【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE34 ヴェスティージ -vestige-

「……はっ!?」

 

 

目を開けると目の前に綺麗な花が咲き誇っている。

とても心地よい風と花の香りが鼻腔をくすぐってくる。

見渡す限りの花畑――以前夢で見た景色と全く同じ花畑に真は立っていた。

 

 

「ここは……あの夢の……っ!?」

 

 

先程アスランに斬られた胸の傷を触る――が自分が着ているISスーツにも身体にも傷はない。

 

 

「傷が……ない?」

 

『重傷だったけど治せない傷じゃなかったからねー』

 

 

セミロングの金髪に、白いワンピース姿。

以前夢であった少女が目の前に突如現れる。

 

だが真は驚きはしなかった。

【彼女】が何者であるかは大体の予想がついているからだ。

 

 

「……君は……」

 

『ん、分かってるくせにー』

 

 

少女がケラケラと陽気に笑う。

少女が一度咳払いしてから、真に告げる。

 

 

『私はアナタのIS【インパルスガンダム】の人格だよ』

 

「やっぱり……インパルスだったんだな君は」

 

 

真が予想していた通り、彼女はインパルスのコアの人格らしい。

以前の様に名前の部分だけノイズを感じることもなかった。

 

 

『……やっと伝わった……よかったぁ……』

 

「……インパルス、お前が出てきたって事は……」

 

『うん、シフトできるよ、第二形態移行(セカンドシフト)

 

 

至極あっさりとインパルスが真に告げる。

だが何故彼女は自分をここに呼んだかが分からない。

 

 

「インパルス、何で俺をここに呼んだんだ? 第二形態移行ができるならそのまましてくれたって……」

 

『……真、アナタの言葉が聞きたかったの』

 

 

そういって彼女の姿が消える。

そして以前と同じように目の前が薄暗くなる。

 

上空を見上げると光を遮る人型。

C.E.を共に駆けた【運命】の名を冠する、頭部には【血の涙】を流すような紅いラインと紅い翼を持つ【MS】

 

その機体が真の目の前にゆっくりと降下し、片膝をつく体勢となる。

 

 

「……【デスティニー】」

 

『真は……何のために戦うのか、もう1度確認させて?』

 

 

デスティニーが緑色のアイカメラを点滅させつつ、真に問いかける。

 

 

「俺が戦う理由、それは1つだ」

 

 

前世。

C.E.で得た【花を吹き飛ばさせない為に戦う】と言う信念、それ自体は今も変わらない。

 

だがこの世界で新たに心に決めた【戦う理由】

それをデスティニーに告げる。

 

戦うだけしかできなかった自分に微笑んでくれた少女と、友と呼んでくれた親友達を守るために。

 

 

「花と彼女の笑顔を……例え傷だらけになっても俺は【彼女の笑顔と花達を吹き飛ばさせない為に戦う】」

 

 

デスティニーを見上げつつ、力強く告げる。

一瞬デスティニーが微笑む様に首をかしげたのは気のせいではないだろう。

 

 

『……うん、その言葉が聞きたかったよ』

 

 

デスティニーの機体が紅い光に包まれる。

そしてその光が真にゆっくりと近づき、包み込む。

 

周りの花畑が消え、視界が白に包まれる。

だがすぐそばで安心できる愛機の声が聞こえる。

 

 

『今までとそしてこれからも……私はアナタの力だよ、真』

 

『ああ、頼むよ。インパルス……いや【デスティニー】』

 

 

紅い光がゆっくりと装甲を形作っていく。

 

――――――――――――――――

 

 

『……シン、もう終わりなんですか?』

 

 

機能停止して落ちていく【インパルス】と真に落胆の感情が混ざった言葉が出る。

失望した、しかしそれはすぐに誤りであったことに気づく。

 

何故ならばインパルスが【紅い光】に包まれていくからだ。

 

 

『あれは……っ!』

 

『まさか、あっくんの、インパルスの第二形態移行(セカンドシフト)っ!?このタイミングでっ!?』

 

 

意思を奪われた千冬を通してモニター越しにそれを見ていた束から驚きの声が漏れる。

 

 

『ああ、シン……貴方と言う殿方は……っ!!』

 

 

紅潮した頬を思わず両手で押さえて、恍惚とした表情のラクスが呟く。

 

 

 

――少年の握った拳は自身の無力さで砕けた。

 

 

 

光がゆっくりと消えていく。

進化した真のISの表面装甲の色は全身が【黒】

手甲部分や脚部の一部には血の様な【紅】

 

 

 

――だが涙を流しつつも少年は願いを胸に前に進む。

 

 

 

背部には非固定浮遊部位として【デスティニーシルエット】の【VLユニット】よりも1回り巨大な【紅い翼】が浮かんでいる。

 

 

 

――失くすばかりの幼い瞳に宿す信念(ひかり)は。

 

 

 

『……俺はあんた達から【花】……命を守ってみせる』

 

 

 

――命を守り、咲かせ運んで往くことが【運命】

 

 

 

『そしてあの子の……簪の笑顔を……守ってみせるっ!』

 

 

 

彼の頭の中に機体の【名】が浮かんでくる。

 

 

【傷痕】の名を持つ機体。

その名は――

 

 

 

『飛鳥真、【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】……行きますっ!!』

 

 

 

【運命】の名を冠し、【傷】ついても決して折れない彼の剣が【紅い光の翼】を広げ、辺りを紅く染め上げた。

 

 




次回予告
英国で生まれ育った貴族の娘――誇り高き血統を胸に少女は舞う。
誇りを守るために、友を守るために。


「蒼き雫」


光のワルツを少女は奏でる。


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