【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
ラキーナに突きつけられたビームライフルを見て、アスランは表情を驚愕に変える。
『キラっ!? 何故俺に銃を向けるんだっ!?』
アスランの反応を見てラキーナも表情を変える。
それは苦渋に満ちた表情だ。
『……アスラン、君は僕やカナード……束さんの敵なんだよ、それを分かってるの?』
『敵っ!? 俺達は共に戦う仲間のはずだっ!』
『いや、君達は敵だ、今ある世界の【花】を散らそうとする。ただ1人の欲の為に無関係な人達を混乱に陥れようとしているのが分からないの?』
『俺やラクスは世界の為に戦っているんだ! ISを無くさなければ世界はいずれC.E.のように戦乱の世界に……だから俺達は何度でも花を植えるんだろうっ!?』
身体を駆け巡る感情をアスランは身振り手振りでラキーナに伝える。
分かってくれるはずだと。
だがラキーナは先程の苦渋に満ちた表情から一変し、アスランの様子を冷たい目で見ていた。
そしてビームライフルの照準を正確に合わせる。
インフィニットジャスティスがロックオン警告を発する。
『……警告はしたよ、アスラン』
『キラっ!?』
ビームが放たれる瞬間、インフィニットジャスティスはビームシールドを展開していた。
そのため、放たれたビームはシールドのビームと干渉し、拡散されてしまう。
だがラキーナのこの行動によるアスランへの心理的なダメージは相当なものだ。
彼にとっては無二の親友であり、自分と共に世界の為に戦っていた戦友。
それはこの世界でも同じだと思っていた。
なのにキラは自分を撃った。
何故なのか、アスランには理解できない。
そんな彼を冷たい目で見つつ、ラキーナはライフルの引き金を引き続ける。
そのたびに放たれるビームは、ビームシールドによって拡散されるが、ビームシールドの消費エネルギーによって確実に相手のシールドエネルギーを削り取っていく。
それに合わせてキラの攻撃からは迷いを一切感じない。
アスランを落とすという意思。
殺気が込められた攻撃であり、アスランは防戦一方の形となっている。
『やめろ、やめるんだっ、キラァッ!』
『聞く耳などもたんっ!』
ストライクの射撃に合わせて、カナードのドレッドノートも行動をとっていた。
箒を抱えているため、満足な戦闘機動は行えない。
ならば動かなければいい。
ドレッドノートの背部非固定浮遊部位【イータユニット】がまるで【砲台】の様に展開されていく。
IS【ドレッドノートH】に装備されているイータユニットは背部の1対のデバイスを前方に展開した砲撃戦形態【バスターモード】に切り替わったのだ。
1対の砲口から高出力のビームとグレネードが発射され、インフィニットジャスティスに降り注ぐ。
『ぐううっ!?』
インフィニットジャスティスは両手に装備されているビームシールドを展開し、ビームの嵐に耐える。
スラスターを噴かして吹き飛ばされまいと耐えているが、あまりの量に後退していく。
『コール、ソードストライカーッ!』
鈴の音の様に高いラキーナの声が響き、ストライクの背部に装備されている【エールストライカー】がパージされる。
同時に、背部には大型の実体剣を装備したストライカーが展開され接続される。
ストライカーが接続されると同時に、左腕部分にロケット推進式のアンカーが展開され、左肩装甲部にもインパルスの【フラッシュエッジ】に酷似した武装がマウントされている。
『はあああああっ!!!』
大型実体剣【シュベルトゲベール】を両手で振り上げ、スラスターを全開にしてアスランに斬りかかる。
モデルとなったMS用【シュベルトゲベール】と同じく取り回しが難しい武装であるが、刀身に発生した高出力ビームと大型実体剣故の質量が合わさり、近接格闘戦ではビームサーベルを超える威力を持っている。
アスランは展開したままのビームシールドで受け止めるが、ラキーナはそれを待っていた。
ビームシールドは確かに強力なシールドであるが、【耐ビームコーティングされた実体剣】ならば【すり抜ける】ことが可能である。
ちなみにこれはビームシールドの元となった【AL】にも同じことが言える。
【シュベルトゲベール】に展開されていた、刀身ビームが消える。
そして実体剣部分がシールドをすり抜けた。同時に再度ビームを展開、斬撃は速度を保ったままシールドバリアを貫き、インフィニットジャスティスの右腕部分装甲が破壊される。
その衝撃によってアスランとラキーナの距離が離れてしまった。
すかさずラキーナは左腕のロケットアンカー【パンツァーアイゼン】を飛ばすが、それは脚部のブレードで弾き飛ばす。
『なっ、何故だ、キラ、何故俺とお前が戦う必要があるんだっ!?』
ラキーナに叫びつつ、アスランは残りのエネルギーを確認する。
今の一撃で大幅にインフィニットジャスティスのシールドエネルギーが削られてしまった。
すでにエネルギーは6割程度まで落ちている。
このままラキーナとカナードの2人を相手取るには心もとない量である。
『ここで仕留める、援護するぞ、ラキっ!』
『……うん、わかったよ、兄さんっ!』
カナードが援護の為にビームをばら撒き、ラキーナが再び【シュベルトゲベール】を上段に構えて突っ込んでくる。
だが――
『くそっ、ここでやられるわけには……っ!』
突如、目の前にいたインフィニットジャスティスの左腕から球状の物体が放たれ、破裂すると同時に【強烈な光】が放たれた。
『くうっ!?』
『ぐっ!?』
ラキーナとカナードはとっさに閃光防御の姿勢を取ってしまった。
そして閃光と視界が回復した時にはすでに目の前にアスランの姿はなかった。
【ミラージュコロイド】によって姿を消したのだ。
『ちっ、姿を消したかっ!』
カナードはハイパーセンサーを【ミラージュコロイドデテクター】に切り替える。
反応を捉えたが既にデテクターの探知範囲ぎりぎりの距離であり、すぐに反応が消えてしまった。
『……逃げられたか』
『インフィニットジャスティスにあんな武装があるなんて……』
『MSと全てが同様という訳ではないと言う事か、やれやれ』
ミラージュコロイドデテクターからハイパーセンサーに切り替えたカナードがため息をつきつつ答える。
『奴はここで落とすか捕えるかして情報を得たかったが……仕方ない、帰投するぞ、ラキ』
『うん……って兄さん、箒さん大丈夫なのっ!?』
『あっ』
カナードには珍しく素っ頓狂な声を上げてしまった。
抱えている箒に視線を移すと――
「きゅう……」
と青い顔で気絶していた。
アスランとの戦闘中、そこまで激しい戦闘機動は取っていなかったが最後の閃光について箒はほとんど無防備のまま浴びてしまい気絶してしまっていたのだ。
『……すまん』
『……まあ、気絶してるだけみたいだから命に別状があるわけじゃないと思うけど、あとで箒さんに謝った方がいいと思うよ?』
『そうするか。束にも小言を言われそうだな』
『……それについてはご愁傷様で』
珍しい兄のミスに苦笑しつつ、ラキーナが答えた。
――――――――――――――――――――――
IS学園 保健室
「……うっ」
ベッドに寝かされていた箒が目を覚ます。
辺りを見回すとどうやらIS学園の保健室で寝かされていたようだ。
窓の外は暗く、すでに日が落ちている。
先程の戦闘からかなり時間が経っているのだろうと考えた。
すると――
「あっ、目が覚めましたか?」
黒髪をセミロングにした自分より年下に見える女の子がこちらを心配そうに見ていた。
ラキーナが箒の様子を見に来ていたのだ。
「お前は……たしかラキーナとか……」
先程気絶する前の戦闘で自分を抱えていたカナードとかいう男性搭乗者に彼女がそう言われていたことを思い出す。
「はい、ラキーナ・パルスと言います、兄のカナードがすいませんでした」
ラキーナはそう言って軽く頭を下げた。
「……それは別にいいが、さっきまでのあの戦いはなんだったのだ? それにあの赤い機体に乗っていたのも男だったが……」
「それについては……」
「それについては私から教えるよ、箒ちゃん」
保健室の戸を開け、ウサギ耳を模したカチューシャに胸元が開いたエプロンドレスを身に着けた女性。
箒の姉、篠ノ之束が現れたのだ。
「姉さん、何でここにっ……!?」
束の登場に箒の顔に驚愕が浮かぶ。
それにニコッと微笑んだ束が箒が寝ているベッドに歩み寄る。
「箒ちゃん、気分は大丈夫?」
「えっ、あ、……大丈夫……です」
「よかったよ~……あ、カナ君は絞めておいたから、安心してね」
束がニタァと笑い、その言葉に背後にいたラキーナが苦笑をしていた。
だがそんなことは箒にとってはどうでもよかった。
なぜならば明らかに姉の雰囲気が違う。
箒はまずそう思った。
傍若無人、唯我独尊。
その文字が服を着て歩いているような人物が自分の姉であったはず。
なのにまるで【普通の姉妹】の様に自分に語りかけてくる彼女に心底驚いたのだ。
「むぅ、驚きすぎだよ、箒ちゃん」
プクゥと頬を膨らませた束。
だがすぐに真面目な表情に変わった。
「……ま、仕方ないよね、私はそれだけの事をしてたんだもん。私が戦っている理由を話す前に、まずは謝らせてね」
一息ついて束は箒の目をまっすぐと見て続ける。
「……箒ちゃんやお父さんやお母さんにも迷惑かけて……ごめんね」
最後の方は少し涙声になっていた。
束が頭を深く下げる。
姉の謝罪に箒の心は大きく揺れていた。
気づけば束に向けていたマイナスの感情が薄らいでいくほどに。
「……姉さん、顔を上げてくれ……私は怒っていない」
「……本当?」
「……正直姉さんが変わったことに驚いてる。けど私や家族の事を見てくれている今の姉さんを私は責める気はない」
微笑む箒のその言葉を聞いた束は大粒の涙を流していた。
「箒ちゃん、ごめんなさい、ごめんねっ!」
「ちょっ、姉さんっ!?」
こらえきれなくなったのか、束は箒にしがみ付いて涙を流し始める。
驚いた箒だったが少し苦笑しつつ束の背を撫で始めた。
――――――――――――――――――――――
束の謝罪の様子を、空気を読んで保健室から出ていたラキーナが聞き耳を立てていた。
「……どうやらその様子では束からの説明はしばらく無理のようだな」
「兄さん」
ラキーナが振り返ると、すぐ側の壁にカナードがもたれ掛っていた。
頬には大きな湿布が張られている。
箒を気絶させてしまったので、頬に大きな紅葉が付いているのだ。
「……シン達は?」
「すでに織斑千冬と共に別室で待機してもらっている、これから向かうところだ」
「……うん、私もいくよ」
ラキーナの返事に少しだけ目を見開いたカナードがたずねる。
「……覚悟ができたんだな」
「……うん、やっとね」
「そうか、では行くぞ」
「うん」
カナードとラキーナは千冬と真が待機している生徒指導室に向かう。
カナードがふとラキーナの顔を見た。
彼女の顔にもう迷いの感情は見えなかった。
次回予告
「花の意味」
すれ違った花の意味。
――今の彼女にはどう写るのか。