【光の翼】が開かれ、青い光がアリーナに広がる。
『ふん、だが多少速い程度ではこの私を倒せると……!』
閉じていた左目を開き、【ヴォーダン・オージェ】によって情報処理能力を高めて真の動きを捉えればいい――ラウラがそこまで思考した瞬間、【女の声】が耳に届いた。
『あらあら、シンの相手をしてくださるのですね? ならばお力をお渡ししますわ』
その声と同時にコンソールに文字が走った。
Valkyrie Trace System Starting――
『―――ああああああああああああああああっ!!!』
ラウラの絶叫が木霊した。
―――――――――――――
「なっ、何がどうなってんだ、真とラウラが……!?」
「何で彼女と真が……!?」
セシリアが第3アリーナでラウラと戦っていると聞いた一夏とシャルロットは真に少々遅れてアリーナに到着していた。
セシリアを抱えてアリーナの出入り口に向かってきた簪と目が合う。
「簪さん、セシリアはっ!?」
『大丈夫、オルコットさんなら気を失っただけだから、保健室へっ!』
そう告げて簪は、セシリアを保健室へ連れて行くためにアリーナから飛び出していく。
再び目線を2人に戻すと状況が変わっていた。
突然、ラウラが絶叫したのだ。
「【泥】……!?」
ラウラの機体から【黒い泥】の様なものが溢れていたのだ。
次回予告
「ignited」
傷つけて揺れるしかできない少女を救い出せ!
白式!インパルス!