【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE35 蒼き雫

真が落とされたのと同刻――

 

第1アリーナ シェルター付近

 

コンソールを必死に操作してインパルスにチャンネルを開こうとするが、応答はない。

依然インパルスの反応は消えている。

先ほどまで正確にとらえていた反応が消えた。

 

それが意味するのは、インパルスが撃墜されたということだ。

彼が向かったのはISの試合ではない。

 

命のやり取りをする――戦場だ。

その意味はよく分かっている。

 

 

『やだっ、帰ってくるって言ったのに……やだよぉっ』

 

 

簪の目から涙が溢れ、流れる。

操作していた手が止まってしまう。

 

嗚咽と涙が止められずに俯いてしまう。

 

 

同じようにシェルター入口をラファールで守っていた清香とナギはその簪の様子を、沈痛な面持ちで見ていた。

どう声をかけていいのか分からないのだ。

 

――そんな時であった。

 

 

「かんちゃん、ごめんっ!」

 

 

その言葉の後、パシッと頬を叩かれた。

今の簪は飛燕、つまりはISを身にまとっている。

シールドバリアにスキンバリアがあるため、生身の本音に叩かれた程度なんてことはない。

 

だがどういうわけか、叩かれた左頬はとても熱かった。

 

 

『本……音……?』

 

「……簪様、あなたは大切な人が傷ついてしまったときに泣いているだけなんですか?」

 

 

いつもの気の抜けたような表情や仕草ではなく、凛とした表情と口調。

従者として本気になった時の本音だ。

 

いつもと違う本音の様子に清香とナギも驚いている。

 

 

『……え?』

 

「飛鳥君がもしかしたら落されたのかもしれない、ならすぐに向かってあげるべきです。ここは私や清香に任せて下さい。幸い敵の狙いはシェルターではないように思えます」

 

『でっ、でも……っ』

 

「大丈夫です。これでも私は布仏の人間です。誰かを守る術は心得てます、だから行ってあげてください」

 

『……そうだよ、更識さん。行ってあげて、飛鳥君を助けてあげなよっ!』

 

『うん、ここは私たちが何とかするから』

 

 

清香とナギも本音に続いて簪に告げる。

 

 

『……3人とも、ありがとう』

 

 

マニピュレータ部分をいったん解除して、涙をぬぐう。

その様子を見た3人は頷いた。

 

 

『真を助けに行ってくるっ!』

 

 

ふわりと浮かんだ後、飛燕の特徴である光の翼を広げる。

真のインパルスと同じ青い光の翼を広げ、飛燕は戦場に向かう。

 

 

飛燕の飛行速度ならば、戦場にはすぐ到着できる。

残り数秒で到着できる。

 

その時であった。

飛燕のセンサーが見慣れない機体を捉えた。

 

その様子は簪も肉眼で確認できた。

 

 

『あれは……真っ!』

 

 

全身は黒を基調にしたIS。

間接部分は血のようにも見える赤。

飛燕と同じVLユニットの翼を広げる。

 

デスティニーインパルスとは違い、赤い光の翼を広げるその機体に搭乗しているのは真だ。

 

 

第二形態移行(セカンドシフト)……ううん、そんなのどうでもいい!無事でいてくれた……よかったっ)

 

 

簪はすぐさま背部に【マルチロックオンシステム搭載ミサイルコンテナ】を4つ展開した。

その目的は彼の援護。

 

相対している機体達にロックオン。

視線でロックするシステムの為、相手を凝視し、機体の各所をロックオンする。

 

 

『行ってっ!!』

 

 

コンソールを叩くと同時に、ミサイルが真と相対している者たちに向かっていった。

 

――――――――――――――――――

 

『行くぞ、デスティニーっ!』

 

 

黒と紅のIS【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】のVLユニットが【紅い光の翼】を広げ、最大稼動状態に移行する。

だがデスティニーの進路を塞ぐ機体が2つ。

 

暮桜とインフィニットジャスティスだ。

 

 

その2機を確認したとき、真の意識の中で【紅い種】が弾けた。

 

 

暮桜が雪片を振り上げると同時に、インフィニットジャスティスはビームライフルでデスティニーの回避先を予測してビームを放ってくる。

だがデスティニーは回避を選択しなかった。

 

デスティニーインパルスのVLユニットと比較しても【異常】と呼べるほどの速度で暮桜に接近し、雪片を振り上げた右腕を掴み上げて千冬に組み付く。

意識を失って洗脳されているとはいえ千冬が反応できない程の速度であった。

 

 

『千冬さんっ、すみませんっ!』

 

 

組み付くと同時に、彼女の腹に【右掌】を押し付ける。

 

右手マニピュレータ部分、人間で言う掌部分に一瞬だけ【紅い粒子の光】が収束し、放たれる。

掌の銛(パルマフィオキーナ)】を改良した武装であり、MS【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】に装備された【クラレント】。

 

同じの武装がこのISの両マニピュレータに装備されているのだ。

出力を大幅に下げており【絶対防御】を発動させ行動不能にさせるのが目的だ。

 

 

『かはっ!?』

 

 

絶対防御が発動したが衝撃までは完全に防御できなかったのか、千冬が衝撃に苦痛の声を上げる。

だが、先程まで虚ろな目をしていた彼女の瞳に意思の光が戻る。

 

 

『ぐっ……真、私は……いったい……っ!?』

 

『ちーちゃん、元に戻ったんだねっ!?』

 

 

千冬の様子が元に戻ったことに通信から束の歓喜の声が漏れる。

だがいまだに戦闘は続いている。

 

動きを止めた千冬にインフィニットジャスティスがビームライフルを向けていた。

それに気づいていたデスティニーが射線に割り込み、実体シールドで受け止める。

 

 

『千冬さん、動けますかっ!?』

 

『ぐっ……ああ、だが、エネルギーがもう……っ』

 

『っ、分かりました、援護しますから離脱してくださいっ!』

 

『……すまんっ』

 

『気にしてませんからっ!』

 

 

意識を失って真を攻撃した事を理解しているのか千冬の顔が曇る。それに笑顔とサムズアップで答えて、彼女の離脱を援護する。

 

アスランの射撃を防御しつつ、ビームライフルを展開。

連射と精密射撃を織り交ぜつつ、アスランの意識をこちらに向ける。

数十秒そうして、千冬の離脱を確認する。

同時にライフルを格納し、エクスカリバーに酷似した大型実体剣を展開する。

 

 

『ヴェスティージなのに、これがあるのか……サービスいいなっ!』

 

 

大型ビーム実体剣【アロンダイト】

 

アーサー王物語に登場する騎士【ランスロット卿】が持つ血に濡れた魔剣と同じ名を持つ武装だ。

かつてのMS【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】には装備されていなかった武装であるが、武器リストを確認した所、通常のビームサーベルの他に装備されていたのだ。

 

VLユニットを稼動させて、アスランに突っ込む。

アスランもそれを確認した途端、ライフルを格納していた。

 

 

『うおおおおおおっ!!』

 

『……シ……ンっ!』

 

 

超速度で迫るデスティニーの一撃。

 

何とか防御が間に合ったアスランはビームサーベルを交差させてアロンダイトを受け止めている形になっている。

鍔迫り合いになり質量の差から押し切ろうとしたが、一瞬、アスランのビームサーベルの【光】が強まりアロンダイトに走っている刀身ビームがかき消され、刀身にサーベルがめり込む。

同時に腰部に先程の隠し腕サーベルが出現した。

 

 

『っ!?』

 

 

咄嗟にアロンダイトを放棄して、離れる。

隠し腕サーベルは空振りし、耐ビームコーティングされているはずのアロンダイトが真っ二つに切断され、落下していく。

 

 

『今のは、まさか……』

 

 

先程の斬りあいで確認した【光】には見覚えがあった。

それは親友である一夏と先程離脱した千冬の代名詞――

 

 

『嘘っ、【零落白夜】っ!? あっくん、気をつけて、あの機体のサーべル、シールドエネルギーの変換効率がかなり悪いけど……零落白夜と同じだよっ!』

 

『やっぱりか……』

 

 

アスランの隠し腕サーベルで切り裂かれた時に発動したはずの絶対防御を切り裂けたのは、絶対防御を発動するエネルギーを無効化できる【零落白夜】のみ。

真の予想は当たっていたのだ。

 

 

『ふふ、単なる劣化品ですが……格闘戦ならばアスランの十八番ですからね』

 

 

ドレッドノートから発射されたビームをヒルダのドムに防御させつつ、ラクスが通信を繋げる。

それを無視しつつ、アスランに向けてビームライフルのトリガーを引く。

 

ビームサーベルを格納したアスランはビームシールドでビームを防ぐ。

接近戦でのアスランは強敵だ、加えて劣化品とはいえ零落白夜も持っている。

 

だが今のデスティニーならば――

 

 

『デスティニーならばこういう戦い方だってできるはずさっ!』

 

 

VLを最大稼動状態に移行――同時にビームライフルを連射しつつ、左マニピュレータからクラレントをビームライフルモードで放つ。

クラレントのビームは通常のビームライフルより出力が上である。

 

そのため、ビームシールドで防御していても衝撃は完全には防げない。

体勢が崩れたのは一瞬、だがそれで十分。

 

 

『次はコイツだっ!』

 

 

背部に2つの巨大な砲塔が出現し、2つの砲口を構える。

デスティニーインパルス時に装備されていた【テレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔】だ。

本来のMS【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】は対MS戦闘に特化した超高機動MSであったため大火力武装は搭載されていなかった。

だがインパルスから【第二形態移行】したIS【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】には装備されていたのだ。

 

即座にビーム砲塔のトリガーを引き、2つの高出力ビームがアスランに向かう。

体勢を崩しつつビームシールドでそれを受け止める。

 

しかし、先程のクラレントよりもさらに高出力なビームである。

いくらソリドゥス・フルゴールビームシールドであろうと高出力ビームが続けざまにぶち当たれば大きく体勢を崩される。

 

デスティニーはビームを発射した衝撃をあえて殺さずその勢いのまま宙返りを行い、衝撃を使って加速する。宙返りしつつ体勢を立て直すと同時に、【フラッシュエッジⅡ ビームブーメラン】を展開し、投げつける。

 

ビームブーメランを投擲した後、右掌のクラレントに粒子が収束。

通常のビームサーベルよりも高出力である【太いビームサーベル】が形成される。

かつてキラ・ヤマトを仕留めた【クラレント・ビームサーベル】

 

紅い光の翼を広げ、反逆の剣を構えてアスランに突っ込む。

 

 

『うおおおおおおっ!!』

 

『ちぃ……っ!?』

 

 

だがアスランも人格が消されているとはいえ、歴戦の戦士。

 

崩れた体勢を即座にAMBACで立て直す。

そして零落白夜を発動しているビームサーベルで迎撃する。

 

しかしデスティニーが突如、上方に飛び上がった。

同時にデスティニーの背後からフラッシュエッジが迫ってきていた。

VLユニットを最大稼動していた為、投擲したフラッシュエッジⅡを追い越していたのだ。

 

 

『なっ……!?』

 

 

咄嗟にビームサーベルでフラッシュエッジⅡを2つ、切り落とす。

しかしこの行為によってビームサーベルは振り切られてしまった。

 

クラレント・ビームサーベルが頭上より迫り、そのまま切り裂かれる。

表面装甲が切り裂かれ、絶対防御が発動。

 

苦痛の声がアスランから発せられる。

しかしまだ終わりではない。

右掌のクラレント・ビームサーベルが消失し、そのままアスランの腹部に掌底を叩き込む。

 

 

『うおおおおっ!!』

 

 

ビームライフルモードに変更したクラレントから零距離のビームが発射された。

絶対防御をビームの出力で貫通。

 

腹部装甲が完全に破壊され、アスランが吹き飛ばされた。

 

 

『ぐあああっ!』

 

 

吹き飛ばされたインフィニットジャスティスの表面装甲から色が落ち、灰色に変わっていく。

【フェイズシフトダウン】、VPS装甲がダウンした証拠だ。

 

 

『あぐっ……シ……ン……っ!』

 

 

フェイズシフトダウンしたインフィニットジャスティスが体勢を立て直すが、腹部装甲はビームによって破壊され、火傷が見える。

衝撃によって内臓にダメージがあったのか、軽く吐血していた。

 

 

『……あっ、あぁ……シン、素晴らしいですわ、本当のシンの翼と力……んっ、んふっ、たまりませんわぁ……!』

 

 

アスランが真に撃退された様子を紅潮した様子でラクスが眺めている。

その時であった、彼女のIS【ホワイトネス・エンプレス】がロックオン警報を表示したのだ。

 

 

『ラクス様っ!!』

 

 

同じくロックオンされたヒルダが、【スクリーミングニンバス】を展開しラクスの盾となって迫る【ミサイル】からの盾となる。

スコールのバスターも同じようにロックオンされていたため、十数発のミサイルをビーム砲で叩き落していた。

 

 

『……ミサイル? 一体誰が……?』

 

 

カナードやラキーナ、クロエの機体にはこれほど大量にミサイルを発射する武装はなかったはず。

ISのハイパーセンサーで確認する。

 

すると下方に反応があった。

ラクスにとっては【偽りの翼】

 

VLユニットを広げ【蒼い光の翼】を広げた機体が【ミサイルコンテナ】を放棄して真の傍に駆けつけていた。

 

 

『簪っ!?』

 

 

割り込んできた機体はよく知る【飛燕】――簪だ。

突如、想い人である簪が割り込んできたのだ、咄嗟に彼女の傍に移動して問い詰める。

ラクスのISの【単一使用能力】を警戒しているのもあるが、やはり心配なのだ。

 

 

『何で来たんだっ!?』

 

『戦う為に……私も戦う』

 

『何で簪が……っ!』

 

 

彼女に戦わせるつもりは毛頭なかった真であったが、先程戦闘への恐怖で震えていた筈の彼女の瞳に宿る意思に気づき、口をつぐんだ。

守られているだけじゃない。

 

その為に戦う意思が彼女から感じられたのだ。

 

 

『インパルスの反応が一瞬消えた時に何も分からなくなって……でも本音が教えてくれた、泣いているだけなのって……だからアナタの傍で戦わせて、真』

 

『……分かった、なら援護頼む、簪』

 

『……うん、分かったっ!』

 

 

簪に微笑むと彼女も微笑み返してくれた――それだけで先程までの戦闘やマニューバの疲労など吹き飛ぶようであった。

そして真は簪と並び立ちVLユニットを起動させる。

 

ラクスのISの【能力】が彼の【推測】の通りならばこれで簪を守ることも出来る。

 

簪がバルムンクとビームライフルを展開し、真と共に光の翼を広げる――その様子をラクスは信じられないと言った表情で見つめていた。

 

 

『……は? あの娘は一体……? え、シンが何故あのような娘と? 何故? 私がいるのに……?』

 

 

ラクスの胸中では生まれて初めて困惑の感情が浮かんでいた――そしてそれは次第に別の感情に変わっていく――その感情の名は――

 

 

『……許しませんわ、私のシンを……アナタの様な小娘が、絶対に許しませんわ……っ!』

 

 

【嫉妬】

 

この戦闘が開始されてからずっと余裕の表情を浮かべていたラクスの顔に怒りの感情が浮かんだのだ。

 

――――――――――――――――――

 

同時刻――第1アリーナ付近

 

 

『どうした、それが1号機の実力か?』

 

『くぅ……っ!』

 

 

放たれたレーザーを回避したセシリアが苦悶の声を漏らす。

 

セシリアと対峙する仮面をつけた女性が駆る機体は【サイレント・ゼフィルス】

 

イギリスで開発されたBT兵器搭載型第3世代ISであり、【ブルー・ティアーズ】とは姉妹機に当たる。

機体もブルーティアーズと似通っている部分が見受けられるが、所々に【蝶】を連想させる意匠がある。

この機体は数週間前に何者かに強奪されていたはずなのであるが、突如としてここに現れたのだ。

 

倒れたラウラの傍には鈴とシャルル(シャルロット)が蹲っている。

3人ともISが破損しており身動きがとれない状況だ。

 

セシリア達4人は上空に現れた戦艦(アークエンジェル)によって出された非常事態宣言により非戦闘員の避難誘導を行っていたのだ。

そこにサイレント・ゼフィルスが奇襲を仕掛けてきたのだ。

奇襲であったこと、軍人であったため咄嗟に動けたラウラが3人を庇ってレーザーの雨を受けて気絶、サイレント・ゼフィルスのビット兵器によって鈴とシャルルは戦闘不能になるまでエネルギーを減らされてしまっていた。

 

 

『セシリア、ごめん……っ!』

 

『情けないわ、ホント……っ!』

 

『いいのですよ、友人ではないですか、お気になさらずに……っ!』

 

 

4機のティアーズをスラスターから切り離し浮遊させ、スターライトMK-Ⅲと共に5条のレーザーをサイレント・ゼフィルスに向ける。

その行動にサイレント・ゼフィルスの搭乗者は驚愕の声を上げた。

 

 

『っ!? 同時制御だとっ!?』

 

 

瞬時加速によって、レーザーの射線から退避し、同じ様にビットを切り離す。

 

 

『そちらも同時制御……っ!』

 

『ふん、貴様も同時制御が行えるとはな……情報で聞いていたよりもできるじゃないか』

 

 

2機が互いのビットを操作しつつ、手に持つ狙撃銃からレーザーを発射させる。

その射撃戦の中、サイレント・ゼフィルス側の射線が動けない鈴達に向かう。

咄嗟にビットを盾にして彼女達を庇う。

 

元々のビットの搭載数で劣っているブルー・ティアーズにとっては劣勢にならざるを得ない。

 

 

『くっ……まだっ……!』

 

『私と同等の制御技術を持つ搭乗者か……そんな奴が【足手まとい】を庇いつつ戦う必要があるのか? 奴等を見捨てればまだ勝機があるんじゃあないか?』

 

 

サイレント・ゼフィルスからの挑発の言葉。

その言葉はセシリアにとっては決して許せないモノである。

 

セシリアにとって【友人】は何よりも大切なモノだからだ。

自身の父親に言われた全力でぶつかり合える友人。

 

彼女にとっての【誇り】を貶されたと等しいのだ。

怒りによってセシリアの心に雫が落ち、【波紋】が広がる。

 

 

ティアーズから発射された【レーザー】がサイレント・ゼフィルスに向かう。

だがティアーズの射線を読んでいた相手は【シールドビット】で防御を行う。

 

だが発射されたレーザーはまるで【意思】を持っているかのように【湾曲】してシールドを飛び越えて来たのだ。

そして本体であるサイレント・ゼフィルスに直撃し、シールドエネルギーが大幅に減少する。

 

 

『なっ、何だとっ!?』

 

『……これが【偏向射撃(フレキシブル)】……掴みましたわ』

 

 

ISには意思があり、搭乗者の思考や精神を読み取る機能も搭載されている。

セシリアの怒りに呼応するかのようにブルー・ティアーズは稼働率を最大に引き上げたのだ。

それによって解禁された機能、【偏向射撃(フレキシブル)】――文字通りレーザーの軌道を搭乗者であるセシリアの意思でコントロールできるのだ。

 

 

『……アナタは私の大切な友人を……【誇り】を貶しましたわね?』

 

『ばっ、馬鹿な、偏向射撃だとっ!?』

 

 

サイレント・ゼフィルスの搭乗者がはっきりと焦りの感情を声に乗せつつもビットを操作し、レーザーを照射する。

そのレーザーの射線には鈴達も含まれていた。

 

だがそのレーザーはティアーズから放たれた湾曲レーザーによって防がれ――相殺した。

 

 

『……凄っ』

 

『レーザーでレーザーを相殺……はは、国家代表クラスの操作技術だよ』

 

 

その神業に射撃戦を眺めていた鈴達からも感嘆の声が上がる。

 

 

『なっ!?』

 

 

目の前の光景にサイレント・ゼフィルスの動きが止まる。

それにあわせてセシリアが手に持つ【スターライトMK-Ⅲ】を掲げて声を上げる。

それは宣誓。

 

己を鼓舞し、誓いを立てる行為。

 

 

『我が名は【セシリア・E(エリナ)・オルコット】ッ! 我が友、ラウラ、鈴音、シャルルの名誉の為にっ! 我が祖国の名誉の為にっ! そして我が誇りの為にっ!』

 

 

狙撃銃を向け、ティアーズからレーザーを連続で発射。

 

そして偏向させることで【球体】の様にサイレント・ゼフィルスを包み込む。

同時に相手のビット兵器を撃ち抜く。シールドビットは念入りに撃ち抜き無力化させる。

 

 

『なっ、そんな……これは……っ!?』

 

『この私がアナタを敗北に叩き落して差し上げますっ!!』

 

 

レーザーの【球体】がセシリアの言葉と同時に一気に中心点へ収束。

 

それはつまりサイレント・ゼフィルスにとっては【詰み】であった。

 

 

『うわあああっ!?』

 

 

レーザーの球体によってシールドエネルギーが急激に減少。

 

そして表面装甲などが次々に破損していく。

ついにはエネルギーが枯渇する。

 

同時にレーザーの【檻】が消える。

 

機能停止したサイレント・ゼフィルスが強制解除され、搭乗者が落下する。

待機形態、ブルー・ティアーズと同じく【イヤーカフス】に変わったISを回収、落下する搭乗者をセシリアが受け止め、状態を確認する。

 

意識を失っているが命に別状はなかった。

 

そして身動きが取れない2人にセシリアが機体を寄せる。

 

 

『……お時間がかかってしまい申し訳ありませんわ、お二人とも大丈夫ですか?』

 

『……ははっ、凄いね、セシリア』

 

『……なーんか、間抜けなイメージになってない、私たち?』

 

『ふふっ、私がシェルターまでエスコートいたしますわ……それに彼女も拘束しなければなりませんし』

 

 

セシリアの言葉に苦笑しつつ、ISを解除する。

エネルギーが尽き、機体も破損している。

 

戦闘継続は不可能である。

意識を失っているラウラとサイレント・ゼフィルスの搭乗者をセシリアは両脇に抱えて、ISを解除したシャルルと鈴を守りながらシェルターへ向かった。

 

 




簪参戦、ああ、修羅場…。

次回予告


彼女にとって全ては自分の思い通り。
だが、彼女の想いは、男には届かない――それを知ったとき、歌姫は何を思うのか。

「歌姫の怒り」

放たれる大天使の力を薙ぎ払え、デスティニー!



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