【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE36 歌姫の怒り

同時刻

第1アリーナ付近

 

 

デュエルと【4対1】で戦っているはずの一夏達の状況は一変していた。

 

【4対1】から【4対5】に状況が変わったのだ。

その理由は、突如として【黒い機体】が【4機】、戦場に乱入したためだ。

 

乱入した黒いISは以前戦った無人機。

ストライクとイージスと同じGタイプの頭部を持っており、デュエルの指示によって左腕に装備されている攻盾システム【トリケロス】から発射される3連装超高速運動体貫徹弾【ランサーダート】が次々に発射され辺りの地面を穿っている。

 

乱入した黒いISの名は――【ブリッツ】電撃を意味するISだ。

 

 

『くっ、何なんだよ、コイツも無人機かっ!』

 

『一夏後ろだっ!』

 

 

一夏の背後に突如として現れたブリッツがトリケロスよりレーザーライフルを放つ。

箒の叫びによって咄嗟にスラスターを噴かして白式はレーザーを回避する。

 

同時にブリッツの姿が消えていく。

MSブリッツと同じく【ミラージュコロイド】が装備されているのだ。

 

 

『姿が消える上に数でも向こうが上に……厄介ね』

 

 

【蒼流旋】でブリッツを突くが、【装甲】のみで受け止められた上に傷が見えない。

PS装甲が装備されているためよほどの威力でなければ装甲を抜くことはできないのだ。

 

そして別のブリッツがレーザーライフルを向けているのを察知。

 

ランスに纏う【水】を操作してレーザーを受け止める。

水が蒸発し、レーザーが減退。

減退したレーザーは薄い装甲でも充分に受け止める事が可能であった。

この水は【霧纒の淑女】の特殊なナノマシンで構成されているため、操作が可能なのだ。

 

 

『ははっ、どうしたよ、さっきまでの強気な表情はよぉっ!』

 

 

デュエルはブリッツに指示を出しつつ、後方に下がっている。

その様子を舌打ちしつつ、楯無は戦況を分析する。

同じように隣では利香。

【ガイアガンダム】もビームサーベルを抜きつつ分析を行っていた。

 

 

『……』

 

 

(おそらく奴が後方に下がったのは黒い機体に指示を出しているときは動けないから……だけど4機は互いにカバーしあうように姿を消したり出したりしてくる……本当に厄介ね)

 

 

そこまで分析したとき、プライベートチャネルが繋がる。

通信相手は利香であった。

 

 

『楯無ちゃん、私の指示通りの場所に爆発を起こすことってできる?』

 

 

突然の質問であったがすぐに返す。

 

 

『はい、できます』

 

『なら、4秒後、2時の方向4mの座標に爆発よろしく』

 

『了解しましたっ!』

 

 

チャンネルをつなげたまま、【蒼流旋】を構えて利香の指定した座標に【清き熱情(クリア・パッション)

 

水蒸気爆発を起こす。

するとIS一機を余裕で包み込むほどの水蒸気爆発に何かが巻き込まれた。

 

 

『なっ、何っ!?』

 

 

オータムが、1機のブリッツが爆発に飲まれ、四肢が吹き飛び行動不能になったことに困惑と驚愕の声を上げる。

 

 

『やっぱりブリッツは消えている最中はPS装甲じゃない。次、一夏君、箒ちゃん、君達の目の前に1機ずついるから、ぶった切ってあげて!』

 

『わっ、分かりましたっ!』

 

『分かりましたっ!』

 

 

一夏と箒とも通信をつなげていたようで、彼らにも指示を飛ばす。

そして2人が自身の得物を振り上げ、スラスターを使用した一撃を繰り出す。

 

鈍い金属音が響き、ブリッツ2機が両断され、崩れ落ちる。

その様子にさらにオータムの声が困惑の声が響く。

 

 

『くっそぉ、どうなってやがるっ! なんでてめぇにブリッツの動きが分かるんだっ!?』

 

『私をあまり舐めないで欲しいわね、アナタとは【経験】が……【場数】が違うのよ、テロリストさん?』

 

 

利香の前世は軍人であり【MSパイロット】である。

テロリストのオータムも命をかけた戦闘は経験しているだろうが、場数がそもそも違うのだ。

 

ミラージュコロイドも万能ではない。

ハイパーセンサーの機能を熱量感知に切り替え、ブリッツの行動パターンを察知したのだ。

またブリッツの行動パターンは以前、真が撃破したストライクと全く同じ行動パターンであることも行動を見抜けた要因ではあるのだが。

 

 

『はあっ!』

 

 

ビームサーベルで姿を現し硬直していた1機を貫いて無力化。

 

これで再び【4対1】の状況に戻る。

ビームライフルを利香に向けるが、背後に瞬時加速で回っていた楯無に蒼流旋を突きつけられる。

 

 

『ぐっ、くそがぁ……!』

 

『チェックメイトね、亡国機業のテロリストさん、アナタには色々と情報をはいてもらうわよ……?』

 

『……へへ、それはどうかなぁ?』

 

 

オータムが明確に笑みを浮かべた時であった。

 

ハイパーセンサーが頭上から【流線型】の何かが数個突っ込んでくるのを察知した。

楯無だけではなく一夏や箒、利香の頭上にも流線型の何かが突っ込んできている。

 

 

『なっ、こいつはっ!』

 

『あのときの無人機っ!』

 

『ちっ、イージスっ!?』

 

 

突っ込んできたのは巡航形態に変形した【イージス】

 

そしてその反応には以前と明確に異なる点があった。

それは突っ込んできた機体から発せられる熱量の反応が通常より高いのだ。

熱量の差に利香の頭の中で1つの答えが浮かぶ。

 

 

『やばい、自爆する気っ!?』

 

 

咄嗟にビームサーベルと肩部に展開している非固定浮遊武装の【ビームブレイド】を展開し、迫ってくるイージス1機をサーベルを突き刺す。

同時にビームブレイドでもう1機を両断する。

 

楯無も同じ様に蒼流旋と水を使ってイージスを無力化していた。

しかし――

 

 

『うわああっ!?』

 

『くっ、このぉっ!!』

 

 

一夏の白式、箒の紅椿にイージスが組み付いてしまう。

利香と楯無に比べるとこの2人の技量はどうしても劣ってしまう。

 

組み付かれるのも仕方ないであろう。

 

 

『じゃあなっ!』

 

 

イージスに組み付かれてしまった一夏と箒に浮き足立った利香と楯無を尻目にオータムは離脱していく。

 

 

『まっ、待ちなさ……っ!?』

 

『楯無ちゃんっ、箒ちゃんをっ!』

 

 

ビームサーベルで白式に組み付いたイージスの脚部を両断して切り離し、ビームブレイドで両断する。

利香の言葉に我に返った楯無は紅椿に組み付いたイージスを無効化に向かう。

 

蒼流旋と水を使って紅椿に組み付いたイージスを無力化、熱源の低下を確認した楯無が利香に通信を繋げる。

 

 

『……すみません、一瞬取り乱してしまいました』

 

『ん、OKOK、まだ楯無ちゃんも若いからね、次があるよん』

 

『……ありがとうございます、なぜか利香さんの言葉には説得力がありますね。そこまで年齢が離れているわけではないのに』

 

『あはは、なんでだろうね……とりあえず私は上司に連絡しなきゃ……(言えない……私、前世合わせると年齢3桁だなんて言えない!)』

 

 

真達くらいにしか話せない秘密に心の中で涙を流して、チャンネルを優菜に繋げる利香であった。

 

――――――――――――――――――――――

同時刻――第1アリーナ 上空

 

 

VLユニットから【紫の光の翼】を広げつつ、ラクスが簪を睨む。

その目にははっきりと【怒り】の感情が込められていた。

 

 

『……アナタの様な小娘……私の【ホワイトネス・エンプレス】で人形にして差し上げますわ……っ!』

 

 

先ほど千冬を操った時とは異なり【最大稼動状態】で光の翼を発生させている。

 

 

『させるかよっ!』

 

 

真のデスティニーが簪のすぐそばで【紅い光の翼】を広げる――同じく最大稼動状態でだ。

 

 

『撃つぞ、簪っ!』

 

『分かったっ!』

 

 

真のデスティニーが【テレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔】を展開、同時に簪が【バルムンク】をラクスに向けて【砲撃モード】に切り替える。

3条の高出力ビームがラクスに向かう。

 

 

『っ!?』

 

 

ビームの発射直前にVLユニットを操作。

自身を光の翼で包み込むように操作する。

VLユニットの光の翼をビームシールド代わりに使ったのだ。

 

3条のビームが光の翼に直撃。

ビームを拡散することには成功するが、衝撃までは防げなかったようでラクスが吹き飛んでいく。

 

 

『ラクス様っ!!』

 

『行かせんっ!!』

 

 

カナードのドレッドノートに押さえつけられていたヒルダが思わず声を上げる。

だがビームサブマシンガンから発射されるビームの嵐に動きを止められており、ラクスの援護に迎えない。

 

 

『ヒルダっ、なら私が……っ!!』

 

『行かせないっ!』

 

 

ラキーナのストライクI.W.S.P.がバスターの目の前に瞬時加速で移動。

 

同時にフラガラッハ大型ビームブレイドを振り下ろす。

間一髪で回避に成功したバスターは後退せざるを得なかった。

 

 

『くぅっ!!』

 

 

おぼつかないながらもAMBACに成功してラクスが姿勢を立て直す。

 

 

『なっ、何故ですのっ!? 何故その女に私の単一仕様能力が効きませんのっ!? その女には【S.E.E.D.】の力も【C.E.の記憶】もないはずなのにっ!?』

 

 

取り乱したようにラクスが声を上げる。

それに笑みを浮かべつつ真が答える。

 

 

『アンタの単一仕様能力はおそらくVLユニットを媒介にしている。千冬さんを操った時から思ってたが当たりみたいだな』

 

『まっ、まさか……シン、あなたは自分のVLで私の生体ナノマシンを……っ!』

 

『VLにはエネルギー干渉機能がある、アンタのISの能力もそれを媒介にしてる、なら俺のVLで相殺することもできるはず……違うか?』

 

『くぅ……アナタの美しい翼を、そんな……そんな小娘の為にぃ……っ!』

 

 

取り乱したラクスが自身の頭を掻き毟る。

美しい桃色の髪の毛は乱雑になり、虹を模したかのような髪留めが外れ、落下していく。

 

 

『何故、ですの。何故アナタは私ではなくそんな……小娘を守るのです……っ!?』

 

『決まってる、俺は簪を愛している。だから守る、花と共に……それだけだっ!』

 

『真……っ!』

 

 

テレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔をラクスに向ける。

その時であった、ラクスの中で【何か】が壊れたのは。

 

 

『……ふっ、フフフ……あはっ、あははははっ!!』

 

 

ラクスが狂喜の笑みを浮かべつつ、高笑いを上げる。

彼女の豹変ぶりに一瞬トリガーを握る手を止めてしまった。

 

それが致命的なミスであるとも知らずに。

 

 

 

『ローエングリン、発射……っ!』

 

『なっ!?』

 

 

頭上のアークエンジェルの【足】部分にISと同じ様に量子展開により巨大な砲口が2門顕現したのだ。

そしてその砲口からISのビーム兵器とは比べ物にならない出力のビームが発射され、IS学園の校舎の一部を削り取って海面に着弾する。

着弾した海面では水蒸気爆発が発生し、巨大な水柱があがる。

 

同時にラクスの姿が消えていく、ミラージュコロイドだ。

加えてヒルダや、スコール、戦闘不能になって降下し続けていたアスランの姿も消えていく。

 

 

『ふっ、ふふ……もうこんな世界いりませんわっ、シン、アナタが私のモノにならないのなら……壊して差し上げますわ』

 

 

彼女の言葉と行動からラクスが何をしようとしているのか、理解した――【撤退】だ。

 

 

『っ、逃がすと思っているのかっ!!』

 

 

デスティニーには【ミラージュコロイドデテクター】は装備されていないが、センサーを熱源探知に切り替える。

ミラージュコロイドを使っていても熱源は発生する、故にブリッツはミラージュコロイドを使用するときはアンカーなどで極力熱源を発生させないようにしていたのだ――そして捉えた。

 

 

『そこだぁっ!』

 

 

テレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔のトリガーを迷いなく引き、ビームが発射される。

だが手ごたえがない。

 

 

『なんだとっ!? センサーでは反応があるのにっ!?』

 

 

センサーでは目の前にラクスのISの反応がある。

だというのに手ごたえのなさに声を上げる。

 

 

『これは……【量子ウィルス】だとっ!? 俺達の機体のセンサーが惑わされているっ!?』

 

 

カナードが真に通信を繋げる。

そう、すでにデスティニーや飛燕、ドレッドノートなどの機体のセンサーはラクスが散布した【量子ウィルス】によって惑わされている。

 

束のラクスの機体の単一仕様能力【強制干渉】だと思っていたのはこのウィルスの力なのだ。

本来は機体の機能全てを停止させて行動不能にすることもできるが、束による【強制干渉】に対するセキュリティ強化によってセンサーのみ惑わされている状態だ。

 

 

『シン、それではごきげんよう。あぁ、アークエンジェルのローエングリンの次弾目標はアリーナのシェルター入口を設定しておりますので、どうぞ阻止していただいてもよろしいですわよ?』

 

『くっそぉっ!! 束さん、どうにかならないかっ!?』

 

『このウィルスっ、ごめんあっくん、今すぐには無理っ!!』

 

 

ラクスからの通信が切断される。

おそらく離脱にかかっているのだろう。

 

通信から返ってくる束の声に思わず舌打ちしてしまう。

しかしそれも仕方がないであろう、あそこまで追い詰めたのにみすみす逃がすしかできないのだから。

 

 

『真っ、アークエンジェルを落とすぞっ!』

 

『……分かった、カナードっ!』

 

『私もやるっ!』

 

 

カナードと真の通信に簪も割り込む――真が頷いてVLユニットを起動、同じく簪もVLユニットを起動してアークエンジェルが停止している高度まで翔け上がる。

 

C.E.世界のオリジナルと比べると幾分かダウンサイジングされているがそれでも百m級の戦艦の姿であることは変わりない。

予想外の通信が束からつなげられる。

 

 

『嘘っ、その戦艦……ISコアの反応が複数あるっ!?』

 

『つまりは……【アークエンジェルの形をした巨大な無人機】って事ですか?』

 

『うん、そうなる……っ、砲口にエネルギー反応、やばい、落としてっ!』

 

 

束の声に焦りが混じる――アークエンジェルの足の様に見える部分にエネルギーが収束していく。

 

 

『アリーナからの避難は完了してるよ、兄さんっ!』

 

『了解した。ローエングリン部分を撃ち抜くぞ、真、更識、お前達は右足。俺とラキ、クロエは左足を狙えっ!』

 

 

カナードの指示の元、5機のISがそれぞれ射撃武装を展開――即座に標的に向けてトリガーを引く。

高出力ビームと実体弾が砲塔【ローエングリン】を貫通――爆発が連鎖していき、艦首までが爆発によって吹き飛ぶ。

 

ゆっくりとアークエンジェルが高度を下げ落下していく。

そしてアリーナに乗りかかるようにして機能停止する。

 

アークエンジェルが機能停止されたからか、アリーナに残っていた無人機ストライク、イージスが機能を停止して落下していく。

 

 

『……終わったか』

 

『……ああ、だが奴を取り逃がしてしまった。被害も相当なものだろう、ローエングリンは環境汚染が少ないタイプのものであることが不幸中の幸いか』

 

 

センサーを放射能検知に切り替えて、汚染状況を確認していたカナードが呟く。

 

ラクス達が離脱したことでセンサーがある程度は正常化していたのだ。

この程度であれば現代の除染技術ならば問題ないレベルだ。

 

 

『……あいつ、世界を壊すって言ってたけど……』

 

『奴の狙いは【世界の支配】なんてものではなく……【お前】だったということだ、真。 そしてお前に拒絶されたことで奴の中で何かが壊れたんだろう。嫉妬で世界を狂わせるか、化物め』

 

 

カナードがラクスの狙いについて真に伝え毒を吐く。

 

 

『……奴が何をしようとしても止めて見せるさ』

 

『私も手伝うよ、真。兄さんも力を貸してくれるよね?』

 

『……ああ、そうだな。俺達がやらねばならない……この世界をC.E.の様にさせないためにも』

 

 

落下したアークエンジェルを眺めて真達が改めて止める決意を固める。

 

――戦闘はようやく終結したのだった。

 

 





次回予告

全てを話す、そう彼女と約束した。
だから全部包み隠さずに話す、自分の過去を――【シン・アスカ】としての戦いの全てを。

「INTERMISSION 戦い終わって…」


彼女の不安を拭い去るために、彼女に信じてもらうために、真は――


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