【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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過去編
過去編① 拒絶


 敗戦後、失意のシンは故郷オーブに訪れていた。

なぜオーブにきたのかは自分でもよく分からない。

 

 ――家族が眠る土地だからであろうか。

 

 波打ち際の崖の上に作られた慰霊碑。

そこで亡き家族に対して、自分の無力に対して、涙を流していた。

 

 シンの隣には大戦後期にお互いの傷を舐めあうように交際するようになったルナマリアの姿もあった。

 

 

「……俺は結局何のために戦ったんだ」

 

「……シン」

 

「争いのないっ……平和な世界……。議長達とならと思ったん……だけど……!」

 

 

 涙が溢れ、嗚咽が混じる。

自分の無力さに、情けなさに。

 

 だが運命の女神とやらはそれでもシンを貶めたりなかったらしい。

背後から声がしたのだ、聞きたくもない相手の声が。

 

 

「シン、ここにいたのか……探したぞ」

 

 

 アスラン・ザラ

自分達を裏切り、ミネルバを落としてヨウランを殺した英雄様。

その隣にはかつての同僚、メイリン・ホーク。

 

 

「アスラン、彼が……」

 

「そうだ、キラ。あいつがインパルス、そしてデスティニーのパイロットだ」

 

 

 アスランの背後から優しそうに笑みを浮かべた青年が歩いてくる。

 

 キラ・ヤマト

フリーダムのパイロット、レイを落とした男、自分に道を指し示してくれたデュランダル議長を打ち破った英雄様。

 

 後に知ったことだが、オーブ攻防戦の際にフリーダムに乗って防衛線を民間人が避難している区画まで下げたのはコイツと一部オーブ軍の連中らしい。

 

 そしてその隣には桃色の髪をした歌姫。

ラクス・クライン

平和の歌姫、自由と正義の使者。

はっきり言ってどこがだと思う。

 

 

「……アンタは」

 

「君と話がしたくて……だめかな?」

 

 

 シンの目の前にキラが立ち問いかける。

どうせ自分は負け犬だ、そう思って無言を貫く。

その無言を肯定と受け取ったのか、キラが話し出す。

 

 

「これから僕達は争いのない平和な世界を目指して戦う。それに君の力を貸してほしいんだ」

 

 

 キラの言っていることに間違いはないだろう、勝者が歴史を作るのは世の常なのだから。

 

 だが認めるのは癪だ。

だから無言を貫く。

 

 

「……」

 

「僕達はいくら吹き飛んでも花を植え続ける。お願いだ、シン……だめかな?」

 

 

 そう言ってキラは手を差し出す。

その言葉にシンは目の前が真っ暗になった。

 

 

こいつは今なんていった? 花を吹き飛ばしてもまた植える?(・・・・・・・・・・・・・)今、そういったのか?

 

 

 キラの言葉の意味を理解して、心から激情の炎があふれ出す

 

 

 ――力及ばず無残にも折れた心が炎によって打ち直され、再び刃となっていく。

 

 

「ふざけるなぁ!」

 

 

 差し伸べられた手に応じることはなく、その手を力強く払って仇の男を睨みつける。

 

 

「え?」

 

 

 握り返してくれるのを当然とでも思っていたのか、払われた手をかばい間抜けな声を出した。

 

 

「吹き飛ばされてもまた植える!? 吹き飛ばされた花は、死んでしまった命はどうでも良いって事かよ!?」

 

 

 激情が溢れ出す。

一度堰を切った感情が止められない。

 

 

「家族に代わる人間がいるものか! 目の前で……自分の目の前で殺された子に代わる人間がいるのかよ!?また植えるなら返せよ! アンタ達が俺から奪っていた大切な人達を返してくれよ!アンタが……アンタ達が殺した妹を……マユを! 父さんを! 母さんを! ステラを! レイを! ヨウランを! ハイネを! デュランダル議長を! タリア艦長を!」

 

 目の前の奴等に、歌姫の騎士団達に奪われた、かけがえのない命達の名前を叫ぶ。

 

 

「やめないか、シン!」

 

 

 裏切り者が自分の頬を張る。

その表情には怒りの感情が見える。

 

 

「憎しみに囚われて過去ばかりを見るな! キラの言いたいことがわからないのか!?」

 

 

 張られたことは大した事はではない。

裏切り者の言葉に、さらに激情の炎が強くなる。

 

 

「知るかよ、アンタ達の言うことなんて分かりたくもない。ああ、ようはこう言いたい訳だ、【俺達を恨まないでくれ、憎まないでくれ】って……ふざけるなよ……!」

 

「……シンっ!」

 

 

 そう言って裏切り者達、仇達から距離を取り慰霊碑から離れる。

とっさにルナマリアがシンのそばに来るがそれを右手で制した。

 

 

「ルナ……ごめん。ここでお別れだ……俺のそばにいちゃいけない」

 

「そんな、シン、何で!?」

 

 

 ルナの綺麗な瞳から涙が溢れている。

ああ、泣かせちゃったな……でもダメだ、俺のそばじゃ君を不幸にする。

 

 

「シンっ、お前は……!」

 

 

 裏切り者が何か言おうとしているが、知るものか。

 

 

「俺は敗者だ、この戦争で負けた負け犬だ。この世界はアンタ達が変えていくんだろうが、俺はアンタ達を決して認めないっ! 【花】を見ようともせずに吹き飛ばすアンタ達を絶対に認めないっ!」

 

 

 そうだ、花を……命を植えなおすなんていう奴等に……俺の心までこいつらに渡すものか!

 

 

 そう叫びシンは走りだす。

自分を止めてくれているルナマリアの声が聞こえるが、振り返らず走る。

 

 

 

 その後、シン・アスカはオーブを出国した。

同時にザフトを退役した。

 

 二束三文の退職金が出たが全てをメサイア戦役復興募金に回して姿を消した。

ザフト、オーブがそろって彼の後を追った。

 

 どうにかしていくつかの情報を得たが、その行方は分からずじまいであった。

そしてザフト主導の下【絶対的な自由と平和の為の戦い】と称した鎮圧作戦が開始された。

 

 鎮圧作戦の混乱のため、彼の捜索は頓挫することとなる。

また、彼と交際していたルナマリア・ホークはオーブからプラントに帰国後、ザフトを退役。

その後は民間の復興団体に所属したことが明らかになっている。

 

 


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