【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE46 掴む未来

『っ、その剣は……っ!?』

 

 

忌々しいモノを見る目つきでラクスの顔が強張る。

 

彼女にとっては、自分が最も欲しいと願っている人間(シン・アスカ)を奪った【(更識簪)】の装備。

その装備がデスティニーから展開され、真の想いを受けて起動したのを心穏やかには見れないだろう。

 

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』

 

 

咆哮を上げつつ、バルムンクを上段に構えてデスティニーがホワイトネス・エンプレスに向かう。

迎撃の為に、スパイクドラグーンを向かわせるが、VLユニットによる圧倒的なスピードで前後に、上下左右に、速度に緩急を持たせながら不規則な軌道変更を行うデスティニーを追い切れない。

 

この急機動はドラグーンの弱点を突いたものだ。

超高機動戦を得意とするデスティニーガンダム・ヴェスティージの機動性が最大限に発揮されているため、常にスパイクドラグーンの動きを把握できているのだ。

 

しかしこの不規則な機動、真にも相応のリスクが存在している。

 

VLユニットの急激な加減速によって急機動を実現している為、発生するGが桁違いなのだ。

いくらISの生体保護/維持機能があるとはいえ限度は存在する。

強力なGによって全身が軋むような感覚と痛み、腹の中で内臓が動き回っているかのような不快感と異物感――少なくない負荷が掛かっている。

 

しかし今は一切合財無視を選択する。

でなければこの刃を届かせることはできない。

 

そして同時にプライベートチャネルが開いた。

 

 

『右腕部クラレント、使用できるよ!』

 

 

耳に届いたのは束の簡単な報告のみ。

真の意識はそちらには向いていなかったが、確かに声は届いた。

 

 

迫るドラグーンを躱し、ラクスの目前でバルムンクを振り上げた。

その際、ラクスの口元に笑みが浮かんだのを真は見逃さなかった。

 

 

『っ!?』

 

 

瞬間、衝撃と痛みが真を襲い、振り上げたバルムンクを手放してしまった。

 

バルムンクを手放してしまった原因は、剣を掴む両マニピュレータにリフレクタードラグーンが突き刺さっていたからだ。

リフレクタードラグーンは防御用、そんな先入観がいつの間にか存在し意識から除外してしまっていたのだ。

 

単純な物理的な衝撃であったが、デスティニーガンダム・ヴェスティージの装甲はオリジナルとは異なり【VPS装甲】ではない。

ドラグーンがその速度を保ったまま特攻を行えば、完全破壊は不可能だが機能に不具合を発生させることは充分可能だ。

 

そしてさらに機体を貫く衝撃が真を襲った。

VLユニットの速度で振り切っていたスパイクドラグーンが、両肩部、VLユニットに突き刺さっている。

シールドエネルギーも凄まじい勢いで減少していく。

 

 

『ぐうっ!!』

 

『これで、貴方は……っ!?』

 

 

勝利を確信したラクスはマニピュレータを伸ばし、真を抱きしめようとする。

しかし次の瞬間にはその言葉と笑みが途切れる。

何故ならば、目の前にデスティニーの右腕マニピュレータ部、【クラレント】が突きつけられているからだ。

 

刹那、爆発が起こった。

 

 

『あぐぅっ!?』

 

 

予期せぬ爆発に完全に回避と防御が遅れたラクスのホワイトネス・エンプレスが吹き飛ばされる。

爆発によって、背部のマニピュレータ部分や装甲にダメージが見受けられる。

 

爆発の原因――それは真がクラレントを無理やり使用した為だ。

リフレクタードラグーンによってクラレントは使用不可能になっていた。

しかし、その状態でも構わずエネルギーを送り続けた結果、詰まった排水管の様にクラレントはエネルギーに耐えられず破損、その余剰エネルギーが爆発を発生させたのだ。

 

そのためデスティニーの右マニピュレータは、フレーム部分が辛うじて形を保っているレベルまで破壊されていた。

生身の真の腕にも少なくないダメージが通っており、裂傷によって血が流れている。

 

 

『ガンダムッ!!』

 

 

手放してしまったバルムンクはすぐそばに浮いていた。

自身と機体を鼓舞するかのように叫び、破損した右腕部を庇いもせずに手に取って背部VLを起動する。

 

先程のドラグーンによってVLユニットは破損しているが、それでも既存のISとは一線を画した加速を生み出して、バルムンクを突きの形で構え突貫する。

 

 

『シン、貴方と言う殿方は……っ!?』

 

 

AMBACで体勢を立て直し終わった直後のラクスには回避が取れなかった。

迫るバルムンクを咄嗟に大型マニピュレータで防ぐ。

 

しかし、デスティニーの突貫を止めるだけの防御力は存在していなかった。

マニピュレータを貫き、そのままIS本体にも切っ先は届いていた。

 

 

『あぐっ!!』

 

『はぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 

バルムンクにはモードが2つ存在している、斬撃モードと砲撃モードだ。

今、バルムンクはホワイトネス・エンプレスに突き刺さっている状態だ。

そのまま今出せる最大出力で機体を加速させる。

 

 

『これでぇえ!!』

 

 

真の咆哮と共にバルムンクは斬撃モードから砲撃モードへ形態を移行する。

突き刺さっているホワイトネス・エンプレスの装甲を無理やり斬り広げつつ、刀身から砲口が出現。

間髪いれずに高出力ビームがマイナス距離で放たれた。

 

 

『ああああっ!!』

 

 

宇宙にビームの光が瞬き、ホワイトネス・エンプレスの【絶対防御】が発動。

同時にマニピュレータ接続部分から爆発が連続し、接続が解除される。

 

解除された接続によってラクスは真から弾き飛ばされた形となった。

そしていつの間にか接近していたメサイアの外殻部にラクスは激突した。

 

 

『……これで……どうだ……っ!』

 

 

マニューバによる身体への負担の為か呼吸が早まる。

疲労も蓄積されており、シールドエネルギーも残り3割を切った。

 

しかし戦えないわけではない。

バルムンクに突き刺さったままのマニピュレータの残骸を、斬撃モードに切り替えて切断し両手で構える。

 

 

『……ふっ、ふふ……やっぱりシン、貴方は素敵ですわ……』

 

 

優雅とは程遠い姿になった【ホワイトネス・エンプレス】のスラスターが弱々しく噴き、AMBACを行い体勢を立て直す。

間接部分から絶え間なく、火花が散っており元々の装甲が薄い機体であったためか、バルムンクでの一撃が致命傷となっているようだ。

本体であるラクスの額や腹部からは血が滴り、球になって浮いている。

 

 

『……アンタの負けだ、すぐに……』

 

『【降伏しろ】ですか? ふふ、お断りさせていただきますわ……こんなにも幸せなんですもの』

 

 

そう言ってラクスは生きているスラスターを使って真から距離を取る。

それを確認した真はすぐさまバルムンクを砲撃モードに切り替える。

同時にテレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔を展開して、合計3門の砲口を向ける。

 

 

『ああ……素晴らしい一時でした……結果として貴方を手に入れることはできませんでしたが……やはり私の目は間違っていなかった……っ!』

 

 

陶酔するような顔を浮かべる彼女に真は叫ぶ。

破損した機体からスパークが連続して飛んでいる。

 

 

『何でだ…っ! アンタはそうやってそこまで俺の事を考えることができるのならっ! アンタの力をもっと調和と協調の為に使えればC.E.だって……っ!』

 

『……世界は私のモノ……私は世界のモノ……私はそれしか知らなかった』

 

 

真の瞳を見つめつつ、ラクスが答える。

 

 

『調和や協調……私は周囲を見ることができなかった……ふふ、私も俗物でしたわね』

 

 

ホワイトネス・エンプレスの生き残ったスラスターを後方に噴かせる。

 

 

『何をっ!?』

 

 

デスティニーの武装を解除して手を伸ばすが間に合わない。

彼の行動にラクスは目を見開き、微笑んだ。

 

 

『ああ、最後に貴方は私を……ありがとう、シン』

 

 

その言葉と共に、ホワイトネス・エンプレスはメサイア外殻部で【光】に包まれた。

光が消える――ハイパーセンサーでは周囲に生体反応はない。

 

 

『ホント……なんでそう、1人で抱え込むやつらばっかりなんだよ……っ!』

 

 

伸ばした手を降ろして、目を閉じる。

彼女は助けて欲しかったのかもしれない――ただ周囲に助けを求める声を出すことができずに先導することしかできなかったのだ。

そこに真は哀れみを感じていた。

 

 

『……アンタの辛い旅は終わったんだ……おやすみ、ラクス……』

 

 

ハイパーセンサーで母艦イズモの座標を検知し、機体を向ける。

 

 

まだやるべきことがある。

メサイアを止めなければ――

 

 

 






次回予告
移動を続けるメサイア。
止める事は出来るのか、そして判明する男性搭乗者の秘密。

「debriefing」

因縁は終わり――少年たちは日常へと戻る。


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