【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
IS学園では新たに見つかった4人目、(正確には3人目だが)の男性搭乗者であり、非常勤講師となったカナードの噂でもちきりとなっていた。
特に真とは前世の関係もあり、親しそうに話しているのを見られてしまい黄色い声が溢れていた。
当のカナードとしては、この現状に異議を唱えていたが千冬に却下されてしまい状況に甘んじるしかなくなってしまっていた。
またVTシステムによって暴走してしまいセシリアを負傷させたラウラについては謹慎中ではあるが学生の身分であることを理由に授業に出ることを許されていた。
その際、ラウラからの先日までの態度及びセシリアへの暴言と暴力についての謝罪があった。
以前とは打って変わった彼女の姿に少し驚いたものの、セシリアは謝罪を快諾、クラスメイトも受け入れた。
なおその際に彼女を助けた一夏に対しては突如彼の唇を奪った後、
「お前は私の嫁にするっ!」
と言ってクラスを騒然とさせる一幕があった。
箒やシャルロット、別クラスからも鈴が現れ一悶着あったが。
なお、真については彼女曰く戦友との事だ。
ちなみにISへの搭乗については依然として謹慎中であるため実技などは見学、またはアドバイスに徹している。
閑話休題
それから数日後の放課後
第3アリーナ Aピット内
現在第3アリーナはとある理由により貸し切りの状態とされている。
その理由は日本代表候補生である【更識簪】の専用機【打鉄弐式】が完成した事による【飛鳥真】との模擬戦。
所謂デモンストレーションが行われるからであった。
観客席には打鉄弐式の開発に関わった日出のスタッフである利香やジェーン、数人の開発チームの主任や社長である優奈の姿もある。
加えて一夏達や、少し離れた場所ではラキーナの姿も見られた。
ちなみにこの模擬戦については簪の姉である楯無にも話が行っていたのだが、どうしても外せない家の事情があるらしく欠席している。
どうやらシャルル――シャルロットについての事であり、楯無は血の涙を流していたとか。
ピット内ではIS【打鉄弐式】を纏った簪が本音と最終確認を行っていた。
『PIC稼働率正常、シールドバリア正常に稼働中、マニピュレータ正常……』
「各部装甲問題なし、武装コンディションも問題なーし!行けるよ、頑張って、かんちゃーんっ!」
目まぐるしく変わる空中投影ディスプレイを確認し、本音が問題なしの意図を込めたサムズアップを取る。
『うん、ありがとう、本音……行ける……大丈夫……!』
カタパルトに移動しつつ、深呼吸。
ふぅと息を付くと同時に、射出タイミングが譲渡される。
『……打鉄弐式改め【飛燕】、更識簪、行きますっ!』
【飛燕】
それは彼女が決めた打鉄弐式の正式名称であり、【空を飛ぶ鳥】に追いつくための名前でもある。
カタパルトから打ち出された飛燕は、スラスターを噴かせつつ、背部に非固定浮遊部位を展開して【翼】の様に広げる。
同時にその翼から青い粒子を溢れさせ【光の翼】を展開してアリーナの空に向かう。
―――――――――――――――
『VLユニットぉっ!?』
デスティニーインパルスを纏う真が、模擬戦相手である簪の機体から広がる光の翼を見て驚愕の声を上げた。
飛燕と言う正式名称は簪から教えてもらっていたが、結局模擬戦が始まるまでは武装について教えてもらっていなかったのだ。
デスティニーインパルスと同じ色の光の翼を広げて、簪が目の前で静止する。
『……驚いた?』
少しだけ得意げに笑う簪に苦笑しつつ返す。
『……ああ、なるほどな。利香さんが今回の模擬戦はデスティニーシルエットのみでって指定していた理由が分かったよ。同じ装備でってことか』
『飛燕のVLユニットは少し簡易化してるから加速にしか使えないけど……これで追いつけるよ、真』
飛燕に搭載されているVLユニットは、デスティニーシルエットに搭載されているモノとは正確には異なっている。
飛燕のモノは【ビーム操作】等のエネルギー干渉機能がオミットされた簡易型であるからだ。
つまりはMS【デスティニー】に搭載されていた、VLの近似種、光圧推進スラスターに近い。
『……そういえば簪と模擬戦するのは初めてだったな』
『うん。だから全力で来て、真、私も全力で行くからっ!』
そういって簪は右手にインパルスと同型の【ビームライフル】を展開。
同時に空いている左手には【パイルバンカー】が展開される。
展開されたパイルバンカーはまるでリボルバー式拳銃のような弾倉が付属している。
弾倉には炸薬が装填されているのが確認できた。
『……パイルバンカーかっ!』
『ステーク、アクティブ! 行くよ、真っ!』
撃鉄がセットされると同時に、VLユニットとスラスターを噴かせた飛燕が突っ込んでくる。
同時にビームライフルのトリガーを引きインパルスに向けてビームを放つ。
発射される直前に銃口の向きから射線を予測――青い光の残光を残してインパルスは回避していた。
インパルスは回避と同時にビームライフルを展開しており、反撃が飛燕に銃口が向けられるが、瞬間的な加速により回避を行う。
『VLユニット相手だと狙い辛いかっ!』
『それはお互い様っ!』
簪の狙いとしては、ビームライフルで攪乱した後にパイルバンカーでの一撃を与えたかったが、真相手ではどうやら無理のようだ。
もっともそれは真の技量を知っている簪には想定済みだ。
互いに瞬時加速やフェイントを織り交ぜながら射撃を繰り返すが、有効打には至っていない。
膠着した状況を打破するべくビームライフルを格納したインパルスは両手に大型実体剣エクスカリバーを展開、刀身のビームを起動しつつ光の翼による圧倒的なスピードで斬りかかる。
『っ、 ならっ!』
対する簪もビームライフルとパイルバンカーを格納、エクスカリバーに似たデザインの実体剣を展開した。
エクスカリバーの刀身よりも長く、飛燕の機体全長と等しいくらいの大型の実体剣だ。
彼女が展開した実体剣の名前は【バルムンク】
――簪が温めていたアイディアを日出の技術者と共に形にした武装だ。
エクスカリバーは片刃にビームを展開するタイプであるが、バルムンクは両刃に刀身ビームが奔っている。
金属音がアリーナに響き渡り、鍔迫り合いの形になる。
両機体の光の翼が最大稼働状態となり青い粒子が溢れていく。
だがすぐに状況が動いた。
『はあっ!』
『あうっ!?』
鍔迫り合いの状態から、インパルスが飛燕に向かって脚部スラスタ―から得られた速度を乗せた蹴りを叩き込んだのだ。
同時にエクスカリバーを格納、代わりにフラッシュエッジを展開し、投擲。
たまらずに蹴り飛ばされた簪にフラッシュエッジが迫る。
併せて再度エクスカリバーを展開してインパルスが斬りかかってくる。
『まだっ!』
即座にAMBACによる姿勢制御と反撃に移る。
バルムンクの刀身が真ん中から2つに割れ、砲口が顔を覗かせた。
そして砲口部に粒子が集束し、青白いビームとなって放たれた。
投擲していたフラッシュエッジはビームに飲まれ破壊されてしまった。
簪が温めていたアイディア――それは遠距離と近距離の複合、つまりは【遠近複合武装】である。
大型実体剣【バルムンク】には斬撃モードと砲撃モードの2種類が存在しており、斬撃モードではエクスカリバーを越える質量による近接格闘、砲撃モードでは高出力のビームを放つことができる。
また突き刺してから砲撃モードに移る事で強力な一撃を叩き込むことすらできる。
ちなみにこの武装は簪がとある深夜アニメを見て思いついた武装であり、開発に協力した日出のスタッフもそれを見ていたため開発がスムーズに進んだ経緯がある。
『ぐうっ!?』
ビームの発射寸前に反撃動作に気付いた真はかろうじてシールドでビームを防ぐ。
だが、かなりの高出力ビームであったため、反動によりシールドごと弾き飛ばされてしまった。
その隙を簪は見逃さなかった、即座にバルムンクの刀身を斬撃モードに変更し、VL最大稼働状態に移行。
体勢を崩した真に迫る。
『これでぇっ!』
バルムンクでインパルスを横薙ぎに斬りつける。
だが斬りつけたインパルスはノイズを残して姿を消してしまった。
『残像っ!? センサーでは質量もあったのにっ!?』
この機能を簪は知っている、デスティニーインパルスに搭載されたミラージュコロイドによる残像だ。
即座にハイパーセンサーで周囲を確認、すると頭上数十mに真がいた。
あの一瞬で姿勢制御を行い、囮を残して距離を取る。
舌を巻くほどの操作技術だ。
『遠近複合武装か……テストで使ったシルエットのガナリーカーバーって武装と同類か』
残りのシールドエネルギーを確認する。
残存エネルギーは約6割程度と表示されている。
デスティニーインパルスの燃費は劣悪だが、日出スタッフによるアップグレードが続けられており、以前よりはマシになって来ている。
VTシステム暴走事件以前の1秒間の消費エネルギーを10とするのなら、現在は1秒間に9消費するといった程度の微々たるものであるが。
だがそれでも以前よりは消費エネルギーは減っており、ミラージュコロイドを用いた残像を戦術に加えることが可能になったのだ。
『……やっぱりすごいね、真は』
『簪こそ、その剣には驚かされたよ。複合武装、いいと思うよ』
互いに距離を取りつつ言葉を交わす。
『ありがとう、真にそう言ってもらえると……嬉しい』
真の言葉に笑顔を簪は浮かべた。
彼女の笑顔に真は一瞬見惚れていた。
だがすぐに気持ちを切り替える。
『……さて、それじゃ仕切り直しだなっ!』
『……うん、行くよっ!』
再び己の得物を構えた2機が光の翼を開く――まるで大きな翼の様に。
―――――――――――――――――
模擬戦終了後――自室
簪の専用機【飛燕】のお披露目模擬戦は無事終了した。
模擬戦の勝敗についてだが、結局はお互いのエネルギー切れによる引き分けというあっけない幕切れとなった。
簪は日出のスタッフに模擬戦のレポートを纏めて提出しに行っているため、部屋にいない。
模擬戦終了後から、真は自室のベッドの上である事を考えていた。
それは以前、セシリアに指摘された、彼女への想い。
簪から向けられる好意には気づいており、それを嬉しく感じ異性としての好意を持っている自分がいる。
だが、ルナマリアの想いを自分は拒絶し、戦士として進んだ。
戦士として切り捨てるべきと思っている自分がいる。
セシリアに指摘されてから時間があるときは考えている。
しかしずっとこの2つの考えが頭の中でぐるぐるとまわっている状況だ。
ちなみに友人に相談しようとも考えたが、一夏は朴念仁、カナードは恋愛相談などできそうにないので1人で悩んでいる。
「……仕方ないか」
上半身を起こして携帯でとある相手に電話をかける。
その相手は――
『もしもし、飛鳥ですが』
「あ、父さん?」
父親である【飛鳥大胡】であった。
『珍しいね、真が僕に電話をかけてくるなんて』
「……ちょっと相談したいことがあってさ……今、時間大丈夫?」
『ああ、丁度、今日の分の仕事は終わって帰宅準備中。で、何だい?』
「……人を好きになるってどういうことなのかな?」
真の質問を聞いた大胡は、ふふっと嬉しそうに声を出した。
それが聞こえた真は少しげんなりとしつつ答える。
「……なんだよ、父さん」
『いや、ごめんごめん。ようやく息子にもそういうのが来たのかって思うと嬉しくてね』
大胡の声には嬉しそうな感情が多大に込められている。
『で、人を好きになるってどういうことかか。僕の場合は母さん、玲奈の事だね。そうだね、最初は事あるごとに喧嘩したものさ、僕と彼女は』
「えっ、そうなの?」
『ああ、些細な事でね。でもそれで彼女の色々な仕草って言うのかな、彼女の色々な面が見えたから一緒にいたいと思ったんだ』
「……そっか」
『答えになれたかな?』
大胡からの返答に少しだけ詰まる。
「……どうなんだろう。俺さ、相手の事たぶん好きなんだ、けど……」
『けど?』
「……受け入れちゃいけないとも思ってるんだ」
『……』
真の言葉に大胡が沈黙する。
「ごめん、父さん。訳わからないよな……」
『……昔からどこか大人びていたけど、やっぱりお前は変わってるね、真』
「……」
『だけどこれだけは言えるよ、自分の気持ちに正直になりなさい』
「気持ちに……正直に?」
大胡に言われた言葉を反芻するかのように真が繰り返す。
『ああ、お前の中にある相反する気持ちがあるのは分かった。ならどちらに正直になりたいか決めなさい』
「……」
『……おっと、そろそろ出ないと……大丈夫かい、真?』
「……うん、ありがとう、父さん。なってみるよ正直に」
『ああ、それがいいよ。じゃあ、切るね』
「ありがとう、父さん」
そういって通話が切れる。
大胡に言われた正直になるという言葉。
自分の中にある相反した気持ちに正直になる。
やはり戦士として【花】を守る為に戦うには簪の気持ちを拒絶するしかない。
それが自分の結論。
そこまで考えた時だった。
『ありがとう、真』
『真のおかげだよ』
『真が私の背中を押してくれたの』
『ありがとう、真にそう言ってもらえると……嬉しい』
彼女の――簪の心からの笑顔が浮かんだ。
特別な事情や状況もなく、ただ戦うことしかできない自身に心からの笑顔を見せてくれた異性は簪が初めてだ。
自分に向けてくれている彼女の笑顔を曇らせたくない。
そして【花】というキーワードで気づいた。
「……そうだ、【花】なんだ。俺は彼女に自分だけの……【花】になって笑っていて欲しいんだ」
ようやく気づくことができた自分の気持ちに、ふと笑顔が浮かんだ。
真は選択したのだ。
【花】と共に彼女の笑顔を守ると。
ふと、携帯を見るとメールが届いていた。
確認してみると意中の相手からだった。
「……30分後位に戻る……か、よし」
ベッドから起き上がり、少しだけ背を伸ばした。
自分の気持ちに気付いた。
後はこの気持ちを彼女に伝えるだけだ。
―――――――――――――――――
30分後――
「ただいま」
「お疲れ、レポートどうだった?」
「うん、利香さん達に渡してOKもらったよ」
利香達にレポートを渡した後は機体の微調整について意見をもらっていたとの事だ。
「飛燕、完成してよかった」
「うん、本当にありがとう。真や皆のおかげだよ」
簪は持っていたバッグを机の上においてから真に振り返る。
部屋にある置時計に視線を合わせてソワソワとしていた真が口を開く。
「……あのさ、簪、今時間大丈夫か?」
「うん、大丈夫だけど……どうしたの?」
少し恥ずかしそうにしている真に不思議そうに顔を首を傾げる。
「……簪に伝えたいことがあってさ」
「なっ、何……?」
真の言葉に一気に彼女の顔が赤くなる。
真の雰囲気を察してくれたのだ。
それに内心感謝の言葉を呟き、口を開く。
だが言葉が上手く出てこない。
自身の心に溢れている気持ちを伝えられるよう色々と考えていたはずだったと言うのに、いざ伝える場面になると何もでてこなくなってしまったのだ。
その様子に簪は少し首をかしげていた。
自分の態度に情けなさを感じつつも何とか言葉を紡ぐ。
「……あー、くそ、本当はムードとかちゃんとしたかったけど、やっと自分の気持ちに正直になれたんだ。だから言わせてくれ」
真も顔を赤くしつつ、真っ直ぐな瞳で簪の目を見つめつつ口を開く。
「好きだ、簪」
自分の心の中に溢れている想いを伝えた。
真の告白を聴いた簪の瞳は驚きに見開かれ、ポロポロと涙を流し始めた。
その様子に真は軽いパニック状態に陥ってしまった。
彼女が好意を向けてくれているのには気づいていたが面と向かって告白したのだから真も緊張していたのだ。
「えっ、ちょっ、何で泣くんだっ!?」
「ごっ、ごめんなさっ……うれしっ……くて……ごめっ……!」
そう言って簪は制服の袖で涙をぬぐい続けているが涙は止まる気配を見せない。
「ごっ、ごめっ、本当に嬉しくて……私なんかを……真が……好きって……!」
「……簪だから、俺は自分の気持ちに正直になれたんだ、ありがとう」
そっと簪の手を握って微笑む。
5分程そのまま簪が泣き止むのを待った。
そして彼女が深呼吸して呼吸を整える。
「私にも言わせて……もらえるかな、真」
赤い顔でそう言った簪に頷く。
涙に濡れた彼女の顔も綺麗だと思ってしまったのは心にとどめておく事に決めた。
「……私はあなたが好き……だよ、真」
「……ああ、ありがとう簪」
彼女の告白を聞いて、彼女と同じように嬉し涙が流れた。
翌日、どういうわけだか真と簪が告白しあった事が学園中に噂として広まっていた。
その背後にウサギ耳の天災がいたようだが、真相は不明である。
難産でした。
次回予告
見たこともない花畑――真は夢の中で少女に出会う。
夢の少女は進化の前兆であり、進化を促すのは闘争だ―
―故にかつての戦友との一騎打ちに望む。
「運命の鼓動」
真とカナード、互いの力が進化の道となる。