【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
メサイアから少し離れた宙域で【紅い光】と【紫の光】が瞬く。
2つの光はまるで舞うが如く、宇宙の闇を照らしている。
紅い光が多数の【光】に囲まれ、光が一斉に向かうが、紅の光はそれを避け続けている。
『ぐっ……近寄れない……っ!』
紅い光――IS【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】の真は舌打ちしつつ、自身に迫ってくる【光の槍】を避ける。
光の槍の正体はドラグーンであった。
形状でいえば、親友【レイ・ザ・バレル】が駆っていた【レジェンドガンダム】のドラグーンシステムに搭載されていた【ビームスパイク】に酷似している。形状から名前を付けるのならば【スパイクドラグーン】ともいえるだろう。
彼の周囲には合計十基のドラグーンが浮遊し、意志を持っているかのように旋回、包囲していた。
すでに真の【S.E.E.D.】は発動している。
『ふふ、シン、行きますわよ?』
ラクスの声と共に【紫の光の翼】を持つIS【ホワイトネス・エンプレス・エンブラス】の巨大マニピュレータの掌部分から高出力ビームが放たれる。
マニピュレータの、人間でいえば【指】に当たる部分が切り離されており、この指部分がドラグーンとして真を襲っているのだ。
『ぐっ!』
光の翼を瞬かせて、回避――しかし、彼の背後に一基のドラグーンが存在していた。
背後のドラグーンにはビームの発射口は存在してはおらず、そのままビームはドラグーンに命中した。
だが命中したはずのビームは次の瞬間には拡散、いや【反射】されて真に襲い掛かったのだ。
ビームを反射したドラグーンは、全体に鏡面処理【ヤタノカガミ】を施された――言うならば【リフレクタードラグーン】ともいえる存在だ。
【スパイクドラグーン】、【リフレクタードラグーン】、そして本体からの射撃と言う3つの要素を巧みに操るラクスに真は先程から回避のみを強いられている状況だ。
『く……っそぉっ!!』
背後にドラグーンがあったことを確認していた真は機体各所のスラスター操作とAMBACを駆使して、何とか反射されたビームの回避に成功し、一度後退する。
(2種のドラグーンと本体からの同時攻撃……厄介だけど……手はある!)
VLユニットから得られる破格の推力によって無理やりドラグーンの包囲網から離れる。
突破されたドラグーン十基は彼を追うように追尾していく。
ドラグーン等の無線遠隔操作端末は、確かに脅威であるが距離を取って動きをすべて把握できるこの状況ならば対処することは可能である。
『そこっ!』
展開したビームライフルと、左マニピュレータに搭載されている【クラレント】をビームライフルモードで放つ。
2条のビームがそれぞれ【スパイクドラグーン】に向かう。
しかし、スパイクドラグーンに命中する直前、射線に割り込んだ【リフレクタードラグーン】によって放たれたビームは拡散、無効化されてしまう。
だが、それが真の狙い。
防御の際にはリフレクタードラグーンは動きが止まる――ならばその瞬間に破壊すればいい。
鏡面処理装甲【ヤタノカガミ】は確かに強力だがビームサーベル等を用いた近接格闘戦では意味をなさない。
『はあああっ!!』
VLを瞬かせて、最大稼働状態に移行。
防御の為に動きを止めた【リフレクタードラグーン】に向かって即座に展開した【アロンダイト】を振りかぶる。
だがラクスも真の行動の意図は読んでいた。
『させませんわっ!』
ドラグーンに迫る真に向かい、マニピュレータの砲口を向け、ビームを放つ。
だが放たれたビームを紙一重で回避し、ドラグーンに迫る。
『これでぇっ!』
上段から振り下ろされた魔剣の一撃にリフレクタードラグーンは真っ二つに両断される。
即座にVLによって離脱――スパイクドラグーンが数瞬前まで真がいた空間をクロスで貫いた。
即座に行動を離脱から攻撃に切り替える。
体勢を切り替える際の速度の減少を最低限に抑えて、再びアロンダイトを上段に構えラクスに向かう。
『激しいですわねっ!情熱的ですわっ!いいっ!いいですわっ!』
紅潮した顔を隠しもせず、ラクスが叫ぶ。
同時に迎撃の為、スパイクドラグーンを向かわせる。
迎撃を確認した真は急機動で上方に逃れる。
しかし、ラクスの狙いは真ではなかった。
突如、スパイクドラグーンが軌道を変えたのだ。
そして【アロンダイト】に2基のスパイクドラグーンが命中し、刀身を貫く。
『くっ!?』
アロンダイトの刀身ビームによってスパイクドラグーンも破損、真がアロンダイトを放棄すると同時に、アロンダイトを巻き込んで爆発した。
『っ…まだまだぁっ!』
シールドエネルギーは減少するが、減少したエネルギーは軽微であった為無視し、ビームサーベルを2本展開。
そのままX字を書くようにラクスへ斬りかかる。
対するラクスも大型マニピュレータが【手刀】の様な形状を取ると、ビームが発生。
発生した【ビーム手刀 カラミティエンド】によってビームサーベルを受け止め、鍔迫り合いが発生する。
『ああ、シン、やはり貴方だけですわ、私にこうして刃を向ける殿方はっ!』
『いきなり何がっ!?』
『貴方だけが私に生の感情を向けてくれるっ、貴方だけが私を1人の人間としてみてくれているっ!』
鍔迫り合いで発生する粒子の光によって照らされる彼女の表情は狂喜に満ちていた。
――――――――――――
世界は私のモノ、私は世界のモノ。
ラクス・クラインは幼少よりそう教わっていた。
そしてそれが世界の真理だと信じていた。
クライン派の代表であるシーゲル・クラインの娘として生まれた彼女はその圧倒的なカリスマと軍事力をもってC.E.を彼女なりに【平和と自由に溢れた世界】に導こうとした。
2度の大戦を経て、1度は世界を手中に収めた。
回りの人間すべても自身を肯定し、称えた。
だがほんの一握り――自身とは違う価値観を持つ人間たちがいた。
命を、今ある花を散らせない。
自身の駒であった【自由】と【正義】の剣を叩き折り、明確に自分を否定する人間達。
カナード・パルスや叢雲劾、ジェス・リブル、ロンド・ミナ・サハク、エドワード・ハレルソン、コートニー・ヒエロニムス、コニール・アルメタや旧デュランダル派、旧連合が集結した
無条件で自分を偶像の様に肯定し崇拝する人間とは違い、1人の人間として自分を見て否定する人間たち、その象徴が――【シン・アスカ】であった。
初めは愚かだと思った。
しかし、彼は敗れ続けても前に進み続けた。
そしてC.E.での最後、彼に殺される瞬間、自分が彼を求めていたことに気付いた。
彼だけが自分を1人の人間としてみている事に気づき――彼を欲した。
何の因果かこの世界に生まれ、シンもこの世界にいることを知った彼女は狂喜した。
――故に彼女は動いた、シンを手に入れるために篠ノ之束に近づき技術を手に入れ
――シンの力を自身に相応しいレベルまで高めるために、無人機を使って行動を起こした。
――絶対に手に入れてみせる。どんな手を使おうが彼を手に入れ、抱きしめてみせると――。
――――――――――――
言葉と同時に周囲のスパイクドラグーンがデスティニーの背後に向かう。
狙いはデスティニーの背部VLと脚部スラスター。
『ちぃっ!』
ハイパーセンサーとS.E.E.D.によって増幅された感覚で奇襲を検知していた真は、ラクスに蹴りを叩き込む。
その反動と併せて離脱を図るが、完全には回避できずビームサーベルは2本ともビーム手刀に破壊され、さらにはドラグーンによって左脚部装甲を破損してしまう。
そして無理やりな離脱な為、体勢も崩れていた。
AMBACを行う前にラクスの巨大マニピュレータが迫る。
『シンっ! 貴方が欲しいっ! 私を見てくれる貴方をっ!』
ビーム手刀を発生させたマニピュレータがまるで鋏の様に左右からデスティニーに迫る。
しかし、迫るビーム手刀をデスティニーは受け止める。
その両掌には紅い光が溢れている。
『俺の想いは全部無視かよっ!アンタの想いだけで世界が回ってるわけじゃないことくらいわかってるだろうにっ!』
両掌に溢れる光は【クラレント・ビームサーベル】の光。
ビーム手刀をクラレントのサーベルモードで抑え込み、拮抗状態に持ち込んでいるのだ。
いや、拮抗状態ではなくクラレントがビーム手刀を押し返している。
クラレントの出力を高めて一気に押し返す――即座に離脱し、機体状況を確認する。
コンソール画面にはシールドエネルギー7割弱、左脚部装甲損傷、そして右腕部クラレントの出力不具合警告が出ている。
(……ちっ、今ので右のクラレントに異常が出てる……っ!)
『あっくん、右クラレントのプログラムを書き換えるから……20秒頂戴っ!』
コアネットワークを通じて戦況を見ていた束からプライベートチャンネルが繋がる。
それに頷いて返し、迫るドラグーンを回避しつつ叫ぶ。
『アンタはそうやって自分1人の視野でしか考えられないんだっ、だから自分のやってることが花を……命を散らしている事に気づいていないっ!』
現時点のデスティニーガンダム・ヴェスティージの残存武装はクラレント、ビームライフル、フラッシュエッジⅡ、テレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔の4種。
この中で【ゲシュマイディッヒ・パンツァー】の影響を受けずにラクス本体を攻撃できるのは、クラレントのサーベルモードと、フラッシュエッジⅡの2種。
そしてラクスのビーム手刀に拮抗できる出力を持つのはクラレントのみ。
しかし、クラレントは不具合が生じており左腕部のみが使用可能な状況である。
使用可能な状況まで残り数十秒――戦場では永遠に思えるくらい長い時間だ。
『世界は1人で回っているわけじゃない。俺がこうやってここにいるのも簪や一夏達が俺を送り出してくれたからだっ!カナードやラキーナ、クロエや束さんが俺を支えてくれたからだっ!』
だがデスティニーの武装は残っている――それは後付武装として【最も大切な女性】から受け取った【剣】
『誰かの事を考え、想い合えるのが人間だっ!アンタのそれは一方通行なんだよっ!』
後付武装を展開する。
デスティニーガンダム・ヴェスティージの機体全長と同等の大型実体剣。
展開した実体剣の名前は【バルムンク】――真が簪から借り受けていた装備だ。
『1人のエゴをばら撒くような奴に……俺は負けられない、負けてたまるかぁっ!』
真の叫びに呼応し、バルムンクの刀身にビームが奔る。
そしてデスティニーガンダム・ヴェスティージは紅い光の翼を限界まで広げ、バルムンクを構えた。
次回予告
戦士の刃と歌姫の力。
どちらが明日を掴むのか――
「掴む未来」
明日を掴め、飛鳥真!