【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
2つの【光の幕】が出現し、ビームの閃光を弾き飛ばして漆黒の宇宙を染め上げる。
1つは【薄緑色】の光。
全てのビームシールドの元祖である【アルミューレ・リュミエール】を展開する【ドレッドノートH】
もう1つは【薄紅色】の光。
ALを流用した攻性防御帯【スクリーミングニンバス】を展開する【ドム・トルーパー】
ドレッドノートのビームサブマシンガンから放たれるビームの雨を、スクリーミングニンバスが弾き返している。
特に負荷がかかっているわけではないが、搭乗者であるヒルダの心中は焦燥と怒りが混ざり合っていた。
その理由は簡単である。
全ての攻撃がドレッドノートに捌かれているからだ。
ほとんどの攻撃をAMBACだけで避けられ、回避が困難な場合は低出力で展開しているALでビームランチャーの砲撃を防ぐ。
またその際ビームにALが触れた瞬間、ALで受け流すかの様に逸らす事で無駄なエネルギー消費を減らしているのだ。
そして逆にドレッドノートはAMBACや回避機動のわずかな隙を狙い、スクリーミングニンバスを多用させるように反撃してくる。
ヒルダはスクリーミングニンバスを常時展開しているわけではない。
使用には相応のエネルギー消費が伴うからだ。
【ハイパーデュートリオン】や【核エンジン】の様に無尽蔵ではないため、多用していればそれだけ早く活動不能に陥る。
この状況に追い込まれた原因は、純粋な【技量と経験の差】である。
彼女は前世、C.E.ではネオ・ザフト戦役でGタイプのMSに撃墜され死亡している。
だがカナードはネオ・ザフト戦役を生き抜き、その後も傭兵として戦い続けた。
その差が如実に表れているのだ。
優秀な搭乗者であるヒルダはそれを理解できてしまったため、口から怒りの声が溢れた。
『クソが、失敗作の分際でっ!』
『…………』
その叫びを無視して、弾幕を張り続けながらカナードはハイパーセンサーで周囲を確認する。
そしてセンサーがとある物体の反応を捉えた。
その反応を確認した後に、スラスターを噴かせ一旦後退する。
『逃がすかっ!』
後退したドレッドノートを逃がさないために、ヒルダも機体のスラスターを点火させて追跡する。
追跡しつつもビームランチャーで後退していくドレッドノートを狙いトリガーを引く。
吐き出されたビームはドレッドノートに向かうが、その程度の射撃はカナードにとって有効打にはなりえない。
射線をすでに読みきっており、スラスターを僅かに噴かせた後のAMBACで回避する。
『逃がさないわよ、失敗作っ!』
射撃は有効打にならない事を理解したヒルダはビームサーベルを展開し、ドレッドノートに斬りかかる。
両者の距離は数十m、ISにとっては数秒もかからずに詰めることができる距離だ。
ヒルダがビームサーベルを展開すると同時にドレッドノートは背部のイータユニットを起動していた。
1対のデバイスを前面に展開した【バスターモード】に変形したのだ。
変形した形態の性能を理解したヒルダは接近を中止し、スクリーミングニンバスを展開する。
光の膜がドム・トルーパーを覆うのを確認したカナードの口元に笑みが浮かぶ。
そして1対の砲口からビームではなくグレネードのみが発射され、ドムに迫る。
スクリーミングニンバスはALと同じく鉄壁の防御力を持つ装備だ、本来ならば特に負荷をかけることもなく弾かれていただろう。
だが、弾かれるという結果は起こらなかった。
何故ならば、スクリーミングニンバスへの着弾前に突如グレネードは【爆発】したからだ。
グレネードが着弾前に爆発した理由、それは別の【物体】に着弾していたからに他ならない。
先に着弾した物体は、この宙域には無数に存在しているもの。
それは先ほどまで戦っていた【無人機の残骸】である。
無論、ハイパーセンサーで把握はできていたが戦闘機動に影響の出ないレベルの残骸まで意識が向かなかったのだ。
『なっ!?』
不意の爆発に巻き込まれた事で冷静な思考は僅かの間であったが麻痺してしまった。
それは対峙している相手への致命的な隙となった。
爆炎を突き破ってくる【薄緑色の光の槍】が展開していたスクリーミングニンバスを貫き、ドム・トルーパーの胸部装甲が完全に破壊された。
装甲が完全に破壊されると同時に【絶対防御】が発動。
ドム・トルーパーのエネルギーが急激に減少する。
『がはっ!?』
【試合】であればこの時点で勝負ありとみなされるが、【戦場】ではまだ終わらない。
【光の槍】であるALランスを左腕にも展開したドレッドノートが続けざまに連撃を放つ。
その度にヒルダの身体に衝撃が走り、ドムのエネルギーは減少し続けていく。
そしてついには最低限の【生体維持機能】を残してドム・トルーパーの機能は停止してしまった。
ドレッドノートはドムが機能停止した事を確認し、搭乗者であるヒルダを拘束する。
見るも無残に破壊された装甲、破壊された装甲によって裂傷ができたのか、血が球体となって彼女の周囲に浮かんでいる。
『く……そが……っ』
なんとかそれだけ悪態をつけた。
瞬間、右のALランスで袈裟斬り気味に切り裂かれ、生体維持機能が完全に停止する。
維持機能がなくなったことで宇宙の影響を生身に受ける恐怖を感じる前に左のALランスで胸を貫かれ、ヒルダの意識は途絶えた。
『悪いな、止めを刺せるときに刺すのが傭兵だ』
ヒルダの生体反応が消えたことを確認して、彼女の遺体からマニピュレータを引き抜く。
衝撃で彼女の遺体はそのまま宇宙に流れていく。
宇宙では一度加速がついてしまったものは、何かの影響がない限り止ることはない。
彼女の遺体は止まることなく流れていくだろう。
一瞥した後、ハイパーセンサーで周囲の状況を探る。
『…クロエの反応は…向こうか』
そして見知った反応を捉えた方向に向けてドレッドノートは翔ける。
――――――――――――――――――
『さっきとはまるで人が違う……っ!?』
ペルグランデに搭乗するスコールの口から戸惑いの声が漏れる。
ペルグランデ本体の周囲に浮遊する大型ドラグーンはすでに1機になっている。
『失敗作が何故こんな……っ!?』
『……私は失敗作なんじゃないありません、クロエ・クロニクル、1人の……人間ですっ!』
機体の周囲を囲む3基のドラグーンと2つの有線式ドラグーン【プリスティス ビームリーマー】、それを操るのはクロエのXアストレイだ。
余談であるが、新たに追加されたプリスティスはオリジナルの【Xアストレイ】に装備されている武装とは異なり、有線ケーブルが延長されておりある程度の遠距離操作も可能になっている。
『このまま……っ!』
合計3基のドラグーンをペルグランデ本体へ、プリスティス2基はペルグランデのドラグーンに向かう。
ペルグランデのドラグーンを捉えたプリスティスは砲口部分にビームを展開し、ビームスパイクとなりそのままドラグーンを貫いた。
『ちっ、このっ!』
プリスティスがドラグーンを破壊したのと同時にペルグランデから発射されたビームがプリスティスの有線ケーブルを切断。
コントロールを失ったプリスティスは加速がついたまま流されていく。
しかし先ほどの奇襲と併せてこれでペルグランデのドラグーンは完全に喪失した形となる。
『その機体のドラグーンはもうありません、降伏してください』
3基のドラグーンを背部ユニットに戻しエネルギーを補給する。
そして攻撃手段を失ったスコールに降伏勧告を送る。
しかし、その勧告にスコールは笑みを浮かべる。
『……ふふ、舐めないで欲しいわね、それに忘れてるわよ?』
ペルグランデの本体からスコールが身に纏うIS【ゴールデン・ドーン】が切り離される。
ペルグランデはいわゆる【外部パッケージ】の一種であり、本体である【ゴールデン・ドーン】はエネルギーの消耗はあるものも機動自体に問題はない。
『なるほど、お話に聞いていた埋め込み式の戦術強襲機【
『ふふ、そうよ、流石にエネルギーは共有してるけどね』
両肩部より【
『これからが【第2ラウンド】よ』
【
『いえ、【第2ラウンド】はありません、これで終わりです』
彼女のその言葉と同時にゴールデン・ドーンのハイパーセンサーが自身に飛来する物体を捉えた。
しかし搭乗者であるスコールの反応速度よりも飛来する物体の速度のほうが速く正確であった。
突如上方、両肩部に展開している【
奇襲の衝撃からスコールは大きく体勢を崩してしまった。
『ぐっ、馬鹿な、そのドラグーンは先ほど……っ!?』
機体の両肩部を破壊したプリスティス ビームリーマーを見て彼女が驚愕の声を上げる。
オリジナルと同じく新たに発現した武装であるプリスティス ビームリーマーは有線式ドラグーンであるが、運用事態は無線式でも全く問題がない武装である。
スコールは有線式である為、ケーブルが切断されれば無力化すると思い込んでいたのだ。
そしてその驚愕は勝敗を別けるには充分な隙を生んでいた。
Xアストレイの背部ユニットに接続された3基のドラグーンが再度射出され【△】型のフィールドを展開していた。
本来ならば4基のドラグーンで【三角錘】のフィールドを形成することが可能だが、現在は3基の為、立体状で展開することはできない。
――だがこの状態であれば充分である。
『これで……終わりですっ!』
△型のフィールドをゴールデン・ドーンに押し付ける。
このフィールドはALやビームシールドと同等の性質を持っており、直接押し付ければその分だけ相手はエネルギーを消費していく。
フィールドをそのまま押し込み、切り離され放棄されたペルグランデの残骸に叩き付ける。
『こっ、こんな……馬鹿なことが……っ!?』
常に纏っている余裕ある雰囲気は完全に霧散し、フィールドによって拘束されているため動きもとれず、エネルギーはすでにレッドゾーン。
第3の腕としても使える尾をフィールドに叩きつけて見せるが弾かれた。
ついには生体維持機能を残してゴールデン・ドーンは機能を停止。
――もはやなす術はなかった。
『降参してください』
ビームサーベルを突きつけつつ、クロエがスコールに通信を繋げる。
『……申し訳ありません……ラクス様』
苦渋の表情を浮かべたスコールがクロエの降伏勧告に応じ、残っていた武装であるゴールデン・ドーンの尾をパージする。
そしてクロエが彼女に接近し、スコールはISを解除する。
クロエがXアストレイの生体維持機能でスコールを保護しているため、宇宙空間でISを解除しても問題はない。
『……拘束はさせてもらいますからね?』
「……ええ、分かっているわ、お手柔らかにね?」
『……保障はできません……それでは早速』
疑問の声をあげる前に、スコールの腹部にXアストレイのマニピュレータが触れられ電流が迸った。
一瞬の痛みの後、スコールの意識は刈り取られ力が抜けた身体をクロエが支える。
『暴れられると厄介ですからね、命までは奪いません』
スコールの身体を脇に抱える形となったクロエがそう呟くと、Xアストレイのセンサーが反応を示す。
その反応は彼女にとって最も愛する男性の機体――【ドレッドノートH】だ。
少しして特に損傷を受けていないドレッドノートが眼前に駆けつける。
搭乗者であるカナードはクロエを見て、少々驚いたような顔をしていた。
『……どうかなさいましたか、カナード様?』
彼に見られるのは素直に嬉しいが驚愕の表情を取っているのはなぜか彼女には分からない。
そしてクロエの様子を見たカナードが笑みを浮かべつつ告げる。
『いや、すまない。よくやったな、クロエ、無事でよかった』
『いえ危ない状況でしたが……力を貸していただけましたから』
『……そうか』
カナードは視線をクロエの背後の何もない宇宙空間に向け微笑んだ後、クロエが抱えているスコールに移した。
『……一旦イズモまで引くぞ、その女がいては戦えないだろう』
『分かりました、カナード様』
ドレッドノートとXアストレイが一旦イズモに戻る為に宇宙を翔ける。
次回予告
「インヴォーク -INVOKE-」
友の為に少女は祈る。
その祈りを繋げろ、ストライクフリーダム!