【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE44 インヴォーク -INVOKE-

少しずつ地球へ向かっていく機動要塞メサイアの外殻部分にビームが着弾し、外殻を構成している岩石部分が砕け数m程の大きさとなって浮遊している。

 

メサイア外壁部で戦闘を行っているのはラキーナが駆るIS【ストライクフリーダムガンダム】、対するはアスランが駆る紅の騎士【インフィニットジャスティス】だ。

 

アスランと戦闘を開始して数分、カナード達や束が搭乗しているイズモからも離れ、ついにはメサイア外壁部にまでたどり着いていた。

 

ストライクフリーダムは機体モードを砲撃/射撃形態であるバーストモードに変更、クスィフィアスとバラエーナ、合計4門を展開して迫るジャスティスに向けトリガーを引く。

 

放たれた高出力ビームとレールガンは精密な狙いでジャスティスに迫るが、対するアスランは機体のスラスターを噴かせて、レールガンを回避。

ソリドゥス・フルゴールでビームを受け止め、スラスターを全開にして、構えていたビームサーベルでストライクフリーダムを薙いで来る。

 

しかしジャスティスがサーベルを振りかぶった瞬間、機体モードを高機動形態であるハイマットモードに変更、得られる莫大な推力で後退し回避に成功する。

 

牽制の為、ビームライフルを展開してトリガーを引く。

 

 

『ラキちゃん、相手のISはやっぱりストライクフリーダムよりも性能が上だよ』

 

 

プライベートチャネルでつながるのは母艦イズモでサポートに回っている束。

彼女は母艦であるイズモから敵機の索敵状況やストライクフリーダムの機体のコンディションチェック、動作の確認及び最適化などサポートを行っているのだ。

また並行して真やカナード達の様子もモニタリング、必要があればサポートを行っている。

 

 

『……ですね、やっぱりアスランは強い、特に今のアスランは私が知っている彼とは比べ物にならないくらいに……っ!』

 

 

ストライクフリーダムの精密射撃を完全に読み切って接近戦に移るアスランのプレッシャーに嫌な汗が流れるのをラキーナは感じていた。

 

アスラン・ザラの戦闘能力はC.E.のパイロット及び軍人の中でもトップレベルに高いものであった。

普段は本人の優柔不断気味な性格や事を1人で行おうとする考え方によって迷いが生まれ、力を発揮しきれない事が多い。

だが、一度その迷いを吹っ切った彼は壮絶な能力を発揮するのだ。

 

そして現在の彼には迷いや感情などはない、そのため彼が持つ戦士としての能力がフルに発揮されている状態だ。

この世界で彼もナチュラルとして生まれているとは考えられないほどだ。

 

しかしラキーナの顔に諦めの色は見られない――それに今の彼女にはアスランにはないモノがあるのだ。

 

 

『どうする? イズモから援護する?』

 

『……1つ策があります。なので束さん、力を貸してください』

 

『まっかせて!んで策ってのはなんだい?』

 

 

プライベートチャンネルで束に自身で考えた【策】を伝える。

 

 

『……りょーかい。タイミングはラキちゃん、お願いね』

 

『分かりましたっ!』

 

 

ビームライフルを格納し、両肩にバラエーナを展開してビームを放ち、アスランに回避と防御を強いる。

同時にスラスターを全開に噴かす。

 

彼女が向かうのは先程、アスランがビームを回避した結果砕けたメサイアの外殻、デブリと化した岩石だ。

無数に漂っているデブリの内、最適なモノを確認して少しだけ笑みを浮かべる。

 

 

(……後はタイミング)

 

 

ラキーナはストライクフリーダムの全長よりも大きなデブリを確認して身を隠す。

 

 

『キ……ラ……っ!』

 

 

バラエーナを回避して体勢を立て直したアスランも彼女の後を追う。

デブリに接近、残り数mと言ったと所で、インフィニットジャスティスのハイパーセンサーが自機の後方に発生した高エネルギー反応と熱源反応を捉えた。

 

瞬間、自機の後方を高出力ビームが通り過ぎ、そのままメサイア外殻に命中して爆発を起こす。

続けて無数の熱源反応――ミサイルが自機に一発も命中することなく、自機の周囲で爆発を起した。

爆炎が周囲を覆うが、念のため展開していたソリドゥス・フルゴールで問題なく防御が可能なレベルだ。

 

 

『何を……狙って……っ!?』

 

 

ソリドゥス・フルゴールで防御を続けていたアスランはある違和感に気付いた。

爆炎は防御したが、発生した【煙】によっていつまでたっても視界が回復しないのだ。

 

 

『チャフに……スモーク……っ!?』

 

 

インフィニットジャスティスのハイパーセンサーが僅かにだが乱されている。

 

放たれたビームとミサイルは、ラキーナ達の母艦であるイズモからの援護射撃であったのだ。

そして放たれたミサイルはチャフとスモークが搭載されている攪乱用の代物。

C.E.のニュートロンジャマーの様に、ISのハイパーセンサーを使用不可能にするほどの効力はないが、センサーを若干鈍らせることは可能だ。

 

そしてこの状況はラキーナにとっては大きな好機である。

この状況を作る為に、彼女は身を隠したのだ。

それを理解しているため、鈍ったハイパーセンサーよりも自身の感覚でアスランは気配を読み取る。

 

 

『……背後……っ!』

 

 

即座にビームサーベルを展開、ビームの光が強まると同時に背後から迫っていた【モノ】を切り裂いた。

劣化品とはいえ、【零落白夜】を発動することができるインフィニットジャスティスのビームサーベル。

 

その効力により絶対防御のエネルギーを無効化して、直接切りつけることができる。

しかし、ビームサーベルに切り裂かれたのは【ストライクフリーダム】ではなかった。

 

迫っていたモノ、切り裂かれた【エールストライカー】が爆発しインフィニットジャスティスを爆炎が包み込む。

 

 

『っ!?』

 

 

爆炎に包まれたアスランの口から驚愕の声が漏れた。

時間にして1秒にも満たない僅かな時間。

 

 

『はぁぁぁぁっ!』

 

 

気合の咆哮と共にストライクフリーダムが爆炎の中から現れる。

右マニピュレータに握るのは【対装甲ナイフ アーマーシュナイダー】だ。

 

完全に虚を突いた攻撃であったが、アスランも反撃を繰り出してきた。

ソリドゥス・フルゴールを展開するジェネレータ、ビームブーメラン、ワイヤーアンカーを内蔵したビームキャリーシールド外装部から【EEQ08 グラップルスティンガー】を展開。

シザークローが射出され、アーマーシュナイダーごと、ストライクフリーダムの右マニピュレータを握りつぶす。

 

ストライクフリーダムのシールドエネルギーが大きく減少し、衝撃にラキーナの表情が歪む――しかし

 

 

『まだ……まだだぁぁぁぁっ!!』

 

 

シザークローはマニピュレータを破壊したが完全に機能が停止したわけではない。

破壊された右腕で振りかぶり、スラスターの推力を上乗せしてインフィニットジャスティスに【拳】を叩き付ける。

 

 

『ぐうっ!?』

 

『はぐぅ……っ!』

 

 

衝撃に小さくない痛みを感じつつも続けざまに二打、三打…と続けて拳を叩き込む。

インフィニットジャスティスはVPS装甲だ、しかし衝撃は完全には防げない。

ましてや彼女が拳を叩きつけているのは胸部部分だ、確実にダメージが搭乗者に届いている。

 

 

『うぐ……うおぉっ!!』

 

 

しかしアスランもただ殴られ続けている訳ではなかった。

腰部から隠し腕を展開、ビームサーベルでラキーナに反撃を繰り出す。

 

本来ならば避けるべき攻撃であったが、ラキーナは逆の行動を取った――スラスターを噴かせ自分からビームサーベルを喰らいに行ったのだ。

あえて自分から喰らいに行ったため、ビームサーベルによって切断されたのは腹部装甲部分。

 

しかしビームサーベルには零落白夜が発動しているため、発動した絶対防御を貫通――ビームの刃はラキーナの身体付近まで届いていた。

 

 

『ぐぅ……っ!』

 

 

このチャンスを逃したら勝機はない。

ビームの熱に身体を焼かれる激痛に涙が溢れる。

しかしその痛みに歯を食いしばって耐え抜き、拳を振り上げて叫ぶ。

 

拳に込めるのは祈り。

元に戻って欲しい、止まって欲しいと祈りを込める。

 

 

『目を……覚ましてっ、アスラァァンッ!!』

 

 

インフィニットジャスティスの胸部装甲に最大出力で拳を叩き付けた。

 

 

『ぐぁぁぁぁっ!?』

 

 

今までで最大の衝撃にインフィニットジャスティスが吹き飛ばされる。

VPS装甲の為か表面装甲部分には傷が見えないが、内部機器にダメージがあった為か、胸部や腹部にフェイズシフトダウンが起こっている。

 

 

『あ……ぐ……っ!』

 

 

ラキーナの視界が痛みと疲労によって滲む

ストライクフリーダムのエネルギーはすでにレッドゾーンに突入していた。

気力も体力もすでに限界を超えている。

発動していた【S.E.E.D.】の感覚も消えてしまっている。

 

 

『ラキちゃん、まずいよ、しっかりしてっ!』

 

 

通信から束の声が聞こえてくるが、だんだんとかすれていく。

 

 

(意識が……アス…ラン…っ!)

 

 

そしてついにストライクフリーダムは最低限の生体維持機能のみを残して停止してしまった。

 

 

(まずい……このままじゃ……っ!)

 

 

視界が薄れる中、何とか状況を打開しようとするが身体が重く、動かない。

腹部から溢れる血液が球状になって浮かんでいる。

 

 

(約束……したのに……)

 

 

頭に浮かんだのは出撃前にした約束、【兄】や【大切な戦友】と交わした約束。

 

 

(ごめん、兄さん……真……)

 

 

心の中で精一杯の謝罪の言葉を述べる――その時であった。

 

 

『……済まなかった……キラ……っ!』

 

 

親友の声が確かにラキーナの耳に届き、身体を支えられる。

同時に機能を停止したISに代わって、抱きかかえられた相手の機体の生体維持機能で保護されるのを感じた。

 

何とか目を開く。

相変わらずいつも悩んでいる様な顔をしている親友の優しい表情。

彼の目には涙が浮かんでいた。

 

 

「アス……ラン……よか……た」

 

『母艦の位置は把握している、大丈夫だっ!』

 

 

インフィニットジャスティスがラキーナを抱えて、センサーで確認したイズモの座標へと向かう。

 

 

「よか……た……ほ……とに……」

 

『……通じたよ、お前の気持ちが。最後の一撃のおかげで戻ってこられた。本当に済まなかった……俺はいつもいつも間違えてばかりだ』

 

「……そ……だね……私達は……ずっと間違えて……ばかり……」

 

 

弱々しくラキーナが微笑む。

 

 

「償おう……一緒に……私達は……目を逸らしちゃいけないんだ」

 

『……ああ、分かっている、ラクスを止めよう』

 

 

アスランがそう言って頷く――彼の表情に迷いは全く見えない。

今のアスランならば自分達に力を貸してくれると確信できる。

 

 

(良かった……本当に……よか……た……)

 

 

頼りになる親友の顔を見て安堵したのか、そこでラキーナの意識は途切れた。

 

 




次回予告

決して信念を曲げない戦士。
彼に恋焦がれる少女は奏でる、戦乱の歌を。

戦士と歌姫、残るのは――

「交差する想い」

運命を越えろ、デスティニー!

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