【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
VTシステム暴走事件が発生した週末。
IS学園では先日の事件を訓練中の事故として隠蔽し、一部の生徒のみしか情報を開示していない。
また週明けまで全アリーナの使用は禁止されることとなった。
この決定は熱心に訓練に励んでいる生徒達からは不満が溢れたが決定を決めたのが千冬であると情報が伝わってからは不満が溢れることはなかった。
そして訓練が無くなると同時に暇を持て余らせた生徒達は、外出許可を取り
IS学園近辺のショッピングモール レゾナンスでの買い物などで休日を満喫している。
そしてここにも暇を持て余らせた生徒が1人。
「……はぁ、一夏め、何故外出を……いや、別にそれは構わないが私を誘ってくれても……!」
長い黒髪のポニーテールをワナワナと振るわせつつ、箒は1人ショッピングモールの人混みの中を歩いていた。
特に買いたいモノがあるわけではない、だが寮や剣道場で1人過ごすのも味気ないので
気分転換の為に彼女はこのショッピングモールで暇つぶしをしていたのだ。
ちなみに真や簪は所属企業に呼ばれており不在。
セシリアについては週明けまでは保健室で安静にするとの事であり、シャルルについても生徒会長と話があるとの事だ。
清香達も箒が出発する時点ですでに外出していた。
決して彼女に友人が少ないという訳ではないが、暇なのだ。
「鈴め……!まさか抜け駆けするとは……!」
想い人である一夏は現在、訓練ができなくなった為、せっかくだからと中学での仲間や後輩に会いに行く事となった。
それには中学を共に過ごした鈴も参加しており、昨夜鈴がニヤけていた事を彼女のルームメイトが報告している。
「しかし一夏の友人達に縁もない私が参加しても……ああ、だが鈴に一夏がぁ……!」
ガクッと肩を落とした悩める乙女はため息をついた、その時であった。
ふと少し強い風が吹き抜けた。
同時に目の前にふわりと白い帽子が風に舞って落ちてきた。
それを箒は反射的に受け止め、辺りを見回す。
すると黒髪に白いワンピースを着て手提げバッグを持った女性が箒に笑顔で手を振っている。
その女性は箒の元まで駆け寄り、一礼する。
同性なのにとても綺麗だと、箒はいつの間にか見惚れていた。
「申し訳ありません、それ私の帽子なのですが……」
「……どうぞ」
少しだけ頭を振ってから帽子を渡すと、彼女は笑顔で帽子をかぶりなおす。
「それでは」
「あっ、お待ちになってください、お礼をさせてはいただけませんか?」
黒髪の女性が笑顔で箒の手を取る。
本来ならば同性でも見ず知らずの女性にいきなり手を取られれば困惑するだろうが、不思議と嫌な感じはせず逆に落ち着いてくるようだ。
「……帽子を拾っただけですよ?」
少々大げさすぎないだろうか、と箒は女性に尋ねる。
「これは母の形見のモノでして……私にはそれだけの価値があるのです。ささ、あそこのカフェテラスなんかがよろしいですわね」
そう女性に連れられて近くのカフェテラスに向かう。
笑顔の女性を見ていると不思議と断る気がなくなっていくのであった。
―――――――――――――
数分後――
黒髪の女性と箒はカフェテラスの1席で向かい合うように座る形となっていた。
「自己紹介がまだでしたね、私はミーア・キャンベル。気軽にミーアと呼んでくださいな」
「……篠ノ之箒です」
席についてすぐに注文したコーヒーに口をつける。
ミーアも同じく頼んでいた紅茶に口をつけた。
なぜ帽子を拾っただけでこんなことになっているのだろうと箒は自問自答するが、どうにもミーアと名乗った彼女の雰囲気に飲まれて合席してしまったため、付き合うことに決めた。
「篠ノ之……もしかして束さんのご家族の方ですか?」
ミーアは箒の姉である、天災【篠ノ之束】の名前を口にした。
しかもとても親しそうな口調で。
「……あまり姉は好きではないですが……ミーアさんは姉をご存じなのですか?」
「ええ、数年前からとってもお世話になっておりますわ」
そう満面の笑みでミーアは答えた。
その返答に箒は心底驚いた。
何故ならば姉である束は、彼女に親しい特定の人物しか認識しないのだ。
両親ですらその範囲に含まれておらず、自身を含めた数名しか束は認識していない事を知っているからだ。
そんな姉に認識される彼女は一体何者なのか。
当然疑問に思った。
「ミーアさんは、姉とはどのような関係で……?」
「そうですわね、同じ夢を持った者同士とでもいいましょうか、お仕事上でもよくさせていただきましたし……。私的な面でも交流をさせていただいておりますわ。それと1点謝らなければならない点がございますわ」
「謝る事?」
「ええ、帽子を拾っていただいたというのは建前でして……本当は貴女に会いに来ましたの、箒さん」
そういってミーアは頭を下げた。
何故か彼女の姿を見たくないと箒は感じてしまった。
「頭を上げてください、ミーアさん。それで……私に会いに来た目的とは?」
「ありがとうございます。束さんからこれを、貴女にお渡ししてほしいと」
彼女が持っていた手提げバッグから、【赤色のブレスレット】を取り出してテーブルの上に置く。
置かれたブレスレットを見た途端、衝撃が走った。
テーブルに置かれたソレは普段よく見ているモノと同じだと判断したからだ。
「これはまさか……ISっ!?」
そう【待機形態】のISだ。
「はい、束さんが貴女専用に作成したIS、名前は【朱百合(あかゆり)】と言いますわ」
「私……専用の……!」
思わず箒の声に歓喜の感情が混じった。
一夏の周りには専用機を持つ人間が多い。
自分だけの機体、【力】を渇望していた箒に取ってはまさに天啓にも等しいのだ。
姉が開発してくれた専用機。
今自分が望んでいたのはまさにこの力なのだ。
少し震える手でテーブルの上に置かれたブレスレットに手を伸ばす。
その時であった。
『手を伸ばすな、篠ノ之箒っ!!』
突如叫び声が響き、それに驚いた箒は手を引っ込める。
男の声が頭上から響いた後、続いて銃声が連続で響いた。
箒の頭頂部から降り注いだ光の雨。
ビームの雨は全て目の前のミーアに降り注いでいた。
しかし声が響くと同時にミーアの背には【IS】が部分展開されていた。
部分展開されたのはまるで【翼】の様な非固定浮遊部位であり、翼からは【淡い紫の光】が溢れている。
降り注ぐビームの雨はミーアにとっては完全な不意を突かれたものだった。
しかし降り注ぐビームは全て背に展開している翼の光の中に吸収されていく。
『あら、カナードではありませんか』
『チッ、VLユニットか……!』
カフェテラスの上空10mに浮遊する【ドレッドノート】から搭乗者である【カナード・パルス】の口惜しそうな声が漏れる。
ツインアイセンサーは外しており、素顔が見える形となっている。
「おっ、お前はあの時の……!」
無人機襲撃事件の時、自分を救った男性搭乗者。
顔を見るのは初めてだが声や機体の特徴を覚えていたため判断できた。
『まさかすでにラクス・クラインと接触済みだったとは……ならばっ!』
「えっ、うわぁっ!?」
カナードが急加速により一気に箒に接近し、箒を抱え上げる。
荷物を抱えるかのように箒を抱えた後に一気に上昇を始める。
『ふふ、もっとゆっくりとなさっていけばよろしいのに……』
ISを展開しつつ、去っていくカナードを微笑みながら見つめているミーア――いや、ラクス・クラインはふう、とため息をついた。
彼女が身にまとっているISはまるで白いドレスの様に曲線が多いデザインであり、装甲は必要最低限しかついていないように見える。
だが背部の翼はインパルスのデスティニーシルエットの翼より一回り大きく、絶えず【淡い紫の粒子】を放出している。
まるで抜け落ち舞う羽の様に。
ラクスの顔から笑みが消える。
同時にプライベートチャネルを繋げる。
彼女がつなげた相手は――
『……アスラン、聞こえていますか?』
『ああ、ラクス、聞こえている』
かつて、歌姫の騎士団で無限の正義と名付けられたMSを駆っていた男――アスラン・ザラ。
『今から座標を転送致しますわ、カナードの追撃と箒さんの保護をお願い致しますわ』
『分かった、座標を頼む』
コンソールを少し操作して、アスランに座標情報を送る。
『……受け取った、任せてくれラクス』
『お願い致しますわ、アスラン。私達の目的のために』
『ああ、ISを無くして世界から争いを無くす……そのためになら喜んで力を貸すよ、ラクス』
『……ええ、お願い致しますわ』
そう言ってラクスはチャンネルを切って浮遊していく。
そしてだんだんと姿が消えていく。
『……本当につまらない駒、C.E.時代から少しも変わりないですわね』
そう呟いてラクスの姿は完全に消える。
【ミラージュコロイド】によって姿を消したのだ。
同時に、カナードの不意打ちによって破壊されたカフェテラスが一気に騒がしくなった。
まるでこれまでのやりとりを【意識】できていなかったかのように。
カナードが主役になる回は【ANOTHER PHASE】とさせていただきます。
次回予告
「あんなに一緒だったのに」
二人はずっと一緒だった。
けれどもう夕暮れは違う色に変わっていた。