【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
IS学園 第1アリーナ付近
ラクス・クライン一派【歌姫の騎士団】がIS学園を襲撃し始めてから、学園各所、特に第1アリーナ付近で戦闘が起こっていた。
教師陣や一部代表候補生が無人機を相手にしているのだ。
その為、各所に弾痕やブレード痕が残っている。
周辺の非戦闘員の避難は終わっているのが不幸中の幸いであろう。
その中でも無人機ではないISと戦っている生徒がいた。
一夏と箒である。
『くっ、こいつっ、何なんだよっ!?』
『一夏、来るぞっ!』
白と紅
【白式】と【紅椿】を身に纏った一夏と箒が互いに得物である【雪片二型】と【雨月・空裂】を構えつつ、相手のISを睨む。
2人と相対しているISはどこかラキーナの【ストライク】に似ている。
だが装甲等はストライクより質素であり、背部ランドセル部分に【ストライカーパック】などは装備していない。
相対しているISの名は【デュエル】、決闘を意味するISだ。
そしてそれに搭乗しているのは、栗色の髪の女性、目つきは女でありながらカナードと同じレベルでキツイが美人ではある。
『はっ、素人が相手になるかよぉ!』
ビームライフルを白式に向け、躊躇なくトリガーを引く。
発射されたビームが白式に向かう。
だが突如、【水蒸気】を上げて減退し消滅する。
その為一夏にビームが届くことはなかった。
『なっ、ビームがっ!?』
『素人では相手にならないですか、素人ではなければご満足いただけるかしら?』
一夏の頭上から陽気な声が響く。
顔を上げるとそこには【蒼いIS】
【
楯無がそのまま降下し、【蒼流旋】、水を螺旋状に纏ったランスを構えつつ、一夏の隣に降りる。
『織斑君、協力してアイツを倒すわよ?』
『えっ、あっ、はいっ! 分かりました!』
突如上級生であり、真経由でも数度しかあったことがなかった生徒会長に話しかけられそんな場面ではないのに取り乱してしまう。
そんな一夏を見て楯無は微笑を浮かべていたが。
『なら、私もいたほうが良いよね?』
全身が黒いISが箒の背後で浮遊していた。
搭乗者の両腕から両肩/両足を覆うような大型装甲とマニピュレーター、背部ランドセル部分のスラスターユニット。
肩部には実体剣が埋め込まれたシールドが2つ浮遊している日出工業所属のIS。
【ガイアガンダム】を身に纏った【瀬田利香】が微笑みつつ、箒に尋ねる。
『……ご協力お願いします』
『モチのロンってやつね、楯無ちゃんもOK?』
『ええ、お願いします。瀬田利香……日本代表候補生を辞退してなお【大地の女騎士】と呼ばれた技量を真近で見られる機会はそうないでしょうし、後学の参考にさせていただきますね』
『はは……その名前は恥ずかしいね』
苦笑しつつ、ビームサーベルを展開し発振させる。
『……はっ、上等だ、かかって来いよ、ヒーロー気取りどもがぁっ!』
4対1――だというのに、オータムに滾るのは戦意のみ。
すぐさまビームサーベルを展開し、切りかかった。
――――――――――――――――――
『うおおぉっ!』
『ちぃっ!』
雪片でインフィニットジャスティスのビームサーベルを受け止める。
鍔迫り合いの形になり、両者がスラスターを噴かせて拮抗する。
だが徐々に暮桜が押されていく。
『くっ、スペック差はいかんともしがたいかっ!?』
『相手は最新のISだからパワー比べはまずいよ、ちーちゃんっ!』
『……ならばっ!』
通信先の束の助言を聞き、あえて力を抜いてわざと押し切られる。
同時にAMBACとスラスターで姿勢制御を行うことで、後退する。
後退した先にはラキーナのストライクが背部の【I.W.S.P.パック】に装備されている【レールガン】を2基構えていた。
千冬が距離を取った理由はすでにプライベートチャンネルでラキーナから指示を受けていたからだ。
『これでぇっ!!』
発射された電磁加速された弾丸が音速をはるかに超える速度でジャスティスに迫る。
――だが
『……キ……ラ……ッ!』
発生させたソリドゥス・フルゴールビームシールドで弾丸を受け止め、その衝撃やエネルギーを全て背後に受け流す。
虚ろな瞳でラキーナを見つめているが、動きに一切の淀みが見られない。
『あらあら、確かにアスランの人格は私の手で消したはずですのに……そこまでキラを大切に思ってるのですか』
ラクスがその様子を見て、冷笑を浮かべる。
同時に迫る【光の槍】、【ALランス】を構えたドレッドノートだ。
『はぁっ!!』
彼女の守っていたヒルダのドムとスコールのバスターの射撃を強引に突破し強引に、ラクスを狙っているのだ。
『ふふ。強引な攻めをされるのは嫌いではないですわよ、カナード。アナタの攻め、いいですわよ?』
ラクスは頬を紅潮させつつ、背部の【VLユニット】を起動。
紫の粒子が溢れ、後退する。
当然、超速度で回避されたためALランスは空振りとなってしまい、舌打ちしつつすぐさまドレッドノートは回避に移る。
数瞬前までドレッドノートが存在していた場所をビームの十字砲火が焼く。
ドムとバスターのビームであった。
『くっ、よくもラクス様にっ!』
『ヒルダ、落ち着いて、ドラグーンが狙っているわよっ!』
2機の背後にドラグーンが2機、浮遊して砲口を覗かせていた。
クロエが操るXアストレイのドラグーンだ。
スコールの助言を聞いた瞬間に【スクリーミングニンバス】を起動させ、ドムとバスターは【光の幕】に守られる。
ドラグーンのビーム出力は通常携行するタイプのビームライフルと大差はないため、スクリーミングニンバスであっさりと弾かれてしまう。
『くっ、またその【光の幕】……そのような武装はカナード様だけで充分ですっ!』
『同感だね、兄さんが激昂しないのが奇跡だよ』
戦意を高揚させるための軽口を吐きつつ、ラキーナがクロエを庇うように前に出る。
カナードはその言葉を無視し、ビームサブマシンガンのトリガーを引き続け弾幕を張る。
『……アスラン・ザラの【人格】を消した……だと……っ!?』
『ええ。そこのラキーナさんがキラであると分かるとアスランは説得しにいくといって聞かなかったんですもの。正直五月蝿くて……』
カナードの疑問の言葉にうんざりとした顔でラクスが答える。
『そんなっ!? そんな事をラクス、君はっ!?』
かつてはラクスの為に戦っていたラキーナが困惑の声を上げる。
あまりにも非人道的な行為であるからだ。
『だって、煩わしかったんですもの……分かりますよね、キラ? いえ、ラキーナさん?』
クスクスと笑いながらラキーナに言葉を投げる。
『それにむしろ今の彼は【完全な戦士】になってますのよ?常に【S.E.E.D.】の力を使えてますし、私に害意を示す【敵】を排除してくださいますし。優柔不断な彼にとってはある意味【救い】ではないですか?』
『ラクス、君は……っ!』
『……人の命を何だと思っているっ!』
雪片を構えた千冬の怒りの叫びが響く。
それに笑顔でラクスは答える。
『決まってますわ、私が選定した命以外は全て【消耗品】ですわ』
『下種が……っ!?』
暮桜のハイパーセンサーが自身の機体より下方に発生した高エネルギー反応を捉える。
『ラクス様っ!』
同じようにドムのセンサーがエネルギー反応を捉え、即座にヒルダが【スクリーミングニンバス】を起動してラクスの前に移動し防御姿勢を取る。
同時に2本の高出力ビームが2人を機体の下方から飲み込む。
続けてミサイルが昇ってくる。
『ラクス様っ! ヒルダっ!』
バスターが両手に持つビーム砲を連結。
ミサイル群に向かって放ち掃射する。
一瞬センサーが乱れるほどのミサイルの爆発が連鎖していく。
そして爆発の中から【ブラストシルエット】から【フォースシルエット】に換装した【フォースインパルス】がビームサーベルを展開し、スラスター全開の速度で飛び出してきた。
『邪魔だぁっ!』
『ぐっ!?』
バスターのビーム砲の片方を切り落とし、そのまま返す刃でバスター本体を狙う。
しかしロックオン警告が走る。
インパルスがスラスターとバーニアを駆使して、ビームを姿勢制御のみで回避する。
そしてバスターに蹴りを入れてその反発力で距離を取り、ビームを発射した相手に向き直る。
『アスランかっ!』
『……シ……ンッ!』
『千冬さん、力をっ!』
『っ、分かったっ!』
真が叫び、暮桜。
千冬が雪片に力を込めて、アスランに切りかかる。
――同時に真の意識の中で【紅い種】が弾けた。
インパルスビームライフルを展開し、アスランに向けてトリガーを引く。
そのビームを回避、またはビームシールドで受け止めるインフィニットジャスティスであるが確実に動きを阻害している。
『アスランは俺と千冬さんで抑える、カナードッ、ラキーナッ、クロエッ!!』
『分かっているっ!』
ALランスを展開したカナード、【I.W.S.P.】パックからフラガラッハ大型ビームブレイドを展開したラキーナ、拡張領域からビームサーベルを展開したクロエが、ミサイルの爆煙から飛び出してきたラクス達に向かう。
だがラクスの顔には笑みが浮かんでいた。
『容赦のない奇襲っ、ああ、シンっ、やはりアナタは素敵ですわ。ふふ、そんなアナタに私の【ホワイトネス・エンプレス】から【プレゼント】がありますの』
その言葉と共に彼女の【IS】
【
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暮桜がスラスターを噴かして、インフィニットジャスティスに向かう。
構える雪片には零落白夜の光が溢れている。
『落とすっ!』
『まだ……だ……っ!』
零落白夜を発動している雪片の刃を受け止めることはせずに、後退して距離を取る。
上段から袈裟斬り気味に振るわれた刃は空を切る。
それは計算の内、すぐさま刃の向きを変え逆袈裟切りで切り上げる。
いわゆる【燕返し】
同時にスラスターに火を入れていたため、後退していたアスランに刃が届く。
『ぐっ……!』
だがアスランは燕返しにも反応を示し、咄嗟に刃を仰け反って避ける。
しかし刃は僅かながらインフィニットジャスティスの装甲を抉っていた。
そして大きくシールドエネルギーが削られる。
それを確認した真は、援護のためビームライフルを向ける。
――その時であった。
一瞬、千冬が驚愕の表情を浮かべて、痙攣したのだ。
そして千冬が【反転】して真に向かってきた。
その手には零落白夜が発動している雪片が構えられている。
咄嗟にフォースシルエットの推力を使用して、後退する。
雪片にエネルギーを削られる事はなかった。
『っ!? 千冬さん、何をっ!?』
『ちーちゃん、何してるのっ!?』
通信から束の声が漏れる。
だが千冬は耳を貸さない。
彼女の瞳は先程までの闘志に溢れている様な瞳ではなく、アスランと同じく【虚ろ】であった。
そしてアスランがこちらに向かってビームライフルを向け、ビームを放ってくる。
『どういうことだ、束さんっ!? 千冬さんに何が起こったっ!?』
『わっ、わかんないっ、ちーちゃん、止めて、こっちは味方だよっ!?』
千冬の突然の凶行に束の困惑の声が漏れる。
それに答えるのは――
『ふふっ、世界最強の織斑千冬さんでも私の【ホワイトネス・エンプレス】の【生体支配】からは逃れられませんか。まあ、【条件】には当てはまってないですからね、仕方ないですわね』
通信に割り込んできたラクスが答えた。
カナード達は先程の突撃でラクスとヒルダを仕留めるつもりであったが、無人機であるストライクとイージスが乱入し取り逃がしていたのだ。
現在はスコールのバスターの弾幕とヒルダのドムの防御壁に攻めあぐねている状態であった。
『生体支配だってっ!?』
『ええ、それが私のISの【単一仕様能力】……まあ、【生体ナノマシン】で少しの間思い通りになっていただいているだけですので、ご心配はなく』
ラクスは真がアスランと千冬の攻撃を捌いているのを見つめつつ、微笑む。
同時にアスランが放ったビームをシールドで受け止める。
『ぐうっ……!』
『あっくんっ!!』
(千冬さんとアスランを同時に相手するなんて無理だっ!ラクス・クラインを直接……やるしかっ!!)
迫るアスランと千冬にシールドを投げつける。
2人が避ける隙を逃さず【フォースシルエット】から【デスティニーシルエット】へと換装を行う。
即座に【VLユニット】を最大稼動状態に移行させ、アスランと千冬を飛び越しラクスへと向かう。
『うおおおおおおおおっ!!!』
『……あぁ、シン、美しいですわ』
眼前に迫る【デスティニーインパルス】の【蒼い光の翼】に恍惚な笑みを浮かべる。
『ですが……そのような【偽りの翼】では私には届きませんわよ、シン?』
ラクスがその言葉を発した瞬間、インパルスの眼前に【インフィニットジャスティス】が現れる。
インフィニットジャスティスの背部リフター部分に大型ブースターが装備されていた。
それはIS用の高機動用パッケージ。
継続的な高速移動を可能にするものであり本来の用途とは異なるが、VLユニットによる加速に追いつくことも可能である。
『っ!?』
『ラク……スはやら……せないっ!』
振るわれる2本のビームサーベル。
咄嗟にエクスカリバーを展開、交差して受け止め、鍔迫り合いに持ち込む。
――瞬間、真の胸をビームサーベルが切り裂いた。
『……えっ……?』
『あっくんっ!?』
口の中に広がる【血】の味。
【絶対防御】が発動したのにも関わらず、貫通されているようだ。
痛みが胸から広がる。
斬り裂かれた装甲が目の前を舞っている。
一瞬空白になった頭が【何】に斬られたのかを確認する。
インフィニットジャスティスの腰部から【マニピュレーター】が伸びており、ビームサーベルが握られている。
『かっ、【隠し腕】……っ!?』
VLユニットから溢れていた【光の翼】が消える。
同時に真が口から血を吐き出す。
ダメージは内臓まで届いていたのだ。
『あっくん、返事をして、あっくんっ!!』
『……シン、もう終わりなんですか?』
少し悲しそうな表情でラクスが真に問いかける。
インパルスの機能がダウンしているのか痛みと出血で意識が混濁してくる。
『ぐっ、こんな……おれ……は……っ!』
自分は帰らなければならない。
約束したのだ。
『……か……ざ……っ!』
笑顔を守ると誓った愛する少女の顔が浮かび――真の意識は途絶えた。
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第1アリーナ シェルター付近
IS学園の各アリーナには生徒及び要人用のシェルターが備え付けられており、非戦闘員は全てここで待機していた。
最も警護の為に数人のIS搭乗者がいるのだが。
その中に【飛燕】、簪の姿があった。
彼女はすぐそばにいた本音と状況について確認を行っていたのだ。
「かんちゃん、大丈夫?」
『うん、本音は?』
「私は大丈夫……だけど……」
空を見上げる。
アリーナから少し離れた場所だがビームの光が時折見える。
『……真』
帰ってくると言ってくれた彼の言葉を信じ、ハイパーセンサーでインパルスの存在を確認しつつ、警護を行っていた。
そんな時であった。
存在を確認していた【インパルス】の反応が消えたのだ。
『……えっ?』
理解したくなかった。
自分の中で最も大切な存在になっている彼の反応が消えたのだ。
機体のセンサーの感度を最大に高めるが、反応は無い。
『……嘘、嘘だよね……っ!?』
「かっ、かんちゃん、どうしたのっ!?」
涙が自然と溢れてきた。
本音の言葉を無視してコンソールを操作する。
どうしても【インパルス】の反応が検出されない。
『嘘……だよね、嘘って言ってよ、真っ!!』
チャンネルを繋げる――が返信はない。
信じたくない――無事に帰ってくるって、抱きしめてくれた彼が――
『いや……いや、いやああああああああああっ!!!』
簪の悲鳴が木霊した。
次回予告
「ヴェスティージ -vestige-」
砕け折れた翼――
失くし続けた少年の幼い瞳に新たに宿る――力
その名は――