【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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INTERMISSION 戦い終わって…

歌姫の騎士団の襲撃から数時間後。

 

アークエンジェルから発射された陽電子砲【ローエングリン】による軽度の放射能汚染はすでに除染されている。

タッグトーナメントの為に招かれていた各国の要人や企業関係者については、緊急事態のため、帰還や帰国が行われていた。

 

また、襲撃により学園施設にも少なくない被害が出たため1週間程度の休校となり、生徒達は帰省、または学生寮で待機している。

アリーナに落着したアークエンジェルについてはデータのサルベージが行われる予定だ。

 

そして襲撃による怪我人も少ないながらも出たため保健室では対応に追われており、その中には真の姿もあった。

千冬やラウラについては現在治療も終わって保健室にはいない。

 

 

「……やっと終わったか」

 

 

ISスーツから、ジャージに着替えた真が先程のまでの検査を思い出してため息をついた。

 

真もこの数時間強制的に保健室で検査を受けさせられていた。

なぜならインパルスの第二形態移行の際に明らかに致命傷を負っていた真の傷が回復していたからだ。

 

これについてはISの開発者である束にも不可解な事象であり、調査を行っている。

束としてはISコアが形態移行の際、生体維持機能に干渉して傷を治療したと、推測している。

 

身体に負担がかかったか不明であるためあまり無理しないようにと保険医には言われている。

 

 

「むしろ早く終わったほうだと思うがな」

 

「身体は大丈夫、真?」

 

 

保健室の扉を開けて、廊下に出ると真の検査が終わるまで待っていたのかカナードとラキーナが話しかける。

 

体調は特に問題ない。

 

 

「まあ、問題ないけど」

 

「そうか。なら行くぞ、今回の事を織斑一夏達にも説明しなければならないからな」

 

 

そのカナードの言葉に真は驚きつつも納得して答える。

 

 

「……そのことなんだけどさ」

 

「……簪さんのこと?」

 

「……ああ。約束したんだ、全部話すって。だからさ、カナード達で一夏達に伝えてくれないか?事情を知ってる千冬さん達もいるわけだしさ。頼む」

 

 

2人に頭を下げ、真がラキーナの質問に答える。

それにカナードがため息をつく。

 

 

「……まあ、お前がいなくても【奴等】については俺達が伝えられるだろうが……いいだろう、分かった」

 

 

少しだけ呆れたような表情を浮かべつつ、カナードは了承の言葉を返す。

 

 

「悪い、助かる」

 

「俺達は生徒指導室で織斑一夏達に今回の事を説明する。何かあったら連絡しろ」

 

「ああ、分かったよ」

 

 

2人と別れて学生寮の自室に向かいつつ、待機形態の【デスティニー】――【インパルス】と同じくドッグタグ――を握りチャンネルを繋げる。

 

 

『簪、聞こえるか?』

 

『えっ、あっ、真っ!? 検査終わったの?』

 

 

少し驚いたような簪の返答が返ってきた、それに苦笑しつつ真が返す。

 

 

『ああ、特に問題なかったよ。それでさ、今から学生寮の部屋に来れるか?』

 

『……うん、行けるよ。今生徒指導室にいるけど……』

 

『ありがとう。千冬さんや束さんにはカナードとラキーナに話伝えてくれるように頼んだから、頼む』

 

『うん。全部話してくれるんだよね?』

 

『……ああ』

 

『……分かった、今から向かう。それじゃ後で』

 

『ああ。俺も向かってるから、それじゃ』

 

 

通信を切って、小走りで自室に向かう。

 

 

―――――――――――――――――

10分後――学生寮 自室

 

先に自室に着いた真はソファーに座りつつ、簪が戻ってくるのを待っていた。

そして部屋の扉が開いた。

 

 

「来たよ、真」

 

「ああ」

 

 

簪が部屋に戻ってきた――そして真の隣に座り、彼を見つめる。

 

 

「……教えてくれるんだよね?あの時は【因縁】って言ってたけど……」

 

 

ラクス・クライン一派との戦闘に参加する際に発した【因縁】という言葉が簪はずっと心に引っかかっていたのだ。

 

 

「……ああ、簪はさ……【前世】って信じるか?」

 

「……え?」

 

 

突然の真のオカルト要素に溢れた言葉に思わず簪は戸惑いの声を出してしまった。

しかし自分を見つめる、真の目は真っ直ぐとこちらを見ている。

 

それに彼がこの状況で冗談を話すような人間じゃないのは理解している。

ならばいっていることは真実なのであろう。

 

 

「……真が言うなら信じるよ」

 

「……ありがとう。俺には前世、【C.E.(コズミック・イラ)】っていう世界の記憶があるんだ。俺はそこで戦ってたんだ……【シン・アスカ】として」

 

 

そこから真は以前千冬に説明した事と同じ事を話していく。

 

ヤキン・ドゥーエ戦役、メサイア戦役、ネオ・ザフト戦役

戦乱に満ちたC.E.の歴史について。

 

その戦争の発端となったナチュラルとコーディネーターの深い溝の事について。

MSやコロニー等の宇宙に進出できるようになった科学技術の事について。

 

【シン・アスカ】として、軍に所属しMSに乗って戦っていた事について。

戦乱の歌姫、ラクス・クライン達との因縁について。

 

そして、自身が戦う理由について。

 

 

「戦争で家族を失って……何もできなかった無力さを悔やんで力を求めた。奴等と戦いに負けた後もずっと戦い続けて、やっと今ある【花】、【命】を守るって自分の信念を見つけられたんだ」

 

「……真が、私を……【飛燕】の事で助けてくれた理由ってもしかして……」

 

 

彼女が左手中指の指輪。

待機状態の【飛燕】に触れながら言う。

 

 

「……ああ。ザフトに入隊した時の自分と同じだと思った。あのときの簪の目が俺と同じだと思ったんだ……だから助けたいって心から思ったんだ」

 

 

苦笑を浮かべつつ、簪に答える。

 

 

「……ここまでが俺の因縁。俺の秘密だ……信じてくれるか?」

 

 

真の問いかけにコクンと簪は首を縦に振る。

 

 

「私は……真の事を信じるよ」

 

「……ありがとう」

 

 

簪が微笑みながら真に告げる。

彼女の言葉と微笑みで幾分か心が軽くなったことを感じる。

 

だが――

 

 

「……でも、真は【約束】を破ったよね?」

 

 

真の瞳を真っ直ぐ見つめつつ、簪は真に迫る。

突然の言葉に一瞬頭が混乱してしまった。

 

 

「えっ、約束……っ!?」

 

「……【無事】に戻ってくるって、約束……したよね?」

 

「……あっ」

 

 

そう、真はラクス・クライン一派との戦闘に参加した際に彼女と約束していたのだ。

だがその結果は傷は治ったとは言え、一時は致命傷を受けて意識を失ったのだ。

完全に【無事】とは言いがたい。

 

思わず声を漏らすと同時に、簪が彼の右腕に抱きつく。

 

その身体は少しだけ震えていた。

 

 

「……簪」

 

「……真がいなくなるんじゃないかって……怖かった……っ!」

 

 

声が涙声になっている。

戦う覚悟を決めたとはいえ、それと想い人を想う気持ちは別物だ。

故に彼女は震えているのだ。

 

 

「……本当にごめん。それしか言えないけど……ごめん」

 

 

そっと左手で彼女の頭を撫でるが――

 

 

「……やだ」

 

 

首を横に振りつつ、彼女が答える。

その様子に苦笑しつつ、真が尋ねる。

 

 

「どうすれば……許してくれる?」

 

「あの人達との因縁……また真は戦うんでしょ?」

 

「……ああ、そのつもりだ」

 

「……なら……信じさせて」

 

「信じさせてって……んっ!?」

 

 

彼女の言葉に疑問の声を出した瞬間、物理的に口をふさがれた。

 

彼女からのキスで。

 

 

「んっ……はむっ……っ!」

 

 

以前、デートの際にした口づけとは違い、口内に舌を入れられて舌を絡ませる濃厚な口づけ。

それだけで心臓が早鐘を打つ。

 

その未知の感覚は数秒が数分に感じるほどに長かった。

 

そして簪の方から離れる。

彼女の口と真の口には唾液の橋が架かっていた。

 

 

「簪……っ」

 

「……真を感じたい。もっと感じたい。ごめんね、こんな卑怯な感じになっちゃって……でも今は真に触れていたいの、そうすれば信じられるから」

 

 

頬を朱色に染めつつ、簪が告げる。

簪の想いを受け取って同じく答える。

 

 

「分かった。俺だってその……簪に触れたい。簪を感じたい。いいのか?」

 

「……うん」

 

「……分かった。言っとくけど俺【童貞】だからな、そういうのなかったし……」

 

 

バツの悪そうな顔で真が言う。

それに苦笑しながら簪が返す。

 

 

「……私も……初めてだから……その……優しくお願いします」

 

「ぜっ、善処します……っ!」

 

 

簪の言葉で理性にヒビが入った真が彼女を抱きしめた。

 

―――――――――――――――――

 

意識が浮かんでくる。

 

とても心地よい風と花の香りが鼻腔をくすぐる。

目を開けると目の前に綺麗な花が咲き誇っている。

 

 

「……あれ?」

 

 

花畑。

ここはデスティニーの空間だ。

 

ジャージ姿の真が立ち上がる。

 

自分は自室で簪と――

そこまで考えたとき、聞き覚えのある男の声が背後から響いた。

 

 

「起きたか、シン」

 

 

振り返ると【ザフトの赤服】を来た【レイ・ザ・バレル】が立っていた。

レイの隣には【白髪の老婆】

 

真には見覚えがない人物であった。

 

その横で金髪の美少女。

【ISコア】の人格【デスティニー】が苦笑いしていた。

 

 

「レッ、レイっ!? 何でここにっ!?」

 

「気にするな、俺は気にしない」

 

「俺が気にするってのっ! 何か前にも同じようなやり取りしたような……」

 

 

以前レイに今の世界に送り出してもらう際に同じやり取りをした事を思い出し、苦笑を浮かべる。

 

 

「死者と言うのは結構便利だと考えておけ」

 

「……そうかよ。出鱈目過ぎる」

 

 

懐かしいやり取りに気を取られていたが、レイの隣にいる老婆に視線が移る。

 

 

「レイ、えっとその人は……?」

 

「……ククッ、分からないか?」

 

 

レイが笑いを押し殺したような声を上げつつ、真に問う。

同時に老婆が口を開く。

 

老婆は不満げな表情を浮かべていた。

 

 

「……本当に分からないの、シン?」

 

 

老婆の彼を知っているかのような声と共に、姿が変わる。

赤髪に【アホ毛】を立たせた【赤服】を着た美少女。

 

【ルナマリア・ホーク】だ。

 

 

「ルッ、ルナァッ!?」

 

 

真が驚愕の声を上げると共に、ルナマリアが真の視界から消える。

そして顎に走る激痛。

 

 

「ふんっ!」

 

「うごっ!?」

 

 

ルナマリアの跳び膝蹴りがクリーンヒットし、真は吹っ飛ばされる。

 

 

「全く久しぶりに会ったのに分からないとかサイテー」

 

「痛ってぇ……っ! あんな姿で分かるかよ、ルナっ!」

 

 

顎を抑えて立ち上がる。

その様子にルナマリアは笑みを浮かべた。

 

 

「……元気そうじゃない、シン」

 

「……ああ」

 

「2人は真に伝えたいことがあるんだってー」

 

 

今まで黙っていたデスティニーが真に告げる。

 

 

「伝えたいこと?」

 

「ああ、俺と言うかルナがな」

 

「ルナが?」

 

 

ルナマリアに視線を移し、尋ねる。

 

 

「シン、頑張りなさいよ」

 

「……へ? それだけ?」

 

 

何を言われるか――内心身構えていた真は思わず声を零す。

 

 

「……なによ、もっと【色々】と言われたいの?」

 

 

ルナマリアのアホ毛がピクピクと痙攣している。

アカデミー時代からの付き合いの真にはよく分かる、彼女が怒っている証拠だ。

 

 

「いっ、いえ、なんでもありませんっ!」

 

 

思わずザフト式の敬礼をルナマリアに返してしまった。

 

そして一つ彼女に伝えるべきことが自分にあることに気づいた。

 

 

「ルナ、ごめん」

 

「……」

 

 

ジト目で真を睨むルナマリアを見つめつつ伝える。

 

 

「あの時……もっとちゃんと君に伝えればよかった。あのときルナを拒絶したのは嫌いだとかそういうのじゃなくて……」

 

「【俺と一緒だと不幸になるからだって思ったから】」

 

「うっ……」

 

 

自分の台詞をルナマリアに取られて思わず言葉に詰まる。

 

 

「……ごめん」

 

「……全く、アンタは。まあ、でもようやくちゃんと振ってくれたわね」

 

 

仕方ないわねとルナマリアが苦笑を浮かべる。

 

 

「安心しなさいな。あの後私はちゃんとお婆ちゃんになるまで生きていたからね。死ぬときも孫に囲まれて死ねたのよ?」

 

 

ケラケラと笑いながら真に伝える。

 

 

「ルナ……」

 

「……シン、色々と大変みたいだけど……あの子のこと、幸せにしてあげなさいよ?」

 

「……ああ」

 

 

真が力強く頷く。

 

 

「……さて、ルナ。伝えることは伝えたな?」

 

「ええ、ようやくゆっくりと眠れるわ」

 

 

レイとルナマリアの姿が薄れていく。

 

 

「……レイ、ルナ……」

 

「シン、俺からも伝えておこう……精一杯生きろよ」

 

「……ああ、分かってる」

 

 

真の返答にレイとルナマリアが微笑む。

 

 

「そしてデスティニー、すまないな、いきなり干渉してしまって」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。それにレイさんとルナマリアさんには一度お会いしたいなーとか思ってたので……」

 

 

デスティニーがあははと笑いつつ、レイに答える。

その返答にレイが笑みを浮かべる。

 

 

「俺達はお前を見守っているぞ、シン」

 

「頑張りなさいよ、シン」

 

「ああ、見ててくれレイ、ルナ……俺は精一杯前に進んでいくよ」

 

 

2人に言葉を返すと共に視界が真っ白な光に包まれていく。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

「……んっ……」

 

 

ベッドの中で目が覚める。

すぐそばに寝ている簪の顔が目に入った。

 

【そういうこと】をした為2人とも何も身に付けていない。

 

そっと起こさない程度に彼女の頭を撫でる。

 

幸せそうな寝顔を簪は浮かべていた。

 

 

(……ああ、彼女を幸せにしてみせるよ、だから見ててくれ)

 

 

亡き親友達からの言葉を胸に刻み込み、真は前に進む。

 

 

 




やっちまった感が色々と凄い。


次回予告

「INTERMISSION② 空からの贈り物」

歌姫の騎士団は何処に逃げたのか――そしてある時期から増えている【隕石】。
これが意味することは…?


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