【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE47 debriefing

メサイア内 医療区画 医務室

 

ラクスを破った真を回収したイズモは、依然地球に向かって移動しているメサイアに着艦していた。

 

加えてドレッドノートH、インフィニットジャスティス、Xアストレイの3機によってメサイア内部の制圧作業も完了している。

カナードからの連絡によると、人の姿は見えず残存していた構成員は脱出済みだろうとの事だ。

 

だが各種設備は動いており、現在真が腕部に負った傷の手当の為にいる医療区画もその1つだ。

 

 

「……彼女は大丈夫なんですか?」

 

 

目の前の治療用ベッドの上に寝かせられているラキーナの姿を見つつ、真が束に尋ねる。

平坦な胸が規則正しく上下しているところを見ると、命に別状はないと思うが。

 

 

「うん……けどやっぱり腹部の火傷が酷いね、早めに治療しないとかなり大きな傷が残っちゃうかな」

 

 

アスランとの戦いで重傷を負ったラキーナは、アスランがイズモに到着してすぐ医務室に運ばれていた。

応急処置を迅速に行ったアスラン、医学にも精通している天災 束のおかげで命に別状はない状態に落ち着いている。

しかしそれでも腹部のビームによる火傷が酷いため、早急に専門施設で治療しなければならない事には変わりない。

 

 

「あっくん、腕は大丈夫?」

 

「はい、もう痛みはほとんどないです」

 

 

ラクスとの戦いの際にデスティニーで無茶をした為に、真の右腕には包帯が巻かれていた。

数度拳を開いたり握ったりした後、違和感がないことを確認して真が言う。

 

 

「よし、すぐにでもメサイアを止める、ないしは破壊しないと」

 

「だね、カナ君達が戻ってきたらコントロールルームに行かないとね、内部の構造はカナ君から聞くけど……あっくんも覚えてる?」

 

「まあ、一応は……」

 

 

もっとも真の記憶にあるメサイアと比べると、このメサイアの大きさは半分程度。

内部構造は大きく変わっている可能性がある。

 

真が自身の記憶から内部の構造を可能な限り掘り起こしていると、部屋の扉が開いた。

 

 

「束、制圧は完了した」

 

 

IS【ドレッドノートH】を待機形態の翡翠色の腕輪に戻して腕に付け直しているカナードが言う。

彼の背後からはクロエが続き入室してくる。

そしてその後に――アスランも続く。

アスランは室内の真に視線を合わせる、その視線は申し訳なさが多分に含まれているものだ。

 

実はまだ2人は会っていなかったのだ、イズモに回収された真はイズモ内の医務室に運ばれており、入れ違いの形でアスランはメサイアの制圧作業に加わっていたからだ。

 

アスランの姿を見た真の瞳が一瞬見開かれる。

だが、アスランは正気を取り戻しているように見える――ならばラキーナが上手くやったのだろうと判断した。

 

 

「シン……すまなかった」

 

 

開口一番、真の目の前でアスランは大きく頭を下げる。

その様子を一瞥し、真が口を開く。

 

 

「……なんですか、いきなり」

 

「俺はどうしようもなく愚かだった……俺は自分の目で物事を見ずに、他者に判断を任せていた……ラクスが間違えるはずがないと、考えていたんだ……本当に情けなくなる」

 

「……いきなり愚痴ですか? そこに気付けたなら他にやるべきこと、あるでしょうよ」

 

 

しかめっ面で返す真だったが、アスランの視線からは目をそむけていない。

間違いに気付けたのなら行動で示して見せろ、アスランにはそう感じた。

 

 

「……強いなシン、ミネルバ時代とは大違いだ」

 

「俺も色々ありましたから……てかどこの誰がミネルバの空気を悪くしてたか忘れたんですか?」

 

「……それを言われると辛いな」

 

 

ジト目で嫌味を飛ばし、アスランは苦笑しつつ頭を下げる。

 

 

「……話は済んだな? まだメサイアは地球に向かっている、コントロールルームで停止、または破壊するぞ」

 

 

真とアスランのやり取りが一段落したのを確認して、カナードが割り込む。

彼の意見に異議を唱える者は1人もいなかった。

 

 

――――――――――――――――――

メサイア コントロールルーム

 

かつての機動要塞メサイアと同じく、コントロールルームは扇状で前面には大型のモニターが設置されている。

唯一の違いは、かつてのメサイアはオペレート等は人間が行っていたのに対し、このメサイアではすべてが機械化、自動化されている点であった。

 

ラキーナの看病をクロエとアスランに任せた真達はコントロールルームでメサイアを止める為の情報収集に当たっているのだ。

コントロールルームの正面モニター付近で、束が情報の吸い上げとクラッキングを行っている。

残像がいくつも残るスピードで展開された空間投影ディスプレイを叩き、セキュリティを突破していく。

その姿に真はおちゃらけてるけどやっぱり天才なんだなとどこか納得していたが。

 

そしてふと束の表情が変わった。

何か重要な情報を見つけたらしく、その表情は決して若い女性がしてはいけない類のモノだ。

 

 

「おっほぉ、これはこれはこれはーっ!」

 

 

束が勢いよくディスプレイを叩くと、追加で数個のディスプレイが表示された。

ディスプレイに記載されている内容は全て英語で書かれているが、C.E.での共用語も英語だったため、真やカナードには問題なく読める。

 

その内容は――

 

 

「【コアネットワーク内の絶対基準について】?」

 

 

真がディスプレイに表示されたレポートのタイトルを見て呟く。

 

 

「……成程、ラクス・クラインも何故ISに女しか乗れないかについては調べていたようだな」

 

「……みたいだね、あー、私の【仮説】と同じかー……」

 

 

先程のテンションはどこに行ったのか、徹夜明けした後の様なハイテンションから一転、ローテンションになって内容をスクロールして目を通す束に真が尋ねる。

 

 

「束さん、なんでISは女性しか乗れないか、分かったんですか?」

 

「まだ仮説の段階だけどね、あっくんやカナ君、いっくんが乗れる理由はこの【絶対基準】って部分が重要なんだ」

 

 

束はさらにディスプレイを追加で表示させる。

そこには見知った人物のデータが記載されていた。

記載された人物の名は【織斑千冬】

 

 

「これは千冬さんの……?」

 

「うん、ISに最初に……【白騎士】に乗ったのはちーちゃん……【絶対基準】ってのは、このちーちゃんを絶対的な【基準】として、全てのISコアが共通認識してるんだ」

 

「【基準】……?」

 

「つまり【織斑千冬以下の人間ではISを起動することはできない】……という事か?」

 

 

束が頷く。

 

 

「多分、ちーちゃんとある程度共通した点、もしくは超えてる点があれば動かせるんだと思う、じゃないと世の女が動かせる理由にはならない」

 

「……女性しか動かせないってのはそういう事なのか」

 

 

仮説だけどね、と束が補足する。

そして当然次に浮かんでくる疑問――それは

 

 

「じゃあ、俺、カナードやアスラン、一夏は何で動かせるんですか?」

 

 

そう、織斑千冬を基準にしているのならば、性別も共通していない男性であるこの4人が動かせる理由が分からない。

 

 

それに束が答える為に口を開く。

 

 

「あっくんやアスラン・ザラが動かせる理由は2つ、1つは君達が【S.E.E.D.】というちーちゃんを超える点を持っているから、これは多分間違いないと思うよ」

 

 

真もこの仮説には納得し頷く。

適性検査の際にISに触れたとき、全くの予兆もなくS.E.E.D.が発動したからだ。

 

束が1本指を立てる。

 

 

「んでもう1つ、これはカナ君が動かせる理由にもなるね……【C.E.での戦争の経験】をしているから」

 

「戦争の経験……成程、ISは搭乗者の記憶を読むことができる。前世での経験を読み取って基準を超えていると判断しているのか」

 

「あっくんはザフトのスーパーエース、カナ君は凄腕の傭兵兼MSパイロット、アスラン・ザラも凄腕の軍人……C.E.よりも平和なこの世界ではまず経験できない事柄だから、これも間違いないと思う」

 

 

束が指を2本立て、下ろす。

彼女の仮説に特に異議はないし、真も納得できる内容だ。

だがまだ疑問はある。

 

 

「じゃあ、一夏は?」

 

 

そこなんだよねー、と束がしかめっ面に変わる。

 

 

「いっくんの場合だけはこうって感じの仮説は出てこないんだ、予測としてはちーちゃんの弟だからISがちーちゃんと似た存在って認識してるんだと……思う」

 

「……他の仮説とは違いえらく曖昧だな」

 

「……私にだって分からないことくらい……あるっ! そう、たとえばカナ君の性癖とかっ!」

 

 

何故か決め顔でそう答えた束にカナードの手が伸び、頭をガシッ掴む。

失敗作とはいえスーパーコーディネーターであった時代と変わらない腕力・握力になるまで鍛えたカナードのアイアンクローに束は悶絶の声を上げる。

 

 

「あだだだ、割れる、束さん割れた柘榴になっちゃうっ!?」

 

「……ISについては分かった、メサイアを止める手段は見つけたのか?」

 

「見つけてるから離して―っ!」

 

 

束の言葉にカナードは手を放す。

同時に空間投影ディスプレイにメサイアの全体図と内部構造が表示された。

 

メサイア下部にある動力部に赤く印がつけられている。

 

 

「いたた……ごほん、メサイアを止めることもできるけど、ここの施設を残しておくと地球のどこかの国家に渡る可能性があるから破壊する方がいい思う」

 

 

束の意見に真とカナードも頷く。

イズモ等の現行技術の粋を集めたものとは異なり、メサイアに使われている技術は明らかにこの世界の技術を大きく超えたC.E.のものだ。

宇宙開発が進んでいないとはいえ、残しておくのは危険すぎる。

 

 

「この動力部を意図的に暴走させて爆破すればメサイアは爆散、破片も大気圏で燃え尽きるレベルに砕くことができるよ」

 

「どれくらいでできます?」

 

「自爆まで1時間位に設定できるよ、と言うかした」

 

 

束の返答と共にコントロールルームに動力部に異常発生と警告放送が流れ始めた。

 

 

「……脱出するぞ」

 

 

束の後頭部を全力で掴みあげ、カナードが移動を開始する。

女性がしてはいけない表情と叫び声をあげる束に苦笑しつつ、真も脱出を開始する。

 

 

――――――――――――――――――

 

安全な距離まで離れたイズモのブリッジで、真達は離れていく機動要塞メサイアを眺めていた。

 

動力部が暴走し、外殻部を爆発が貫き連鎖していく。

そして爆発は中枢部を貫き、主要部分を失ったメサイアは巨大な爆発に飲まれ砕けた。

 

爆発が予想より小さかった場合、最悪イズモのゴットフリートやミサイル、動けるドレッドノート等のISで破片を砕くことを想定していたがレーダーで感知したところ、地球に落下し被害を出す大きさの破片は見当たらない。

 

 

「最悪の場合、メサイアをイズモで押すんだよっ! とか考えてたけど良かったぁ」

 

 

その豊満な胸を揺らしつつほっと言葉をもらした束を無視しつつ、真は消えたメサイアを眺めていた。

 

 

「……全部終わったんだ」

 

 

シン・アスカとしての因縁をようやく全て断ち切った。

それを自身でも確かめる為、言葉に出した。

 

そして浮かんだのは最後のラクスの表情。

彼女のやったことは決して許されないし、許すつもりもない。

 

だが、彼女の境遇を哀れに感じている自分がいる。

ならばこの世界で1人くらいは彼女の為に祈ってもいいだろう。

せめて安らかにと、真は目を閉じて祈った。

 

――――――――――――――――――

1日後 宮島

 

アメノミハシラに帰還した真達は、イズモを返却し大型シャトルに乗り換えて地球へ帰還していた。

行きに乗ったシャトルよりも大型で、投降したアスランや捕えたスコールを乗せても問題ない代物だ。

シャトルはアマノイワトの滑走路に着陸、地球に残留した簪や一夏達がISで出迎えてくれている。

 

シャトルから真が降りると、彼の胸に飛び込んでくる女性がいた。

 

 

「真っ!!」

 

 

飛び込んできたのは簪であった。

もはやタックルにも近い勢いであったが、それでもしっかりと彼女を受け止める。

 

 

「ただいま、簪」

 

「うんっ、うんっ……おかえりっ、真……っ!」

 

 

嬉し涙を流しつつ、簪が真に微笑む。

最愛の彼女を優しく抱きしめた。

 

 





次回予告
「エピローグ 日常」

①フランスの女の子
②喫茶 竜宮にて
③部屋替え

の3本です。

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