【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

52 / 132
PHASE27 花の意味

生徒指導室

 

 束達が突然IS学園に来訪した事は教員にも話が通っているが、生徒達には極秘としている。

生徒が校舎に少ない休日であることが幸いし、無関係な生徒達には束達が来訪している事は知られていない。

箒が目覚める十分程前に真と千冬はカナードに頼まれ、室内で待機していた。

 

 

「……本当に毎回アイツは厄介事を私に運んでくるな」

 

 

 疲れたような表情で千冬が零す。

 

 彼女は日頃から多忙の身であり、休日のオフの時間を何よりも大事にしている。

それが潰されたのだ、愚痴も零したくなるのも仕方ないであろう。

もっとも親友の妹の一大事、彼女にとっては教え子の一大事であるのだからすぐさま状況を整えたのだが。

 

 その様子を真は苦笑して見ていた。

 

 

(……カナード達が来たって事は色々と状況が知れるって事か)

 

 

 真からしてみれば願ってもない機会である。

【花】を散らさないために戦うには、ラクス・クラインがやろうとしている事を知る必要があるのだ。

それに共に駆けた戦友との再会も少なからず嬉しいと感じている。

 

 

「待たせたな」

 

 

 生徒指導室の戸が開かれ、件の男、カナードが入ってくる。

そしてラキーナも同じく生徒指導室に入る。

 

 カナードとは面識がある真であるが、ラキーナに関しては面識がない。

彼と瓜二つな顔、嫌な予感を真は感じて内心身構えていた。

 

 

「彼女は?」

 

「ラキーナ、俺の妹だ」

 

「初めまして、織斑千冬さん、そして真、久しぶりだね」

 

 

 ラキーナのまるで真を知っているかの様な言葉を聞いた途端、ある存在が脳裏に浮かんだ。

声は女性のそれであったがはっきりと。

かつての慰霊碑で会った、花を何度でも植えなおすと自分に言った。

 

 【仇】の顔。

 

 瞬間、室内に【強烈な殺気】が溢れた。

真の隣にいた千冬が驚愕の表情に変わるのと同時に、懐からナイフを取り出し駆ける。

 

 狙いは現れた【仇敵】の首。

完全に虚をついた行動であったためか、ラキーナは動けなかった。

 

 真がナイフを突き出す。

だが、そのナイフはラキーナの首には届かなかった。

 

 彼が動き出すと同時に真とラキーナの間に割り込んだ者がいたからだ。

金属と金属が擦れあう甲高い音が室内に響いた。

 

 

「カナードっ!」

 

 

 そう、真とラキーナの間に割り込んだのは、真と同じくナイフを構えたカナードであった。

 

 

「真、待て。こいつは敵じゃない」

 

「っ……!」

 

 

 カナードのその言葉に彼との鍔迫り合いを止めて一歩下がる。

だが、ナイフはその手に構えたままだ。

 

 

「キラ・ヤマトなのか!? 答えろっ!!」

 

 

 真の咆哮が木霊し、ラキーナがビクッと震える。

真の隣の千冬さえ戦慄するほどの殺気。

 

 自分より年下の人間がこれほどの殺気を発している事に驚愕し、気づいた。

真の殺気に呑まれて動けずにいる自分を。

 

 

「……うん、そうだよ、真」

 

「何のために俺に会いに来たっ!? それになんでカナードと一緒にいるっ!?」

 

「……君に会いに来たのは……ずっと君に謝りたかったから。カナード、兄さんと一緒にいるのは、私がそう望んだから……」

 

「謝る……だと……っ!?」

 

 

 予想外の言葉に一瞬呆けたような表情を真は見せる。

 

 

「謝っても許されない事だって言うのは分かってるし、これが私の自己満足であることも分かってる。だけど君にはしっかりと聞いてほしいんだ……本当にごめん」

 

 

 ラキーナはそう言って深く頭を下げた。

その姿に真は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

 感情の整理がつかないのだ。

だが気づいたことがあった。

 

 

「……許すわけないだろ」

 

 

 ナイフを握る右手が震え、何とかラキーナに向かって言葉を放つ。

 

 

「……それにアンタが謝ってもC.E.であんた達に吹き飛ばされた【花】は戻ってこないんだぞ、それともまた植えなおすのか?」

 

 

 かつて彼女に言われた言葉を投げ返す。

皮肉を多分に込めているが、彼女の様子を見る限り自分の知っているキラ・ヤマトとはまるで違う。

彼女の意思を確認するの為にあえて同じ言葉を使ったのだ。

 

 

「……【命】を……植えなおすなんてできない。今の私は【花】を散らせないために戦うって決めた……ラクスに言われたからじゃなく、私自身で決めたの」

 

 

 かつての彼とは決定的に違う彼女の言葉を聞いて、ナイフを懐にしまう。

 

 

「……俺は絶対に許さない。アンタ達がやったことは決して……だけど今のラキーナってアンタが花を、命を大事にしてるのは分かったよ」

 

「……うん」

 

 

 今はこれでいい。

真はそう考えてカナードに視線を移す。

 

 

「……真……お前はいったい……」

 

 

 室内の殺気が霧散したことで、呑まれていた千冬が言葉を発する。

それとほぼ同時だった。

 

 

「さっすが、ザフトのスーパーエース【シン・アスカ】だねー。束さん、身震いしちゃったよ」

 

 

 生徒指導室の戸が開かれ、篠ノ之束が入室してきたのだ。

 

 

「束さん……箒さんはいいの?」

 

「後で箒ちゃんには話すよ。それに箒ちゃんにも許してもらったしだいじょぶ……ラキちゃん、少し顔明るくなった?」

 

「……ええ、まあ」

 

 

 少しだけ笑顔を浮かばせたラキーナを見つつ、束も微笑む。

 

 

「……いいかげんに話せ、束。お前達が戦っている理由……それはなんだ? それに真、お前の先ほどの殺気は……!」

 

 

 千冬の指摘に真はカナード、束、ラキーナに視線を合わせる。

そして自身が長い間秘密にしていた事を話すことにしたのだ。

 

 

「……千冬さんは【前世】って信じます?」

 

「……【前世】だと? ふざけているのか?」

 

 

 いきなりなじみのないオカルト要素の混じった言葉が出たのだ、この反応は仕方がないだろう。

だが、千冬は真の目を見て考えを改めた。

 

 真っ直ぐに自分を見てくる彼の瞳に嘘の色は浮かんでいない。

IS搭乗者の第一人者として世界を回ったこともある彼女はそう判断した。

 

 

「事実だ、前世……正確には別の世界、【C.E.(コズミック・イラ)】と言う世界の記憶を俺やラキ、真、そして束も持っている」

 

 

 千冬の様子を確認してカナードが話を続けていく。

 

 ヤキン・ドゥーエ戦役、メサイア戦役、ネオ・ザフト戦役と言った。

戦乱に満ちたC.E.の歴史について。

 

 その戦争の発端となったナチュラルとコーディネーターの深い溝の事について。

MSやコロニー等の宇宙に進出できるようになった科学技術の事について。

真がその世界で軍人として、【シン・アスカ】としてMSに乗って戦っていた事について。

 

 そして戦乱の歌姫――ラクス・クラインの事について。

 

 

「私がラクスに会ったのは5年前……ちょうどC.E.についての記憶を思い出した時だったの」

 

 

 カナードに変わり今度は束が話を続ける。

 

 

「ずっと昔からぼんやりとした【記憶】があって……小さい頃から何度も宇宙を翔るMSの記憶を見ていたんだ」

 

 

 懐かしい思いを振り返りつつ束は続ける。

 

 

「今思えば、【IS】を作ったのはMSみたく空を、宇宙を飛ぶ為だった。それに当時は世界はつまらなくて汚くて、きっと宇宙に出れば世界は変わると思ってた、子供だよね」

 

 

 自嘲を混ぜた笑みを浮かべる。

 

 

「そして自分の中にあったC.E.の記憶をはっきりと思い出して……絶望した。この世界より遥かに進んだ人類も結局は変わらないことに」

 

 

 そして出会ったの、と束は続ける。

 

 

「ラクスに会って、心が救われた気がしたの。そして彼女の中にもどういう訳か……【私の技術】、正確にはISの技術の記憶があって……初めて理解者に会えたと思ったの」

 

「なんで束さんの技術が奴に……?」

 

「さあね、天災の私でもそこはわからない、アカシックレコード? まあ、【破綻者】って共通点はあるよね」

 

 

 ま、そこは置いておいてと束は続ける。

 

 

「ラクスと出会ってからはずっと世界を変える為にISやコロニーとかの研究に取り組んだの。それがアイツの罠だと気付かずにね」

 

「罠?」

 

「そう、罠……アイツには別の記憶があったの。【C.E.の兵器の記憶】、こっちも正確には技術だね、それをISで確立するために私に近づいたの」

 

「……ミラージュコロイドとかですか?」

 

「そうだね、後はVLとかビームシールド技術とか。とにかくアイツはその技術を確立してから、私を消しにかかった。亡国の連中を手先に、あのアスランとかいう男を差し向けてね」

 

 

 アスラン、その言葉が出た瞬間、真の表情は驚愕に変わる。

 

 

「……やっぱりいるのかよ、アスラン」

 

「……うん」

 

 

 ラキーナが真の言葉を肯定する。

 

 真にとってはラキーナ――キラがこの世界にいる時点で半ば予想していた事であったが。

つくづく自分にはヤツ等との【因縁】があるらしい。

 

 

「信じてたんだ、ラクスの事……でボロボロになりながらも何とか逃げ切って、とある欧州の小さな街で力尽きて……そしてカナ君達に匿ってもらって今の私がいるの」

 

「……あの時は酷かったな、色々と」

 

「だね。その後はアイツを止める為に戦うって決めて今に至るかな。カナ君達に協力してもらってくーちゃん助けたりもしたしね」

 

 

 今この場にいない【家族】であるクロエの名前を出す。

彼女は今、無人となっているブレイク号の留守を任されている。

 

 

「それで……そのラクスとかいう女の目的は何なんだ?」

 

 

 黙って話を聞いていた千冬が口を開く。

それにカナードが少々言い淀みつつ返す。

 

 

「世界を自分の思うがままに操る……事だと見ている」

 

「……えらく不確かじゃないか」

 

「ヤツの思考程読みにくいモノはない。元々ラキや多数のコーディネーター達を言葉巧みに操っていた人間だからな」

 

 

 カナードが吐き捨てるように言う。

 

 

「だが、今の奴には束の……ISの全知識が備わっている。はっきり言おう、どんな兵器よりもタチが悪い……だから俺達が止める」

 

「アイツの、ラクスに力を与えてしまった私達が止めなきゃならない」

 

「……ここまでが俺達が戦う理由だ。信じてもらえるだろうか、織斑千冬」

 

「……分かった、信じよう」

 

 

 カナードからの問いに納得したからなと続ける千冬。

その様子に少し拍子抜けした束が質問を投げる。

 

 

「ずいぶんあっさりと信じてくれるね、ちーちゃん」

 

「お前の変化に合点が行ったのだ。それに一夏と変わらない年齢の真がどこか大人びていた理由がようやく分かったからな」

 

「あー、成程、それは私もかなー。私が記憶をはっきり思い出したのは5年位前だけど……小さい頃からあっくんはどこか大人びてたもんね」

 

「ああ、まさか中身が40に近いとは思わなんだ」

 

 

 千冬と束の両者がニヤニヤと笑いつつ、真を見つめる。

その視線にげんなりしつつ、真が答える。

 

 

「……やめて下さいよ。人の事、おっさんみたく言うの」

 

「でも事実だろう?」

 

「今の俺は15歳です」

 

 

 それ以上の茶々を拒絶するように、真は語気を強める。

そして話を切り替えるために束に質問を投げた。

 

 

「それで、束さん達はこれからどうするんです?」

 

「ん、しばらくはIS学園の近海でお世話になるつもりだよ」

 

「……勝手に決めるな、束。それに何故だ?」

 

 

 束の回答にものすごく嫌な表情となった千冬が理由を問いただす。

彼女がIS学園の近くにいる。

 

つまりは必然的に千冬の仕事が増える可能性があるのだ。

 

 

「だって、ラクスの使うISの【単一仕様能力】を防ぐ手立てを考えなきゃならないし~……とりあえずはここにある全ISのコアを確認しないとね」

 

 

 さらっととんでもないことを口走る束だがこれをやってのけるから天災なのだ。

 

 

「【単一仕様能力】?」

 

「そう、たぶん【強制干渉】だと思う。VLユニットから出る光の粒子でISや機械のコントロールを剥奪できるんだ、しかもエネルギーまでね。以前、私が作ってたゴーレムって無人機のコントロールをドンドン取られたのには驚いたね……」

 

 

まあ、同じ手は喰わないけどねと束は続ける。

 

 

「それに俺達がIS学園の近くにいればここを守る戦力にもなる。奴はIS学園を実験場としても見ているだろう……生徒達を守るためには自由に動かせるコマは多く持っておいたほうがいいだろう?」

 

「……お前は傭兵だったな、カナード・パルス」

 

 

 先ほどのC.E.世界の話を思い出して、カナードに目線をあわす。

 

 

「ああ、有事の際は協力する。だがラクス・クラインについての調査で俺ははずすことも多い……がその際はラキがいる」

 

「はい、私も微力ですがお手伝いします」

 

「……はぁ、分かった、いいだろう」

 

 

 その後、学園内のIS全機体について束によるメンテナンスが決定した。

カナードとラキーナについては、IS学園近海に停泊し姿を消している【ブレイク号】にて滞在する事となった。

 

 

「……カナード……お前、本当に落ち着いたよな」

 

「……どういう意味だ?」

 

 

 ジロリと真を睨むカナードに肩をすくめる。

 

 

「ネオ・ザフトで戦ってた頃はこう……何にでも嚙みつく感じだったじゃないか、こうギラギラって感じでさ」

 

 

 真のシン・アスカとしての記憶の中の彼は、もっと威圧的であったと感じている。

それでもそれ以前よりは落ち着いていると叢雲劾から聞いた時は驚いたものだ。

 

 

「……あれから俺は数十年、70歳までC.E.で生きたんだ。それだけ経てば人も変わるだろう」

 

「70っ……そりゃそれだけ経てば落ち着くかぁ……お爺ちゃんってわけか」

 

「……人を年寄り扱いするな」

 

 

 真の言葉にカナードは思わず苦笑を漏らしてしまった。

 

 

 真とカナードの会話の後に、カナードとラキーナの扱いについてもこの場で決定される事になった。

ラキーナは女性であるため、IS学園内では特には目立たないであろうがカナードについては別だった。

カナードの学園内での扱いについては、保護した3人目の男性搭乗者であり、雑務担当の非常勤講師という扱いになった。

これについてはカナードの年齢が19歳であり、彼自身、ラクス・クラインについての調査があるためこのような形となったのだ。

 

 カナードの年齢が自分より4つも年上であることを知った真が大層驚いたのは別の話である。

また、懐に隠し持っていたナイフについては千冬に見られてしまったため没収され、反省文の提出を言いつけられてしまったのであった。

 

 






次回予告

少女が抱いたヒーローへの想い。
一度折れかけた翼を共に支えてくれたヒーロー。

心惹かれた少女の想いは届くのか――

「私はあなたが好き」

戦士は答えを出す――自分の想いに。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。