【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
「……はっ!?」
目を開けると目の前に綺麗な花が咲き誇っている。
とても心地よい風と花の香りが鼻腔をくすぐってくる。
見渡す限りの花畑――以前夢で見た景色と全く同じ花畑に真は立っていた。
「ここは……あの夢の……っ!?」
先程アスランに斬られた胸の傷を触る――が自分が着ているISスーツにも身体にも傷はない。
「傷が……ない?」
『重傷だったけど治せない傷じゃなかったからねー』
セミロングの金髪に、白いワンピース姿。
以前夢であった少女が目の前に突如現れる。
だが真は驚きはしなかった。
【彼女】が何者であるかは大体の予想がついているからだ。
「……君は……」
『ん、分かってるくせにー』
少女がケラケラと陽気に笑う。
少女が一度咳払いしてから、真に告げる。
『私はアナタのIS【インパルスガンダム】の人格だよ』
「やっぱり……インパルスだったんだな君は」
真が予想していた通り、彼女はインパルスのコアの人格らしい。
以前の様に名前の部分だけノイズを感じることもなかった。
『……やっと伝わった……よかったぁ……』
「……インパルス、お前が出てきたって事は……」
『うん、シフトできるよ、
至極あっさりとインパルスが真に告げる。
だが何故彼女は自分をここに呼んだかが分からない。
「インパルス、何で俺をここに呼んだんだ? 第二形態移行ができるならそのまましてくれたって……」
『……真、アナタの言葉が聞きたかったの』
そういって彼女の姿が消える。
そして以前と同じように目の前が薄暗くなる。
上空を見上げると光を遮る人型。
C.E.を共に駆けた【運命】の名を冠する、頭部には【血の涙】を流すような紅いラインと紅い翼を持つ【MS】
その機体が真の目の前にゆっくりと降下し、片膝をつく体勢となる。
「……【デスティニー】」
『真は……何のために戦うのか、もう1度確認させて?』
デスティニーが緑色のアイカメラを点滅させつつ、真に問いかける。
「俺が戦う理由、それは1つだ」
前世。
C.E.で得た【花を吹き飛ばさせない為に戦う】と言う信念、それ自体は今も変わらない。
だがこの世界で新たに心に決めた【戦う理由】
それをデスティニーに告げる。
戦うだけしかできなかった自分に微笑んでくれた少女と、友と呼んでくれた親友達を守るために。
「花と彼女の笑顔を……例え傷だらけになっても俺は【彼女の笑顔と花達を吹き飛ばさせない為に戦う】」
デスティニーを見上げつつ、力強く告げる。
一瞬デスティニーが微笑む様に首をかしげたのは気のせいではないだろう。
『……うん、その言葉が聞きたかったよ』
デスティニーの機体が紅い光に包まれる。
そしてその光が真にゆっくりと近づき、包み込む。
周りの花畑が消え、視界が白に包まれる。
だがすぐそばで安心できる愛機の声が聞こえる。
『今までとそしてこれからも……私はアナタの力だよ、真』
『ああ、頼むよ。インパルス……いや【デスティニー】』
紅い光がゆっくりと装甲を形作っていく。
――――――――――――――――
『……シン、もう終わりなんですか?』
機能停止して落ちていく【インパルス】と真に落胆の感情が混ざった言葉が出る。
失望した、しかしそれはすぐに誤りであったことに気づく。
何故ならばインパルスが【紅い光】に包まれていくからだ。
『あれは……っ!』
『まさか、あっくんの、インパルスの
意思を奪われた千冬を通してモニター越しにそれを見ていた束から驚きの声が漏れる。
『ああ、シン……貴方と言う殿方は……っ!!』
紅潮した頬を思わず両手で押さえて、恍惚とした表情のラクスが呟く。
――少年の握った拳は自身の無力さで砕けた。
光がゆっくりと消えていく。
進化した真のISの表面装甲の色は全身が【黒】
手甲部分や脚部の一部には血の様な【紅】
――だが涙を流しつつも少年は願いを胸に前に進む。
背部には非固定浮遊部位として【デスティニーシルエット】の【VLユニット】よりも1回り巨大な【紅い翼】が浮かんでいる。
――失くすばかりの幼い瞳に宿す
『……俺はあんた達から【花】……命を守ってみせる』
――命を守り、咲かせ運んで往くことが【運命】
『そしてあの子の……簪の笑顔を……守ってみせるっ!』
彼の頭の中に機体の【名】が浮かんでくる。
【傷痕】の名を持つ機体。
その名は――
『飛鳥真、【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】……行きますっ!!』
【運命】の名を冠し、【傷】ついても決して折れない彼の剣が【紅い光の翼】を広げ、辺りを紅く染め上げた。
次回予告
英国で生まれ育った貴族の娘――誇り高き血統を胸に少女は舞う。
誇りを守るために、友を守るために。
「蒼き雫」
光のワルツを少女は奏でる。