【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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INTERMISSION② 空からの贈り物

IS学園 学生寮 自室

 

 

「……んっ」

 

 

 ベッドの中で簪が目を覚ます。

 

 自身が何も身に付けていないのは何故だっけなどと寝ぼけた頭に疑問が浮かぶ。

すぐさま先日真と行った【行為】について思い出した。

自身の記憶の中で自分から激しく求めたり、かなり変な事を口走ったことを覚えている。

当然それを真にばっちりと聞かれ、見られていたことを思い出して顔を赤くしてしまった。

 

 

「おはよう……どうした?」

 

 

 先に起きていた真がジャージ姿でソファーに座ってコーヒーを飲んでいた。

なんでもないよと誤魔化して起き上がる。

 

 

「……おはよう。早いね、真」

 

「まあ、日課だからなトレーニングは……って身体は大丈夫か?」

 

 

 コーヒーをテーブルに置いた真が体調について聞いてくる。

 

 

「初めてだと腰とかに違和感が出るとか聞くけど……」

 

「あっ、うん……たぶん大丈夫、歩くくらいなら」

 

「……分かった、何かあれば言ってくれよ?」

 

「……うん」

 

 

 互いに顔を赤くして頷きあう。

真に私服を取ってもらって食堂に向かうこととなった。

 


 

20分後 学生寮 食堂

 

 

 先日の襲撃事件があったため食堂にいる生徒の数は少ない。

だが見知った顔は全員学生寮に残っている。

 

 

「あら、真に簪じゃない、おはよう」

 

「おっ、真、簪さん、おはよう」

 

 

 一夏と鈴が一緒に朝食をとっていた。

2人とも焼き鮭、納豆、ご飯に味噌汁という和風な朝食を取っていた。

一夏と鈴の挨拶に返した後に同じような朝食のメニューを注文、受け取った後同じテーブルに付く。

 

 

「あれ、箒やシャルルは?」

 

「箒は束さんに呼ばれてる、シャルルも生徒会長に朝早くから呼ばれたみたいだ」

 

「……まあ、昨日の今日だし何かあるのか……いただきます」

 

「いただきます」

 

 

 真と簪がそろって手を合わせて食事に食べ始める。

 

 

「……真、カナード達から話聞いたよ」

 

 

 食事を始めて数分経った後、一夏が口を開いた。

 

 

「……全部聞いたみたいだな」

 

 

 一夏と鈴が首を縦に振る。

ここにいないメンバーも同じように話を聞いただろう。

つまりは【自身の前世】について――戦争に参加していたことも。

 

 簪や千冬は納得してくれたが、ある意味純粋な一夏にとっては戦争に参加して人を殺していた自分に嫌悪を持たれても仕方ないと真は考えていた。

 

 だがその心配は杞憂に終わる。

 

 

「ああ、けど俺思ったんだ……真は真だって」

 

「……はあ?」

 

「いや、戦ってたって聞いたけど。その戦う理由をカナードから聞かされたし……それにずっと前からお前がいい奴だって俺知ってるからさ」

 

「……ありがとう」

 

 

 一夏の真面目な表情。

本心からの言葉であると理解して、照れ隠しの為に水を飲む。

 

 

「しっかしまさかアンタが30超えてたなんてねー、まあ、納得したけど」

 

 

 味噌汁を飲みつつ、鈴が告げる。

また年齢の話かとげんなりしつつ抗議の声を上げる。

 

 

「それは前の年齢あわせての事だからな? 今の俺は15歳だからな」

 

 

 明らかに声が不機嫌になった真を見て、何度も弄られているのだろうと推測して鈴は苦笑しつつ告げる。

 

 

「わーかってるっての。まあ、アンタが中学で大人びてた理由が分かって納得してたのよ、気に障ったら謝るわ」

 

「……別にいいけどさ」

 

「そういえば……今日はどうするの、真?」

 

 

 その様子を見ていた簪が話題を切り替えるために、会話に割り込んでくる。

 

 

「ああ、カナード達と今後どうするか確認してみる。今アークエンジェルからデータのサルベージしてもらってるみたいだし」

 

 

 真の言葉の通り、現在落着したアークエンジェルからデータのサルベージが行われている。

真達が破壊したため、完全にとはいかないがある程度のデータを入手することが可能であり、現在束の手によって解析が行われているのだ。

 

 

「なるほどねー、流石天災ってわけね」

 

「だな。飯食べた後にカナードに連絡してみるよ、一夏達も来るだろ?」

 

「ああ、色々と話を聞いたし……何かできるかもしれないしな」

 

 

 完食し、お茶を飲んでいた一夏が告げる。

そして今まで真面目な顔をしていた鈴が急にニヤッと笑いつつ、口を開いた。

 

 

「……それでぇ~……昨日は何で大事な話の席に2人はいなかったのかしらぁ?」

 

「っ……簪には俺が話す約束してたんだよ、だからその時はカナードや千冬さん達に任せたんだ」

 

 

 一瞬心臓が緊張で跳ね上がりそうになったが何とか抑える。

誤魔化すために水に口をつけて横目で簪を見ると彼女も何とか誤魔化そうと平静を装っているようだ。

 

 

「ふーん……まあ、信じてあげるわ、真」

 

「……ああ、ありがと」

 

 

 何とか誤魔化せたかと、内心一息ついてコップをトレイに乗せる。

その様子を鈴は注意深く見つめた後口を開いた。

 

 

「……真、首筋、マークあるわよー」

 

「なっ!? 確認したはずっ!?」

 

 

 咄嗟に右手で首筋を抑えた真と彼の首筋を確認してしまった簪。

その2人の様子を見て鈴はニタァと意地悪く笑みを浮かべる。

 

 その笑みによって真は理解した――はめられたと。

 

 

「なるほどね~」

 

「っ、鈴、お前っ、はめやがったなぁ……!」

 

「昨日のカナード達の説明に来なかった30代中年男性がまさか女子高生とねー。しかも学生寮でなんて……事案じゃないかしら?」

 

「俺は15だっ!」

 

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべる鈴に真が叫ぶが、からかう事を楽しんでいる彼女には意味をなさないようだ。

 

 

「したって……何を?」

 

 

 鈴の言葉の意味を純粋に理解できていない一夏が簪に尋ねる。

彼には他意はない。

 

男女の機微に疎すぎるのが一夏の悪い点であり、この場でそれがはっきりと出てしまったのだ。

 

 

「えっ、ああぅ……」

 

 

 当然一夏の質問に答えることなどできるはずなく、簪は顔を真っ赤にして伏せてしまった。

その後、鈴に菓子等を奢ることを約束して何とかこの場を収める事に成功したのであった。

 

 


 

1時間後――生徒指導室

 

 

 生徒指導室に集められた真達の前にはカナードや束、千冬がいた。

その表情は芳しくない。

その様子から【何か良くない事】が起こりつつある事は明白であった。

 

 生徒指導室に集められたメンバーにはとあるレポートが渡されている。

そのレポートの名は【過去数ヶ月間の隕石落下数の統計】と記載されていた。

 

 真にはレポートの名を見てある程度の予測がついてしまった。

 

 

「奴らの居場所が分かった」

 

「……このレポート。まさか、カナード……っ!?」

 

「ああ、奴等は宇宙(そら)にいる」

 

 

 カナードの言葉に真は顔を顰め、残りのメンバーはぽかんとした表情を浮かべていた。

 

 

「このレポートだが……発覚したのは例の【量子ウィルス用ソフト】を束が作成し、再度世界の軍事施設などにアクセスした事で判明した。量子ウィルスで改ざんされていたのだ、この記録は」

 

 

 さらっと犯罪行為を述べるがそれは無視する。

 

 

「レポートは過去数ヶ月の地球へ落下した隕石の統計だ。今この瞬間も隕石は地球に落下しているが、大半は大気圏突入時の断熱圧縮の高熱で燃え尽きる」

 

「確か入射角を正確にしないと……などとは聞きますが……」

 

 

 大気圏突入時の角度についてセシリアが呟き、それに頷いてカナードが続ける。

 

 

「そうだ、本来は入射角などの影響で燃え尽きる。たまに燃え尽きずに落下するものがあるがそれは数10cm程度の小さなモノだ……がレポートを見ろ」

 

「落着した隕石のどれも……10mレベルじゃないかっ!」

 

 

 レポートを読み進めていたシャルルが声を上げる。

 

 アメリカ合衆国アリゾナ州にはバリンジャー・クレーターというクレーターが存在している。

落下した隕石は直径20mから30mほどの大きさの隕石で、落下地点のクレーターは直径が1.5km程、深さは170m程のクレーターである。

10m級の隕石などが落下した場合、バリンジャー・クレーターほどではないが同規模、もしくは少し小さい程度のクレーターができるはずだ。

 

 だがそのようなニュースなどは流れていない。

 

 

「そうだ、ここ数ヶ月で5件……しかも隕石の落着地点はほぼ同地点だ」

 

 

 レポートに書かれている落着地点はフランス沖に集中している。

 

まるで狙って落下している(・・・・・・・・・)かのように。

 

 

「故意に落下させている……とでも言うのか?」

 

 

 ラウラがレポートを捲りつつ声を漏らす。

それに真が答える。

 

 

「そうだと思う。【隕石に偽造したカーゴ】……おそらくは【PS装甲材】をつんだカーゴを落としてる」

 

「おそらくそうだろう。そして1週間前、民間の宇宙旅行用のシャトルが1機紛失しているのが確認された」

 

「……奴らお得意の強奪かよ」

 

 

 C.E.世界では奴ら。

歌姫の騎士団は軍事施設からMSをも強奪してデータを消すなどという工作までやってのけている。

量子ウィルスも存在しているため、この世界でも同じことは可能であろう。

 

 

「その民間シャトルが先日、【突如】某国の【マスドライバー施設】から射出さたらしい……奴等と見ていいだろうな」

 

「……ミラージュコロイドか」

 

 

 真の言葉にはあ、とカナードはため息をつく。

 

 

「……それでどうすればいいのだ?」

 

「そうだよなぁ……宇宙って言ってもさ」

 

 

 今まで黙っていた箒と一夏が口を開く。

そう、奴等は宇宙にいると結論が出てしまったのだ。

戦うにはどうやってそこに行くのかが問題になる。

 

 

「そこなんだよねー、一応プランはあるんだけどね」

 

 

 束が口を開く。

空間投影ディスプレイには【IS】にロケットが接続されているような画像が映し出されていた。

 

 

「プランはこれ、【IS】に液体燃料ロケットを外部接続して打ち上げるって方法……大気圏を突破したら【パージ】って感じかな」

 

 

 プランを話す束の表情は暗い。

 

 

「本来のISの目的は【宇宙空間用のマルチフォーム・スーツ】でしたっけ……」

 

「おっ、いっくん、勉強してるねー。まあ、こんな形になっちゃったのは複雑だけどね」

 

「……しかし姉さん、そのプランには液体燃料ロケットが必要になるかと思うんですが……」

 

 

 箒の言葉に一気に束の表情が暗くなる。

 

 

「それなんだよねー。全員分なんて無理だし、マスドライバーもシャトルなんて用意できるわけないしねー。時間をかければロケットなら資材から作れるけどあんまり時間をかけるのもまずいし。そもそも帰還方法もあんまり現実的じゃないんだよねぇ……ねえ、ちーちゃんIS学園側で何とかならなーい?」

 

「……流石にこればかりは無理だ、すまん」

 

「だよねー。流石に要求ハードル高すぎだよねぇ……何か代案ないかな?」

 

 

 天災である【篠ノ之束】が学生である一夏達に代案を求めるなど、技術者達が見れば目を丸くして驚く事だろう。

 

 だが無理なものは無理、ないものはないのだ。

しかも彼女のプラン以外に浮かぶものなど出てこない。

生徒指導室に集まった面々が押し黙る。

 

 だが生徒指導室の扉が開かれ、状況は一変することになる。

開かれた扉から教室に入ってきた人間がいたのだ――淡い紫の髪に長身のスーツを身に着けた女性――

 

 

「失礼するよ」

 

「ゆっ、優菜さんっ!? なんでここにっ!?」

 

「やあ、真、ここであってるよね? 対策を話し合ってる場所って」

 

 

 日出工業社長、応武優菜が生徒指導室の面々を見渡して尋ねた。

 

 




次回予告

歌姫の騎士団との戦いに向けて、一同は宇宙を目指す。

「宇宙へ」

宇宙を目指し、少年達は翔ける。



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