【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
宮島のマスドライバーから射出されたシャトルはすでに地球の重力という名の鎖から解き放たれ、漆黒の宇宙空間を進んでいた。
進路は衛星軌道上に建設された宇宙ステーション【アメノミハシラ】であり、残り10分程度で到着予定だ。
「……皆様は大丈夫でしょうか」
加速Gの緩和の為にIS【Xアストレイ】を展開していたクロエが、なれない無重力に少しだけ顔を顰めつつ呟く。
身に着けているISスーツのブーツ部分には無重力空間で浮かぶことを防止するためのマグネットが仕込まれているため、フワフワと浮いているわけではないのだが。
「……皆なら大丈夫さ」
久しぶりの無重力の感覚にはすでに慣れた真がデスティニーを解除して答える。
射出時にハイパーセンサーで確認したが、相手はデストロイをモチーフにしたIS。
だが心配はいらないであろう。
自身にとってトラウマに近い機体だが、相手をしているのは頼れる仲間達であるからだ。
だが少し心配そうに束が真を見つめていた。
彼女の【記憶】――【虚憶】とでも言おうか――ではシンはあの機体絡みで精神をすり減らしていた。
彼女はそのことを知っているのだ。
「あれ、【デストロイ】だよね……あっくん、大丈夫?」
「……大丈夫です、あの機体には色々とありましたけど」
脳裏に一瞬だけ守れなかった少女。
【ステラ】の顔が浮かぶが頭を振って考えを切り替える。
「もう2度と花を吹き飛ばさせないために……今度こそステラみたいな子達を生み出させないために……戦いますから」
ドッグタグを握り締めて真は呟く。
そして一行を乗せたシャトルは襲撃もなく、宇宙ステーション【アメノミハシラ】に到着したのだった。
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宇宙ステーション アメノミハシラ レクリエーションルーム
かつてオーブ軍の宇宙での軍事拠点であったアメノミハシラは、些か規模が縮小されているとはいえ現在は日出工業の一大プロジェクトとして開発が進められている建造物だ。
この世界のアメノミハシラは技術者達をストレスなく数週間にわたり滞在させる事ができるように、レクリエーションルームや娯楽施設などを完備している。
シャトルから降りた真達はその一室に移動し、目の前のディスプレイに映されている【戦艦】の映像を眺めていた。
ディスプレイに映されているのはC.E.でモルゲンレーテが開発した宇宙戦艦である【イズモ級】の戦艦であり、船体塗装は黒基調に黄色のラインで彩られている。
戦艦の名前は【イズモ級1番艦 イズモ】――C.E.では【サハク家】が管理していた【イズモ級戦艦】のネームシップである。
オリジナルは全長290mであったが、ディスプレイに映されているイズモはダウンサイジングされており、約150m程度の大きさであった。
「……優菜さんの言ってた【サプライズ】ってこれの事なんだ」
かつてはイズモ級2番艦【クサナギ】に搭乗していたこともあったラキーナが居心地の悪そうな顔で呟く。
優菜は未だにラキーナに対して全くの好意を示していない。
それだけ禍根が深いのだ、彼女も理解しているため甘んじてそれを受けているのだが。
妹のそんな様子を横目で見つつ、少し呆れたような顔をしてカナードが口を開く。
「イズモ級戦艦か……なるほど、これでL5ポイントに向かえということか」
「そういうことー」
レクリエーションルームの扉が開き、赤毛に白衣の女性が入室してくる。
インパルスの開発者である【ジェーン・ヌル・ドウズ】だ。
「ジェーンさん、何でここに?」
「ん、私はインパルスの開発者兼ここの責任者の1人でもあるからねー。仕事でちょいとこっちに来てた時にあんな事件が起こったわけだよ。んで君達のサポート……というか【イズモ】のサポートを任されてるのさー、ささ説明するよー」
その後、ジェーンの口からイズモについての説明が始まった。
ディスプレイに表示されている【イズモ】はC.E.で建造されたオリジナルとサイズこそ異なるがほぼ同様の運用が可能であり、アメノミハシラ計画の一部として、また世界初の宇宙用艦船としてISコアを除いた既存技術の粋を結集して建造された戦艦であるということ。
また初期型の量子コンピュータを搭載していることにより、操舵手の負担軽減が図られていること。
量子ウィルスを警戒して、束がイズモに搭乗してサポートを行うこととなっている。
なお武装については【自動バルカン砲塔システム イーゲルシュテルン】とIS用大型ビーム砲塔を改造、流用した【ゴットフリート】が装備されているとの事だ。
「……と、言うわけで束さん、イズモは貴女に預けますので真君達のサポートお任せします」
「……うん、任せて」
似たもの同士。
【インパルスガンダム】という既存のMSとは異なる発想が必要となるが兵器としての可能性を追求した【傑作機】を作り出した天才と、【IS】という宇宙開発と既存兵器を超越する可能性を両立した【マルチフォームスーツ】を作り上げた天災。
2人は頷きあい微笑みあう。
「それじゃ、イズモへの搭乗お願いねー」
ジェーンがイズモへの搭乗を促し、真達5人は彼女の後を追い、アメノミハシラの格納庫へと向かう。
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イズモ級1番艦 イズモ ブリッジ
格納庫からイズモに搭乗した真達は、イズモの発進をブリッジに備え付けられた待機用スペースで確認していた。
ブリッジの艦長席に該当する席に座りつつ、周りに展開された空間投影ディスプレイを凄まじい速度で束は眺め、時折手が残像を残しつつディスプレイに触れて値を変えていく。
「……艦内ネットワークシステム異常なし、ISコアネットワークとのリンク良好、量子コンピュータへの対ウィルス用セキュリティシステムインストール完了、各種武装出力問題なし、メインエンジン出力良好……よし、いけるね」
ディスプレイでの操作を終えた束が最後に表示されたディスプレイを軽く叩く。
イズモのエンジンが点火されると同時に、格納庫の扉が開き漆黒の宇宙が顔を覗かせる。
同時にアメノミハシラのコントロール室からジェーンのメッセージが届く。
そのメッセージは【貴艦の航海の無事を祈る】と記載されていた。
「イズモ発進、目標はL5ポイント!」
束が笑顔でイズモの発進を告げた。
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アメノミハシラから出発して数時間後
イズモ パイロットルーム
すでにアメノミハシラから遠く離れたイズモはL5ポイントに向かって順調に進んでいる。
C.E.とは違いニュートロンジャマーによるレーダーへの索敵妨害はなく、クリアな視界で進めている。
束を除いた真達4人はパイロットルームで待機していた。
そんな中、ラキーナが口を開いた。
「真、兄さん、クロエちゃん、ちょっと話があるんだけど……いいかな?」
カナードと同じような黒を基調としたISスーツに身を包んだラキーナが真達3人に声をかける。
「どうかしたのですか、ラキーナ様?」
「どうした、ラキ?」
「1つ【お願い】があって……」
「【お願い】?」
待機中であったため、真はドリンクを口にしていた。
ラキーナは首につけているチョーカーである待機状態の【ストライクガンダム】に手を当てつつ告げる。
「……【アスラン】は私にやらせて欲しいんだ」
ラキーナの言葉に真は目を見開く。
【キラ・ヤマト】と【アスラン・ザラ】は親友同士。
そんな人物が親友を相手に戦うと言っているのだ。
「……できるのかよ?」
「……私がやらなきゃ駄目なの、真がラクスとの因縁を断ち切ろうとしているように、アスランは私が相手をしなきゃいけないんだ」
だが今の彼女は【ラキーナ・パルス】だ。
アスランは親友であり、親友が間違った道を歩いているのならば、力ずくでも止めるのは自分の役割だとその目は語っていた。
【覚悟】を決めた目――かつてのキラ・ヤマトとはまるで違うその目だ。
「……勝てるのか?」
「……大丈夫、【I.W.S.P.】の他に束さんに頼んで【切り札】をインストールしてあるから」
「……なら俺やカナード、クロエと約束してくれ、【死なない】って事を」
真がバツが悪そうに視線をラキーナから外す。
すでに真の中ではラキーナは【仲間】であると認識しているのだ。
かつての禍根もあるがやはりみすみす死なせる事などできやしない。
真の言葉に併せてカナードも告げる。
「……できるのか、ラキ?」
「……うん、約束する、私は死なないよ」
「……そうか、分かった。ならば俺とクロエで援護しよう、いいか、クロエ?」
「はい、大丈夫です、カナード様、ラキーナ様」
「……助かる、頼りにしているぞ」
カナードの言葉に少しだけ顔を朱色に染めたクロエが頷く。
「……俺はラクス・クラインを止める」
「ああ、分かっている……援護は任せろ」
「頼むよ、カナード」
真とカナードが微笑みつつ互いの右手をコツンと合わせる。
それと同時にパイロットルームに艦内通信が響く。
その声には明らかに焦燥の色が現れていた。
『皆、聞こえる? 今からブリッジの映像をディスプレイで表示するから見てっ!』
束の声と共に空間投影ディスプレイが表示される――そこに映っていたのはL5宙域から少し地球よりのポイントの画像だ。
そこに映っているのは【メサイア戦役】・【ネオ・ザフト戦役】で使用された機動要塞――
「メサイアっ!?」
【機動要塞メサイア】が宙域に存在しているのだ。
映されている画像から判断するに【ジェネシス】は装備されていないように見え、C.E.のオリジナルよりは例に倣ってダウンサイジングしているが㎞レベルの代物だ。
そしてさらに束の声が続く。
『メサイアは少しずつ地球に向かって移動してるのっ!』
束の言葉から真達の脳裏に【最悪の結末】が浮かんだ
それは――
「【落とす】というのか、メサイアをっ!」
最悪の結末――それは【コロニー落とし】だ。
C.E.世界では【ブレイク・ザ・ワールド事件】で地球の国家に致命的な打撃を与えた事が記憶に新しい。
カナードの叫びが室内に響く。
同時にカナードは走り出す。
同じく真達3人も駆け出し、カタパルトを目指す。
――――――――――――――――――
イズモ 格納庫
宙域にたどり着いたイズモのカタパルト内でそれぞれの【IS】を装着したパイロット達はディスプレイに映し出される【敵機】を確認しつつ、出撃準備を行っていた。
『敵は無人機が【35機】……【ジャスティス】に【ドム】や【バスター】、【ホワイトネス・エンプレス】の姿は見えないか……』
『数で負けているが問題ない。あの程度の無人機など【ドレッドノート】と【Xアストレイ】で蹴散らすだけだ』
カナードが冷たい笑みを浮かべつつ、告げる。
イズモのレーダーが捉えた敵の総数は35機、単純に【数】で負けているが【質】は圧倒的にこちらが上だ。
戦いの原則として数で勝るほうが有利だが、カナード達にはそれは当てはまらないのだ。
『頼りにしてるよ、カナード』
『……ラクス・クラインは必ず討ち取れよ、真』
『ああ、分かってる』
真からの返答と同時にハッチが開かれる。
出撃の時間だ。
『カナ君、絶対負けないでねっ!』
『……分かっている』
束の言葉に薄く笑みを浮かべつつ、カタパルトに接続されたドレッドノートのコンソールにコンディションOKの表示が現れる。
確認し、コントロールがドレッドノートに移行される。
『【ドレッドノートH】、ガンダム、出るぞっ!』
カタパルトの加速を用いてドレッドノートが射出されていく。
次にカタパルトに接続されたのはクロエの【Xアストレイ】だ。
『くーちゃん、カナ君を支えてあげてね!』
『はい、束様……【Xアストレイ】、ガンダム、参りますっ!』
カタパルトの加速と特徴的な【X字】のスラスターから得られる高推力でクロエは宇宙を翔ける。
『ラキちゃん、気をつけてね……!』
『分かってます、後、このストライカーパック、ありがとうございます、束さん』
次にラキーナの【ストライクガンダム】がカタパルトに接続される。
今のストライクが装備している【ストライカーパック】は【八枚の青い翼型】の【ストライカーパック】だ。
かつてラクス・クラインより与えられた【自由の剣】
使うことを避けていた装備だが、今はその力をあえて使おう。
『そのストライカーパックは調整が全然できてなかったけど……信じてるよ、ラキちゃん』
『ありがとうございます、ラキーナ・パルス、【ストライクガンダム】……いえ【ストライクフリーダムガンダム】、行きますっ!』
【自由】の名前を背負った【ストライク】がカタパルトから射出され、宇宙に羽ばたく。
自分だけの【自由】を得るため、友を止める為に。
そして最後にカタパルトに接続されたのは【黒と紅のIS】
真の【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】だ。
『あっくん、全力でサポートするからねっ!』
『ありがとうございます』
機体のコンディションと武装のコンディションを確認――問題なし。
最後に自身の拡張領域に登録されている【愛する女性】から受け取った【剣】も問題ない事を確認する。
そしてコンソールにコンディションOKの表示が現れた。
『飛鳥真、【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】、行きますっ!』
カタパルトから射出されたデスティニーのVLユニットを広げ、宇宙の黒を【紅い光の翼】が切り裂いて進んで行く。
次回予告
少年、いや少女は痛みの中でようやく己の目を覚ました。
「ミーティア -Meteor-」
親友のため、少女は羽を広げる
――彼の悪夢を終わりにするために。